9 / 39
第1章 邂逅
校舎裏の戦い
しおりを挟む
「武器……武器……」
――正直ここで【顕現】は、使いたくない。
目立つと非常に厄介なことになる、と。
俺は冷撫の方を見つめる。
「ここで【結晶】を消費したくないんだけど、何か得物もってないか?」
基本的な【顕現】ですら、自動的に安定性と速度を調整してくれる【熾火結晶】には、勿論安定装置としての寿命がある。
こんな所で無駄に消費するより、もっと――目立つところで使いたい。
「ありますよ」
冷撫がまたもや、制服のポケットから何かを取り出す。
こちらに手渡してきたものは、警棒らしきものだ。
本当に何でも持ってるな。
――ていうかなんで……、警棒状の細長いモノを制服に仕舞っておけるんだろう?
俺が首を傾げる時間的余裕は、ない。
あちらはこちらに気づいていないが、ソレを良しとして行為に及ばれても困る。
ソレは本当に、困る。
しかし、ここでぐだぐだしていたら――。
相手が、こちらに気づくかも分からないのだ。
「行ってくるよ」
「はい、ご武運をお祈りしております」
「……え?」
一大決戦になるとでも思っているんだろうか……。
ならないんだけどなぁ。
――――
出来るだけ男達に近づいてから、俺は警棒を強く握り込んだ。
これは顕現力――【顕現】を行うためのエネルギーに呼応――して伸縮するタイプだろう。
顕現力を警棒に流し込み、最大限に伸ばす。
なんでこういう野蛮な武器を、良いところのお嬢様である冷撫が持ってるんだろう?
……という疑問はあるが、まあいいや。
「よし」
この警棒はただの警棒ではない。
【顕装《アーティファクト》】と呼ばれる、【顕現者】の補助兵装だ。
【顕現】という能力はこう言ったモノを必要とせず、自身の意志力で武器を生成する能力が主であるが。
その源である、顕現力を流し込むことでソレっぽい事が出来るのがこの【顕装】である。
今回はそんなに顕現力を流し込んでいないため、頭に向かって振り下ろしたところで身体の丈夫な【顕現者】なら傷一つつかないだろう。
せいぜい意識を失うくらいだ。
「こんにちは」
彼らの直ぐ横に迫るまで、男達はこちらに気づかなかった。
獲物に夢中だったのだろう。
自らに迫る脅威に気づいたときには、もう遅い。
――俺は既に、警棒を男へたたき込む体勢に入っていた。
「がっ!?」
自身のイメージに従うように、身体はつま先から腕まで。
右腕の筋肉が連なって動く。
衝突の瞬間、警棒を握り込んだ俺の身体と得物とが同一のモノと化し――。
「なんだ!?」
それは、確かな『凶器』となった。
男4人のうちの1人が、攻撃を受けて膂力によって吹き飛ばされる。
衝突の勢いそのままに、全体重を乗せて脇腹にたたき込んだのだ。
――効果は抜群だろう。
実際その通りで、俺に殴られた男は吹っ飛んだ先で漫画のように二度三度と回転する。
そして最終的には顔面を地面へたたき付け、そのまま動かなくなる。
「なっ」
今まで、目の前の少女に劣情をさらけ出そうとしていた男は、やっとこちらに気がついた。
先程吹き飛ばした生徒は、既に気絶している。
流石は卵とは言え【顕現者】。
――命に別状はない。
「お前っ――!」
【顕現(オーソライズ)】には基本的に、詠唱が必要である。
この人達は普通の、戦い慣れていない人達だろう。
【顕現(オーソライズ)】の詠唱なんて時間がかかる。
こういった時は、唱えるべきではない。
「遅いよ」
