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第二章 魔ノ胎動編
その名はバルザ
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怒声と同時に、空気が裂けるような殺気が辺りを包んだ。
ゼルクが先んじて獣化し、猛然と飛び出す。狼の姿のまま男たちの一人に飛びかかり、その喉笛を狙って鋭く牙を剥いた。悲鳴と血飛沫が交差し、他の男たちが慌てて武器を構える。
ライガは虎の姿で別の男に飛びかかり、爪で斬り裂いた。雷のような唸り声とともに、地面が振動する。グラドの巨体は大熊そのもので、吠え声だけで周囲の空気が震え、男たちを一歩後退させる。
カイとレイも素早く陣を整え、ルゥナの元へと向かう敵を牽制する。
ティアは素早くルゥナのもとに駆け寄り、少女を抱きかかえて後方へと退かせた。
「しっかりして、ルゥナ……!」
彼女の腕の中で、ルゥナの体が小さく震えていた。その瞳は涙で潤み、恐怖と怒りが入り混じっていた。
母を庇う父。父を守ろうとする母。そして、縛られ傷つけられる二人を前に、まだ幼いルゥナが動かずにはいられなかったのは当然だった。
だが、もう一人じゃない。
今は、ティアたちがいる。彼女を、守る者がここにいる。
「……パパ、ママ……!」
ルゥナが絞り出すように声を上げ、ティアの腕をすり抜けるようにして走り出す。戦火の中をすり抜けるように、転びそうになりながらも必死に、縛られた両親のもとへ駆け寄る。
「ルゥナ……!?ああ、ルゥナ!」
母が最初に声を上げた。頬に傷を負い、唇も切れていたが、娘の姿を見た瞬間、目に光が戻る。
「ルゥナ……!無事だったのね……!」
父も目を見開き、腕を動かそうとするが、縄に縛られて身動きが取れない。
「……ごめ……ルゥナ……できなかった……」
ルゥナはうつむき、肩を震わせながら短く言葉を繋ぐ。彼女の声はかすれ、涙がこぼれ落ちる。
「……こわかった……でも、……みんな……きた……」
母はその頭をそっと額で抱き寄せた。
「……ルゥナ、大丈夫よ。もう、大丈夫」
「……うん……」
父も微笑む。傷だらけの表情に、安堵と誇りが浮かんでいた。
「お前が……生きててくれて……それだけで、いいんだ……」
三人は再会の喜びも束の間、再び銃声と怒号に包まれる。
ティアがすぐに駆け寄って背後を守るように立ち、ルゥナの肩に手を置く。
「ルゥナ、今は……話は後で。すぐに縄を!」
ティアは短剣で両親の縄を切ろうと手を伸ばす。
そのときだった。
──戦況は、一見こちらが有利だった。
ゼルクたち三頭の獣人が正面から敵を圧倒し、カイとレイが側面から畳みかける。連携はうまく機能し、敵の数も徐々に減っていた。
だが、油断はできない。
なぜなら、獣人たちを捕らえた者が、この中にいるのだ。
「チッ、騒がしいと思ったら、妙な連中が来てやがったな……」
そのとき、広場の奥から新たな集団が姿を現す。奴隷商に雇われた賊ども。先ほどの雑兵たちとは明らかに格が違う、訓練された動きと重厚な武具をまとった兵士たちだった。
「ほう……なかなか良さそうな面構えじゃねぇか」
中でも、ひときわ目を引く存在がいた。
体躯が異常に大きな男。全身を黒鉄の鎧で覆い、肌の露出はほとんどない。異様なまでの圧力と殺気を放つその姿に、空気が一変する。
男は無言でカイに目を向けると、にやりと口元を歪めて顎を撫でた。
「てめぇら……こいつは俺の獲物だ。ちょっかい出すんじゃねぇぞ」
