四煌の顕現者:ゼクス・ファーヴニルの復讐譚

鶴生世乃

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第1章 邂逅

奏鳳の誘い

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 ――終わった。
 事態の収拾が完全に着いたすぐあとに、アマツは医務室へ運ばれていった。

 結果として、俺の【力】を見たのは。
 ずっと俺の背後で見つめていた、謎多き金髪の少女だけだ。
 試験官たちにも、その正体は分からないだろう。

 しかし、試験官達も馬鹿ではない。
 未曾有の大惨事になりかけた事態を、一人の新入生が片付けたということで。
 規格外の能力を使ったのは確実、報告が必要と判断されてしまったのだ……。

 ということで、そのまま学園長に報告されてしまった。
 呼び出しである。

 今日ではなく、今週末の話ではあるが。
 正直、明後日だから特に変わらない。

 両親も一緒に呼び出されるらしい。
 つまり、冷躯れいくさんとカナンさんには入学早々――、なんと2日目にして迷惑を掛けてしまうということになる。
 本当に、申し訳なさでいっぱいだ。

 ――でも。
 今回の呼び出しが、善機寺ぜんきじはやてを叩き潰しての呼び出しでなくて、本当に良かった。

 蒼穹城そらしろについては、俺が命を張って助けたということになっているらしく。
 後日礼のための使いがくるだとか。
 
 感謝をしている――というのを、風の便りで聞いた。

 助けた上で、これから叩き潰すんだけどな。
 ……使いは受け入れるけど。


――――


「アマツくん……」

 ――という訳で今、俺と冷撫は医務室にいる。
 あと、あの少女が壁にもたれかかっている。

 結局誰なんだ、一体。

「なんでボクの顔をじっと見てるの? 照れる」
「いや、名前を知らないんだけど……」

 目の前には、アマツが安らかな顔で眠っていて。
 医務室の職員によると「目覚めるのは早くても数日後」になるという。

 【顕現オーソライズ】の暴走。
 それも煌めいていたアレによる、体力と精神力の著しい消耗が原因だとか。
 俺があのとき、止める手段を持っていなかったら。

 ......そのまま放置していたら、死んでいただろうという事を聞いて。
 冷撫は顔面を蒼白にしていた。

 手遅れにならなくて、よかった。

「アマツくん……」

 冷撫は、医務室に駆け込んでからアマツの名前を呼ぶことしか、できなくなっていた。
 口ではああ言っていても、彼女にとっては大切な人であることに変わりは無い。

 俺は相変わらず壁にもたれたままの少女を見、「しばらく2人にしよう」と提案する。

「……うん、そうだね。ボクも賛成」

 彼女も承諾したようだ。
 名前も知らない女の子と、中庭へ向かう。

「ボクの名前を知らないって? 流石に嘘じゃない?
 覚えて、ないの?」
「いや本当に」
「うーん。
 結構ショックだな……ボクの名前は奏鳳かなほ亜舞照あまて、って言ったら分かる?」

 少女の言葉に、やっと俺は。
 自身が誰と対面しているのか、理解した。

 ――分からないはずが、ない。

 俺が目を見開いたのを見た彼女は、心底可笑しそうにクスクスと笑う。
 亜舞照家。【空】を司る、【八顕】が一角。

 ――でも正直、名前しか知らない。

「君、【八顕】のこと何も知らないんだね」
「そりゃな。……どうでもよかったし」
「それは正解。
 でも、前の人生だろうと第2の人生だろうと、君はもっと他の家のことを知るべきだと思うな」

 ――なるほど。
 この人は、俺の情報を掴んでいるのか。

「そんなに怖い顔をしなくても、亜舞照家は明確に、蒼穹城・刀眞と対立してるよ。
 前代までもそうだったし、ボクの代もそうなる。
 あとごめんね、君のことを知らないってのは嘘」
「だからといって、俺の味方になるとは限らないだろ」

 それはこれからの君次第だね、と亜舞照。
 ……こういう面倒な事が起こるから、権力は嫌いだ。

 俺は立ち止まり、彼女の浮かべた不敵な笑みを正面から見つめた。
 見ればみるほどに美少女ではあると思う。
 しかし、なんというか。

 ――美しすぎる。

「それにしても、君のアレはなんだい? 【拒絶】――か、あれについての話をしてもいいかな?」
「…………」
「誰にも言わないよ。――漏れていたら、ボクのこと好きにしてくれても良いよ?」


 顔と同様に、均整の取れすぎた肢体を手で伝ってみせる亜舞照。
 ――あー。

 この人、自分の美しさを分かっててやってるタイプの女性だ。


「場所を変えようか。君の部屋でいいかな?」
「不用心なんだよな-。やめとけよ、そういうの」

 【八顕】の一角がそんなんじゃ見てられないよ、と言うと。
 少女は目を細めて、「ふーん」と挑発するような声を出す。

「蒼穹城や刀眞よりは見てられるでしょ? こうやって話をしてるんだし」
「そういう意味じゃないけどな」
「分かってるよ。……どうするの? 一番安全でしょ?」

 こんなんでいいのか? とも思ったが。
 よく考えれば、男性の部屋に上がり込むってことは、それなりの自信や理由があるということだろう。

 万が一襲われたとしても、抵抗できる。だとか。
 それとも――、いや、まさかな。

 別に俺も、下心の欠片もないし……。
 それは、首にかけた青い【熾火結晶ボーンファイア・クリスタル】の効果かもしれないが。

「後悔するなよ」
「ボクは後悔しないよ、ゼクス・ファーヴニル。
 いや八龍やりゅうゼクスでも、刀眞とうまつぐでも。
 名前なんてどうでもいいや、ボクは君が知りたいんだ」




 どうもすべてを知っています、みたいな顔をしているけど。
 ――絶対に不思議ちゃんなんだよなぁ、この人。

 俺はそんな、場違いなことを考えながら。
 しかたなく、彼女を部屋に招き入れることにした。
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