ストロング・シンドローム

KING

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第1話「程よく最強」

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夏の厳しい日差しの中で俺【吉澤 天我(ヨシザワ テンガ)】はいつも通りの登校風景を横目に自転車を漕ぐ
自己紹介としては名前だけでも言っておけば十分だろう なんせ俺は“普通”なのだから
顔は生理的嫌悪を抱くようなブスでもなけりゃ男でも惚れちゃうようなイケメンでもないし
勉強も全科目赤点を取るようなバカでもなけりゃ100点連発するような出木杉くんでもない
友達も誰一人近寄らずクラスの片隅で寝たふりこいてるようなぼっちでもなけりゃクラスどころか全学年、他校にまで友達を多く持っているようなアイドル野郎でもない
性欲だって人並みにあるし高校2年の16歳お盛んな年頃だ そういう事の一つや二つ妄想する事だってあるし クラスメイトの女子が自分に告白してきたらどう対応するか、なんて人には言えないマヌケな妄想だってするような男でもある
趣味は読書でクラスの自己紹介で言う最も無難な部類に入る趣味を持っている 昇学祝いに最近買ってもらったCDプレイヤーでロックを聴くのがマイブームの本当にどこにでもいそうな男ってわけだ
おっと、自分で思ってたよりも自己紹介が長くなったな...
まあ、個性の強い奴ともなればもっと長くなるんだろ~な
あ~あ、『異世界転生』でもしてハーレムとか無双とかやってみて~なぁ~!
これこそ俺みたいな普通の人間に似合わない考えだ しかしまあ、自転車に乗ってる時にできる遊びなんて妄想くらいなもんだし、一緒に登校する友達なんていねぇし
「やべ、遅刻ギリギリじゃん」
そう独り言を漏らし青信号が点滅している交差点に急いで滑りこむ
真ん中まで渡ったところで赤信号に変わってしまったが もういいや、車も通ってないし信号無視しちゃえ
パンッ!
その時タイヤが破裂音と共にガクンと高さを落とした
「パン...ク!?」
しかも前後同時にだ、バランスを崩して荷台のバッグとその中身をブチまけてしまう
「あ~あ、時間に余裕がねぇってのに...」
信号無視した天罰か?
やれやれ、メンドくさいなぁ

キキキキィィィィィィ!!!!

しかし、本当の天罰が次の瞬間俺の体に襲いかかった。

                     ガシャァン!!!

そうそう、一つ言ってなかった事があったな...
俺は『異世界転生』しなくても...
「久しぶりに...やっちまったあ~」
俺はそんな ひょんな事が起こらなくても 無双できるくらいには程よく『最強』なんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「で?遅刻した理由をもう一度聞こうか?」
目の前の中年教師は俺の担任の先生だ
まだ染めずしてツヤのあるフサフサの黒髪で 英語教師らしからぬ190の身長と広い肩幅、胸筋なんかポロシャツから浮き出て見える。
つまるところそんな男が目の前でイライラした表情をしていたらメッチャ怖い
「はい...今提出した遅刻届の通り...事故りました」
俺はあの時 車に跳ねられかけた
そう、跳ねられ“かけた”のだ
あの交差点のすぐ横は急な曲がり角で事故が多発する地形になっている近道だからよくそこを通るんだが
曲がり角から曲がってきた車がクラクションを響かせ地面が削れるんじゃないかという位  めいっぱいブレーキをかけていた
その時俺は避ければよかったんだが...何を思ったか(自転車買い換えるのヤダからなぁ~)という思いに駆られてその手でバンパーを鷲掴みにして車を止めた
よく考えればその車の修理代よりも自転車を買い換える方が安く済んだはずなのに
俺はバンパー含め、車の前半分を派手にヘコませてしまった。
「そうだな...事故ったんだな」
「ええ、俺昔から手が先に出てしまうタイプでして...」
「お前の場合それはマジにシャレにならんからやめろ」
「はぁ・・・」
その後は修理の手続きやらなんやらで時間が掛かり結局登校できたのは昼を過ぎてからだった
ぶつかられそうになった俺の方が金支払わされるっておかしくないかね...
「吉澤、お前が奇病『ストロング・シンドローム』患者なのはおれも知ってるがな...流石に最近トラブルを起こしすぎだ」
「おっしゃる通りで...返す言葉もございません...」
俺は知っている限りで一番丁寧な謝り方をしながら先生を起こらせないように刺激しないようにしている
しかし、最近の事を振り返ると確かに問題児扱いされてもおかしくない なんなら、俺はヘタな犯罪者よりタチが悪い
例えば下校途中の段差で転んで電柱に頭突きしてしまいブチ折って辺りを停電にしてしまったり 
自転車が揺らいだ拍子にガードレールを掴んで根こそぎ引っこ抜いちゃったり...
それもこれも俺が患っている 世にも珍しい肉体に変化を与える病『ストロング・シンドローム』通称 最強症のせいだ
その病気は掛かったが最後、宿主の体に最強の力を与える
注射針は通らないしメスでも体は切れない
病気にかかったらどうするんだ?とも思ったがどうやらこの病気は体の免疫力だろうと強くしてしまうようで最強症かかってこのかた病気一つした事がない
俺の体内には病原体どもを瞬殺する最強の白血球軍団がウヨウヨしている そのせいでどんな投薬治療でも薬が瞬殺された
確かにいい事もあるが こんなに自分の体が扱いづらいのはみんなが思う以上にキツイ...
どんなことでも過ぎるってのは不都合な事だ、普通か少し秀でてるくらいでちょうどいいのに。
「もう4限目も終わりかけだから 急いで教室に行けよ」
「はい」
職員室をそそくさと逃げるように出て行く
午後から参加する授業程憂鬱なものはないだろう
廊下を進んで階段を登って自分の教室に入る
みんなの「あ、来たんだ」みたいな視線が痛い
教科の先生にも遅刻届を渡す
俺の扱いにまだ慣れてないその新人の若い先生は遅刻理由の欄に書かれた『突っ込んで来た車をぶっ壊してしまったため』の文字に目ん玉をひん剥いて驚いていた
その表情にちょっと笑えてしまう。
自分の席に着くと思い出した
「あ、教科書あそこにブチまけたまんまだわ...」
あ~あ、メンドくせえ
今日の晩飯何かな~...

第1話「ほどよく最強」END
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