ヴィフ・クルール~拾った女の子が人間ではなかった件~(仮)

若山ゆう

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第5章

反撃①

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「確保だ! VC一体確保!」

 興奮した声で男が叫び、倒れた紅に駆け寄る。

「紅! 紅、立て!」

 戻ろうとする哲平を、朱里が引き留める。

「哲平! 戻っちゃダメ、あんたまでやられるよ⁉」
「だからって見捨てるのか⁉」

 必死の形相で叫ぶ。その近くで、別の男が銃を発射した。同時に桔梗が倒れる。

「VC二体目! 二体目確保です!」
「早く収納しろ、急げ!」

 男たちが二手に分かれて紅と桔梗を囲んだ。残るひとりが、哲平に目を向ける。

「君は、この間の……。やはり、彼らと知り合いだったんだな。大丈夫だ、我々の邪魔をしなければ、君たちに手出しはしない」

 以前、山辺隊長と呼ばれていた男だ。落ち着いた声で、敵意のないまなざしを向けられ、哲平は動けなかった。唯一、華だけが取り乱している。

「哲平くん、朱里さん! 何してるの、早く助けてあげて! あのふたりを助けられるのは、あなたたちだけなのよ⁉」

 ぐいと腕を掴まれ、はっとする。紅は、力なく芝生の上に倒れたままだ。目は半開きで、意識があるのかどうかもわからない。脱力したその体は、ときおり痙攣するかのようにぴくぴくと動いた。

「VC桔梗、収納します!」

 背後で大きな声が聞こえ、振り返ると、さっき桔梗に向けて銃を放った男が、今度は懐から小ぶりな拍子木のような四角い機械を取り出して桔梗に向けた。もうひとりが透明のボトルのようなものを取り出し、蓋を開ける。男が機械のボタンを押すと、パンというこぎみよい音がして、桔梗の体が消えてなくなった。いや、よく見ると、そこには代わりに紫色の絵の具のような水たまりが出現し、もうひとりがボトルを当てがってその液体を吸引するように収め、蓋をした。

「……」

 背筋が冷たくなった。
 目の前で、桔梗が、どういうわけか強制的に液化させられ、捕えられた。そして今、紅にも似たような四角い機械が向けられた。紅はぐったりしたまま動かない。

 助けなければ。

 そう思ったが、体が動かなかった。

「見損なったわ!」

 耳元で華が叫び、それから哲平の腕を離して紅のほうへ走り出した。

「やめて! 紅ちゃんを返して!」

 機械を持つ男の腕にしがみつく華に、別の男が手を伸ばす。

「邪魔をするな!」

 バチンと何かが弾けるような音がして、華が小さな悲鳴を上げ倒れた。男の手に握られていたのは、スタンガンだった。

「おい、市民を安易に攻撃するな!」

 さきほど哲平に話しかけた男が、部下を叱責してスタンガンを取り上げる。

「華!」

 背後で紺碧の声がした。哲平が振り返ると同時に紺碧が怒りの形相で地を蹴り、深い青へと気化した。

「後ろだ! 後ろから来るぞ、早くエナジーサッカーを!」

 悲鳴に近い男の声に、紅を格納しようとしていた男がハッと顔をあげた。拍子木のような機械を捨て、懐から銃のようなものを取り出す。頭上から襲い掛かる青い靄に向かって数回発射したが、靄は自在に形を変えてそれをかわし、男の頭を包み込んだ。

「うわっ⁉ や、やめろ……っ」

 銃を取り落として頭を振る男が、突然悲鳴をあげた。

「あっ、ああああっ! 耳が、耳が――!」
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