湯けむりに咲く女

史乃あき

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湯けむりに咲く女

 溶けるようだった夏の日差しがようやく和らぎ、流れる風のなかに、ほんのわずかな冷たさが紛れはじめた頃、私は旅に出ることにした。

 思い返してみれば、私の人生はどうしようもなく平板で、自分でも呆れるほど、真面目一辺倒だった。
 学生としての務めを外すこともなく高校から大学へと順当に進み、就職活動も無事に終わった。卒業すれば地元に腰を落ち着け、国に仕える“安定”だけが約束された職場に身を置くことになる。

 おそらく、なんの波も彩りもないまま過ごしていく人生なのだろう。
 そう思ったとき、胸の奥でかすかな不安が音を立てた。

 このままで、本当にいいのか。

 そんな思いに背中を押され、いわゆる“自分探し”などという、少し気恥ずかしい名目を口実にして私はひとり旅へと踏み出したのだった。

 旅といえば北へ、という安直な発想で日本海沿いの温泉街を目指すことにした。
 特に急ぐ理由などなかったため、安価な普通列車の切符を購入した。
 道中のお供にと、パンと甘いカフェオレ、暇つぶしの小説を握りしめ、空いていた座席に腰掛ける。
 
 観光地としては名の知れた場所。本来なら特急で向かうのが普通であろう。
 それに平日の昼下がりということもあり、車内には私以外、ちらほらと人がいるだけだった。

 暇つぶしに持ってきた本もすぐに読み終えてしまい、冷え切ったカフェオレを指先で転がしながらぼんやりと車内を眺めていた。
 広い車内には片手で数えられる程度の人数しかいなかった。各々がリラックスした様子で、時間を潰している。
 その中で、理由もなく意識を向けてしまう人がいた。

 斜め前のボックス席。
 用事もないのに何度も視線を送ってしまう。

 その女性は、窓枠に気怠げに肘を預け、何かを考えるように外を流れる景色を眺めていた。
 長い黒髪が光を吸い込み、細い手首や首筋の白さが、黒と白だけの装いに際立っていた。
 ただ一つ、深く塗った紅の唇だけが、異様に艶めいて見えた。
 人の年齢はわからない、特に女性の年齢なんて私には見当もつかない。
 肌や顔立ちはどこか若く見えたが、醸し出す品のある大人な佇まいが、自分よりも年上だと思わせた。

 随分と長い間眺めてしまっていたのかもしれない。
 こちらの気配に気づいたのか、ふいに彼女の瞳がこちらへ向いた。
 
 長い髪と同じように、深く、吸い込まれそうな黒い瞳。
 その瞳と不意にぶつかった瞬間、蛇に見据えられた蛙のように、身体が固まってしまった。
 目を逸らそうとしても、できない。

 彼女は、そんな私の様子に気を止める様子もなく、ゆったりとした笑みを浮かべた。
 少しだけ余裕を含んだ、柔らかな微笑。
 そして何事もなかったように、また静かに、窓の外へ視線を戻した。

 自分のつまらなさや、薄っぺらい人生、そして女の人と肌を合わせた事がないことまで……。
 すべて見透かされたような気がして、恥ずかしさに胸の奥が重く熱くなった。

 ばつの悪さを紛らわせようと、ポケットからスマートフォンを取り出し、メッセージを確認する。
 画面には広告がいくつか表示されているだけで、ほかにはただ一通、母からの「気をつけて行ってきなさい」という短い言葉が残っていただけだった。

 その短い文を、逃げ込むように何度も読み返していると、電車が減速しだした。
 どうやら目的地に着いたらしい。

 他の乗客はすでに荷物をまとめ、さっさと降りる支度を整えている。
 私も慌てて荷物を手に取りまとめようとした拍子に、ペットボトルを転がしてしまった。
 床を転がっていくそれを追いかけると、すっと白く細い手が伸びてきて、先にそれを掴んだ。薬指に嵌まった金色の指輪が、薄い陽光にきらりと光った。手の持ち主の方へ視線を上げると、先ほどの女性が私の前に立っていた。

「ご旅行?それとも帰省かしら?」

 絹を思わせる、やわらかな声が耳の奥にすっと入ってくる。

「あ、ありがとうございます。……旅行です」

 差し出されたペットボトルを受け取り、深く頭を下げながら答える。

「学生さん?」
「はい。そうです」
「そう。いいわね。若いって」

 からかうでも、見下すでもなく、ただ穏やかにそう言って、彼女は軽やかな足取りでドアの方へ向かった。
 動きに合わせて、花の蜜のように甘い香りがふわりと漂い、鼻の奥をやさしく撫でていく。
 その優雅な後ろ姿に見入っているうちに、発車のベルが鳴り出し、私は慌てて電車を飛び降りた。

 宿は、温泉街の外れに予約してあった。
 中心から少し離れていることと、建物の古びた佇まいのおかげで、温泉付きにもかかわらず、私の財布でも手が届く値段だった。

 温泉街に来ておきながらこう言うのもどうかと思うが、知らない人と一緒に湯へ入ることには慣れていない。
 そんな私でも楽しめるよう、外湯めぐりをしなくても楽しめる宿を選んだのだ。

 街の湯殿を横目に見ながら本通りを抜け、さらに細い路地を奥へと入っていく。
 急な坂を上りきった時、地図がなければ見落としてしまいそうな質素な宿にたどり着いた。

 玄関を開けると年配の夫婦が迎えてくれた。手早く宿帳を書き、そのまま部屋へ案内される。
 
 広くはないが、掃除の行き届いた和室だった。畳の匂いがどこか懐かしい。
 荷物を置き、机の上にあった饅頭を口に放り込み、ごろんと仰向けになる。

 天井をぼんやりと眺めながらのんびりと考える。

 ——これから何をしよう。
 ——この先、どんな人生になるのだろう。
 ——自分は、いったい何がしたいのか。

 そんな問いが、波紋のように静かに広がっていった。
 気がつくと、窓の外は夕焼けに染まり、オレンジ色にやわらいでいた。
 どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 夕食を食べるにはまだ早い時間だった。
 せっかく温泉地まで来たのだから……そう思い、ひとまず先に湯へ浸かることにした。
 宿の風呂は貸切ではないが、主人の話では、今夜の宿泊客は私を含めて二組だけだという。
 この町には外湯がいくつもあるのだから、きっとほとんど貸切同然であろう。
 そう気楽に考えながら、脱衣所へ向かった。

 風呂場はこじんまりとしていた。
 三、四人も入ればいっぱいになりそうな岩風呂がひとつ。洗い場が2つ、静かに並んでいるだけだ。

 まずは丹念に体と頭を洗い、それから湯へ身を沈める。
 柔らかな湯が肌にまとわりつき、骨の芯まで、ゆっくりとほどけていく。
 硬く絞ったタオルを目にのせ、そっと瞼を閉じた。
 湯の熱と匂いと静けさを、全身で味わいながら、ただ、息を整えた。

 不意に、脱衣所のほうで人の気配がした。
 できるだけ気にしないように目を閉じていたが、ガラリ、と戸の開く音と、ペタペタと濡れた足音が近づいてくる。

「あら、先ほどぶりかしら」

 柔らかい女性の声に、思わず目線がそちらへ吸い寄せられる。
 小さなタオルでは隠しきれないほどの豊かな胸が視界に飛び込み、顔をそらす。
 その一瞬、タオルの下から、きゅっと締まった腰と、黒い陰毛の端が覗いたような気がした。