その言葉を最後に、男──バルザが唐突に巨大な斧を振り下ろした。
「っく──!」
カイは咄嗟に槍で受け止めるが、斧の一撃は凄まじく、そのまま吹き飛ばされて地面を転がった。
「カイ!」
ティアが声を上げる。だが、カイはゆっくりと立ち上がり、血を滲ませながらも槍を握り直す。
「手を出すなよ。こいつは、俺がやる」
その言葉に、ティアは拳を握ったまま黙って頷く。
一方、獣人たちはバルザを見た瞬間、その顔色を変えた。
「あいつは……バルザ!」
「なに!?あのバルザだと……!?」
「待て、カイ!そいつは……!」
ゼルク、ライガ、グラドが叫ぶが、その声はカイに届かない。
カイはすでに、バルザへと突っ込んでいた。
「剛雷撃ッ!!」
槍の尖端に雷光が走り、奔雷のごとき一閃がバルザへと放たれる。が、次の瞬間、雷を纏った槍がバルザの鎧に弾かれ、雷撃そのものが霧散した。
「なにっ!?」
驚愕するカイ。
その隙を突くように、バルザが唸った。
「ふん、見せてもらおうか。どこまでやれるかよ、チビ助」
その巨体が地響きを鳴らして迫る。
「そいつは、魔力をまとった攻撃を受け流す特製の鎧を着てやがるんだ!」
後方から、グラドの声が飛ぶ。
「ちっ……だから通らねぇのか」
カイが槍を握り直し、再び距離を詰めようとする。
「バルザ!」
その名を聞いた瞬間、ゼルクが低く唸った。
続けて、ライガとグラドも睨みつけるようにバルザを見据える。
「……あいつは……間違いねぇ。バルザだ……!」
その名は、三人にとって忘れられぬ過去の名だった。
旅の途中で出くわした、恐るべき賊の頭目。あのとき、仲間の獣人たちはバルザに斬り伏せられ、ある者は殺され、ある者は捕らえられた。三人を逃がすために命を賭けて──。
バルザは、亜人の中でもとくに価値の高い種族を狩ることを生業としている。捕らえた者を奴隷商に売り捌き、金に変える、冷酷な狩人だ。
そんな男が、今、目の前にいる。
「カイ!お前じゃ無理だ、あいつは──!」
ゼルクが踏み出しかけたそのとき、レイが手を伸ばして遮った。
「……手を出すな。バルザのことはカイに任せろ」
「ふざけるなっ!」
ライガが雷のような声を上げる。
「あいつは、一人でどうにかできる相手じゃねぇんだぞ!」
「あいつは自分がやると言った。カイを信じろ」
レイの静かな言葉に、三人は歯を食いしばる。
バルザが動いた。大斧を片手に、再びカイに迫る。
その瞬間。
「おいおい、ボスばっか楽しそうじゃねぇか」
不意に、周囲の建物の陰から新たな男たちが姿を現した。バルザの仲間、賊の一団だ。
「そっちのケダモノどもも、まとめて相手してやるよ」
剣を抜いた賊たちが、ゼルク、ライガ、グラド、そしてレイの元へとなだれ込んでくる。
「クソッ……!」
ゼルクが拳を握り、吠えるように叫んだ。
「だったら、てめぇらを潰すだけだッ!」
三人の獣人が再び獣化し、レイも杖を構えて前に出る。バルザとの決着はカイに託し、彼らは迫る賊の群れへと突撃した。
そして、その混乱に乗じて、もう一人の賊がティアたちの背後へと忍び寄っていた。
「……へっへ、こっちは小物からいただくぜ」
薄汚れた布をまとった細身の男が、ルゥナへと手を伸ばす。
「さあ、こっちにおいで……な?ママとパパと、また離れ離れになるのはイヤだろう?」
男の手がルゥナの細い腕をつかみ、無理やり引き寄せようとした。
「……やだ……!」
「手を、離せっ!」
ティアが叫び、短剣を抜いて一閃。
鋭い刃が男の腕をかすめ、男は驚いてルゥナから手を放し、後方へ飛び退く。
「へっへっ……やる気かよ、お姉ちゃん」
