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第一章・依頼
旅立ち〜転移門
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グラウリー:大柄な斧戦士
ラヴィ:女性鍛治師
マチス:老練な槍使い
パジャ:ギルドに昔からいる暗黒魔導師
*
2.5
「あ、転移門で行くんか……今夜やとルナシエーナに行けるんか……」
ラヴィが心なしか残念そうに言った。
「そうです。ここから程近くのタリム・ナク北西時空転移装置は今夜の月に限りルナシエーナ南の転移門を指しているのです。ラヴィ、転移門で行くの嫌やーとか言わないでくださいよ?」
パジャが古びたメモ帳をめくりながらじろりとラヴィを見る。
「い……嫌って訳じゃあないけどなぁ~」ラヴィは苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「全世界に四つある時空転移門は月の満ち欠けの状態で繋ぐ門が変わるからな。パジャさん用意周到だこと」マチスが言う。
彼の言う通り今夜の月の状態は小塔近くから依頼主のいるルナシエーナ近くまでを一方通行で繋いでいるのだった。
古代の遺産である転移門は月の満ち欠けのエネルギーを原動力として旅行者を門から門へと転移させる。
詳しい仕組みは現在の魔導学では解明されていないが、長い歴史を経てその使い方は解明されている為、多くの冒険者や単身身軽な商人、旅人達には御馴染みの交通手段であった。
「転移門で行ける場所ならばこの小塔の位置は便利でしょう
?転移門近くの岬にギルドの支部の建設許可が降りたのはかつて我等ティルナノーグの生え抜きがタリム・ナク共和国内の魔物災害にて武功を挙げたが故なんですよ?フフン」
暗黒魔導師は得意げな笑顔をした。
(前にも耳タコで聞いたっちゅーの!)
ラヴィはパジャが顔を逸らした隙にそちらに舌を出した。
「そう言う段取りか、なるほど。それじゃあ仕方ない俺もさっさと準備するか」
マチスは話を理解すると席を立って自身の装備品や旅の支度を用意しに奥へ消えた。
「はぁ……じゃ転移門に行くのは月が出てからやろ? その前にグラウリー、あんたの斧見といたげるわ」
ラヴィは壁に立てかけてあったグラウリーの戦斧を手に取り、眼を細くして念入りに点検を始めた。
「……あんた随分無茶な使い方するやろ~細かい刃こぼれがかなりあるで?火に入れないと」
「すまないな。頼む」
グラウリーはラヴィに軽く頭を下げた。
「オッケー!まかしとき」
ラヴィも鍛冶場に消えていく。
「グラウリー、バルティモナは難所です。仲間と力を合わせて気をつけて行ってくださいね……」
パジャは紅茶を啜りながらグラウリーを横目で見た。だがラヴィやマチスが部屋にいた時の様に眼は笑っていなかった。僅かに目を見開くと無言でグラウリーは頷いた。
*
夕刻――。
「はい、これでいいで」
ラヴィが重そうに手渡した戦斧をグラウリーはまじまじと見、感心した様子で礼を言った。細かな刃こぼれはなくなり、その表面は鍛え上げられた直後の白く鈍い輝きを放っていた。
「見違えるようだ。有難い」
「そろそろ行くか」
マチスも旅支度を終えたようだった。手には狭い場所でも扱える短槍が握られている。
「あたしは新しく打ったばかりのこの刀を持って行こうっと。これはかなりの自信作や」
ラヴィはそう言うと腰に黒い鞘の剣を差した。昨日彼女が鍛え上げたばかりの刀――東の小さな島国に見られる独特のフォルムを持つブレード――で、銘はまだつけていないのだという。
帯刀したその姿の重心の自然さを見る者が見れば、彼女が剣術の一通りの基礎を修めていると知ったであろう。
「それでは行ってくる」
旅の装いをした三人の冒険者が小塔のドアから出ていく。
「御武運を」
パジャは右手の親指を立てて見せた。
グラウリーは口の端を持ち上げると軽く手を挙げた。
部屋に残ったのはパジャ一人になる。
(私は残酷でしょうかね――……グラウリー……しかし――しかしあの豪傑ならばあのバルティモナ山を乗り越えられる。私はそんな予感がするのです)
小塔の頭上には薄く三日月が妖しく輝いていた。岬に波のぶつかる音だけが、ザァァ……ザァァと響く――。
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