 いきなりの女性の登場に慌てふためき、頭に乗せていたタオルを湯船に落としてしまった。

「あらあら、ゆっくりしていていいですよ」
「えっ、あ……すみません。私、すぐ出ますから」

 慌てて立ち上がった。
 彼女の視線が、静かに私の下半身へ流れていく。
 あわてて手で股間を隠す。
 そんな私を、彼女はまったく気にしていない様子で洗い場の椅子に腰を下ろした。
 タオルを濡らし、石鹸を泡立てながら言う。

「大丈夫ですよ。ここはもともと混浴ですから。気にせずゆっくりなさってください」

 諭すような柔らかい声に、さっきの取り乱し方が急に恥ずかしくなる。
 そっと湯船に腰を沈め、落として濡れたタオルを固く絞って再び頭に乗せる。

 気にしない。気にしない。気にしない……。
 念仏のように、心の中で何度も繰り返した。

 水の落ちる音がして、足音がこちらへ近づいてくる。

「失礼しますね」
 そう小さく告げて、彼女は湯へ身を沈めた。

「そんなに固くならなくて大丈夫よ」
「か、固くなんて……」

「こんなおばさん見たって、楽しくないでしょ?」
「い、いえ。そんなこと……」

 彼女が少しだけ首を傾げる。

「……見たいの?」
「い、いえいえいえいえっ!」

 ふっと唇が緩み、湯気の向こうで笑った。

「ふふっ。冗談よ」
「ねえ、せっかくだし、少しお話ししましょう?」

 誘うような声に、顔を向ける。

 雪のような肌は湯に染められ、うっすらと桜色を帯びていた。胸許をさりげなく隠すように腕を組み、脚を崩して静かに腰を落ち着けている。
 マナーどおり、タオルは身につけず、湯船の縁にたたんで置かれていた。

 組まれた腕の向こう、湯船の中、脚の間に、女性としての輪郭が濃くのぞく。
 それらが、『女』としての『性』を、否応なく意識させた。
 それなのに、いやらしさは不思議と感じなかった。
 堂々とした姿勢と、どこか気品のある佇まいのせいだろうか。
 控えめではない乳房も、股間に覗く黒い茂みも、むしろ美術館のガラス越しに見る彫像のようで、艶やかでありながら、触れれば壊れてしまいそうな気配を纏っていた。

 それでも、はじめて目にする女性の肌である。
 しかも、この距離、この状況だ。
 反応するなというほうが、無理な話だった。
 胸の奥の緊張が、次第に腹の底へと降りていく。
 腹の底が熱を帯び、制御できないものが忍寄るように頭をもたげてくる。
 気づかれてはいけない。
 なのに、彼女の視線がその部分に注がれている気がして、ますます血が集まっていく。
 恥ずかしさと興奮が、ねじれたまま絡みついて離れない。

 どうにか誤魔化そうと、そっと体勢を変える。
 だが、その不自然さで、かえって悟られてしまったのだろう。

「ねえ。……そんなに気になるなら、いい方法があるわよ」

 そう言って、彼女はすっとさらに近づいてきて私の頭にのせていたタオルをそっと取りあげた。

「目隠ししてあげる。少しだけ、後ろを向いてくれる?」

 唐突な提案に、言葉が出てこない。
 うまく返事もできず、ただ口ごもりながら成り行きに身を委ねるしかなかった。

 タオルがそっと目に巻かれ、後ろで軽く結ばれていく。
 そのあいだ、彼女は穏やかな声で問いかけてきた。

「お名前は?」
「いくつ?」
「ひとり旅?」
「……彼女は?」

 私は喉を鳴らしながら、正直に答えていく。
 嘘をつこうとか、格好をつけようという考えはなぜか浮かばなかった。
 まるでテストか、面接を受けているように、自分でもおかしくなるほど、きちんとした口調で返していく。

 それが可笑しかったのだろう。
 彼女の声は次第に明るくなり、弾むような調子で、次々と質問が重ねられた。

「……そう。自分探しの旅、なのね。素敵だわ」

 結び終えた手が、そのまま私の頭をやさしく撫でる。
 湯よりもぬくもりのある指先が、そっと髪を梳いた。

「あ、あの……。お姉さんのことも、知りたいです」

 思わずこぼれた言葉に、彼女は小さく笑う。

「いいわよ、悠人くん」
「名前はね——渚。そう呼んでくれる?」

 耳もとで、囁くような声。

「年は内緒。そうね……きっと干支ひとつ分くらい、違うかしら」

 冗談めかした言い方なのに、どこか甘い含みが残る。
 それから私たちは湯気に包まれながら、渚さんのこと、私のこと……とりとめもなく、たくさんの話をした。
 ただ話しているだけなのに、下半身はいつの間にか、はっきりと勃起していた。
 目隠しで何も見えないはずなのに……いや、見えないからこそ、彼女の白い肌や、やわらかそうな胸、その先までも想像してしまう。
 そんな自分が恥ずかしくて、ばれないように何度も姿勢を変えた。私の気持ちを知っているのか、知らないのか、彼女は変わらない調子で話しかけ続ける。

 五分か十分ほどそうしていただろうか。

「ふう、楽しかった。ありがとうね。これ以上はのぼせちゃうわ」
「い、いえ。僕も楽しかったです」
「じゃあ、先に上がらせてもらうわね」
「はい」

 私の言葉にかぶせるように、ふいに頬へ手が添えられた。湯で温められた細くて柔らかな指が、頬をなでて顎へと滑る。

 そのまま唇に、やわらかい感触が触れた。
 それが彼女の唇だと理解したときには、すでに、その感触は離れてしまっていた。

「えっ——」

 驚きのあまり、視界を遮っていたタオルを思わず自分で外してしまう。

「ごめんなさい。かわいかったから、ついね。ごちそうさまでした」

 からかうように微笑みながら、彼女は湯船から立ち上がる。そして私の様子など気にも留めないまま、すたすたと脱衣所へ向かっていく。

「悠人くん、あまり長く浸かってるとふやけちゃうわ。いいところで上がりなさいね」

 彼女の後ろ姿を、湯気の向こうにぼんやりと見送ることしかできなかった。

 部屋に戻り、畳に倒れ込み天井を見つめた。さっきの出来事が、何度も頭の中で再生される。

 渚さんの絹のような声。
 湯に濡れた肌。
 四肢を伝い、ぽたぽたと落ちていく雫が、どこか艶めかしく見えた。

 唇に触れた、あの柔らかさ。
 ふと目の裏に浮かぶのは、黒く濡れた茂みの奥、想像するしかない割れ目だった。思い出すたび、思わずため息が漏れる。

 引き締まった腰。
 丸みを帯びた尻。
 胸元に溜まる柔らかな陰影。

 そのどれもが、やけに蠱惑的に思えた。

 温泉で茹だった身体は冷めることなくまだ火照りを残している。
 浴衣の奥で、さきほどから勃起したものが、どうしようもなく存在を主張していた。

 コンコン、と小さくノックの音がした。
「失礼します」
 扉の向こうから、私を呼ぶ声が聞こえる。

 むくりと起き上がり、少し乱れた浴衣、特に盛り上がってしまっていた下半身を慌てて直し、ドアを開けた。
 立っていたのは女将さんだった。

「夕食のご予定はおきまりでございますか」
「いえ、まだ何も……」

 本当は、安く済ませるためにコンビニで買うつもりだった。けれど少し恥ずかしく思い口をもごもごと動かす。

「もしよろしければ、お食事をご用意しております。いかがでしょう」
「いえ、そんな……もったいないです」

 夕食付きにすると五千円ほど高くなる。いまの私には、少し重い。

「いえいえ。実は、もう一組のお客さまから“ぜひご一緒に”と頼まれておりまして。お代のほうは結構でございます」

 その言葉で、渚さんのことが浮かぶ。

「……では、ありがたく」
 夕食よりも、もう一度会えるかもしれないという期待の方が大きく感じた。

「ええ、ええ。準備はできておりますので、いつでも食堂へどうぞ」
 そう言い残し、女将さんは静かに廊下へ消えていった。

 また失礼があってはいけない――そう思い、身支度を整える。
 浴衣の皺を伸ばし、髪を手櫛で整える。

 渚さんの顔を思い浮かべたつもりが、真っ先に蘇ったのは、あの魅惑的な四肢だった。
 自分でも情けなくなり、思わずため息が漏れる。
 頭をもたげようとする下心を、ツバと一緒に腹の奥に押し込め、食堂に向かった。

