婚約破棄の前に、ぶっ飛ばしてもいいですか?

亜綺羅もも

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「私、見ましたの。あなたがある男性といい仲になっているところを」
「そうなのですか? どこでご覧になられましたか?」
「それは……ミゲイル様のお屋敷に来たその日に」

 リリー様は勝ち誇った表情ではきはきとそう言った。
 私は腹の中では笑いながら、神妙な顔つきで彼女を見返す。

「ミゲイル様のお屋敷に行った時? そんな時に浮気なんてできるわけありませんわ……」
「普通ならそうでしょうね。でも、あなたは浮気をしていた」
「……どうやってでしょうか?」
「それは……馬車の中でよ」

 ミゲイル様とリリー様は獲物を追い詰めた猟師のような目付きで私を見据えていた。
 まさかそんなところを見られていたとは……そう考えているのだろう。
 リカルド様は目を瞑り、黙って私たちのやりとりを聞いている。
 するとリリー様はさらに追い打ちをかけるかのように口を開いた。

「心当たりはあるのでしょう? その行為には、当然その相手にも」
「それは……」
「ほらごらんなさい。そうやって戸惑っているのが何よりの証拠。何も言わないのは証言したのと同じなのよ」
「…………」

 私はロロの方を見る。
 彼はわざとらしく視線を逸らす。
 それを見たリリー様は悪魔のように口角を上げた。

「そう、あなたの浮気相手――それはそこにいる使用人よ!」
「…………」

 ミゲイル様がリカルド様の横につき、彼に言う。

「兄上……残念ですが、僕はもうルーティとやっていくことはできません。婚約者がいるというのに浮気をするなんて……そんな相手と一緒になることは無理です!」
「そうか」
「はい」

 ミゲイル様はリカルド様からこちらに視線を移し、そして怒声じみた声で私に宣言する。

「ルーティ・エドバイス! 君との婚約を破棄する!」

 私は彼に視線を返しながら、少し笑う。
 まさかこんなに私の思い通りの態度を取ってくれるとは。

「な、何を笑っているんだ……」
「いえ。少し誤解があったようなので」
「誤解? 何が誤解なのだ?」
「ロロとはそんな関係ではありませんわ。彼は私に仕えてくれているだけ。神に誓って恋仲などではありません」
「だ、だが、リリーが君との浮気現場を目撃していたのだぞ? 今更言い逃れなど――」
「浮気をしていないのに、どうやって目撃したというのですか? 証拠はあるのですか?」
「し、証拠はこの目よ! この目であなたたちが浮気をしたのをしっかり見たのだから」
「あら、そうですか。でもおかしいですわね……私たちはいつも別の馬車で移動しているというのに」
「……え?」

 私の言葉に固まるミゲイル様とリリー様。
 さぁ。そろそろ報復をさせていただきましょうか。
 この怒り、全力でぶつけさせていただきます。
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