四煌の顕現者:ゼクス・ファーヴニルの復讐譚

鶴生世乃

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第1章 邂逅

たったひとりの救出作戦

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 蒼穹城そらしろしんという人は、結果のみを重視するタイプの人間だった。
 
 東雲しののめちぎりという人は、結果が全てと洗脳されてきた人間だった。
 
 刀眞とうま獅子王ししおうをはじめとして、その家の人達は。
 ――過程を、無価値と判断する人だった。



 その気持ちが、思考が、ゼクスを見捨てた。
 彼の何がダメだったのか、何が試験に引っかかったのか。


 誰ひとりとして疑問に感じていなかった。
 彼らにとっては、特に大きな事ではなかったのだ。


 ――結果が全てなのだから。


 それがたとえ、ゼクスが「試験に不利で、実戦に有利」な能力で。
 方法が違えばいくらでも挽回できるものだったとしても、気づくことがなかったのだ。


 ゼクスは、そんな彼等を赦すことが出来ない。



 八龍やりゅう冷躯れいくはそうではなかった。
 
 八龍カナン……。
 カナン・ファーヴニルも、そうでなかった。

 火威ひおどしアマツも、
 鈴音すずね冷撫れいなも、そうでなかった。



 だからこそ、ゼクス・ファーヴニルは。
 自分を見捨てなかった人々を、深く思いやることができる。

 自身の命をなげうってでも、
 彼らを救おうと、手を伸ばすことが出来る。



――――


冷撫れいな、取り敢えず【熾火結晶ボーンファイア・クリスタル】を持っておいてくれ」
「アマツくんが、アマツくんが……」
「大丈夫だから」

 泣きじゃくる冷撫に結晶を渡し、俺はさてどうしようかと半壊しているスタジアムと。
 相も変わらず暴走中のアマツを見る。
 
 蒼穹城そらしろしんは、既に気を失っていた。

 善機寺ぜんきじはやては俺との戦いの後、医務室へ連れて行かれ。
 刀眞とうまりょう東雲しののめちぎりを連れて、もう逃げている。


 ――っ。
 オーケー。

 見られて困るような人はもう、この場にいないかな。

「冷撫、先に避難してくれ」
「ゼクスくんはどうするのです?」
「アマツを止める」

 俺の言葉に、冷撫が頷く。
 涙は相変わらず流したままだが、今はそんな状況ではない。



「待ってろよ、アマツ」

 俺がフィールドに降り立つ頃には、もう殆ど誰も居なかった。
 試験官達はもっと実力のある人を呼びに行ったようであるが、それでは間に合わないだろう。

 今、俺がなんとかしてやらないと。
 ――と、ここで。

 俺は、自身の後ろに立っている一人の少女を見やる。

「逃げなくて、いいのか?」

 輝くような金色の髪の毛をしている、非常に均整の取れた顔をした美少女だ。
 髪の毛はアマツが今、暴走して。
 あちこちに噴き出している金色の焔に匹敵するだろう。

 俺は、自分と彼女に向かってくる龍の形をした焔を振り払いながら、彼女の言葉を待つ。

「ボクは逃げないよ。……手伝った方が良い?」
「いや、いい」
「友達思いなんだね」

 脈絡のない言葉に加えてそう、微笑む少女に俺は背を向けた。
 火威ひおどしアマツは、友人どころの話ではない。

 俺の心を、冷撫と共に救ってくれた恩人だ。

 ――俺の事を決して否定しなかった。
 蒼穹城達が否定したことに対して俺と同じくらい憤ってくれたのである。

 だから、俺も彼を救う。

「今、火威アマツはスタジアムの内部を完全に支配している。
 彼の顕現力が濃度そのままに、この周りに漂っている状態だ」
「だから、どうしたと?」

 状況説明を相手がしている間も、俺は一歩一歩とアマツに近づく。
 いくら、彼の顕現力の容量が多いとは言え、もう5分も全力で暴走し続けている状態だ。

 時間が経てば経つほど、彼の状況が危うい物になるのは説明されなくても分かる。

「ボクが言いたいのは、彼の顕現力を吹き飛ばす方法を探してはどうか、ということだよ。
 ――ボクを頼るとか、ね?」
「俺は、お前を、知らない」

 アマツまで、あと4メートル。
 更に3メートル近づければ、俺はこの問題を解決することが出来る。

「そう……そっか」 
「だから、その言葉を、信じることは、出来ない」

 名も知らぬ少女が少し悲しそうな声を発したが、とりあえず今はそれどころじゃない。

 ――本当に、火山の噴火みたいな顕現力だな。
 これ本当に【顕現オーソライズ】によって出てきた顕現力の一片か?

 別の何かにも、みえる。

「なんとか出来るの?」
「――出来るさ」

 身体に一層強く、濃度を高めて顕現力を纏わせる。
 そろそろ手が、焼けてきた。

 アマツ本人は、既に自我すら喪失しているのか――という状態だ。
 ただただ試験場であるこのスタジアムを破壊し尽くす獣へと化している。

「出来れば、見ないでくれると助かるんだが」
「そういう訳にはいかない。――龍が飛んできたら、対処できないじゃないか」

 その割には、そっちに行っている龍は俺が事前に叩き落としてるんだがな……!




 あと、2メートル。
 ――だめだ。

 これ以上は流石に、火力が高すぎる。
 人の目なんてきにしている場合じゃない。

 俺は、【力】を使うことにした。

 目撃者がいる以上、あまり使いたくはなかったが――。
 この際は仕方が無い。

「――助けは必要?」

 立ち止まった俺を見て、その少女は少々呆れたように問うた。
 これ以上、前に進めないと思ったのだろう。
 確かにその通りではある。

 しかし、それは。
 俺が自身を無傷で居続けるのなら、の話だ。

 情報のアドバンテージを失ってしまうが、まあいいだろう。

「いや、いい」

 俺は右手を前に翳し、直ぐにソレを後ろへ返す。
 そして顕現力を一気に放出し、一言だけ唱えた。



 ――【拒絶リジェクト】。



 たった1単語のみで顕現されたのは、刃渡り15cmもないだろう小さな刀だ。
 色は白。

 飾り気の欠片もないそれを、俺は握りしめる。

「アマツ」

 刀を力任せに薙ぐと、焔が刃から逃れるように分断される。

 分断された焔は別方向へ勢力を伸ばそうとするが、龍の形になりかけたそれも、切り落とす。

 ……結果的には、蒼穹城も救う結果となってしまったが。
 
 まあ、いいだろう。
 逆に、復讐もしていないのに死んで貰っても、困る。

「――――ッッッ!」

 アマツは、俺を認識したのかしていないのか……曖昧な状態で、自身を何とか制御しようとしているらしい。
 俺が失ったと判断した自我を、取り戻そうとしているのだろう。

 苦痛に満ちた声が、漏れている。

 彼の両手からは、もう焔は噴き出していない。
 ということは、発生源はこの、歪な翼ということか。



 ――躊躇無く、切り裂く。
 金色の焔が、断末魔のような音を立てた。





 徐々に。


 
 徐々に。






 ――徐々に、焔が消えていく。
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