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第一章
13 報告義務
しおりを挟む私は寮に帰ってすぐ、即席のフェイスベールを作った。
侍女が口元を隠すなど言語道断だが致し方ない。
そう。仕方ないんだ。
自分の身は自分で守らなくちゃだからね。
私が寮に帰って数十分後にディオン様も帰寮された。
「お帰りなさいませ」
頭を下げて出迎える。
「ああ。……何だそれは」
私の顔を見て一言。
「マスクなるものです。少しお部屋の掃除をしておりましたので埃を吸わないようにつけておりました」
少し言い訳が苦しかっただろうか。
出迎える時は外せと言われたら元も子も無いが。
内心ドキドキとしながら答えたのだが。
「ふーん…」
予想に反してディオン様は興味無さそうにそれだけ言ってプライベートルームへと向かった。
だが、ドアノブに手を掛けて彼は立ち止まる。
「口元が見えないっていうのも唆るな。隠された部分を暴きたくなる」
「っ!?」
それだけ言ってディオン様は自室に消えた。
彼の姿が見えなくなって速攻でフェイスベールを取り去った。
あれはもうただのセクハラだ。
変態!むっつりスケベ!
行き場のない憤りに内心ご乱心である。
「イケメンだからって何でも許されると思わないでよね」
ブツブツと独り言ちながらお茶の準備をする。
制服からラフ着に着替えたディオン様は部屋から出て来てソファに腰掛ける。
「ルナリア。今日から君の身の回りで起きた学園での出来事を毎日報告する事を義務付ける」
「え…?」
開いた口が塞がらないとはこの事か。
唐突な命令に唖然とする。
「従者の行動を把握するのも主人の務めだ。」
「承知致しました。では、本日のご報告からさせて頂きます」
主命とあらば背く訳にはいかない。
私は今日の出来事をディオン様にお話した。
エメの話をする時はテンションが上がってしまって、熱く語りすぎてしまった。
報告だというのに、つい、夢中でエメの話ばかりしてしまい、我に返った私は恥ずかしくなった。
だが、彼は肘掛けに頬杖を付きながらも黙って最後まで話を聞いてくれていた。
私がエメの話をした後、ディオン様に目を向けると双眸を細めて自然な笑みを浮かべていた。
その笑みがあまりにも優しいものだから、ドキドキしてしまったのは内緒の話。
「それでモラン家のご子息と帰って居たのか」
「見られていたのですか?」
「ああ。遠目にだが、お前達三人で帰っている姿を見かけた」
報告が終わりディオン様は足を組み直して言う。
ディオン様が見ていたということは、殿下も一緒に見ていた可能性がある。
まあ、もう私には関係ない事だが。
私が誰と帰ろうが、育成科の生徒となっていようが彼は一切気にしないだろう。
「これから迎えが無い時はエメとか言う者と一緒に帰れ。モラン家のご子息には俺の方からもお願いしておこう」
「え?」
ディオン様は抑揚なくそう言うと紅茶に手を付ける。
流石にそれはリシャール様にもエメにも迷惑になってしまうと断ろうとしたが先にディオン様が口を開いた。
「モラン家のご子息は理解がある方のようだからな。ルナリア、学園でも極力一人になるのは避けるんだ」
「あの…もしかして御心配して下さっているのですか?」
沈黙。
って、あああぁ。
やってしまった。
そうだとしても、主人の意志を静かに受け入れて言う通りにするのが優秀な侍女と言うものなのに。
思ったことをすぐに口に出してしまう性分を呪った。
「…お前は俺のものだからな。お前をいじめていいのは俺だけだ」
顔色一つ変えることなく彼は言った。
期待した私が馬鹿でした。
そうよね。
ディオン様は多分私の事をオモチャくらいにしか思っていないのだろう。
あれだ。
自分の物を他人に取られたくないみたいな。
そう、一人納得して侍女としての職務に戻った。
私がティーセットを交換している間、彼が眉宇を寄せて微かに溜息を吐くほど何かに思い悩んでいる等、この時私は知る由もなかった。
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