最強ギルドの斧使いが呪われた山を攻略します!ティルナノーグサーガ『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店

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第三章・我が儘お嬢様

闇夜の襲撃(2)

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登場人物:

グラウリー:過去に呪われた山バルティモナに挑戦していた斧戦士ウォーリアー
トッティ:若い鈍器使いメイサー
エイジ:かつて風の都で修行した蒼の魔導師ブルーメイジ
ベル:突然現れたリドルトの姪



26

 彼等の後ろでドアの開く音がした。
「無事か!」そこに現われたのは鎧と外套を脱いだ、身軽な格好のグラウリー。その手には愛用の幅広の斧ではなく小剣が握られている。

「何者かの襲撃!?とにかくこの狭い廊下では不利だ!一階のホールに降りよう!」
 グラウリーは階下に広がるホールを指差して叫んだ。彼等は倒れるような格好で階段を駆け下りる。


「なんだあぁぁあっ!」
 二階からホールに絶叫がこだますると、右の方の部屋のドアからマチスとトッティが転がり出てきた。ほぼ同時に、別の部屋からギマルとトムも現われる。

「一体何事なんですか!」
「とにかくこっちへ来い!そこじゃ不利だ!」グラウリーが怒鳴る。
「ボケマンとエイジがいないやないの!?」

 すると突然一室のドアが跳ね跳び、そこから炎に包まれた人型の何かが吹っ飛んだ!

「う、うわっ!」
「ミ、ミイラ男?」燃え盛る火炎に包まれた人型の何かは二階の手すりを飛び越え、吹き抜けのホールに落ちてぴくりとも動かぬが、その体のいたる部位をぐるぐる巻きにされた包帯を燃え上がらせながら、僅かに包帯から垣間見える隙間――口の部分からこの世の全てを呪うがごとくの怨気に満ちた、深く絞り出したような魍魎の声を上げて喘ぐのだった。

「よっと」
 手すりに手をかけ二つの影が廊下からひらりと舞い踊り、風に揺られてふわりと地面に落ちる木の葉のように音もなく、軽やかに二人の魔導師が降り立った。

「エイジ!ボケ!」
「一体何だってんだ。随分な数の襲撃だぜ!」
 ボケボケマンが光ゴケを触媒とした明かりの呪いを唱える。光ゴケは無数の粒子となって球状に固まり、浮かんで光を発した。

「ギーッ、キーッ!」
ホール中を飛び回る百匹弱はいようかという蝙蝠の羽を持つ、人面のような顔を持った飛行生物が灯りの下に照らされ出し、光を嫌う声を上げた。

「バンシーバットだ――珍しいな……洞窟の奥などにひっそり暮らしているのに……奴等の牙と爪は思いのほか鋭い。隙を見せれば血を吸う習性があるから、気をつけるんだ」
 真夜中の襲撃だというのにきちんとオークの皮のマスクだけはかぶったボケボケマンが言う。

「リドルトさん!」グラウリーはハッとしてギマルと顔を見合わせた。「彼等も危ない!」

「ギマル、ボケボケマン!俺についてきてくれ! エイジ、バニング、ラヴィ!残った者を集めて使用人室を見に行ってくれ!」
「わかったッ!これを持って行け!」
 エイジは自室から持ち出した松明を懐から取り出すと、それに片手で蒼い魔法の灯火をかけた。
彼等は素早い動きで二手に分かれると反対方向に駆け出した。

「うぉお」先頭でギマルがその丸太のような逞しい腕で小剣を風車のように振るうと、彼等に襲い掛かるべく近寄ったバンシーバットは次々とひしゃげ、潰され、叩き落されていくのだった。

 リドルトの寝室はホールの正面玄関から向かいの左側に応接室があり、更にその奥だった。ギマルがドアを開けるのももどかしくタックルで押し破ろうとしたその瞬間、再び邸内に悲鳴が響いた。ベルの声である。

「いかん」ギマルとグラウリーは同時にタックルをし、ドアを押し破る。広い応接室を獣のような速さで抜け、奥の寝室の扉もまた押し破った。



 それはまるで何かのまがまがしい儀式のように――。

 広い寝室の壁に沿うように、人影が何人も立ち並んでいた。松明に照らされた僅かな灯りの中に浮かび上がるその群像は、しかし生者の息吹を感じさせぬ。

 あるものは体中を包帯で余すところなく巻かれ、さながら辺境の砂漠に位置するという三角錐の大古墳に安置された王家のミイラの如き姿をしている。またあるものは強烈な臭いのする屍肉を僅かにその体にぶら下げるままにし、所々から白い骨がむき出しているのだった。

 永久の眠りについているはずの彼等にかりそめの命を与え隷属させているのは邪悪な禁呪(ネクロマンス・マジック)に他ならない。その全ての死人達は一様に胸の前に両手でぼろぼろの剣を真っ直ぐにして持っており――その姿はまるで彼等を使役する、絶対の支配者を称えているようであった。

 部屋に押し入った戦士達は口を開く事ができぬ。永遠の氷土の下に凍りつかされた、時の呪縛の干渉をうけぬヒュメヌノアスの伝説の氷のゴーレムのように、彼等は固まってその眼に飛び込んだ光景を凝視してしまうのだった。

 松明の光に照らされたそれは、しかしはじめは闇。そのもののように思われた。
 焔の輝きがまるでその人型の闇に吸い込まれるように効果をなさない。彼等がそこにあるものを人型のものだと認識できるのはガラス戸が無残に打ち砕かれた寝室の窓からさす月明かりと、月を抱く夜闇の空の中にその空よりも更に真の闇、というべき威圧感のある闇が人型のシルエットをかたどっていたからであった。

 だがその不吉なシルエットの首の下あたりから肩、そして腕の先のラインにはひどく奇妙な変化がついている。彼の腕の肘から先のあたりに、何か大きな異物が溶け込んでいるかのようであった。

「あ…あ――……」
それは時間にしてみればほんの数秒だったかもしれなかった。床側に痺れた様な声を聞いたグラウリーは反射的にそちらの方向を見た。

「リドルトさんの――!」
 床に尻餅をついた格好で、ベルがそこにいた。

 グラウリー達が部屋に入った事さえ気付かない。それに注意を払えないほどに彼女のエメラルドグリーンの瞳は見開かれていて、口を僅かに開けながら喘ぐ様な、かすれた声を振り絞るように出すのだった。

「!」危険な空気を感じ取ったグラウリーは、己の精神力を振り絞って足元のベルに駆け寄った。

「大丈夫か!」
「お、伯父さ――」
 だがベルは、それでも見開かれた眼を動かそうとはせぬ。
グラウリーは彼女の瞳の中に映る影を見――その視線を追った――。


瞬間――。
一陣の風が吹き込み、グラウリーの持つ松明が大きく、バチッとはぜた。

 そこに、現われたもの。

「――リドルトさんっっッ!!」

 艶やかなその色は、夜闇にも、黒く美しい女性の髪の色にも似ていた。
 漆黒のローブに身をまとったその者は不吉な彫像のように立っていた。ローブの首元から覗く顔は、輝く銀の髪に包まれている。その者の右手が高々と挙げられ、その肘から先に何か――それは人。
 でっぷりと肥えた見覚えのある人物が、まるで肉屋か何かの店先にでもかけられていそうな風に無造作に刺し貫かれて、ぶらりと生命感なくぶら下がっているのだった。


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