奴隷落ち予定の令嬢は公爵家に飼われました

茗裡

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第一章

23 思い出す

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七年前、パトリス殿下から


私とディオンどちらが好きかと聞かれた。



私は、どちらも好きだと答えた。



それは、LOVEではなくLIKEの方で答えたものだった。



その数日後。



私達三人は遊び疲れて池の畔で川の字になって眠った。



目を覚ました時、ディオン様の顔が目の前にあって手を繋いで眠っていた。



凄く驚いたのと、気恥ずかしくなって凄くドキドキしたのを覚えている。



手を振りほどくことも、離れることも出来なくてディオン様が起きるのを待って再び目を閉じて寝たフリをした。



そんな事があってからというもの何故かその日はずっとディオン様の顔を真面に見られなかった。



だけど、ディオン様とはその日を境に顔を合わせることが無くなった。



パトリス殿下に呼ばれる時は決まって彼もいる。


「パトリス様、本日はディオン様は来られないのですか?」
「ああ。ディオンは家の事情で今後遊べなくなったと連絡が来た」
「今日だけではなく今後もですか?」
「私も寂しいけど、家の事情なら仕方ないからな」


殿下は寂しそうにそう答えた。


彼と一緒に遊べないことが寂しかったけど、家の事情ならば仕方ないと自分に言い聞かせた。


だけど、ディオン様はパーティーや催し物で姿を見掛けて声をかけようとすると私を避けるように何処かへと行ってしまう。


私は理解した。


家の事情ではなく、単に私の事が嫌いだから顔を合わせたく無いのだと。



王家主催のガーデンパーティーで垣根の陰に隠れてひっそりと泣いた。


そこにパトリス殿下が現れた。


「ルナリア、どうしたんだ」
「パトリス様。本当の事を教えてください。ディオン様はわたくしが嫌いだからわたくしとはお会いにならなくなったのですね」
「それは…っ。な、泣くな。君には私がいる。私はずっとルナリアのそばにいるから」


殿下は私を抱き締めながらそう言った。


殿下にそう言われて嬉しいはずなのに、ディオン様に嫌われたという事実に胸の奥が内部から引き裂かれそうな程に痛くて殿下に縋って悲しくて悲しくて声を押し殺して泣いた。


この気持ちが何なのか。


何故こんなにも胸が痛いのか。


何故こんなにも、ぽっかりと穴が空いたような喪失感が襲うのか。


あの頃は分からなかった。


殿下は私が泣き止むまでずっと背中を摩って服が涙に濡れるのも気にせずに抱き締めたままでいてくれた。


それから、殿下は約束通りずっと私の傍にいてくれた。



それも長くは続かなかったが……



あの頃、本当は恋をしていたのかは分からない。



だけど、はっきりと分かるのは今の私がディオン様に向けるこの想いはLIKEではなく、LOVEの方の好きであるということ。




「ルナリア、何かいい事でもあった?」


遂に、合同授業を迎えた今日。


大講堂へと移動中にエメが私の顔を覗き込んで問う。


「え?如何して?」
「なーんか、今日生き生きしてない?今日は一段と落ち込んでるかもーって思ってたのに真逆の反応なんだもん」
「落ち込んでるって、殿下達の事でってことかな?」
「ルナリアが担当するテーブルってディオン様以外ルナリアを目の敵にしてる人達なんでしょ?大丈夫なの?」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。私にはエメとディオン様がついているから」



エメとは違うテーブルの担当になってしまったが、私には私を信じてくれる人がいるんだと思うだけで心が軽くなった。


それに、ディオン様の傍で従事出来ることが嬉しい。



殿下達に会うのは怖いけど、他にも同じテーブルに複数の育成科の生徒が付く為基本的にディオン様の専属侍女である私は彼に従事する事が最優先とされる。



合同授業だからといって普通科の生徒から声を掛けられない限りは後ろで控えているだけでいいのだ。


その上、普通科の生徒は育成科の生徒を見下している人が多い為、育成科の生徒に声をかけることは滅多にない。



「僕達もついてるから安心して」
「コームさん!」
「俺はエメと同じテーブル担当だからフォローは出来ないけどな」
「ブリス、そこは『俺も味方だ。何があってもルナリア嬢を信じてるよ。』だろ」
「ブリスとクロードもいつの間に」


後ろを振り返ると、コームさん、ブリスさん、クロードさんの三人が立っていた。


「あの、昨日はご迷惑をおかけ致しました」
「こーら、ルナリア。そこは迷惑じゃなくてありがとう、でしょ」


三人に向かって頭を下げるとエメに頭を小突かれる。



顔を上げると、エメも目の前の三人も優しい表情で私を見ていた。


「あり、がとう…ございました」
「僕達もう友達なんだから友達を助けるのは当たり前でしょ」
「エメを助けてくれたこと、俺からも礼をいう。ありがとう、これからもエメの面倒見るのは大変だろうが宜しくな」
「ちょっと、ブリス!それ、どーゆー意味よ!」
「ルナリア嬢が落ちて来た時は肝が冷えたけど、君が無事で心から良かったと思うよ」


