最強ギルドの斧使いが呪われた山を攻略します!ティルナノーグサーガ『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店

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第一章・依頼

ある屋敷の一場面

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「爺やぁ」
 広い邸内に若い女の声が響いた。しかしその声に返事はなかった。

「爺やぁー!」
 女の声はさっきよりも大きくなった。再び静寂。だが、遠くで扉の開く音がした。

「お嬢様!旦那様が!」扉を開けた老人――爺やは、しわがれた声の限りに女を呼んだ。
「何よう」
「旦那様が!旦那様が大変ですぞ!お早く!お早く!」
 扉からよろよろと歩み出た爺やは、震える手で女をまねいた。
異変を察知した女は長い廊下をにわかに走り出すと、爺やにまねかれて扉の部屋に入った。


「お父様!」
 その部屋は館の主、女の父親の部屋だった。
 巨大な窓には分厚いベルベットのカーテンがかけられており、その間から昼前の日の光が柔らかく差し込んでいる。

「ベル…」
 窓の脇に置かれた大きなベッドに横たわった女の父は静かに娘の名を呼んだ。窓から差し込む光が逆光になって、ベルは父親の顔がはじめ黒いシルエットにしか見えなかった。

「お父様…どうしたの…一体?」
 脅えるように父親に近づくベルはようやく父親の顔をまともに見、もう少しで大声で叫びだしてしまいそうな衝動に駆られた。ベッドの父親の顔は、とても生気の無いまるで死人とも言えるような顔色をしていた。

「旦那様……」
「父様、体の具合が悪いの?大丈夫…爺や、医者よ!医者を呼ばなくては!」
 ベルは父親の手を握りながら爺やに叫んだ。爺やは腰が抜けそうになりながら部屋を出ると、よろよろとしかし懸命に医者を呼びに行った。

「父様!一体どうしていきなりこんな風に…今、爺やが医者を呼んできてくれるからね。そうしたらすぐに、すぐに治るわよ!」

 父親の手は冷たく、そして震えていた。
ベルは言い知れぬ不安を抱きながら父親の手を握り締め続けていた。広く静かな、穏やかな、天気のいい昼前の館。それとは裏腹にこれから起きる何か悪い事の予感を感じずにはおれなかった。

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