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第一章
22 引き裂かれた想い ディオンside
しおりを挟むルナリアと会わなくなってからというもの、俺の心にはぽっかりと穴が空いたような感覚だけが残った。
心動かされる事も少なくなり、笑顔も消えた。
それ程までにルナリアの存在は俺の中で大きなものとなっていたのだ。
数ヶ月が経ったある日。
姉のアネットが第一王子に呼ばれ登城した際、第二王子のパトリス殿下と階段でのすれ違いざまに肩が当たり落ちて頭を打ったという情報が入った。
姉さんは後頭部を縫合する程の重傷を負った。
数日高熱に魘された姉さんは一週間後に漸く目を覚ました。
この時からだった。
姉さんが変わったのは。
以前は第一王子に付き纏い高飛車で俺の事も疎んだ目で会う度に睨みつけられていたのだが、180度人が変わったようになった。
王家からの謝罪として第一王子の婚約者となる機会自ら断ったり、それ程頭が良くなったはずなのに要領良く何でも器用に熟すようになった。
十三歳になったある日。
邸内で姉さんとすれ違った際、久し振りに姉さんの方から声をかけられた。
「ディオン。貴方今でもルナリアちゃんの事が好き?」
突拍子も無い問いに久し振りに心揺さぶられる程に驚いたのを覚えている。
「な…んで、姉さんがそれを」
「第二王子に譲ったのなら貴方の出る幕はもうないわ。だけど、今でもルナリアちゃんを少しでも思う気持ちがあるならば彼女をずっと見ていなさい。無責任に彼女の未来を決めた貴方にもルナリアちゃんを幸せに導く義務があるわ」
何故、姉さんが俺の気持ちを知っているのか等という問いは姉さんの真剣な表情に掻き消えた。
姉さんの言葉に俺はある事に気付いた。
俺は無責任に彼女の未来を決めてしまった。
王子に望まれて婚約を断る事なんて出来ようはずもない。
それにルナリアの両親は彼女を王子妃にする為に教育して来ていたのだ。
彼女が望もうと望むまいと他の選択肢は無い。
その選択肢を断ち切ったのは俺とパトリス殿下だった。
「彼女が幸せになれると良いわね。子供の頃の約束なんて所詮は子供の戯言。色んな人と出会って殿下の心が変わらないとも限らないわ。それは貴方にも言えることだけれど」
「ですが、私は殿下とある事を約束しました」
「約束ってルナリアちゃんを幸せにする…とか?」
「何故それを」
「憶測よ。だけど、ルナリアちゃんと殿下を夜会で見かけたけどとてもラブラブって感じでは無かったわね。ルナリアちゃんの方は殿下に気があるみたいだけど」
ズキリと胸が傷んだのを聞いた。
俺はパトリス殿下と約束をしてからというものルナリアとは出来るだけ顔を合わせないようにしていた。
社交界やお茶会でも避けて来た。
彼女の話題も極力避けてきた俺はルナリアの現状がどうなっているのかも知らなかった。
十三歳となった俺達は貴族の令嬢令息が通う学園に入ることとなった。
姉さんからの助言を受けて俺は数年振りに彼女の姿をしっかりと見た。
数年振りにみた彼女の表情には笑みが無かった。
令嬢や令息に話し掛けられれば笑顔ではいるもののあの頃と同じ作り物のような笑顔だった。
殿下は一度もルナリアには目もくれない。
何だ、これは。
この違和感は直ぐに原因が判明した。
この頃、パトリス殿下は兄上に引け目を感じて少し素行不良であることには気付いていた。
俺も側近として何度も注意していた。
それは、俺だけではなく婚約者となったルナリアも殿下を素行を正そうと奮闘しているのは同じだった。
だが、パトリス殿下はそれが気に食わ無かったようで徐々にルナリアとの関係が噛み合わなくなったのだと直ぐに考えが行き着いた。
ルナリアの幸せ
それは彼女の表情を見る限り、見るからに程遠いものだった。
無責任に彼女の未来を奪った結果、二年後更なる絶望へと彼女を陥れた。
この二年で俺はそれとなく殿下にルナリアに目を向けるように進言はしていた。
だが、彼は天真爛漫で貴族の令嬢らしからぬ女性に入れ込み耽溺していった。
「そんなにルナリアの事が気になるなら、お前に譲ってやろうか。ディオンも昔は彼奴の事が好きだっただろう?だが、昔の彼奴はもういない。昔の彼女とは人が変わってしまったんだ。」
「お戯れを。彼女は殿下の婚約者では無いですか。私は、彼女にはまだ昔の面影が残っていると思います。殿下も今一度ルナリア嬢と話し合ってみては如何ですか」
「ふんっ、話し合ったところで口を開けば王子としての威厳だの素行を直せだの小言しか言わんことは目に見えている」
殿下と二人きりなった時に言われた言葉。
彼女が言うことも最もだ。
ここ最近更にパトリス殿下の素行は目に余るものになって来ていた。
「お言葉ですが殿下。彼女は殿下のことを思って」
「貴様はルナリアの肩を持つのか。もういい!この話は終いだ」
「殿下…。七年前、私と交わした約束を覚えておいでですか?」
「何か約束したか?」
彼は俺との約束をすっかりと忘れてしまっていた。
これで俺の心は決まった。
殿下から彼女を奪う。
ルナリアを手に入れる為俺は行動を開始する。
それを見越したようにタイミング良く、領地経営を任される程にまでなった姉さんからコンタクトが入った。
それは、これから起こることを予測したもので彼女を確実に手に入れる為の計画が詳細に書かれていた。
ルナリアがアメリー嬢を校舎裏に呼び出した日からイジメの過激さが増す事が書かれていた。
だから、あの時もルナリアがアメリー嬢に手を出す前にルナリアを助ける為に校舎裏へと向かった。
しかし、目にしたのはルナリアが気を失って倒れているところだった。
俺は肝が冷える思いがした。
彼女を失いたくない。
はっきりとそう思ったのだ。
俺の心はあの頃と変わらずルナリアに心がある。
パトリス殿下にはルナリアを渡さない。
俺は姉さんの計画に乗ることにした。
彼女を手に入れる為ならば手段を選ばない。
そして、殿下は姉さんの予測通り婚約破棄という愚行を犯した。
姉さんは既に王太子と陛下に手を回して殿下の愚行の不問とし、ルナリアとの婚約破棄を認める事を願い出ていた。
こうして、ルナリアをグラニエ家に迎え入れる事に成功したのだった。
「ディオン、分かっているわね」
「……分かってますよ。あいつの事は私が必ず幸せにします」
この機会を絶対に逃さない。
「ルナリアの目に映るのは俺だけでいい…」
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