 食堂には、すでに渚さんが座っていた。
 まとめ上げられた黒髪の下、浴衣からのぞく白いうなじが、魅力的で目を引いた。

 私に気づくと彼女は微笑み、そっと手招きをした。促されるまま、向かいに腰を下ろす。
 机の上には、豪華な夕食がずらりと並んでいた。

「いいんですか?」
「いいのよ。遠慮しないで」

 そう言うと、渚さんは少し恥ずかしそうに俯いた。

「実はね、本当は人と来る予定だったの。でも急に一人になっちゃって……。キャンセルも間に合わなかったし、残すのはもったいないから」
「そうだったんですか」

 彼女は続ける。
「それより、大丈夫でした?どこかで食べる予定とかありませんでしたか?」
「いえ。正直、何も考えてなくて……。お金もあまりないので、コンビニで済ませようかなって」

「そうだったんですね。それはよかった。大丈夫、遠慮しないで、いっぱい食べてください」
「ありがとうございます」

「あ、そうだ。お酒は大丈夫ですか?少し付き合ってもらえると嬉しいんですけれど……」
「あっ……はい。少しだけなら。喜んで」

 そのあと一時間ほど、軽いお酒と美味しい料理、そして他愛ない会話を楽しんだ。
 食事はとても美味しかったと思う。
 でも、浴衣の袖口から渚さんの白い肌が見えるたびに、お風呂場の光景を思い出してしまいそれどころではなかった。
 気が付いたときには最後のデザートを食べ終わり、お開きとなった。
 たいして量は飲んではなかったが、美人との食事という雰囲気に酔ったのだろう。ふわりと頬が熱いまま、食堂をあとにした。

 部屋へ戻ると、布団が1つ敷かれていた。
 寝る前にもう一度温泉に浸かろうか。そう考えた時、渚さんのことをふわりと思い出した。
 今度は時間が被らないよう聞いておくべきか、それとも……。
 そんなことをぼんやり考えていると、ドアを叩く音がした。

 返事をして開けると、渚さんが立っていた。
 思いがけない来訪に、胸がどきりと跳ねる。

「もしよければ、もう少しだけ……晩酌、付き合ってもらえるかしら?」

 そう言って開いた鞄の中には、缶チューハイや小さな日本酒の瓶が並んでいた。

「あ、はい。……どうぞ、どうぞ」
 何も考えず部屋へ招き入れた瞬間、布団が敷いてあるのに気づき、しまったと思う。

「あら、ごめんなさい。もう寝るところだった?」
「いえ、そんな。こちらこそ……こんな部屋に上げてしまって」
「ふふ。押しかけた私も、はしたないわね」

 互いに遠慮し合っているうち、おかしくなって二人で笑い合った。
 そのままお盆を出し、布団の上に向かい合って座り、ちびりちびりと酒を口にする。

 お酒のせいか渚さんは先ほどにも増して饒舌だった。身の上話もいろいろとしてくれた。
 実は結婚していること、ここへは本当は旦那さんと来る予定だったこと。けれど、その旦那さんは仕事ばかりで、ほとんど相手をしてくれず、寂しい思いをしているのだという。
 結婚しているという事実を聞いた瞬間、胸が少しちくりと痛んだ気がした。不釣り合いだとわかっていても、想像は止められない。彼女と並んで歩く自分の姿を思い浮かべてみると、あまりにも滑稽で、本気で悲しむことすらできなかった。
 ふと視線を落としたとき、その指先に目が留まった。左手の薬指には、指輪がなかった。たしか、さっきまで指輪をしていた気がして、思わず記憶をさかのぼる。

「ねえ、聞いてます?」

 思考に気を取られていると、ずいっと、彼女の顔が近づいてきた。

 唇を尖らせ、少しだけ不機嫌そうな表情をしている。
 キスしてしまいそうなほど近い距離で、アルコールの混じった吐息が頬に触れる。その瞬間、背筋をぞくりとしたものが走った。

 ほんのりと桜色に染まった頬が、やけに色っぽく映る。
 思わず反応してしまいそうになるのを必死で堪え、視線を逸らした。

 そんな私の初心な反応が可笑しかったのだろう。
 渚さんは私の肩を掴み、体を揺らしながら、楽しそうに「ねえ、ねえ」と笑った。
 そのたびに、二つの柔らかな膨らみが触れ、揺れているのが分かる。
 浴衣の合わせから覗く肌、崩した足の隙間、ふと見える鎖骨の線……、それらすべてが私の血を煮えたぎらせ、胸の鼓動を早めた。

 男として、いや、雄としての本能が、しきりに「行け」と訴えかけてくる。
 このまま押し倒してしまおうか。そんな考えが頭をよぎる。
 よぎるだけで、意気地のない自分が、腹立たしくて仕方なかった。

 次の瞬間。

 重心が崩れた。
 布団に背中が落ちる。
 視界が回る。
 天井の木目が遠ざかる。

 上に、影が落ちてくる。

「……うっ」

 声にならない息が漏れた。
 渚さんが、覆いかぶさっていた。
 片手で私の肩を押さえ、もう一方の手が布団に沈む。逃げ場をふさぐような距離。浴衣の端がずれ落ち、柔肌が目の前に近づく。さっきまで揺れていた柔らかさが、今は重みとして伝わってくる。

 息が、近い。
 鼓動が耳元でうるさく聞こえる。
 目を合わせまいとしていたはずなのに、気づけば彼女の顔を覗き込んでいた。伏せられた睫毛の影が頬に落ち、わずかに上がった口角が、いたずらめいて見える。

「ねえ、あなた」
 耳元で囁かれた。
「泣きそうな顔してるわよ。食べちゃいたいぐらい可愛いわね」

 反論しようと口を開いた、その瞬間だった。唇が重なり、言葉を塞がれる。出かけた声は、そのまま舌で押し戻された。

 お風呂場で触れただけの、あの一瞬の口づけとは違う。
 ゆっくりと、深く、溶かすような、逃げ場のない口づけだった。

 彼女の舌が、ためらいなく私の口内へと入り込んでくる。
 唇の裏をなぞり、歯列に沿い、舌先を執拗に絡め取るように弄ぶ。蹂躙する、という言葉がふさわしいほどの熱量だった。熱を帯びた唾液が流れ込み、思わず喉が鳴る。
 求めてくるその情熱に抗うように、私も舌を伸ばし、彼女の内側を探っていく。絡み合うたび、自分の境界が曖昧になっていく。
 酎ハイの甘い柑橘の香りに、日本酒の匂いが混ざり合い、頭の奥がじわじわと痺れていった。