ピーピーと喚く男達を意に介することもなく、膝を折り――。
更に一人の懐に潜り込み、そのまま体重移動と連動して右の拳を躊躇うことなく、真っ直ぐに振り向く。
鈍い音。俺の拳は、相手の腹に突き刺さっていた。
吐瀉物が周りにまき散らされるが、俺は特に気にしない。
――あと一人。
1分たらずで2人ノックアウトした。
上級生の唯一立っている男は、こちらを恐れの目で見つめている。
「何が目的だ――!? こんなことして、何もなく済むと思ってるのか!」
「小物のセリフだな」
お前が言うな。と言い返すのもバカバカしくなり、俺は首を振る。
冷躯さんの元で訓練を積みすぎた可能性すらあった。
それほどに、相手が弱くみえる。全くもって手応えがない。
「聞いてるのか。……ってんだろぉ?」
「聞いてない」
非常に、面倒なのだ。
俺の力はなんのためにあるんだ、という苦悩に陥ってしまいそうになる。
冷躯さんに鍛えてもらったこの身体能力も、【神牙結晶】で欠点を補った【顕現】の力も。
こんなに、くだらない茶番に使うべきではない。
もっと有意義なことに使うべきなのだ。アマツを助けたり、冷撫を助けたりとか。
……あと、復讐したりとか、俺と同じような悩みを持っている【顕現者(オーソライザー)】の代弁者になったりだとか。
――決して、決して。
こんな男たちに向かって、見も知らぬ少女の為に使うべき力ではない。
「なんなんだ、なんなんだ。なんなんだよ」
「これ以上はダメです! 相手が死んでしまいますよ」
……と、声。涼風のように耳へ舞い込むそれは、冷撫の声だ。
どうも、俺は思考の濁流へ……見事に飲み込まれていたらしい。
声に我に返ってみると……俺は、男の襟首を掴んで彼等の後頭部を、壁に打ち付けていた。
男は既に白目を剥き、完全に意識を失っている。
「ごめん」
「いいえ、大丈夫ですよ」
手遅れにならなくて良かった、と胸をなで下ろす冷撫に対して。
俺は感情の制御が出来ていないことに、若干の焦りを感じていた。
――正直ここで【顕現】は、使いたくない。
目立つと非常に厄介なことになる、と。
俺は冷撫の方を見つめる。
「ここで【結晶】を消費したくないんだけど、何か得物もってないか?」
基本的な【顕現】ですら、自動的に安定性と速度を調整してくれる【熾火結晶】には、勿論安定装置としての寿命がある。
こんな所で無駄に消費するより、もっと――目立つところで使いたい。
「ありますよ」
冷撫がまたもや、制服のポケットから何かを取り出す。
こちらに手渡してきたものは、警棒らしきものだ。
本当に何でも持ってるな。
――ていうかなんで……、警棒状の細長いモノを制服に仕舞っておけるんだろう?
俺が首を傾げる時間的余裕は、ない。
あちらはこちらに気づいていないが、ソレを良しとして行為に及ばれても困る。
ソレは本当に、困る。
しかし、ここでぐだぐだしていたら――。
相手が、こちらに気づくかも分からないのだ。
「行ってくるよ」
「はい、ご武運をお祈りしております」
「……え?」
一大決戦になるとでも思っているんだろうか……。
ならないんだけどなぁ。
――――
出来るだけ男達に近づいてから、俺は警棒を強く握り込んだ。
これは顕現力――【顕現】を行うためのエネルギーに呼応――して伸縮するタイプだろう。
顕現力を警棒に流し込み、最大限に伸ばす。
なんでこういう野蛮な武器を、良いところのお嬢様である冷撫が持ってるんだろう?
