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馬車に揺られている間、私は眠りについていた。
家にいる時は、ぐっすり眠ることができない。
いつでも両親に怯えていたから。
初めて何も気にせず眠った私は、とても幸せな気分だった。
こんな普通のことが幸せだなんて、やはり私は不幸なのだろう。
不幸で幸福。
これからも一生こんな人生なのかもしれない。
でもきっと、これからは幸福度の方が増していくに違いないと踏んでいる。
だってこんなにも自由なのだから。
まさか一人でユージン様に会いに行けるだなんて、とても素敵。
目を覚ますと、もうすでにユージン様のお住まいである、エミュロット邸へ到着していた。
頭がボーッとする。
深い眠りについていたからだ。
私はだらしのない顔がシャンとするまで馬車の中で時間を過ごした。
と言っても数分程度ではあるが。
「よし。行こう」
私は扉を開き、馬車を出る。
綺麗に補装された道に足を下ろし、緊張しながらも堂々とエミュロット邸へと進んで行く。
そこで私はふと妙案を思いついた。
玄関からお邪魔するのではなく、いきなり現れたらユージン様は驚いてくれるのではないだろうか?
まるで悪戯を思いついた小さな子供のような気分だ。
門番の方がいらっしゃったので、私は笑顔で彼に説明する。
すると彼は私のことを存じてくれていたようで、快く扉を開けてくれた。
我が家とは大違いの庭。
何倍もある面積に、完璧に手入れがなされた綺麗な花壇。
迷子になりそうなほどに広いが、門番の方にユージン様のお部屋は伺ったので問題はない。
彼の驚く顔、そして喜ぶ顔を想像しながら私は庭を歩く。
もうすぐだ。もうすぐ彼と会える。
そわそわした気分で手櫛で髪を整える。
顔、おかしくないかしら。
さっきまで寝ていたからヨダレついていないかな。
でも、逆に変に思われないだろうか。
突然裏から現れるだなんて……おかしな女と思われたらどうしよう。
少しばかり不安な気持ちを抱きながらも、ユージン様なら笑って向け入れてくれる。
妙な自信がいずれ勝り、私は上機嫌で彼の部屋へと向かっていた。
とうとう彼の部屋が見える。
一階の一番奥にある部屋……
中には人影が見える。
ユージン様だ。
私は笑みを浮かべてドキドキする。
ああ、喜んでくれるといいな……
一歩一歩部屋に近づいていき、彼の姿をしっかりとこの目で捉える。
「ユージン様……っ!」
彼に話しかけようとした瞬間であった。
それに気づいたのは。
なんとユージン様は、見知らぬ女性と抱き合っているではないか。
私は震える手で自分の胸当たりを押さえ、愕然としていた。
家にいる時は、ぐっすり眠ることができない。
いつでも両親に怯えていたから。
初めて何も気にせず眠った私は、とても幸せな気分だった。
こんな普通のことが幸せだなんて、やはり私は不幸なのだろう。
不幸で幸福。
これからも一生こんな人生なのかもしれない。
でもきっと、これからは幸福度の方が増していくに違いないと踏んでいる。
だってこんなにも自由なのだから。
まさか一人でユージン様に会いに行けるだなんて、とても素敵。
目を覚ますと、もうすでにユージン様のお住まいである、エミュロット邸へ到着していた。
頭がボーッとする。
深い眠りについていたからだ。
私はだらしのない顔がシャンとするまで馬車の中で時間を過ごした。
と言っても数分程度ではあるが。
「よし。行こう」
私は扉を開き、馬車を出る。
綺麗に補装された道に足を下ろし、緊張しながらも堂々とエミュロット邸へと進んで行く。
そこで私はふと妙案を思いついた。
玄関からお邪魔するのではなく、いきなり現れたらユージン様は驚いてくれるのではないだろうか?
まるで悪戯を思いついた小さな子供のような気分だ。
門番の方がいらっしゃったので、私は笑顔で彼に説明する。
すると彼は私のことを存じてくれていたようで、快く扉を開けてくれた。
我が家とは大違いの庭。
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迷子になりそうなほどに広いが、門番の方にユージン様のお部屋は伺ったので問題はない。
彼の驚く顔、そして喜ぶ顔を想像しながら私は庭を歩く。
もうすぐだ。もうすぐ彼と会える。
そわそわした気分で手櫛で髪を整える。
顔、おかしくないかしら。
さっきまで寝ていたからヨダレついていないかな。
でも、逆に変に思われないだろうか。
突然裏から現れるだなんて……おかしな女と思われたらどうしよう。
少しばかり不安な気持ちを抱きながらも、ユージン様なら笑って向け入れてくれる。
妙な自信がいずれ勝り、私は上機嫌で彼の部屋へと向かっていた。
とうとう彼の部屋が見える。
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ユージン様だ。
私は笑みを浮かべてドキドキする。
ああ、喜んでくれるといいな……
一歩一歩部屋に近づいていき、彼の姿をしっかりとこの目で捉える。
「ユージン様……っ!」
彼に話しかけようとした瞬間であった。
それに気づいたのは。
なんとユージン様は、見知らぬ女性と抱き合っているではないか。
私は震える手で自分の胸当たりを押さえ、愕然としていた。
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