ベイロンドの魔女

路地裏の喫茶店

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三章 ランの誇り

第二十一話

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 約三十分程ほうきで飛ぶと森が切れ、それから街道にずっと沿って飛んで行く。やがてルックさんの家が見えた。ついこの間来た時とちっとも変わらない。私達はほうきを降りるとドアをノックした。

「ああ、リィディちゃん…ランちゃん、やっと来たか」

 ドアから出てきたルックさんは私達を見てそう言った。

「ルックさん、セラノとアバンテに会わせてもらえませんか?」
「ああ、二階に眠っているよ。さあ早く」

 いてもたってもいられなくなった私の心情を察してルックさんは素早く中に入った。私達も中に入り、階段を上がった。セラノ達がいるのは、私がシェナに向かう時に泊めてもらった南向きのあの部屋だった。

 ドアの前に立ち尽くす私をリィディとルックさんが囲むようにして見ていた。ルックさんは無言で(どうぞ)とドアノブに手を促す。


「……」

 私はドアノブを回し一人部屋に入った。部屋は天気のせいで薄暗く、頼りなげなランプがちろちろと灯されているだけだった。

 部屋の隅にベッドがあり、そこにシーツをかぶせられて二人分の山が見える。私はゆっくりと彼等の方ににじり寄っていった。時折重みで床板がギィと鳴る。そんな音さえ出してはいけないような、何か神聖で厳かな空間のような気がした


 ようやく枕元まで来ると、そこには遠く懐かしいような、この数日間、本心を言ってずっと見たかったセラノとアバンテの顔がそこにはあった。

 私は近くの椅子に腰掛け、彼等を眺めた。

 疲れきって倒れていたとは思えない、穏やかな表情。だけどその眉一つ動かさない寝顔は何故か私に、このまま永遠に目覚める事のない眠り病なのではないかという想像をもたらして、怖かった。注意して聞くとわかる、すかな規則正しい呼吸音が、そうではない、これは現実なのだと私を呼び戻させるのだった。


「う、うーん…」

 セラノが声を出し眼を開けた。一瞬ここがどこなのかと眼をきょろきょろさせ、そして私と眼が合った。セラノはじっと彫像の様に止まったかと思うと、弾けたような驚きを見せて「ラン!?」と叫んだ。

「ええ…セラノ、久しぶり」

「何でランが…?いやそれより、ア、アバンテ、アバンテ!」
 セラノは隣にアバンテがいるのに気付くと、彼女を揺り動かし起こそうとした。

「うぅん…セラノ私もう歩けないみたい…」
「アバンテ、起きろ!ランだ、ランがいるんだぞ」
 セラノがひときわ強く起こすと、とうとうアバンテもその愛くるしい茶色の瞳を開けたのだった。

「ラ…」

「アバンテ」

 私がそう言うか言わないかという瞬間、アバンテはベッドの上でセラノを押しのけると私に抱きついてきたのだ。アバンテのいい匂いと草の匂いがする――。


「ラン…ラン、あたし――あの時…ごめん、あの怪物が…恐ろしいと感じてしまって…でも…ランはあたし達を…あたし達の街を守ってくれたんだろう…?」

「……」

 するとセラノもベッドの端に座って私の手を取った。

「ラン。僕あの後アバンテや父さん母さんに話を聞いたよ。ランが本当は魔女なんだって事、倒れた僕を治す為にアバンテと一緒に坑道の精霊を鎮めに行って――怒った精霊が街を襲うのをランが鎮めてくれたんだって」

「……」

 するとセラノは少し言いにくそうにうつむきながら、

「…そしてその後それに驚いた街の人達が…」

「あたし達話し合ったんだ。ランはどうして魔女だという事を隠していたんだろうって…そういう魔女の掟があったのかもしれないけど、ラン、ひょっとしてずっと一人で抱え込んでいるものがあって辛かったんじゃないかって。

あたし…ランに相談に乗ってもらったりしたのに、あたしはランに何か友達としてしてあげられたのかなって…それどころかあんな風な態度をとってしまって…すっごく申し訳ないと思ってたんだ……」
 アバンテの最後の方は涙声になっていた。

「僕はずっとランにお礼を言いたいと思っていた。どうもありがとう。ランのお陰で助かったよ。本当にありがとうね」
 セラノは私の手を強く握ると頭を下げた。そしてアバンテの方を見やりこう言った。

「アバンテは――本当に申し訳ない事をしてしまったって、ずっと僕や少年団の仲間に言っていたんだ。ランを傷つけてしまったって…」

 私は胸が一杯になって…どう言ったらいいのかすぐにわからなかった。
 泣きはらすアバンテの手を、まっすぐな瞳で私を見つめるセラノの手を取りながら…いつの間にか私はぽつりぽつりと過去の事…両親が死に孤児院に預けられた事、そこで奇病にかかり死にそうになった事、コリネロスとリィディに会い魔女になり…修行、初めての仕事、その中で感じた魔女と言う運命への疑問や葛藤。

 …そして今魔女をやめようかどうか迷っている事を話したのだった。

 彼等には全てを知ってもらいたかった。例えその先にあるものがあの恐怖に怯えた眼だったとしても、私はもう一度だけ、彼等を信じ、信じてもらいたかった。

 
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