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「エマ・ロージアン。お前は地味なんだよな。地味過ぎるって派手な俺には似合わないんだ」

 私にそう言い放つのは、カリス・エドモンド様。
 金色の髪に碧眼。
 彼の指には大きな宝石がいくつもつけられている。

 とにかく派手に。
 恰好もそうだが生活も派手なようだ。
 お金はとにかく使うためにあり、自分を喜ばすために使わなければならない。
 それがエドモンド家のモットーらしい。

 そんな派手なカリス様は私の婚約者。
 彼の父親に借金がある私の両親は、私をカリス様に差し出したというわけだ。

 顔も知らない人のところに嫁ぐなんて話も聞くし、私は両親を恨んではいない。
 むしろ侯爵家に嫁げるとなれば、男爵の娘としては嬉しいことだと思う。
 まぁ私はカリス様のことをなんとも思っていないので、嬉しいなんて気持ちは持ち合わせてないのだが……
 世間一般論としてはそうであろう。

 そんなカリス様は、エドモンド家の屋敷で私を汚物でも見るかのような視線を向けている。

「俺はお前みたいな地味な女は好みじゃない。父上が勝手にお前という婚約者を用意して……どれだけ俺が絶望したか分かっているか?」
「そのような気持ちにさせていたのですね……申し訳ございません」

 とりあえず、私は頭を下げておいた。
 彼は女性から言い返されるのがとても嫌いらしく、以前に私が彼の言うことに口を挟んだ時、何時間もグチグチ不満を言われたことがある。
 もうあんなのはごめんだ。
 だから下手に出て、相手の神経を逆なでしないようにする。

「俺みたいな派手な男には華やかな女が似あう。そうは思わないか?」
「仰る通りでございます」
「だから俺は……俺に似合う女を見つけてきたのだ」

 カリス様が指をパチンと鳴らすと、部屋に一人に女性が入ってきた。
 ウェーブのかかった青い髪に、白い瞳。
 着ているドレスはとても高そうなものであった。
 なるほど。本当に派手な女性だ。
 カリス様はこういう女性が好みだったのか。

 対する私は彼に言う通り地味。
 そこそこにドレスに赤い髪はストンとストレート。
 笑顔は苦手なので、いつも暗い顔をしている。
 まぁ彼が好む女とは正反対。
 地味で根暗な女である。

 彼女はカリス様の横につき、勝ち誇ったような顔で私を見る。

「彼女はシーナ・モントス。彼女は俺の新しい婚約者だ」
「新しい……婚約者」
「ああ。父上の許可は既にいただいている」

 カリス様は一度ニヤリと笑い、そして大きく息を吸い私に言う。

「エマ・ロージアン。お前との婚約は破棄させてもらう」
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