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 私は彼に心惹かれていた。
 こんなことは初めてだ。
 エルダーに対しては恋心など抱いていなかった。
 ただ決められごとのようなお付き合い。
 漠然と彼と結婚するとしか考えていなかったのだ。
 だからエルダーに恋はしていなかった。

 だと言うのに。
 初めて会ったばかりだと言うのに。 
 一目見ただけと言うのに。

 こんなにも彼に心惹かれている。

「アリーヴェで間違いないね」
「あ、はい。そうでございます」

 私はハッとし、彼の質問に答える。
 顔は赤くなっていないだろうか。
 深呼吸をし、私は彼の名前を聞くことにした。

「あの……お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「僕かい? 僕はユーリ」
「ユーリ様……」

 どこかの貴族の方であろう。
 大変上等な服を着飾っている。
 誰だか知らないが、丁寧にお相手しておこう。

 するとユーリ様は私の考えを把握したのだろうか、ニコリと笑いかけゆっくりと口を開く。

「エルダー・ヴァイドルフとの婚約を破棄したらしいね。それを聞いて、僕はここにやって来たんだよ」
「何故エルダーと婚約破棄をしたからと言って、いらっしゃるんですか?」
「それはね……まだ秘密だよ」

 ユーリ様は意地悪そうな笑みを浮かべる。
 益々彼がここにいる理由が分からなくなり、私は混乱していた。

「アリーヴェ。その方は誰だ?」
「お父様……お父様のお知り合いなのでは?」
「まさか……」

 お父様はユーリを怪訝そうに見据えている。
 するとユーリ様はお父様に近づき、耳元で何やら囁く。

「……ええっ!?」

 呆然とするお父様。
 ニコニコ笑うユーリ様の顔を見て、固まってしまっていた。

「あの……お父様?」

 お父様はそそくさと私の所へ近寄って来た。
 そしてユーリ様に聞こえないように、私に耳打ちする。

「い、いいか、アリーヴェ! ユーリ様と仲良くするのだ。くれぐれも粗相のないようにな!」
「それで、あの方は……?」
「今は聞くな! いいな!」
「はぁ……」

 私が首肯すると、お父様は屋敷の方へと戻って行く。
 しかし、こちらに振り向き、大きな声で言う。

「槍の鍛錬は禁止だ! いいな!」
「え……」
「い・い・な!?」
「はぁ……」
 
 お父様は釘を刺すように、私を睨み付ける。
 ここまで練習の禁止を言うのは初めてだ。
 エルダーのことでやらかしたばかりだし、言うことを聞くしかないか。
 私はため息をつき、ユーリ様の方を見る。

 彼は眩いほどの笑みを浮かべており、私の胸がドキンと高鳴る。
 彼がどんなお方かまだ分からないが……
 見る度に心が惹かれていくのだけは、よく分かった。
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