 どれほどそうしていたのか、時間の感覚は失われていた。
 ただ、次第に息が詰まり、肺が熱を訴え始める。息を継ぐことすら忘れて、互いを求め合っていたせいだ。苦しさに、これ以上は危ないと、本能に残ったわずかな理性が警鐘を鳴らす。

 名残を断ち切るように彼女の肩を押し、二人の距離がわずかに離れた。
 唇を離した瞬間、つうっと唾液が細い糸を引く。切れそうで切れないその一筋が、未練がましく互いを繋ぎ止めているように見えた。

 心臓が痛いほどに脈打ち、鼓動は早鐘のように跳ね上がっていた。全身を巡り始めた血の熱が、行き場を失ったまま一気に集まっていくのがわかる。そのすべてが下半身へと注ぎ込まれ、痛みを伴うほどに熱く、硬く、どうしようもなく滾っていた。

 落ち着こうとして、何度も呼吸を繰り返す。渚さんもまた、静かに深く息を整えていた。ふたりの間に満ちる空気は甘く湿った熱を帯びていた。酒と汗と、女の匂い。腐りかけの花のような蠱惑的な香りが鼻腔の奥まで絡みついて離れない。
 その官能的な空気にあてられ、どうしても彼女の唇から視線を外すことができなかった。

 もう、抑えることはできなかった。
 この瞬間を逃したら、二度と手に入らない気がした。
 渚さんの肩をぐっと掴み、今度は自分の意思で唇を重ねる。逃がすまいと腕に力を込め、そのまま体重をかけて上下を入れ替え、彼女の上に馬乗りになった。
 抵抗は、微塵もない。
 むしろ私の動きに身を委ねるように、渚さんは静かに受け入れ、腕や肩の力を抜いていく。その柔らかさと温もりが、確かな現実として掌に伝わってきた。

 覆いかぶさったまま、口づけで彼女の唇を塞ぐ。
 本能に身を委ねるように、右手を浴衣の隙間から滑り込ませ、渚さんの胸を掴んだ。
 ブラは身につけていなかったらしく、掌に伝わるのはそのままの肌の感触。柔らかさの奥で、尖った乳首の存在がはっきりとわかる。
 親指でその突起をそっと撫でながら、唇を離さずにいると、今度は彼女の手が私の股間に触れた。
 下着越しでも隠しきれないほど怒張した男根を、確かめるように、優しく指を這わせる。
 慈しむような、優しい圧迫を感じて、下腹部が痛いほどに疼いた。
 息が詰まり、喉の奥で声にならない呻きがこぼれそうになる。
 そんな私の反応を見て、渚さんはくすりと、余裕のある表情で笑った。

 そのまま重なり合った体勢のまま、彼女は器用に二人分の浴衣の帯を解いていく。
 抗う暇もなく、気づいたときには浴衣は脇へと投げ捨てられていた。

 浴衣の帯が解け、豊かな乳房があらわになった。
 白く張りのある肌が、静かな呼吸に合わせて上下する。
 湯の残り香が、柔らかな曲線にまとわりつくように漂っていた。

 唇が離れた瞬間、視線は抗えずその胸元へ落ちた。
 考えるより先に、衝動が体を動かしていた。
 顔を埋めるようにして、唇を押し当て、先端に吸いつく。

 赤子が求めるような無垢さなどない。
 ただ、いやらしく熱を帯びた欲望のままに、執拗に、強く、舌先で転がし、吸い上げた。

「……っ、あ……」

 渚さんの吐息が、耳の奥で淫らに溶けた。
 艶のある低い声が、背筋を震わせる。
 彼女の手が私の頭に伸び、指が髪を掻き分け、強く引き寄せた。

 求められるままに、誘われるままに、私は無我夢中で乳房を貪った。
 柔らかさと弾力が交互に唇に押し返し、舌に絡みつく。
 彼女の指先が、わずかに震えながらも、私の頭を離さない。
 もっと深く、もっと激しく、と命じるように。

 彼女は私の頭を抱きしめたまま、愛しむ様に手を動かした。
 私の右手をそっと掴み、そのまま導くように、なだらかな軌跡を描いて下へと誘う。
 
 胸から手が離れ、強張ったままの腰骨の線をなぞっていく。
 その軌跡を追うように指先は腹部へと降り、臍のくぼみに触れ――やがて、下着の縁に差しかかったところで、ためらうように止まった。

「……いいのよ」

 言葉にされることはなく、ただ潤みきった瞳だけが、そう訴えかけてくる。喉が鳴り、無意識に唾を飲み込んだ。

 意を決するように、私は下着の隙間へと手を滑り込ませる。
 指先に絡みつく柔らかな毛。
 その奥で、割れ目に触れた瞬間、こもった熱がじわりと伝わってきた。

 肌と布に挟まれ、逃げ場を失ったその感触。
 湿り気を帯びた体温と、生き物のような柔らかさ。

 それらすべてが混じり合い、否応なく生々しい「性」の実感として、指先に刻み込まれていく。

 茂みの奥、柔らかく湿りきった割れ目が、そこに確かにあった。
 恐る恐る指先を這わせると、ぬるりとした熱い蜜が、招き入れるかのように絡みついてくる。その感触に背中を震わせながら、指先に力を入れる。抗うような抵抗はなく、指はそのまま熱を孕んだ内側へと、すっと沈み込んだ。

「あぁ……っ……」

 渚さんの喉から、震える吐息が零れ落ちる。
 中は驚くほどに熱く、柔らかく、溢れた蜜が指を包み込み、肉壁がきゅうと収縮しながら、貪欲に指を迎え入れてくる。
 初めて触れる感触。
 嫌悪や戸惑いは一切なく、ただもっと知りたい、もっと奥へ触れたいという衝動だけが、熱を帯びて膨らんでいく。

 見たい。
 入れたい。

 その欲求が、理性の最後の縁を、じりじりと焼き切った。

「渚さん……脱がしても、いいですか……」

 欲望に押し出されるように、声が震えて漏れる。
 正解も作法もわからない。ただ、本能に突き動かされるまま、言葉にしてしまった。

 返事はなかった。
 けれど彼女は、ほんのわずかに腰を浮かせてみせる。
 その仕草は、肯定として受け取るには十分であった。

 私は一気に下着をずり下ろし、布団の上に横たわる彼女の裸身を見下ろす。

 雪のように白い肌。
 ふくよかな乳房が、呼吸に合わせてゆるやかに上下し、引き締まりながらも柔らかな腹部がかすかに震えている。
 女性らしい丸みを帯びた腰から尻へと続く曲線に息を呑む。

 それは、動画や漫画、どんな絵画で見た裸よりも、生々しく、淫らで、圧倒的に現実だった。
 年上の女性が纏う妖艶な色香に、ほのかな恥じらいが滲み、その隙間から覗く無防備さが、欲望を強く掻き立てる。

 見下ろしているだけで、心臓が壊れそうなほど脈打ち、息が荒くなる。
 したいことも、どうすればいいかも、体がすべて理解している。
 それでも、動けない。
 ただ、焼けるように硬くなったそれが、痛みを伴って主張し、彼女の視線を浴びて小刻みに震えるだけだった。

