婚約破棄の前に、ぶっ飛ばしてもいいですか?

亜綺羅もも

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「え、え……いや、ええ?」
「どうかなさいましたか? 別々の馬車に乗っているのは、ミゲイル様のお家の方に聞けばわかるはずですわよ? だって毎回目撃しているのですから」
「……そ、そんなはずは……だってミゲイル様の使用人がそう言って」
「なんだ? お前が目撃したのではないのか?」
「え、あ……」

 自分から墓穴を掘り始めるリリー様。
 リカルド様の槍のように鋭い言葉にたじろぐばかり。
 私はクスクス笑い、話を続ける。

「使用人というのは……もしかしてヴォイドのことでしょうか?」
「えっ!?」

 ギョッとし、私を見るミゲイル様とリリー様。
 さきほどまでの勝ち誇った顔はどこへやら。
 ヴォイドの正体、それはロロ。
 彼が変装をしてミゲイル様のお屋敷に忍び込んでいたのだ。
 実際何度かあの屋敷で仕事をしており、本当にそこで仕えているように思いこませていた。
 だからミゲイル様はロロを自分の使用人と認識していたといいわけだ。

 ロロはニコリと笑い、ミゲイル様たちに声をかける。

「ミゲイル様、リリー様。顔色が悪いようですが、いかがなさいましたか?」
「そ、その声……あなた!?」

 ヴォイドと同じ声で喋ったことにより、そこでようやくロロの正体に二人は気づいたようだ。
 顔はどんどん青くなり、心なしか震えているように見える。

「と言うわけで、二人が浮気をしているのは私がこの目でしっかりと確認させていただいております。言い逃れはできませんよ」
「そ、そんな……どういうことだ?」
「どういうことだと? 今回お前はルーティを裁くつもりだったようだが……その逆だ。お前たちが裁かれるために彼女たちはここにいる」

 愕然とするミゲイル様。
 怯えた様子で口を開く。

「よ、呼び出したのは僕なのに……いつの間にそんな……そ、それにこちらの浮気が分かっていたとして、なんで率直にそう言わないんだ?」
「だって、浮気をしているのですからここに来てくださいなんて言って、ミゲイル様もリリー様も素直に来てはくれませんでしょ? だから少し回りくどいですがこんな形を取らせていただきました」
「ふ、ふざけないで! こんなことして、何が楽しいのよ!」
「だって……お二人の滑稽な姿を見られるのって楽しいじゃないですか」

 私がそう言い放つと、ミゲイル様もリリー様も顔を真っ赤にしてこちらを睨んできた。
 リカルド様は二人の顔を見ておかしくなったのか、微笑を浮かべている。
 私も二人の顔を見て笑みを向け、そして宣言する。

「ミゲイル様がおっしゃったように、婚約者がいるというのに浮気をするなんて……そんな相手と一緒になることは無理です。ですので婚約破棄で構いませんが――その前に、ぶっ飛ばさせていただきます」
「え?」
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