最強ギルドの斧使いが呪われた山を攻略します!ティルナノーグサーガ『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店

文字の大きさ
25 / 31
第三章・我が儘お嬢様

紅いマントの少年

しおりを挟む

登場人物:

グラウリー:呪われた山バルティモナを攻略した斧戦士ウォーリアー
ラヴィ:女性鍛治師ブラックスミス
バニング:元暗殺者アサシン。ラヴィから日輪ひのわを譲り受けた。
マチス:老練な槍使いフェンサー。謎の経歴を持つ。
トム:小柄な商人マーチャント。マチスと気が合う。
ギマル:北の戦闘民族出身の斧戦士ウォーリアー
トッティ:若い鈍器使いメイサー
ボケボケマン:オークマスクの魔導師メイジ
エイジ:かつて風の都で修行した蒼の魔導師ブルーメイジ



23


リドルト邸――。

「よく――よくぞ秘宝を持ち帰って…くださった――」

 リドルトは震える声で言いながらグラウリーが机の上に置いた中くらいの箱を食い入るように見た。
 でっぷりと肥え太った手が、ゆっくりと箱に伸ばされる。

 箱を開けると眼には見えぬ確かな波動が微かに駆け抜けて、ランプの明かりの下に水晶球と蒼い石がさらされるのだった。

「す…素晴らしい…――」
 言葉にならぬといった様子で、ようやっとリドルトはそれだけ言った。
「この輝き!艶――まさに真の秘宝であるに違いありませんな!ティルナノーグの皆さんにお願いしてよかった……あなた達の力は本物だっ!」
 鼻息荒くリドルトは言った。だが幾人かのメンバーは興味なさげにてんで違う方を見たり、何か考え事をしていたりしていた。

 彼等にとって依頼を完遂するという事は命を懸けるだけの価値があるに違いなかったが、依頼を受けてから報酬を受けるまでというプロセスのどこに重きを置くかは、個々人によってバラバラであったのだ。
 世界の謎を解き明かすという事、それ自体に興味を持つ者もいたし、依頼を遂行するという、一点のみの職人気質を持つ者もいた。また報酬を受ける事に無類の安堵感、嬉しさを感じる現実主義者も当然いたのだった。

「報酬はギルドの方にきちんと納めますぞ――この秘宝を持ち帰って下さったのなら、いくら出しても惜しくないですわい」
「よろしくお願いしますね」
 トムが眼鏡をずり上げながら言った。仕事を一つ達成した時に見せる、敏腕商人らしい、手抜かりはないですよ。という自信に満ちた顔。それでいて取引相手を決して不快にさせない、嬉しそうではあるが嫌味のない顔(一流の商人には必須の顔)をしてみせた。


「それでは皆さん、今日は私どもの館の方にささやかながら宴の仕度と、寝台の用意ができていますのでごゆるりと休息を取って――」

「――あのう……リドルトさん…実は――頼み……が――」
 リドルトが隣の広間に通じるドアの方に手を指し示した時、ラヴィが何かを言いかけた。
 そして、それと時を同じくして廊下をばたばたと走る音が聞こえ、ドーンという衝撃音と共に、何者かの黒い影が飛び込んできたのだった。




「ちょっと待ってええぇぇぇえっ!!」




 影は彼等の眼の前でごろごろと転がると、ソファの側面にしたたかに体をぶつけて止まった!

「あ…――あたたたた……ううっ…」
 それは小柄な少年だった。居合わせた者達に背を向け、頭や肩をさすりながらよろよろと立ち上がる。
 紅いマントに包まれた肩幅はやけに小さく、体をさする手を包む手袋もまた、紅い革だった。彼は後ろに流した明るい金髪を首の後ろで手にかけると、それをフワッとはらった。少し恥ずかしげに振り向いた彼の顔を見て、一同は驚いた。

 彼は――少年ではなく――少女であった。







「ベ、ベル!」
リドルトが唖然とした表情で呟いた。

「伯父さん、久しぶり」
 ベルと呼ばれた少女は、少し照れくさそうな、ばつの悪そうな顔をしながらリドルトに挨拶した。
「知り合いですか?」
「私の弟の娘――姪です」トムの問いにリドルトが答える。



「今日はお願いがあって来たの!伯父さん!」
 ベルはそう言うとつかつかとリドルトの方に駆け寄り、今にもリドルトを倒さんばかりのがぶりよりをしたのだった。
「な、なんだベル……欲しいものがあるなら、ジルに頼めばいいだろうに」
「違うの!そんなんじゃないのよ!」
 ベルは必至な形相をしながらリドルトの襟をしめあげんばかりだった。苦しそうなリドルトの顔にたちまち脂汗が浮かぶ。

「く、くる……しい…」
「まあ、まあ」トムが仲裁に入ると、リドルトはのどを押さえて咳をした。
「――ゴホッ、相変わらずの…馬鹿力だ…な…」
「聞いて伯父さん!お父様が、お父様が原因不明の高熱を出して倒れたのよっ!」
「――な、何?ジルが……?」
「そうなの!もう三週間前になるの!ある日突然……まるで今にもこときれてしまいそうな土気色の顔をして――おお――!嫌よ、こんな事、考えたくもないのに!」
「い、医者に見せればいいじゃないか――」
 そうリドルトが言った途端――張り詰めていたものが切れたように、紅いマントをまとった少女は大粒の涙をそのエメラルド色の瞳に浮かべたのだった。

