さようなら。悪いのは浮気をしたあなたですから

亜綺羅もも

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 屋敷を飛び出し、グレイ様に手を引かれるままに馬車に乗り込む。
 息を切らせて、彼の胸に頭を預ける。
 もう何もいらない。
 彼がいれば何もいらない。
 家も家柄もお金も何もかも。
 グレイ様がいれば私はもう満足だ。

「グレイ様……お慕いしております」
「俺もだ、アリエス」

 優しく私の頭を撫でるグレイ様。
 それだけで心がポカポカ温かくなる。

 走り出した馬車の外から、両親とユージン様の叫び声が聞こえてきた。
 だが私たちは声の方を振り向くことなく、見つめ合う。

「アリエス。俺のことを話さなければならない」
「はい。グレイ様のことはなんでも聞きたいです。例え没落貴族であったとしても、私はあなたと一生を共にいたします」

 苦笑いするグレイ様。
 少し話しづらそうな表情をするが、いつものように穏やかな顔で私に言う。

「これから君には、大変な目に遭わせてしまうかもしれない」
「貧乏ぐらい、どうということはありません。あなたがいれば、どんな試練にだって耐えてみせます」
「……嬉しいよ、アリエス。でもそうじゃないんだ」
「?」
「貧乏とは、ありがたいことに無縁の立場でね……」
「はぁ……」

 意を決したのか、グレイ様は真剣な面持ちとなり、私を見つめる。

「俺はグレイ……グレイ・アールスター」
「……ア、アールスター?」
「ああ」
「…………」

 アールスター……
 アールスターと言えば、この国を治めている王族のことだったと記憶している……
 それ以外にアールスターなどいただろうか……
 いるわけがない。
 アールスター王国を収めるアールスター家以外にアールスターは存在しないはず。

 私の頭の中で何度も『アールスター』がこだましている。
 こだまして、混乱して。
 そしてようやく頭の中でその事実を受け入れる。

「グレイ様って……もしかして、第一王子のグレイ様ですか?」
「ああ。実はそうなんだ」

 ニッコリ笑う彼にときめきを覚えつつ、血の気が引くを感じる。
 まさか……本物の王族だったなんて……

 私は怖くなり、彼に頭を下げようとするも、体を強く抱きしめられる。

「王族に入ることにより、大変なことも多いと思う。もし嫌なら今のうちに――」
「いいえ。どんなことがあろうともグレイ様について行くと決めていますから」

 怖がった自分を叱りたい。
 この人に……この温もりに一生ついて行くと決めていたはずなのに。
 もう絶対にぶれない。
 私は本当に何があろうともグレイ様と一生を共にする。

 嬉しそうに微笑むグレイ様。
 不安など消えてしまえ。
 この人がいれば、どんな困難でも乗り越えられるはずだ。
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