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第二章・呪われた山
蒼く光る泉
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グラウリー:大柄な斧戦士
ラヴィ:女性鍛治師
バニング:元暗殺者の剣士
マチス:老練な槍使い
トム:小柄な商人
ギマル:北の戦闘民族出身の斧戦士
トッティ:若い鈍器使い
ボケボケマン:オークマスクの魔導師
エイジ:蒼の魔導師
10
*
当然というべきか仕方がないと言うべきか、ボケボケマン達が作った火の壁による通路を通って来たのは彼等だけではなかった。
一部の、いや多くの冒険者達がグラウリー達の後を追って通路に入っていったのだった。それはしかし、あの入り口側からの奇襲にさらされた者達にとっては当然の思考であったかもしれない。
ハーピーは主力をどこからか経由させて広間入り口上の穴から突っ込ませたようだった。通路以降のハーピーの数は明らかに奇襲の増援部隊よりは少ない。しかしそれは逆に初めに入り口を塞いでおき逃げられないようにしてから、大空洞内部で冒険者達を全滅させる作戦であったのかもしれない。
通路に入るとそこから大空洞は更に複雑な迷路となる。一緒の方向に走っていた一つのパーティーとはぐれ、またもう一つのパーティーとはぐれる。最も後陣を走っていた者の中には執拗に襲い来るハーピーの凶刃に倒れる者も少なくはなかった。
いつしかグラウリー達の周りにも別のパーティーの姿は見えぬ。
走り詰めたお陰でパーティーの誰もが汗をだらだらと流し、荒い息をついている。彼等がその脚をようやく止めたのは、見た事もない通路だった。
通路の左手に地下水の湧いている泉があり、そのせいか辺りは少しひんやりとした空気が漂っている。とりあえずハーピーは近くにいないようだったので彼等はそこに一時腰を降ろす事にした。
「走りながら乱雑に書いたマップだから……正しくないかもしれない……」
トムが小さなメモ帳を見ながら呟いた。
「マッピングしていたのか」ギマルがメモ帳を覗く。
「ええ、一応。帰り道がわからないと困るからね……あってるかどうかは今ひとつ自信がないが」
「そうか」
「ああ――ここの水は美味いよ!」
「本当! 冷たくて美味しいわぁ」
喉を渇かしたトッティとラヴィが我慢できず泉の水を飲んだ。皆もそれに習って泉の水を飲むと、水はひんやりと冷え切っていて疲れた体の隅々まで染み込んでいくようだった。
「――泉の底が……蒼く光る……」
泉に頭を突っ込んで水を飲んでいたトッティが気付いたように泉の底を眺める。黒く底の見えぬ水底だが、確かにうっすらと蒼く光るものが点々と見えていた。
「バルティモナ山か……ひょっとするといい鉱石が取れるのかもしれんね……」
ラヴィがその光の発する石を鍛冶師らしい眼でじっくりと眺めた。
「これから――どうする?」
誰とはなしにそんな疑問が現れた。
「……」
「今は入り口には戻れない……上を――中層、上層を目指していくしかないだろう」
グラウリーが言った。
「はぁ、うちまだ死にたくないわぁ……」
「俺も……」
「マチスさん、昔バルティモナに来た事があるって言ってたよな。その時はここいら辺までは来る事ができたのか?」
「いや、俺がバルティモナに行ったのはまだトッティくらいの若さの時だった。とてもじゃないけどこんな奥までは来れなかったよ。お前は?グラウリー」
「……俺も――ここまでは来れなかった……他の皆もそうみたいだな。ここから先は未知の領域ってわけだ」
「なあなあ、中層に行けたとして、下層のハーピーなんかよりずっとおっそろしい怪物がいるんじゃないの?」
前衛の中では若いトッティが最も疲れているようだった。
彼はその若さの爆発的なエネルギーで鈍器を使った高い攻撃力を持っていたが、若すぎるが故に力をセーブする事を知らない。
彼に比べるとマチスやグラウリーと言った経験豊富な戦士達は戦いの中と言っても力の抜き加減を知っているものだ。その為結果的には彼等の方が長時間の戦闘をする事ができるのである。
「まあ確かになー」
エイジが人一人寝そべるのに丁度いい大きさの平らな岩にだらしなく横になりながら言った。
「そういうパターンも多い。だけどなトッティ、由緒あるダンジョンっていうのは必ずと言っていい程抜け道っつうか秘密の通り道というのも存在してるモンなのよ。だからここまで来たら帰って危険な入り口に戻ろうとするよりも、それを見つけた方が早い場合も、ある」
「場合もある、ってだけで――ないかもしれないじゃん!」トッティは憤慨した様子で抗議する。
「まあね、そりゃ――運だよ運、トッティ君。運がよければ、すぐに見つかるさ」
エイジはあくまでひょうひょうとしている。トッティはその態度に当てられてしまって逆に苛立ちが萎えてしまった。
「ちぇっ、エイジはいつものん気だよね」
「くっく、こいつはいつもそうだからな」ボケボケマンが笑いながらトッティに同調する。
「バ――カ!俺達はくぐった修羅場が違ぇーの。魔導の里で何回も死にそうになってるからな」
「はいはい、そうなんですかー」
「あってめーいつも俺を馬鹿にしてねーか?」
「うわっぎゃあ、いてて、いて、いてーよ!」
「このコンビは馬鹿やねーほんま」
「あっはっは。そりゃいい」
にわかにパーティーが笑いに包まれる。ラヴィもさっきまでの恐怖はひとまず引っ込んでしまった。お腹を抱えて笑っていたが、ふと遠くに一人で座っているバニングに眼がいった。
笑っていない――。
下を向いたまま静かにうつむいているバニングはまるで笑いという感情を失ってしまった人形のようだ。その無感情な顔に何か得体の知れぬ影を見て、ラヴィは不安げな眼をするのだった。
*
「イィヤァア―――アア――ア――ッ!」
静寂の支配する通路が、金切り声によって突然に引き裂かれる。何事だ!と、戦士達はかたわらに立てかけておいた得物を素早く引き寄せた。
「ア――アァ――ァ――ッ!!」
その悲鳴は第一声よりも恐怖に満ち、そして悲しく。
「女の声……?いや、少し違う――」
ギマルがいぶかしげな眼をして耳を澄ます。声は段々とこちらに近づいてくるようだった。悲鳴に加わってやがてげぎょっ、げぎょっという声が聞こえる。これは彼等にとって決して忘れる事ができない、ついさっきまで戦いを繰り広げていたハーピーの鳴き声である。
「誰かがハーピーに追われているのか……」
彼等は顔を見合わせる。
「とにかく様子を見に行こうぜ」
エイジはそう言うと、そろそろと声の方向へ忍び寄っていく。グラウリー達戦士もそれに加わり、後に残されては(特に得体の知れない悲鳴を聞いた後で)心もとないのでラヴィ達も付いてゆく。
結局全員がそちらの方向へ様子を見に行ったのだ。
「……見ろ!」
曲がり角の死角になっている場所からエイジがちろりと様子を伺い、小声で言った。
「ハーピー同士で――争ってる……?」
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