「見せたわよ!トールズ一の名医と言われる医者にも見せた。ベルクフリートで高名だという医者にも見てもらった。だけど誰一人として原因が何なのか、どうすれば治るのかわかる人はいなかった!日に日にやつれてゆくお父様を見ていて、何とかしようと色々な所を駆けずり回っている間に私聞いたの!伯父さんがバルティモナの秘宝の奪取を目論んでいるという事を!」
「ど、どこでそんな事を――」

「バルティモナの秘宝っていうのは、一説によれば生命力を司る秘宝だっていうじゃないの!――だからわたし…」
「――まさか、頼みっていうのは――」
「そうなの!伯父さん、秘宝取ってこれたの?――だったら、わたしにそれを貸してよ!」
「馬――」
 そう言いかけた時――。

「へっへ。リドルトさんよぉ、いいじゃねえか。バルティモナの秘宝とやらを貸してやってくださいよ」
 いつの間にか部屋の入り口にもたれるようにして立っている二人の男。

 皮の鎧を着込んだその体はほどほどに筋肉がついている。浅黒く日焼けした肌、無数の切り傷の痕を見れば一目でなにがしかの戦士だと知れる。
 だがその男達の眼はどこかずるそうな光をたたえていて――人を見下したような、馬鹿にしたような雰囲気は漂わせてはいるけれど、一流の戦士が身にまとうような、常に周りの味方には安堵感を与え、敵には迂闊に切り込めぬ気迫やオーラといったものは全くみることはできなかった。

「誰だ、そいつらは――ベル」
「へっへっへ。おいら達はこのベルさんに雇われた傭兵でしてね。なにせこんな女の子の一人旅は危険だ」二人組みのうちの一人のスキンヘッドの戦士がにやにやしながら答える。

「ベルクフリートの酒場で情報を集めている時に雇ったの」
「馬鹿な」リドルトはベルの疑いを持たぬ顔を見、そして二人組みの男達を見、最後にティルナノーグの面々を見やった。その顔には幾分不安げな表情が浮かんでいる。

 ならず者――。彼は言外にそう言おうとしていた。それは豪商として幾多もの人間を見てきた彼の洞察眼とも言うべきもの。
 使い切れぬほどの金を稼ぎ、肥え、そして各地の秘宝を集める事だけが人生の喜びとなってしまった今でも、この眼力、目利きだけは衰えを知らぬ。
 その眼が瞬時に姪を騙して金を巻き上げようと、最悪旅の途中でベルを殺して金品を強奪しかねない悪党なのだと見抜いたのだった。


「傭兵か――よく言うな。お前等、この娘を騙してんだろ?」
 人を見下した顔では彼等に引けを取らぬ、エイジがニヤニヤしながら言った。
「な、何だと!テメエッ!」
 二人組みは突然真っ赤になって腰の得物に剣をかけると――。
「フッ、じゃあその傭兵とやらの腕前、見せてみろよ。本当にこの娘を守れるのかどうかをな」
「ッテメエ、殺す!」二人の男は鞘から剣を抜き放った。
「ちょ、ちょっとぉ!」ベルが抗議の声を挙げるが、エイジは聞く耳を持たぬ。

「エイジって無駄な事するんだねえ、まあ別にいいけど、頑張ってよ」トッティがこともなげな顔をしてエイジを見やる。
「馬鹿、お前がやるんだよ」
「は?」トッティは怪訝な顔をした。
「俺様があんなのとやる必要ねーだろ。お前一人で十分だ。さあ行ってこいよ――はっはっは!手前ら、本性を現しやがったな!コイツが相手だぜ!表出な!」
「勝手に決めるなぁぁあ!!」絶叫がこだました。
「なに、どっこいやっこさんらやる気みたいだぜ。ホレ、お前も表に出ろよ」
 エイジが指差すと男達は今にも血管がぶち切れそうな怒りの形相をして、剣をトッティの方に向けるのだった。

「ああん…?テメエから死にてえのか……?いいだろう…こいつをぶっ殺したら次はテメエだぜ。リドルトさんよ、今から死人が出るかも知れねえが、こいつは私的な決闘だ。そこんところアンタらが証人だぜ」
 男達は剣を舌なめずりしながら表に出た。

「だ、大丈夫ですか?その戦士さん一人で……いくらティルナノーグの戦士といえど……」
「大丈夫大丈夫。さあ行け我が下僕よ!」
 エイジはあさっての方向を指差しながら声を張り上げた。
「俺が殺す!俺がエイジを殺す!いいだろ?ボケボケマンさん」
トッティは憤慨した面持ちで言った。「ああ、いいぜ」と、ボケボケマンは半ば楽しんだ様子で流しただけだった。

                                 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

処理中です...