 そんな私を、渚さんは下から静かに見つめ、すっと手を伸ばしてくる。
 細い指が、そっと先に触れ、張りつめたそれを、慈しむように包み込む。

 掌の温もりが、根元から先端までを覆い、確かめるように、焦らすように上下に滑る。

「……いいの、よ」

 甘く溶けたその一言で、私の中に残っていた最後の躊躇は、跡形もなく霧散した。

 私は彼女の腰を抱き寄せ、破裂寸前まで張りつめたものを、濡れた割れ目へと押し当てた。
 先端が柔肉を割り、ぬるりとした熱が亀頭を包む。けれど、焦るあまり角度が狂い、何度も滑って逸れる。

 焦らされるようなもどかしさが、胸の内を強く掻き立てる。

「……なんで、入らない……」

 思わず漏れた声は、苛立ちと欲情が滲んでいた。
 必死に腰を押し出し、彼女の柔肉に擦りつけるように動かしても、蜜に濡れた先端はぬるりと逃げるだけ。

「大丈夫……焦らなくていいの」

 渚さんはそう囁き、私の頭を胸元へと抱き寄せる。
 指が髪に絡み、撫で下ろされるたび、張りつめていた焦燥が少しずつ解けていく。もう片方の手が下腹部へ伸び、硬く張りつめたそれを、確かめるように、やさしく包み込んだ。

 細い指が根元を支え、静かに先端を割れ目へ導く。
 ぬるりとした熱が、蜜とともに受け止め、彼女はわずかに腰を浮かせて私を、ゆっくりと内へ迎え入れていった。

「あっ……」

 吐息が、どちらのものともつかず重なり合う。
 先端が、ようやく狭い入口を押し広げ、熱くうねる内壁に呑み込まれていく。
 指で触れたときとは比べものにならない熱と柔らかさ。
 生きているかのように蠢く肉襞が、根元まで咥え込もうと貪るように絡みついてくる。

 そっと、導いていた指が離れる。
「あとは、自分で」そう告げられた気がして、誘われるまま、私は腰を進め、奥まで深く貫いた。

 満ちた熱と蜜の中で、脈打つ肉壁が、優しく、それでいて逃がさぬように包み込む。ゆっくりと、奥まで沈みきったその瞬間、渚さんの甘く震える吐息が、耳元に落ちた。

 全身が震え、息が詰まった。
 熱かった。
 想像していたものを、はるかに超える。
 煮えたぎるような熱が、根元まで絡みつき、逃がさない。

 柔らかく、ぬめり、生き物のような肉壁が、私のすべてを貪るように締め上げてくる。

「……っ、あ……!」

 意思とは無関係に、声が漏れた。もう、考える余裕はない。

 腰が、勝手に動き出す。
 最初は確かに、ゆっくりだったはずなのに。次の瞬間には、理性を振り切り、制御を失っていた。

 がむしゃらに。
 荒々しく。
 奥を抉るように、何度も腰を叩きつける。

 肌と肌が重なるたび、湿った、ねっとりとした音が静かな部屋に溶けていった。
 音が、静まり返った部屋に卑猥に響く。

 速すぎる。
 あまりにも力任せすぎている。
 わかっているのに、止められない。

「はっ……はっ……っ……」

 息が上がり、肺が痛む。
 視界が滲み、汗が目に染みる。
 それでも、腰を振ることだけはやめられなかった。

 視界の端で、彼女の乳房が大きく揺れる。
 激しい動きに合わせて、汗に濡れた肌が波打つ。
 その光景が、残っていた理性を完全に焼き切った。

 渚さんは、ただ黙って受け止めている。
 細い指が背中に食い込み、爪が少しずつ、確実に沈んでいく。
 耳元で、「……んっ……あ……いいっ」と抑えきれない吐息が、零れる。

 その声が、私をさらに狂わせた。

 もっと奥へ。
 もっと深く。
 彼女のすべてを、自分のものにしてしまいたい。

 根元まで埋め、引き抜き、また、叩きつける。

 理性はとうに消えていた。
 残っているのは、獣じみた衝動だけ。

「渚さん……っ……渚さん……!」

 名を呼びながら、泣きそうな顔で、ただ腰を振り続ける。

 もう、彼女の表情を見ることすらできない。
 ただ、熱い肉襞に包まれ、締め上げられ、溶かされていく感覚だけが、世界のすべてだった。

 限界が、急激に迫る。
 下腹部に、灼熱の塊が一気に集まる。
 尿道が痺れ、根元が痛いほどに張り詰める。

「あ……っ、出る……!出る……っ……!」

 最後の瞬間、無意識に彼女の腰を強く引き寄せ、最深部へと、思い切り突き刺した。
 脈打つたびに激しく痙攣しながら、熱い奔流が、勢いよく奥へと迸る。

 何度も。
 何度も。
 すべてを注ぎ込む。

 頭の中が、真っ白になる。
 全身の力が抜け、彼女の上へと崩れ落ちた。

 荒い息が、互いの肌に絡み合う。

 ……私は、彼女の中に、自分のすべてを、吐き出してしまっていた。

 重なり合ったまま、しばらくは指一本動かせなかった。
 胸が激しく上下し、吐き出す息は熱を帯び、汗と混じって部屋の空気を沈ませる。渚さんの鼓動が、胸越しに直接伝わってきて、まだ終わっていない余韻を刻み続けていた。

 やがて、互いの呼吸がわずかに落ちついた頃、私は名残を断ち切るように、のろのろと体を起こした。

 柔らかくなり始めたものを、ためらいながら引き抜くと、ぬるりとした感触とともに、内に溜まっていた白濁が溢れ出す。
 彼女の割れ目から零れ落ちたそれは、粘度を保ったまま、ぽたりと布団へと落ちていく。

 絡み合った体液で、陰茎はべっとりと濡れ、鈍く光っていた。
 先端からは、なおも名残を惜しむように細い糸を引き、ぽたりと、液体が静かに滴り落ちた。

 重なり合っていた熱が離れた途端、その隙間に忍び込むように、かすかな寂しさが肌寒さとなって広がった。

 視線を落とすと、渚さんの裸体がそこにあった。
 白い肌にはうっすらと汗が滲み、ついさっきまでの行為の痕跡が、生々しく残っている。乳房はまだ浅く上下し、腹部は微かに震え、太ももの内側には白濁が流れ落ちていた。
 そのすべてが部屋の薄明かりに照らされ、どこか現実から切り離されたような、美しさを帯びていた。

 ふと、渚さんの瞳と視線が重なる。
 彼女は一瞬だけ、柔らかく微笑んだように見えたが、すぐに恥ずかしそうに目を伏せる。長い睫毛が影を落とし、頬がほんのりと赤く染まる。
 その仕草が、先ほどまで余裕を崩さなかった彼女とは別人のようで、ひどく儚く映った。

 思わず息を呑み、私はそのまま、彼女の体を貪るように見つめてしまう。
 胸の先端はまだ硬く尖り、腹部の柔らかな曲線には、私の指の跡がかすかに残っている。太ももを伝う白濁の滴が、布団に小さな染みを作っていく。

 ……ゴム、つけていない。

 その事実が、遅れて胸に落ちた。
 一気に血の気が引き、頭の奥が冷たくなる。

 慌てて自分の下半身に視線を落とす。
 柔らかくなった陰茎は、彼女の体液と自分の精液でべっとりと濡れ、無防備なまま、そこにあった。避妊具など、どこにもない。

「渚さん、ごめんなさい。……僕、ゴム……つけてなくて……」

 声が、はっきりと震えていた。狼狽が胸を締めつけ、どうしよう、どうすればいい、という思考だけが頭の中を巡り始める。

 渚さんは、静かに息を吐いた。
 逸らしていた視線をゆっくり戻し、私を見上げる。
 その瞳は穏やかで、どこか包み込むように優しかった。

「……大丈夫よ。ピル、のんであるから」

 それだけだった。
 なんでもないというようなその短い言葉が、耳の奥に染み込んでくる。

 私は言葉を失う。
 安堵と、説明のつかない複雑な感情が、同時に胸を突き上げた。
 そんな私の様子を見て、渚さんはくすりと小さく笑う。そして、幼子を諭すように指先で、私の頬をそっと撫でた。
 
「そんなに慌てなくてもいいのに。……かわいいわね」

 その一言で、また顔が熱くなる。
 情けなさと、彼女の優しさが混じり合い、感情が溶けていった。

 しばらくのあいだ、言葉は要らなかった。
 ただ互いの体温を確かめるように身を寄せ、静かに呼吸のリズムを合わせているだけでよかった。
 部屋には、汗と体液が混じった甘い匂いがまだ残り、さきほどまでの行為の名残が、薄く空気に漂っている。

 ふと、渚さんが小さく身じろぎする。
 指先が、私の胸先をやさしくつついた。

「……ねえ」

 耳元で囁くような、柔らかな声。

「汗、すごいわよ。……私も、べたべたしてる」

 くすりと笑いながら、彼女は自分の首筋を指でなぞってみせる。
 確かに、先ほどの激しさのせいで、肌はしっとりと湿っていた。

「ねえ、一緒にお風呂、入らない?」

 その言葉に、胸がどきりと鳴る。
 体はまだ熱を帯びたままで、このまま一緒にいたら、また別の火が点いてしまいそうで怖い。それでも、まだ彼女と離れたくない気持ちのほうが強かった。

「え……いいんですか?」

 思わず、上ずった声が漏れる。
 渚さんは私の顔を覗き込み、いたずらっぽく目を細めた。

「いいも何も。さっきまであんなにくっついてたのに、今さら恥ずかしがること、ないでしょう?」

 そう言って、頬に軽くキスを落とされる。
 熱の余韻を感じさせる唇の感触が、胸の奥を甘く締めつけた。

「汗と……いろいろ、流したいの。あなたも、でしょ?」

 指先が、私の腹部を焦らすようになぞり下ろす。
 あまりにも自然で、あまりにも優しい仕草に、拒む理由なんて、どこにも見つからない。

「……はい。一緒に、入りましょう」

 ようやくそう答えると、渚さんは満足げに、穏やかな微笑みを浮かべた。
 彼女はゆっくりと体を起こし、私の手を取って立ち上がらせる。
 布団の上に落ちていた浴衣を、裸のまま軽く羽織り、帯を簡単に結ぶだけの無造作な姿が、妙に色っぽく感じた。

「ほら、行きましょう」

 そう言って、私の手を引き、一緒に部屋を出た。
 部屋を出て、渚さんに手を引かれるまま、静かな廊下を抜けた。
 夜の宿はひっそりとしていて、足音だけが小さく響く。
 道中、彼女の指が私の掌に絡む感触が、妙に疼く。
 脱衣所に入ると、やはり貸切だった。
 今日この宿に泊まっているのは、私と渚さんの二人だけなので、当たり前ではあるが少し嬉しく思えた。
 浴室に入るとき腰にタオルを巻くか、少し迷ったが、いまさら隠すのも女々しい気がして、そのまま入ることにした。
 軽く体を洗い、石鹸の泡を流す。
 先ほどの汗と体液の名残が、泡とともに流れていくのを見ていると、不思議な気持ちになった。
 洗い終えて湯船へ向かうと、渚さんもすでに体を洗い終えていた。
 彼女は私を見て、穏やかに微笑む。

「一緒に浸かりましょう」

 湯の縁に腰をかけ、二人でゆっくりと足を沈めた。
 熱い湯が肌を包み、余韻を再び呼び起こすように、静かに染み込んでくる。
 隣に座る渚さんの肩が、わずかに触れた。
 湯面が揺れ、温かな波が伝わってくる。
 距離は、前よりずっと近くて、息が少し乱れた。

「ねえ、そんな固くならないでよ。もう知った仲でしょ」
 渚さんの声は、煙の向こうで柔らかく響いた。
 彼女の手が、そっと私の太ももの上に置かれる。
 温かな掌の感触が、濡れた肌を伝って、じわりと広がる。思わず肩がびくりと震えた。

「はい、そうですね……ハハッ」
 笑い声が上ずってしまう。情けないと思いながらも、どうしようもない。

「そういえば、悠人くんは初めてだったのよね」
「……はい」

 言葉が喉に引っかかる。さっきの行為を思い出すだけで、熱く疼く。

「ありがとうございます。でも……うまく、できたか……」

 声が小さくなる。自分でも情けなくて、視線を落とした。

「ふふっ。大丈夫よ。気持ちよかったわよ」

 渚さんはくすりと笑い、からかうような、でも優しい調子で続ける。
 そんな私の初々しい反応が、彼女には可笑しくてたまらないらしい。湯船の中で、彼女の体がわずかに近づいてくる。
 熱い霧が二人の間を白く霞ませ、距離を曖昧に溶かしていく。
 顔が近づき、耳元で、そっと、吐息のように囁く。

「こんな立派なもの、持ってるんだから……もっと使わないともったいないわよ」

 言葉の端に甘い含みが残る。
 太ももに置かれた指先が、這うように内側へ向かい、私のものをそっとなぞる。その瞬間、下腹部に熱が集まり、さっき収まったはずのものが、再びむくむくと疼き始めた。湯の中で、隠しようのないほどに硬く張りつめていくのが、自分でもわかる。視線を逸らそうとしても、彼女の瞳が優しく、でも確実に私を捉えている。長い睫毛が湯気に濡れて光り、唇がわずかに開いて、湿った吐息を漏らした。
 
「ふふっ。若いわね」

 渚さんは目を細め、いたずらっぽく微笑むと、ゆっくりと体をずらし、湯船の淵を軽く叩いた。

 「ここに座って」

 誘われるまま腰を浮かせ、縁に腰を下ろす。
 先ほど沈めたばかりのものが、再び硬く張りつめていくのが、自分でもわかる。
 少しの恥ずかしさに内股を寄せ、もじもじと体を縮こまらせてしまうと、彼女はくすりと笑い、柔らかな力で私の手をどかし、股をゆっくりと広げていく。
 湯面が小さく波立ち、白い肩と胸の膨らみが、揺れに合わせて優しく揺れる。
 私は息を詰め、ただそれを見つめ、抵抗することなく受け入れることしかできない。
 彼女の手が、ゆっくりと陰茎をなでる。
 硬く張りつめたそれが、湯の温もりと彼女の指先に包まれる。
 這うような感触が根元から先端までを優しく撫で上げ、思わず腰が浮きそうになる。

 「うっ……」

 声にならない吐息が漏れる。
 渚さんが竿の先を優しく撫で、その先端に熱い吐息をそっと当ててきた。
 その一瞬で、全身の血が一気に集まるような感覚が走った。
 そして彼女の唇が、ゆっくりと硬く怒張した先端に触れる。
 柔らかく、湿った感触が、先端を優しく包み込む。
 そして舌先が、ためらいなく、しかし丁寧に絡みつき、ぬめるような感触が広がっていく。
 彼女の口内のとろけるような熱さが、頭の奥を鈍く痺れさせる。
 彼女は私の反応を楽しみながら、ゆっくりと、深く、私のものを咥え込んでいく。
 喉の奥まで迎え入れるような動きに、思わず腰が震える。
 
 じゅる……、くちゅ……。

 二人きりの静かな空間に、求め合う音だけが響く。
 音に合わせるように彼女の舌が絡みつき、吸い上げられるたび、抑えられない感覚に湯面を小さく波立たせる。
 
「な、渚さん……」

 先ほどの行為とも違う、文字どおり呑み込まれる様な、耐えることのできない快感に腰が浮こうとする。
 そんな私を静止するように、彼女の手が私の腰に回り、逃がさないように引き寄せながら、ゆっくりと頭を前後に動かし始めた。
 唇が根元近くまで滑り落ち、喉の奥で軽く締めつけるように動く。
 時折、唇を離して先端を舌で転がす仕草が、いたずらめいて、でもどこか慈しむようで、胸の奥を強く締めつける。
 
「んっ……ふ……」

 彼女の喉から漏れる小さな吐息が、直接肌に伝わってくる。
 その振動までもが腹底まで響き、限界が急激に近づくのを感じた。

「渚さん……っ、もう……」

 声が震えた。
 彼女は一瞬だけ目を上げ、私の顔を覗き込む。
 濡れた黒髪が額に張り付くのを、口を離さずに手でかき上げる。
 潤んだ瞳に、満足げな、淫靡な光が宿っていた。

 そのまま、動きを少し速め、深く、強く、包み込んでくる。
 舌が先端を執拗に舐め回し、唇で根元を締めつける。
 尿道が痺れるように熱くなり、下腹部が収縮する。
 耐えきれず、腰が勝手に震え、熱いものが一気に迸る。

「あ……っ、で、出る……!」

 全身が痙攣し、彼女の口内にすべてを吐き出した。

 陰茎がドクドクと脈打つたびに、彼女の喉が小さく動き、その全てが飲み込まれていく。
 湯の熱さと、彼女の口内の熱さが混じり合い、余韻を長く、ねっとりと引き延ばす。
 やがて、力が抜け、湯船の縁に寄りかかるように体を預けた。

 渚さんは最後の一滴まですするように吸い出し、ゆっくりと唇を離した。
 引き抜かれた私のものは、役目を終えて柔らかく萎え、彼女の唾液に濡れたまま空気にさらされる。口内の熱から解放された途端、ひんやりとした空気が肌を撫で、ほのかな心地よさが残った。

 何か言わなければと思い、しかしうまく言葉にできずに彼女を眺めていると目があってしまった。彼女は少し伏し目をしながら手で口元をそっと隠し、名残を拭うように唇をなぞる。その仕草がどこか恥じらいがあるがそれがまた艶美に思え、収まったはずの私の熱が、再び染みるようにひろがっていくように感じた。

「ふふ……。のぼせちゃいそう」

 囁く声は、からかうようで、でもどこか甘い。
 私はただ、頷くことしかできなかった。
 湯煙が、二人の間をゆっくりと立ち上る。

 私の息が整った頃合いをみて、渚さんが先に立ち上がった。
 肌が雫を弾き、ゆっくりと滴り落ちる。
 その一粒一粒が、照明の薄い光にきらめいて、まるで小さな宝石のようだった。

 「のぼせてしまう前に、上がった方がいいわね」

 彼女の穏やかな微笑みに、私は慌てて頷き、湯船の縁に手をついて体を起こした。
 下半身のものは小さく柔らかくなったものの、腹の奥にまだ熱がくすぶっている。
 立ち上がるだけで、湯面が小さく波立ち、名残の雫が先端を伝って落ちていく。

 渚さんはすでに脱衣所で身支度を始めていた。
 鏡の前に座り、濡れた髪を指で軽く梳いている。
 私はあわてて体を拭き、浴衣を羽織って帯を結ぶ。
 布がまだ火照った肌に触れるたび、熱が再び体を巡るような感覚がした。
 鏡越しに彼女の姿を何度も見てしまう。
 濡れた黒髪、艶やかな唇、浴衣の隙間からのぞく火照った体——その全てが気になって仕方がない。
 ふと、胸の奥で何かが疼き始めた。
 彼女の肌を、唇を、すべてを貪り尽くしたいという、抑えきれない獣じみた衝動が込み上げてくる。
 理性で必死に蓋をしようとするのに、視線はまた彼女に戻ってしまう。
 そんな視線に気づいたのか、渚さんが鏡越しに私の顔を見て小さく笑った。

「ふふ。すごい顔してるわよ」

 その一言に耳まで熱っぽくなるのを感じて、慌てて視線を戻し身支度を整えた。

 脱衣所を後にし、手を繋いで部屋に戻ると乱れた布団が、生々しい行為の余韻をそのまま残していた。
 汗と体液の甘い匂いが、うっすらと空気に溶けている気さえした。
 窓の外はすでに真っ暗で、静けさがまるで私たち二人だけを世界から切り取ったように錯覚させる。

 渚さんは自然に布団の端に腰を下ろし、私を手招きした。
 促されるまま隣に座ると、彼女の肩がそっと寄りかかってきた。
 浴衣越しに伝わる肌の熱が、湯の余韻を宿したまま伝わってくる。

「ねえ。まだ、もう少し……あなたに、溺れていたいの」

 耳元で溶けるような声。
 その言葉の端に、淫靡な欲が滲み、胸の奥の熱が一気に再燃した。
 私は言葉を探して、ただ頷くことしかできない。
 このまま触れ合っていたら、もう抑えきれなくなってしまいそうで、少し怖い。
 いや、もう抑えられない欲情が下半身に流れていき、すでに二度果てたことなど忘れたように硬く熱く張りつめていく。
 彼女の隣にいるこの時間が、愛おしくてたまらない。
 彼女の全てを自分のものにしたい。
 汚し、犯し尽くしたい。
 その澱んだ熱い欲望を自然に受け入れ、私は彼女の手をそっと取り、指を絡めた。
 左手の薬指を、確かめるように親指でなぞる。湯に浸かった後でも指輪の跡がわかった。
 その凹みをなぞる指先に、渚さんの瞳がわずかに揺れ、その奥に私を求める淫欲が確かに宿っているのを感じた。
 もう、我慢できなかった。

 私は覆い被さるように、彼女の口を貪り始めた。唇を強く押しつけ、舌を滑り込ませ、思うがままに絡め取る。少し強引ではあったが、渚さんは抵抗するどころか、柔らかく受け入れ、私の動きに合わせて舌を絡めてきた。その応えが、さらに私の情熱を燃え上がらせる。
 細い指が、私の掌に絡みつき、優しく沈み込む。その温かな感触だけで、下腹部が再び疼き、硬く張りつめていくのを感じた。

「もう、こんなに元気なのね」

 その言葉に、恥ずかしさが胸の奥を刺したが、私は視線を逸らさなかった。
 返事もろくにせずに、代わりに彼女の秘部へ指を滑り込ませる。
 すでに熱く、濡れていたそこは、抵抗なく指を迎え入れ、柔らかく沈み込ませてくる。