その言葉に、心が温まるのを感じて少しウルっと来てしまった。


「みんな、本当にありがとう!」


自然と表情は綻び、心の底から御礼を述べた。


それから、私達五人は大講堂へと移動する。


普通科の生徒は昼食時からの参加となる為、大講堂にいるのは育成科の生徒達だけだ。



私達は大講堂の清掃から入った。



「ねえ、知ってる?昨日ルナリア嬢とエメ嬢に絡んでた二人のご令嬢退学になったんだって」
「え?そうなの?」


コームさんの話にエメが驚いた様子で問う。


私は昨夜ディオン様から話を聞いていたから驚きはない。


ただ、あの二人の女生徒も本当は公爵家に務める為に頑張っていて、それが今まで従事もした事ない元令嬢が努力もせずに目標の公爵家で働いてるってなったら腹が立つのも最もだろうなとは思う。



その為、その二人の退学という事実は胸に引っ掛かるものを感じた。



私が育成科に入らなければ二人は今まで通り目標に向かって頑張っていたはずなのだ。



「しかも、その二人の二親の不正も発覚していたらしくて昨日のうちに二人の家は身分剥奪されたんだって」
「「え!?」」


それは、初耳だ。


「コーム、お前本当に情報通だな。それってまだ正式に公布されたものじゃないんじゃないか?」
「コームの実家は特殊だからね。耳が早くても不思議は無いだろ」
「まあ、そうなんだけどよ。でも、こんなペラペラと喋っていいのかよ」
「大丈夫だよ。今日中には情報が広まるだろうし。それに、これはもう既に公布されている事だから話しても大丈夫なの!」
「でも、じゃあどの道あの二人は学校に居られなくなってたって事なんだね」
「そうだね~。あんな事しなければ更に汚名を被って退学する事も無かっただろうに。親は汚職に娘は殺人未遂の汚名がある家族になっちゃったね~」



これは偶然なのか。


でも、エメの言う通り昨日の事が無かったとしてもあの二人は退学になっていたのだと思うと少しばかり胸に引っかかっていたものが軽くなった気がした。



「掃除が済みましたら各自準備に移ってください」



先生の言葉に私達は掃除を終え、担当テーブルの準備に取り掛かった。



普通科は育成科から担当の生徒を指名して育成科の生徒も了承すれば、指名を受けたテーブルでの従事が許される。


ブリスさんは侯爵家以上のテーブルを担当する実力を持っているが、リシャール様からの指名を受けエメ達と同じテーブル担当となった。


クロードさんとコームさんは私と同じで殿下や側近の方達がいるテーブルの担当となった。


私達の他にも、男性が一名と女性が二名付くことになっている。


「ルナリア嬢、何だ?それは」


作業場でティーセットの用意をしているとクロードさんが私の手元を覗き込んで問う。


「これは、アイスティーを作っているんです。二度取り方式で作ることで常温保存出来ますし味の質も落ちないのですわ」
「へぇー、こんな方法は初めて見たよ。アイスティーってアイスが付くくらいだから冷たい紅茶ってことだよね?」


クロードさんとは反対側からコームさんが興味深そうに覗き込む。


この世界ではまだまだアイスティーは普及しておらず、淹れたての紅茶が一番美味しく冷めるごとに味の質が落ちるという認識が一般的だ。



「この氷は何処から手に入れたの?」
「食堂で海鮮丼を販売しているところがありましたのでそこから使っていない氷を少し分けて頂きましたの」
「でも、紅茶は冷める程に苦く味の質が落ちるものじゃないか?冷やして大丈夫なのか?」
「熱いお茶から冷めてしまったものはクリームダウンしてしまいますが、急冷することでクリームダウンを防ぐ事が出来るんですの。冷めた、ではなく冷ましたものであることが大事ですわ」


二人は私の説明に聞き入って、次はどうするのか如何して完全に氷が溶けきる前に氷を取り除いてしまうのか等、根掘り葉掘りと尋ねて来た。


「本当は常温保存した紅茶を氷を入れたグラスなどに注いで冷やして飲むのが本当のアイスティーなのですが。お出しする時は小さく砕いた氷をカップにお入れしてお出しするとアイスティーだと周囲にバレることはないんです」
「凄いね。今日帰ったら試してみよう」
「俺も試してみたいが氷は高価なんだよなぁ」
「僕もルナリア嬢が言っていた食堂の店主から氷を買い取る予定だったから、よかったらクロードも寮に帰ったら僕の部屋で一緒に試してみない?」
「いいのか?」
「試すなら早い方がいいし、折角だからブリスも呼んで試してみようよ」



二人は話を進めアイスティーについて語っているが私は一人驚いていた。


私は前世の記憶があり、何度かこの方法でアイスティーを作ったことがあったから記憶を集めて何とか思い出し二度取り方式を取り入れた。


二人はメモを取ることもなく一度の説明で全てを理解し手順も覚えてしまったというのか。



その記憶力に敬服すると同時に一流の侍女には未だ程遠い事を思い知った。
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