さようなら。悪いのは浮気をしたあなたですから

亜綺羅もも

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 ユージン様と出逢ってからはいいことばかりだ。
 両親は優しくなり、暴力を振るわれない毎日。

「…………」

 普通に考えたら普通になっただけのことなのだろうが、私から見ればまさに天国にでもいるような気分。
 両親も笑顔を崩すことなく、私に接してくる。
 少し吐き気がするが、別に構わない。
 私が家を出るまでの我慢だ。
 いやでも、これからもこんな風に二人は私に接してくるのだろうか?
 これからもこんな二人と会い続けなければいけないのだろうか?
 これからもずっと……?

「アリエス」
「え?」
「どうしたんだ? ボーっとして。ユージンのことを考えていたのか?」

 お父様が私に笑いかけながらそう訊ねてくる。
 目の奥は笑っていない。
 これからもずっとこんな風に笑うのだろうか?
 内に見える企みを隠すことなく、気持ちの悪い笑みを浮かべ続けるの?
 なんだか嫌だな……
 暴力を振るっていた頃の両親はもちろん嫌いだったが、今の両親はもっと嫌いだ。
 普通の親として私と触れ合うことはできないのだろうか。
 いや、それができたのなら、あんな扱いはされていない。
 結局のところ、この二人は自分たちのプライドが大事で、後は損得勘定しかできないのだ。

 私は諦めのため息をつき、お父様に笑みを向ける。

「ええ。またお会いしたいと考えておりました」
「そうか。なら、会いに行けばいいではないか!」
「そうよ。あなたのやりたいようにすればいいわ。会いたいと思えば会いに行きなさい」

 そんな台詞、もっと早く聞きたかった。
 子供の頃から二人の顔色ばかりを窺ってきたから、何かするのにも二人の許可が必要で……
 一人で出かけることさえもできない。
 ずっとそうやって育ってきたから、今でもビクビクしながら本当にいいのか尋ねてみる。

「ほ、本当に会いに行っていいの……?」
「もちろんだとも! お前もいい年頃の娘だ。自分の思った通りにやりなさい」

 それももっと早く聞きたかった言葉だ。
 本心ではないにしろ、これで二人の許可は得たわけだ。
 一秒だってこの家にはいたくない。
 
 ユージン様に会いたいというのもまるっきりの嘘というわけでもないし、うん、会いに行こう。

「では、行ってまいります」
「ええ。気をつけて行くのよ」

 屋敷を自分の意志で出る……
 こんなこと初めてだ。

 時間はまだ午前中。
 青い空を見上げ、私は肺一杯に空気を吸い込む。

 初めて感じる自由。
 私は解放感と共にワクワクした気分で、用意されていた馬車に乗り込む。
 馬車はユージン様の下に向かって、ゆっくりと動き出した。

 待っていて下さいませ、ユージン様。
 今あなたにお会いしにまいります。
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