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第三章・我が儘お嬢様
漆黒の怪異
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グラウリー:過去に呪われた山に挑戦していた斧戦士
ギマル: 北の戦闘民族出身の斧戦士
ボケボケマン: オークマスクの魔導師
ベル:突然現れたリドルトの姪
*
27
「う…おおおおっっおおお!」
ギマルが上段に剣を構え、獣のような気合の声を上げた。丸太のような太い腕に、みるみる荒縄のような筋肉の筋がビキビキと走る!
ボケボケマンが両掌を胸の前で逆さに交差させる。手に凄まじいまでのポテンシャルが集約されたかと思うと――バチバチという空気の弾ける音がし、紫電の光球が生み出された。
彼等をして一瞬に極限状態まで高めたもの。それは相手の力量を瞬時に見切る戦いの勘!彼等が積み上げた幾多もの経験が、眼前にいる敵の危うさを教えている――全力を持って戦え!! と。
ギマルが獣のような俊敏さを持って銀髪の怪異に突っ込んだ。それはかつてバルティモナの鏡の回廊でグラウリーを助ける為に使った、彼の部族の古の奥義。
だが、ビュン!という音がした瞬間、彼の胸に何か巨大な重いものが投げつけられたのだった。
「ぐあっ!」
――それはリドルトの体。
ギマルは技の出初めを潰される格好になり、壁に叩きつけられる。
ボケボケマンは両掌に集中させた稲妻を怪異に解き放った。それはうねる龍のごとく空気を切り裂いて標的を射抜いた。
しかし怪異はそのエネルギーを漆黒のローブに一瞬溜め込んだかのように見えた――怪異が振り払うような仕草で両腕を解き開くと、驚くべき事にそのエネルギーは術者であるボケボケマン自身に還ってくる!
「――――~~……ッッ!!!」
声にならぬ声を上げて、ボケボケマンはその稲妻をまともに食らった。
「伯父さんッ!」
「ギマル!ボケボケマンッ!」
ベルとグラウリーが叫んだのは同時であった。そして両腕を解き開き彼等に対して正面を向き直った銀髪の奥にその、真の姿が見える――!
血の色をしたその瞳は、生ある者全ての精気を吸い取るかのような渇望に満ちていた。ローブからのぞく黒ずんだ皮膚は全くと言っていいほど生命感を感じさせなかったが、その痩せこけた様には何か暗黒の力に満ちた邪悪な意思を感じさせるのだった。
「死の超越者―――」
グラウリーは我知らず、呪うような言葉を吐き出した。
「――やはりこの家の主が秘宝の奪還を目論んでいたというのは本当だったようだな。そして見事秘宝を手に入れたと見える。どうやってあの闇の王の間から秘宝を見つけ出したのかは知らんが――まあよい……秘宝を差し出せ――」
銀髪の超越者は、床の上を滑るようにグラウリーとベルの元に近づいてきた。その眼は、ベルが腹の上に抱えている中くらいの大きさの箱に注がれているのだった。
「秘宝!?バルティモナの秘宝か――!」
グラウリーはその木箱に見覚えがある。バルティモナ山での大冒険の末に手に入れる事ができ、依頼主のリドルトに手渡したはずの秘宝の入った木箱をベルが持っているのである。
「あ――あ――…」
ベルは恐怖にうちひしがれて、体に力が入らないと思った。超越者が迫って来、彼女の手に持つ秘宝を狙っているとわかっているのに脚が言う事を聞かない。
「この野郎!」グラウリーが手に持つ小剣を強く握り締めて超越者に斬りかかろうとした。しかし彼の右手は突如痺れたように動かぬ。不死者の禍々しいオーラが、彼の神経を侵食していたのだった。
「ぐ、ぐあ……――に、逃げろ――ベル!」
死の超越者の右手が、ベルに差し出された。五本の指は黒い影となって――それぞれの指一本ずつが彼女を狙う毒蛇のような、なまめかしい動きを持って『死』という運命を運んでくるかのような錯覚を覚えた。
彼女はだがそれでも懸命に秘宝を守ろうとし――震える手が滑って木箱を床に取りこぼした。バカッと音がして木箱の蓋が開き、秘宝が床に転がり落ちる。
「――――!」今やベルの眼の前まで死を運ぶ手が迫っても――ベルは必至に秘宝を守るべく手を伸ばした。
(これが、これがなきゃ、父上は助からない!)
二つの秘宝のうち水晶球の方を手に取ったかと思うと、ベルは無意識に超越者の方へそれを高々と掲げていた。瞬間、白い光が水晶球から漏れ出したのだった!
「ぐおおおぉぉぉお!」
超越者はのけぞるように上半身を光を発する水晶球よりそらしたかと思うと、瞬時にベルから離れた場所に瞬間移動したのだった。彼は右目を手で覆い、うずくまるような格好でいた。押さえる手の下からは、シューシューという白く小さな煙が巻き起こっている。それは何かに火傷したかのような姿にも似ていた。
「お前はぁぁぁ――お前も、そうか!呪わしき血族の家系の者なのだな――!ジル!ジルの娘か!今一歩で秘宝を手に入れられたものを!だが――我は必ず恨みを晴らす。呪われし血に絶望しながら死んでいく運命を、貴様の父は避ける術を持たぬ!そしてその秘宝もいつか必ず我が元に――。心して生きるが良い、もう決して夜闇に安息は訪れぬ!魔と闇と影は我の眷属。それらが常にお前達を襲うのだから!」
不死者はそう叫ぶと、砕かれた窓枠に手をかけた。
「だがその水晶球の護りが何時までも通用するとは思うなかれ――我が本体はその呪力を無効化する術を近く完成させるだろう!」
すると――「ま、待て――!」グラウリーが叫ぶのもむなしく、超越者はその身を窓の外の闇に躍らせたのだった。彼は闇に溶け込むようにして、すぐに見えなくなった。そして彼の支配するかりそめの生を持つ者達も緩慢な動作で一人また一人と窓から身を出してゆくのだった。
グラウリーは、室内の温度がいつの間にか高くなっていた事に今更気付いた。冷えた汗をかいたその下から、じわじわと汗が噴出してくる。
「なんだこの熱さは?」
「グラウリー!」その時、部屋に誰かが駆けつけた。トッティとマチスだった。
「トッティ!マチス!」二人を振り返ったグラウリーの眼に、赤々と応接間の壁を伝う炎が見えた。
「館が焼けている!使用人室や厨房でアンデット達が火をつけたんだ!俺達で消火しようと思ったが、もう間に合わない!お前等の荷物は火が広がる前に俺達が外に出しておいたから、館が焼け落ちる前に逃げ出すんだ!」
「! わかった」
グラウリーはさほど動揺したりはしなかった。襲撃にて炎をかけるというのは、戦の定石だったからである。
グラウリーは気絶したベルを抱え、トッティとマチスが気絶したボケボケマンとギマルを背負って館を脱出した。エイジやバニング、ラヴィは館の使用人を外に誘導する。
彼等が館の外に出て仲間達と合流した時、炎が館全体に燃え広がった。ルナシエーナの真夜中の空に炎が煌々と天をつく勢いで燃え上がる。
彼等がその様をリドルト邸の庭から呆然と眺めていると、やがて異変を察知した街の警備隊――白の聖騎士軍団、パラディン隊や野次馬が駆けつけたのだった――。
こうして、突如狙われた襲撃事件は幕を閉じた。
*
リドルトは深い傷を負ったがまだ死んではいなかった。彼はパラディン隊の救護班の担架に乗せられながら、途中でトムを呼び止めた。
「トムさん――」
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