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「君がアリエスか?」
「はい。ユージン様」

 初めてユージン・エミュロット様とお会いした。
 彼は輝くような金色の髪に、海のように深い碧眼の持ち主。
 お顔は誰もが振り向くような美形で、私には勿体ないぐらい。
 背も高く、欠点らしい欠点が見当たらい男性。

 彼はエヴェグリーン家へと足を運び、こうして私に会いに来てくれていたのだ。
 両親は感慨深そうに私たちに視線を向けている。

 ユージン様はそんな二人の視線が気になるのか、外へ出るように私を促す。

「二人っきりで話をしないか?」
「ええ。喜んで」

 私は笑みを向け、彼の隣を歩いて庭へと出る。
 エヴェグリーン家の庭はそこそこ手入れはされてはいるが、侯爵家の物と比べれば見るに堪えないものではないのだろうか?
 だがユージン様は、そんな庭を見渡しながら笑顔を浮かべていた。

「うん。悪くない。少し小さいけれどその分隅々まで手入れが届いているように思う。いい環境で育ったんだな、君は」

 あの地獄の毎日がいい環境だとでも?
 私は口から不満が噴き出そうになるが、寸前のところで思いとどまる。

「え、ええ……両親のおかげでこの世に生まれことができました。二人には感謝しています」

 感謝しているのはその部分だけだけど。
 ユージン様は笑みを崩さず、ずっと私を見つめている。
 私は頬を染め、ユージン様と会話を続けた。

 少し緊張はするものの、ずっと私に話をしてくれている。
 気まずさを感じさせないためか、優しい口調でお話を続けるユージン様。
 私は彼の話をうんうん頷きながら聞いていた。

「……君は今まであった中のどの女性よりも美しい」
「あら。口がお上手ですのね」
「いや、俺は本気だ。君の美しさに驚いているよ。父上が綺麗だとは言っていたが……まさかここまでとは」

 そういえば、ユージン様のお父様とは一度だけお会いしたことがある。
 あれは昨年のパーティーだったはず。
 優しそうな方で、私に色々話しかけてくれたのを覚えている。

 そうか、あの時、私の値踏みをしていたのか。
 自分の息子の妻として相応しいかどうか……
 それであんなに話をしてくれていたんだ。

 私は目の前にいる美しいユージン様を見上げ、天に感謝する。
 こんな素敵な方を婚約者とめぐり合わせてくれたことを感謝します。
 これまで不幸な毎日だったけど、これからは幸福に生きていきます。
 
 不幸で幸福な私。
 願わくば、ずっと幸福が続きますように……
 
 もう一度ユージン様の綺麗な顔を見上げた。
 大丈夫だ。きっとこの方となら幸福になれる。
 この時の私は、そう信じてやまなかった
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