賊がニヤつきながら剣を抜く。
「この子に触れたら、容赦しない!」
ティアが前に立ち、震えるルゥナとルゥナの両親を背に庇いながら構えを取る。
戦場はさらに混沌を極めていく。
ゼルクが先んじて獣化し、猛然と飛び出す。狼の姿のまま男たちの一人に飛びかかり、その喉笛を狙って鋭く牙を剥いた。悲鳴と血飛沫が交差し、他の男たちが慌てて武器を構える。
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カイとレイも素早く陣を整え、ルゥナの元へと向かう敵を牽制する。
ティアは素早くルゥナのもとに駆け寄り、少女を抱きかかえて後方へと退かせた。
「しっかりして、ルゥナ……!」
彼女の腕の中で、ルゥナの体が小さく震えていた。その瞳は涙で潤み、恐怖と怒りが入り混じっていた。
母を庇う父。父を守ろうとする母。そして、縛られ傷つけられる二人を前に、まだ幼いルゥナが動かずにはいられなかったのは当然だった。
だが、もう一人じゃない。
今は、ティアたちがいる。彼女を、守る者がここにいる。
「……パパ、ママ……!」
ルゥナが絞り出すように声を上げ、ティアの腕をすり抜けるようにして走り出す。戦火の中をすり抜けるように、転びそうになりながらも必死に、縛られた両親のもとへ駆け寄る。
「ルゥナ……!?ああ、ルゥナ!」
母が最初に声を上げた。頬に傷を負い、唇も切れていたが、娘の姿を見た瞬間、目に光が戻る。
「ルゥナ……!無事だったのね……!」
父も目を見開き、腕を動かそうとするが、縄に縛られて身動きが取れない。
「……ごめ……ルゥナ……できなかった……」
ルゥナはうつむき、肩を震わせながら短く言葉を繋ぐ。彼女の声はかすれ、涙がこぼれ落ちる。
「……こわかった……でも、……みんな……きた……」
母はその頭をそっと額で抱き寄せた。
「……ルゥナ、大丈夫よ。もう、大丈夫」
「……うん……」
父も微笑む。傷だらけの表情に、安堵と誇りが浮かんでいた。
「お前が……生きててくれて……それだけで、いいんだ……」
三人は再会の喜びも束の間、再び銃声と怒号に包まれる。
ティアがすぐに駆け寄って背後を守るように立ち、ルゥナの肩に手を置く。
「ルゥナ、今は……話は後で。すぐに縄を!」
ティアは短剣で両親の縄を切ろうと手を伸ばす。
そのときだった。
──戦況は、一見こちらが有利だった。
ゼルクたち三頭の獣人が正面から敵を圧倒し、カイとレイが側面から畳みかける。連携はうまく機能し、敵の数も徐々に減っていた。
だが、油断はできない。
なぜなら、獣人たちを捕らえた者が、この中にいるのだ。
「チッ、騒がしいと思ったら、妙な連中が来てやがったな……」
そのとき、広場の奥から新たな集団が姿を現す。奴隷商に雇われた賊ども。先ほどの雑兵たちとは明らかに格が違う、訓練された動きと重厚な武具をまとった兵士たちだった。
「ほう……なかなか良さそうな面構えじゃねぇか」
中でも、ひときわ目を引く存在がいた。
体躯が異常に大きな男。全身を黒鉄の鎧で覆い、肌の露出はほとんどない。異様なまでの圧力と殺気を放つその姿に、空気が一変する。
男は無言でカイに目を向けると、にやりと口元を歪めて顎を撫でた。
「てめぇら……こいつは俺の獲物だ。ちょっかい出すんじゃねぇぞ」
その言葉を最後に、男──バルザが唐突に巨大な斧を振り下ろした。
「っく──!」
カイは咄嗟に槍で受け止めるが、斧の一撃は凄まじく、そのまま吹き飛ばされて地面を転がった。
「カイ!」