……という疑問はあるが、まあいいや。
「よし」
この警棒はただの警棒ではない。
【顕装《アーティファクト》】と呼ばれる、【顕現者】の補助兵装だ。
【顕現】という能力はこう言ったモノを必要とせず、自身の意志力で武器を生成する能力が主であるが。
その源である、顕現力を流し込むことでソレっぽい事が出来るのがこの【顕装】である。
今回はそんなに顕現力を流し込んでいないため、頭に向かって振り下ろしたところで身体の丈夫な【顕現者】なら傷一つつかないだろう。
せいぜい意識を失うくらいだ。
「こんにちは」
彼らの直ぐ横に迫るまで、男達はこちらに気づかなかった。
獲物に夢中だったのだろう。
自らに迫る脅威に気づいたときには、もう遅い。
――俺は既に、警棒を男へたたき込む体勢に入っていた。
「がっ!?」
自身のイメージに従うように、身体はつま先から腕まで。
右腕の筋肉が連なって動く。
衝突の瞬間、警棒を握り込んだ俺の身体と得物とが同一のモノと化し――。
「なんだ!?」
それは、確かな『凶器』となった。
男4人のうちの1人が、攻撃を受けて膂力によって吹き飛ばされる。
衝突の勢いそのままに、全体重を乗せて脇腹にたたき込んだのだ。
――効果は抜群だろう。
実際その通りで、俺に殴られた男は吹っ飛んだ先で漫画のように二度三度と回転する。
そして最終的には顔面を地面へたたき付け、そのまま動かなくなる。
「なっ」
今まで、目の前の少女に劣情をさらけ出そうとしていた男は、やっとこちらに気がついた。
先程吹き飛ばした生徒は、既に気絶している。
流石は卵とは言え【顕現者】。
――命に別状はない。
「お前っ――!」
【顕現(オーソライズ)】には基本的に、詠唱が必要である。
この人達は普通の、戦い慣れていない人達だろう。
【顕現(オーソライズ)】の詠唱なんて時間がかかる。
こういった時は、唱えるべきではない。
「遅いよ」
ピーピーと喚く男達を意に介することもなく、膝を折り――。
更に一人の懐に潜り込み、そのまま体重移動と連動して右の拳を躊躇うことなく、真っ直ぐに振り向く。
鈍い音。俺の拳は、相手の腹に突き刺さっていた。
吐瀉物が周りにまき散らされるが、俺は特に気にしない。
――あと一人。
1分たらずで2人ノックアウトした。
上級生の唯一立っている男は、こちらを恐れの目で見つめている。
「何が目的だ――!? こんなことして、何もなく済むと思ってるのか!」
「小物のセリフだな」
お前が言うな。と言い返すのもバカバカしくなり、俺は首を振る。
冷躯さんの元で訓練を積みすぎた可能性すらあった。
それほどに、相手が弱くみえる。全くもって手応えがない。
「聞いてるのか。……ってんだろぉ?」
「聞いてない」
非常に、面倒なのだ。
俺の力はなんのためにあるんだ、という苦悩に陥ってしまいそうになる。
冷躯さんに鍛えてもらったこの身体能力も、【神牙結晶】で欠点を補った【顕現】の力も。
こんなに、くだらない茶番に使うべきではない。
もっと有意義なことに使うべきなのだ。アマツを助けたり、冷撫を助けたりとか。
……あと、復讐したりとか、俺と同じような悩みを持っている【顕現者(オーソライザー)】の代弁者になったりだとか。
――決して、決して。
こんな男たちに向かって、見も知らぬ少女の為に使うべき力ではない。
「なんなんだ、なんなんだ。なんなんだよ」
「これ以上はダメです! 相手が死んでしまいますよ」
……と、声。涼風のように耳へ舞い込むそれは、冷撫の声だ。
どうも、俺は思考の濁流へ……見事に飲み込まれていたらしい。
声に我に返ってみると……俺は、男の襟首を掴んで彼等の後頭部を、壁に打ち付けていた。
男は既に白目を剥き、完全に意識を失っている。
「ごめん」
「いいえ、大丈夫ですよ」
手遅れにならなくて良かった、と胸をなで下ろす冷撫に対して。
俺は感情の制御が出来ていないことに、若干の焦りを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる