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「廃劇場に住む怪人」
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学校からの帰り道、和香(のどか)は懐から本を出してため息をつく。その本は演劇の台本であり、しかも主役の為の台本であった。
「急にあたしが主役やるなんて……ムリだよ……」
和香は高校の演劇部に所属する女子であり、今度の文化祭で演劇部が披露する演劇で主演をやることになった。しかし、彼女は主演をやるのに気乗りはしていなかった。なぜなら……。
「主演をやるはずだった先輩が、文化祭当日に家族の集まりに行くなんて……確かに、うちの文化祭は参加自由だけど……」
主演女優を行う演劇部の女先輩が、文化祭当日は家族の集まりがあるから出られなくなったと言いだしたのだ。しかも、文化祭が二週間に迫った日にいきなり言われたものだから、それまで先輩を前提に練習してきた劇の内容が宙に浮いてしまったのだ。
「……で、どうする? 誰か主演女優をやりたい子はいない?」
と、部長は言ったが、いきなり大事な役をやろうと思える気概のある女子は、中々いなかった。そもそも一ヶ月以上前から練習してモノになる役を、二週間でできるのかと言われたら、ノーと誰もが言う役だ。
誰もが口をつぐむ中、主演女優の先輩が言った。
「和香ちゃんなら、きっとできるんじゃない? だって、アタシこの間和香ちゃんが影で主演女優の台詞を練習していたの、見ていたもの。きっとできると思うわ!」
先輩がそう言ってしまったものだから、みんながみんな期待の眼差しを向けるようになり、断り切れなくてやることになってしまったのだ。
「確かに、あたしは隠れて主演のセリフとかを演技していたけど、いきなりこんな形で主演なんて……」
確かに和香は、こっそり主演女優のセリフを音読したり演技したりしていた。だが、それは遊び程度のもので、自分は多分なれないから影で……といった感じのものだった。だからこそ、いきなり主演をやらされてもどうしたら良いのかわからない。
カーブミラーで和香は自分を見てみる。するとそこには、目元を隠すような長い前髪と、ちょっとしたそばかす。明らかに地味子といった風貌の容姿の自分。こんな自分がやって本当に大丈夫なのだろうか。
しかし、なってしまったものは仕方ないと観念した和香は、どこかに演技の練習ができる場所はないかと周りを見渡す。
周りを見た先にあったのは……今はもう使われていない廃劇場だった。昔、和香はここでお芝居を見たことがあって、そこで劇をする俳優に見とれたことがあった。
その劇場を見ていると、昔あの劇場のステージに立ってお芝居をする自分の夢を思い出した。今となってはこの劇場はただの廃屋ではあるが、それでも思い出の詰まった劇場だ。
すると、鋼鉄の門が半開きになっているのに和香は気づく。それだけではなく、劇場に入る為のドアも半開きになっていた。ちょうど体を滑り込ませれば、入れそうな具合だ。そんな光景を見ていると、ちょっといけない考えが浮かんだ。
(入れるなら……ちょっと、ステージに上がって練習してみたいな……)
どうせステージに上がるのなら、せめてこの廃墟のステージに上がって練習したいという感情が、和香の中に溢れ出てきた。本当はいけないことではあるとわかっているのだが、せめてあのステージに上がりたいと思っていた。
門の隙間に体を滑り込ませ、半開きになったドアにも似たような感じで入ることができた。中に入ると、殆ど真っ暗で窓から入ってくる光しかなかった。スマホのライトで中を照らしてみると、中は廃館となった当初のままで、あちこちに埃が貯まっていて、剥がれかけたポスターなどがそこにあった。
そして、金属製の案内板を見て、ステージの方に歩いていくと、ステージの分厚い扉を開くと、そこには天井のガラスから光が差し込み、ライトのようにもなっている光景が見えた。天井のガラスはシャッターを閉じたり開いたりして、陽光を入れたりすることができる仕組みだが、廃墟となってからシャッターは開きっぱなしになっている。
「よい……しょ……」
両手をステージの端っこに手をかけ、体を持ち上げてステージの上に立つ。日の光は天井のガラスから席だけではなく、ステージにも降り注いで、まるでライトのようにもなっている。「ん……」と声を準備して、昔劇で見たことのあるセリフの一部を高らかに叫ぶ。
「どうしてそんなことを言うの? 私は貴方の為だけに歌っているのに!」
「どうか我が魂を、神様の下へとお連れください!」
和香が目一杯の演技でそう叫ぶと、誰も居ない劇場内部に声が響く。やっぱり、劇をやるために作られた建物だから、とても良い具合に声が劇場に響く。
今のどうだったかな……大丈夫かな……と思い、次の台詞を言おうとしたその瞬間。
「良い演技だね、でも……演技しているという感じが出過ぎているかな」
突然、拍手と声が聞こえてきた。とても良い声だった。低くてずっしりとした、大人の落ち着きと色気を兼ね備えたバリトンボイスだった。それを聞いて、和香は混乱する。
(こんな廃墟に、人がいる? どうして?)
「だ、誰なの!?」
「おや、驚かせてしまったようだね。今そちらへ行くよ」
舞台の袖口から、コツコツと革靴の音が聞こえてきた。そして私の目の前に現われたその人物は、とても変な人だった。その人物は真っ黒なマントを羽織って、燕尾服を着ていた。しかも黒いシルクハットを被っていて、顔はライオンのマスクで頭全てを覆っていた。そんな人が現われたものだから、和香も身構える。
「だ、誰ですか? なんでこんな所に、いるんですか?」
「そうだな、私がなぜここにいるかというと……私がここに住んでいるからさ。そして私は、便宜上『ファントム』と呼んでくれたまえ。そう、オペラ座の。なるべく顔や素性を知られては困るからね」
「なんで、そんなことを……」
「怪人とは劇場に住むものさ。警察に通報するかい? だけど、それだと君も不法侵入でいろいろ言われることになるかもしれないがね」
「う……」
妙に痛い所を突くファントムと自称する、バリトンボイスの男にちょっと気圧された和香。すると、ファントムは和香に近づく。
「それで、君は誰でなぜこんな廃墟に入ってきたのかね? ひょっとして……ステージに立ってお芝居をしたかったのかな?」
「っ……」
図星を突かれ、和香は押し黙る。すると、ファントムは「ふふっ」と笑った。
「どうやら図星のようだね? わかるさ、さっきの演技を聞いていればわかる」
「す、すいませんでした……」
「いや、良いさ。ちょっと私とお話しないかい? なあに、変なことなんかしないさ」
「ほ、本当ですか……?」
「心配するな、何かしようとしたら君が警察に通報すれば良い。さあ、行こう」
白い手袋をした手を、ファントムは差し出してきた。その手を、私は恐る恐るその手をとると、ファントムは袖口に向かって歩き始め、和香は手を引かれる。その後とある場所のドアを開けた。中は真っ暗だった。
ファントムが、電気ランプをつける。すると、明かりが辺りを照らし、楽屋に来たということがわかった。ファントムは、楽屋にあった椅子を向かい合わせにして、それに座るように促した。和香が椅子に座ると、ファントムも椅子に座り、足を組んだ。
「それで……君はなんでこんな廃墟の劇場に来たんだい?」
「あの……あたしは和香といって、学校の学園祭で、急遽あたしが主演をやることになってしまって、それで演技の練習を、ここでしたいなって思って……」
「ははあ、そうことかい。だったら、この私が協力できるかもしれないな」
「ど、どういうことですか?」
「簡単なことさ、台本を見せてくれないかい?」
ファントムは和香から台本を受け取ると、パラパラとめくり台本に目を通す。
「フム……これは、オペラ座の怪人か」
「そうなんです、そのクリスティーヌ役を、私がやることになってしまって……」
「そうか、なら私は、その名の通り『ファントム』となろう」
台本を和香に返し、ファントムは椅子から立ち上がる。そして、両腕を掲げ高らかに叫んだ。
「クリスティーヌ、お前は私を愛さなければならない!」
台本に書かれていた台詞を、高らかに叫ぶファントム。いきなり叫ばれたのもあったが、和香はその言葉の威力に驚いた。まるで、オペラ座の怪人の嘆きとも愛憎とも取れる感情が、自分の耳に確かに届いたのだ。
(凄い演技力……)
和香がその言葉に圧倒されていると、ファントムは更に続ける。
「お前の魂は美しい、どれほど立派な王でも、こんなに素晴らしい贈り物はもらえないだろう、今夜は天使も涙したはずだ」
今度はクリスティーヌの素晴らしさをたたえると同時に、悲しささえも感じる台詞だった。和香は、その演技力をただただ感じるばかりで、瞬きさえもできなかった。そのセリフを言い終えると、ファントムは再び椅子に座って足を組み、仮面を和香に向けた。
「いかがだったかな? 私の演技は」
「はい……すっごく、素晴らしい演技でした……」
「私は昔、俳優みたいなこともしていたことがあってね。演技力ならそこいらのヤツには負けないと思っている」
和香はその言葉に、違和感があった。なんであんな凄い演技力をしていたのに、俳優みたいなこともしていたなんて言うのだろうかと。あの演技力ならどこも放っておかないと思うが、プロはそれほど厳しい世界なのだろうかと考える。
「そこでだ……もしよろしければ、これから私のレッスンを受けてみる気は無いかい?」
「あなたの……レッスンですか?」
「ああ。少なくとも、学校で練習するだけじゃ足りないだろうし、学園祭に間に合わせるには、個人レッスンも大事だと思うけどね」
和香はその言葉に一抹の胡散臭さを感じるも、少なくとも学校で練習するだけじゃ間に合わないだろうし、しかも主演が酷い演技をすれば演劇部の沽券にも関わる。変なことをされたら通報すれば良いと考えた和香は、少し押し黙りながら答えた。
「わかりました……あなたのレッスンを受けます。でも、変なコトしたら、それこそ警察に通報しますからね」
「ああわかった、そんな不埒な真似はしない。それじゃあ明日から、この劇場で午後五時以降に待ち合わせだ。土日は三時以降にお願いするよ。それじゃあ、明日から待っているよ」
とりあえず、約束をしてその日は廃劇場から出た和香。胡散臭いとは思いつつも、ひとまず約束が本当なら、良いなと思いつつその日は帰宅するのであった。
「急にあたしが主役やるなんて……ムリだよ……」
和香は高校の演劇部に所属する女子であり、今度の文化祭で演劇部が披露する演劇で主演をやることになった。しかし、彼女は主演をやるのに気乗りはしていなかった。なぜなら……。
「主演をやるはずだった先輩が、文化祭当日に家族の集まりに行くなんて……確かに、うちの文化祭は参加自由だけど……」
主演女優を行う演劇部の女先輩が、文化祭当日は家族の集まりがあるから出られなくなったと言いだしたのだ。しかも、文化祭が二週間に迫った日にいきなり言われたものだから、それまで先輩を前提に練習してきた劇の内容が宙に浮いてしまったのだ。
「……で、どうする? 誰か主演女優をやりたい子はいない?」
と、部長は言ったが、いきなり大事な役をやろうと思える気概のある女子は、中々いなかった。そもそも一ヶ月以上前から練習してモノになる役を、二週間でできるのかと言われたら、ノーと誰もが言う役だ。
誰もが口をつぐむ中、主演女優の先輩が言った。
「和香ちゃんなら、きっとできるんじゃない? だって、アタシこの間和香ちゃんが影で主演女優の台詞を練習していたの、見ていたもの。きっとできると思うわ!」
先輩がそう言ってしまったものだから、みんながみんな期待の眼差しを向けるようになり、断り切れなくてやることになってしまったのだ。
「確かに、あたしは隠れて主演のセリフとかを演技していたけど、いきなりこんな形で主演なんて……」
確かに和香は、こっそり主演女優のセリフを音読したり演技したりしていた。だが、それは遊び程度のもので、自分は多分なれないから影で……といった感じのものだった。だからこそ、いきなり主演をやらされてもどうしたら良いのかわからない。
カーブミラーで和香は自分を見てみる。するとそこには、目元を隠すような長い前髪と、ちょっとしたそばかす。明らかに地味子といった風貌の容姿の自分。こんな自分がやって本当に大丈夫なのだろうか。
しかし、なってしまったものは仕方ないと観念した和香は、どこかに演技の練習ができる場所はないかと周りを見渡す。
周りを見た先にあったのは……今はもう使われていない廃劇場だった。昔、和香はここでお芝居を見たことがあって、そこで劇をする俳優に見とれたことがあった。
その劇場を見ていると、昔あの劇場のステージに立ってお芝居をする自分の夢を思い出した。今となってはこの劇場はただの廃屋ではあるが、それでも思い出の詰まった劇場だ。
すると、鋼鉄の門が半開きになっているのに和香は気づく。それだけではなく、劇場に入る為のドアも半開きになっていた。ちょうど体を滑り込ませれば、入れそうな具合だ。そんな光景を見ていると、ちょっといけない考えが浮かんだ。
(入れるなら……ちょっと、ステージに上がって練習してみたいな……)
どうせステージに上がるのなら、せめてこの廃墟のステージに上がって練習したいという感情が、和香の中に溢れ出てきた。本当はいけないことではあるとわかっているのだが、せめてあのステージに上がりたいと思っていた。
門の隙間に体を滑り込ませ、半開きになったドアにも似たような感じで入ることができた。中に入ると、殆ど真っ暗で窓から入ってくる光しかなかった。スマホのライトで中を照らしてみると、中は廃館となった当初のままで、あちこちに埃が貯まっていて、剥がれかけたポスターなどがそこにあった。
そして、金属製の案内板を見て、ステージの方に歩いていくと、ステージの分厚い扉を開くと、そこには天井のガラスから光が差し込み、ライトのようにもなっている光景が見えた。天井のガラスはシャッターを閉じたり開いたりして、陽光を入れたりすることができる仕組みだが、廃墟となってからシャッターは開きっぱなしになっている。
「よい……しょ……」
両手をステージの端っこに手をかけ、体を持ち上げてステージの上に立つ。日の光は天井のガラスから席だけではなく、ステージにも降り注いで、まるでライトのようにもなっている。「ん……」と声を準備して、昔劇で見たことのあるセリフの一部を高らかに叫ぶ。
「どうしてそんなことを言うの? 私は貴方の為だけに歌っているのに!」
「どうか我が魂を、神様の下へとお連れください!」
和香が目一杯の演技でそう叫ぶと、誰も居ない劇場内部に声が響く。やっぱり、劇をやるために作られた建物だから、とても良い具合に声が劇場に響く。
今のどうだったかな……大丈夫かな……と思い、次の台詞を言おうとしたその瞬間。
「良い演技だね、でも……演技しているという感じが出過ぎているかな」
突然、拍手と声が聞こえてきた。とても良い声だった。低くてずっしりとした、大人の落ち着きと色気を兼ね備えたバリトンボイスだった。それを聞いて、和香は混乱する。
(こんな廃墟に、人がいる? どうして?)
「だ、誰なの!?」
「おや、驚かせてしまったようだね。今そちらへ行くよ」
舞台の袖口から、コツコツと革靴の音が聞こえてきた。そして私の目の前に現われたその人物は、とても変な人だった。その人物は真っ黒なマントを羽織って、燕尾服を着ていた。しかも黒いシルクハットを被っていて、顔はライオンのマスクで頭全てを覆っていた。そんな人が現われたものだから、和香も身構える。
「だ、誰ですか? なんでこんな所に、いるんですか?」
「そうだな、私がなぜここにいるかというと……私がここに住んでいるからさ。そして私は、便宜上『ファントム』と呼んでくれたまえ。そう、オペラ座の。なるべく顔や素性を知られては困るからね」
「なんで、そんなことを……」
「怪人とは劇場に住むものさ。警察に通報するかい? だけど、それだと君も不法侵入でいろいろ言われることになるかもしれないがね」
「う……」
妙に痛い所を突くファントムと自称する、バリトンボイスの男にちょっと気圧された和香。すると、ファントムは和香に近づく。
「それで、君は誰でなぜこんな廃墟に入ってきたのかね? ひょっとして……ステージに立ってお芝居をしたかったのかな?」
「っ……」
図星を突かれ、和香は押し黙る。すると、ファントムは「ふふっ」と笑った。
「どうやら図星のようだね? わかるさ、さっきの演技を聞いていればわかる」
「す、すいませんでした……」
「いや、良いさ。ちょっと私とお話しないかい? なあに、変なことなんかしないさ」
「ほ、本当ですか……?」
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ファントムが、電気ランプをつける。すると、明かりが辺りを照らし、楽屋に来たということがわかった。ファントムは、楽屋にあった椅子を向かい合わせにして、それに座るように促した。和香が椅子に座ると、ファントムも椅子に座り、足を組んだ。
「それで……君はなんでこんな廃墟の劇場に来たんだい?」
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「ははあ、そうことかい。だったら、この私が協力できるかもしれないな」
「ど、どういうことですか?」
「簡単なことさ、台本を見せてくれないかい?」
ファントムは和香から台本を受け取ると、パラパラとめくり台本に目を通す。
「フム……これは、オペラ座の怪人か」
「そうなんです、そのクリスティーヌ役を、私がやることになってしまって……」
「そうか、なら私は、その名の通り『ファントム』となろう」
台本を和香に返し、ファントムは椅子から立ち上がる。そして、両腕を掲げ高らかに叫んだ。
「クリスティーヌ、お前は私を愛さなければならない!」
台本に書かれていた台詞を、高らかに叫ぶファントム。いきなり叫ばれたのもあったが、和香はその言葉の威力に驚いた。まるで、オペラ座の怪人の嘆きとも愛憎とも取れる感情が、自分の耳に確かに届いたのだ。
(凄い演技力……)
和香がその言葉に圧倒されていると、ファントムは更に続ける。
「お前の魂は美しい、どれほど立派な王でも、こんなに素晴らしい贈り物はもらえないだろう、今夜は天使も涙したはずだ」
今度はクリスティーヌの素晴らしさをたたえると同時に、悲しささえも感じる台詞だった。和香は、その演技力をただただ感じるばかりで、瞬きさえもできなかった。そのセリフを言い終えると、ファントムは再び椅子に座って足を組み、仮面を和香に向けた。
「いかがだったかな? 私の演技は」
「はい……すっごく、素晴らしい演技でした……」
「私は昔、俳優みたいなこともしていたことがあってね。演技力ならそこいらのヤツには負けないと思っている」
和香はその言葉に、違和感があった。なんであんな凄い演技力をしていたのに、俳優みたいなこともしていたなんて言うのだろうかと。あの演技力ならどこも放っておかないと思うが、プロはそれほど厳しい世界なのだろうかと考える。
「そこでだ……もしよろしければ、これから私のレッスンを受けてみる気は無いかい?」
「あなたの……レッスンですか?」
「ああ。少なくとも、学校で練習するだけじゃ足りないだろうし、学園祭に間に合わせるには、個人レッスンも大事だと思うけどね」
和香はその言葉に一抹の胡散臭さを感じるも、少なくとも学校で練習するだけじゃ間に合わないだろうし、しかも主演が酷い演技をすれば演劇部の沽券にも関わる。変なことをされたら通報すれば良いと考えた和香は、少し押し黙りながら答えた。
「わかりました……あなたのレッスンを受けます。でも、変なコトしたら、それこそ警察に通報しますからね」
「ああわかった、そんな不埒な真似はしない。それじゃあ明日から、この劇場で午後五時以降に待ち合わせだ。土日は三時以降にお願いするよ。それじゃあ、明日から待っているよ」
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