ティアが声を上げる。だが、カイはゆっくりと立ち上がり、血を滲ませながらも槍を握り直す。
「手を出すなよ。こいつは、俺がやる」
その言葉に、ティアは拳を握ったまま黙って頷く。
一方、獣人たちはバルザを見た瞬間、その顔色を変えた。
「あいつは……バルザ!」
「なに!?あのバルザだと……!?」
「待て、カイ!そいつは……!」
ゼルク、ライガ、グラドが叫ぶが、その声はカイに届かない。
カイはすでに、バルザへと突っ込んでいた。
「剛雷撃ッ!!」
槍の尖端に雷光が走り、奔雷のごとき一閃がバルザへと放たれる。が、次の瞬間、雷を纏った槍がバルザの鎧に弾かれ、雷撃そのものが霧散した。
「なにっ!?」
驚愕するカイ。
その隙を突くように、バルザが唸った。
「ふん、見せてもらおうか。どこまでやれるかよ、チビ助」
その巨体が地響きを鳴らして迫る。
「そいつは、魔力をまとった攻撃を受け流す特製の鎧を着てやがるんだ!」
後方から、グラドの声が飛ぶ。
「ちっ……だから通らねぇのか」
カイが槍を握り直し、再び距離を詰めようとする。
「バルザ!」
その名を聞いた瞬間、ゼルクが低く唸った。
続けて、ライガとグラドも睨みつけるようにバルザを見据える。
「……あいつは……間違いねぇ。バルザだ……!」
その名は、三人にとって忘れられぬ過去の名だった。
旅の途中で出くわした、恐るべき賊の頭目。あのとき、仲間の獣人たちはバルザに斬り伏せられ、ある者は殺され、ある者は捕らえられた。三人を逃がすために命を賭けて──。
バルザは、亜人の中でもとくに価値の高い種族を狩ることを生業としている。捕らえた者を奴隷商に売り捌き、金に変える、冷酷な狩人だ。
そんな男が、今、目の前にいる。
「カイ!お前じゃ無理だ、あいつは──!」
ゼルクが踏み出しかけたそのとき、レイが手を伸ばして遮った。
「……手を出すな。バルザのことはカイに任せろ」
「ふざけるなっ!」
ライガが雷のような声を上げる。
「あいつは、一人でどうにかできる相手じゃねぇんだぞ!」
「あいつは自分がやると言った。カイを信じろ」
レイの静かな言葉に、三人は歯を食いしばる。
バルザが動いた。大斧を片手に、再びカイに迫る。
その瞬間。
「おいおい、ボスばっか楽しそうじゃねぇか」
不意に、周囲の建物の陰から新たな男たちが姿を現した。バルザの仲間、賊の一団だ。
「そっちのケダモノどもも、まとめて相手してやるよ」
剣を抜いた賊たちが、ゼルク、ライガ、グラド、そしてレイの元へとなだれ込んでくる。
「クソッ……!」
ゼルクが拳を握り、吠えるように叫んだ。
「だったら、てめぇらを潰すだけだッ!」
三人の獣人が再び獣化し、レイも杖を構えて前に出る。バルザとの決着はカイに託し、彼らは迫る賊の群れへと突撃した。
そして、その混乱に乗じて、もう一人の賊がティアたちの背後へと忍び寄っていた。
「……へっへ、こっちは小物からいただくぜ」
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「さあ、こっちにおいで……な?ママとパパと、また離れ離れになるのはイヤだろう?」
男の手がルゥナの細い腕をつかみ、無理やり引き寄せようとした。
「……やだ……!」
「手を、離せっ!」
ティアが叫び、短剣を抜いて一閃。
鋭い刃が男の腕をかすめ、男は驚いてルゥナから手を放し、後方へ飛び退く。
「へっへっ……やる気かよ、お姉ちゃん」
賊がニヤつきながら剣を抜く。
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