「あっ……。……はずかしいわ」

 ポツリと呟くその姿が、とても愛おしかった。
 渚さんの頬がほのかに染まり、長い睫毛が震える。
 私は指をゆっくりと動かしながら、彼女の耳元で囁いた。

「いけない人だ、僕をこんなにさせて。……責任取ってください」
「ええ……ええ、そうね。どうかもっと激しくして。淫らな私を、おしおきして」

 ねだるような甘い声が、耳奥をくすぐる。
 その声に、胸の奥が疼き、わずかに残っていた理性は湯煙のように消えた。

 指をゆっくりと動かす。
 膣の上側を、強く押し込むように撫で上げると、熱い蜜がくちゅくちゅと音を立てて溢れ出す。指先は沈むように呑み込まれ、細かなひだが絡みつくように蠢き、収縮を繰り返す。ぬめり、熱さ、締めつける感触が指の節々まで鮮やかに伝わり、背筋をぞくりと震わせる。

「んっ……」

 渚さんの吐息が、乱れ始める。
 指を深く沈め、強く押し込むたび、彼女の腰が小さく跳ね、布団の皺が深く刻まれる。内側は、指を迎え入れるたびに強く締めつけ、熱い蜜をさらに溢れさせる。膣襞が指に絡みつき、収縮するたびに、熱い波が私の指を締めつけ、彼女の体を震わせる。
 渚さんの腰が、無意識に私の指を迎え入れるように持ち上がり、布団に爪が食い込む音が小さく響いた。
 部屋には誘うような雌の匂いが、濃く立ち込めて、息苦しいほどに淫靡な空気を満たしていく。

 求められるまま指の動きを速め、奥を執拗に探るように押し込む。

「あっ、いい……」

 渚さんの喉から、抑えきれない喘ぎが漏れ始めた。
 声は最初こそ小さく震えていたが、次第に甘く乱れ、部屋の静けさを破る。
 乱れていく顔さえ、息をのむほどに美しかった。
 彼女の頬は赤く染まり、長い睫毛が濡れて張りつき、恥じらいが表情に浮かぶ。
 目が合うと、恥じらうように手で顔を隠した。
 そのいじらしい姿があまりにも愛おしくて、私は彼女の顔を隠そうとする手をそっとどかした。

「顔、隠さないでください」

 渚さんは一瞬、視線を逸らそうとしたが、私の指に導かれるまま顔を上げた。
 その瞳は潤み、唇がわずかに開いて吐息を漏らす。
 掴んだ左手は何かを掴むように空を掻く。薬指の凹みが薄明かりに浮かび上がる。
 私はその凹みを指でなぞり、ゆっくりと口に寄せた。そして歯を立て、柔らかい肌に小さな痕を残す。
 渚さんの体がびくりと震え、喉から小さく「いたい……」と声が零れた。

 謝罪の言葉は発しない。
 ただ、無言でその跡に、何度も、執拗に歯形を重ねつけていく。
 指輪の跡が示す背徳を、静かに、しかし確実に咎めるように。
 その行為自体が、罪を味わうように甘く、脳を焦がす程の快感となり全身に染み込んでいく。
 渚さんは抵抗も拒絶もしなかった。瞳がわずかに揺れ、私を見つめる視線に、恥じらいと諦めと、微かな悦びが混じっていた。

 このまま、彼女の全てを自分のものにしたい。
 汚し、犯し尽くしたい黒い衝動が、抑えきれずに体を震わせる。
 もう私の肉棒は痛いほどに張りつめ、強く脈打っていた。

 私の雄としての昂りを、抑えきれない衝動を感じたのだろう。
 渚さんは優しく一度だけ唇を重ね、ゆっくりと体を起こそうとする。
 私はそれを助けながらも、唇を離すことができず、彼女は抵抗なく受け入れ、起き上がりながら私の首に腕を回した。

 座り抱き合ったまま、互いの息が混じり合う。
 彼女の指先が、私の背中を優しくなぞり下ろし、腰のあたりで止まった。
 小さく体をずらし、私の胸を軽く押して距離を取ると、迷いのない動きでそのまま体を反転させた。四つん這いになる仕草は、あまりにも自然で、何度も繰り返してきたかのように滑らかだった。

 浴衣は肩から滑り落ち、白い背中が露わになる。
 腰のくびれから尻へと流れる豊かな曲線が、薄明かりに艶めいて、息をのむほどに淫らだった。

 彼女は何も言わなかった。
 ただ、腰をわずかに持ち上げ、背中を軽く反らせるだけ。
 
 入れてほしい。
 犯してほしい。

 その無言の欲望が、渚さんの仕草から、言葉を交わさずともはっきりと伝わってきた。
 私はたしかに、全身でそれを感じた。
 ここで遠慮したら、きっと一生後悔すると思った。
 
 私は膝立ちになり、後ろから彼女の腰に両手を置く。
 指先が柔肉に沈み込み、思っていた以上の肉感に生々しい性を感じる。
 私は息を詰め、腰のくびれを確かめるように指を這わせ、ゆっくりと引き寄せた。
 渚さんの腰が、私の手に委ねられるように軽く浮く。
 指先は腰から尻に向かう。
 豊かな尻の丸みが掌に収まり、柔らかさと弾力が同時に伝わってきた。
 そのまま硬くなった私の先端をそっと彼女の割れ目の中心に当てる。
 彼女の体がびくりと小さく震え、背中がさらに反った。
 無言のまま、腰をわずかに押し戻すような仕草が、私の欲情を煽った。

「渚さん。……いれます」

 名前を呼ぶ声が、震えていた。
 彼女は振り返らず、ただ喉の奥からねだるような小さな吐息を漏らすだけ。
 私は掴んだ尻を強く引き寄せ、硬く張りつめた先端を、濡れそぼった割れ目にそっと押し当てる。ぬるりと滑る感触が、先端を熱く包み込む。

「……あ、ああ」

 渚さんの腰が、小さく誘うように震えた。

「…もっと。奥まで、……来て」

 ねだるような囁く声に、淫らに溶けた震えが混じる。
 私は息を詰め、腰をゆっくりと沈めた。
 狭い入口を押し広げ、蠢く内側に根元まで呑み込まれていく。
 煮えたぎるような肉壁が、きゅうっと締めつけ、生き物のように私を貪り始める。
 背筋が震え、喉の奥から思わず低い呻きが漏れた。

「あ……っ、深い……」

 渚さんの喉から、蜜のような吐息が零れる。
 私は両手で腰を引き寄せ、奥深くまで突き入れる。
 一度、二度。
 ゆっくりとしたリズムで、彼女の内側を探るように腰を動かす。
 肉のひだが指で触れたとき以上に熱く、ぬめり、絡みついてくる。
 引き抜くたび、蜜が溢れ、糸を引いて光り、ゆっくりと重たく垂れ落ちる。

 だが、すぐに理性が溶け始めた。
 腰が勝手に速度を増し、肌と肌がぶつかる音が部屋に響き渡る。

 ぱんっ、ぱんっ……。

 動きに合わせて、渚さんの白い肌が波打つ。
 次第に大きくなる喘ぐ声に、肌を打つリズムがさらに加速する。
 もっと早く、もっと奥に、もっと……。
 彼女を犯し、支配する悦びに男としての優越感を覚えた。
 私は前かがみになり、彼女の背中に覆い被さるように体重をかける。
 耳元に唇を寄せ、熱い息を吹きかけながら囁く。

「渚さん……渚さん……、これ……」

 左手でその柔らかな膨らみを強く掴み、親指でぐっと押し込む。
 渚さんの体がびくりと大きく跳ね、内側がきゅうっと締まりついた。
 その強烈な収縮に、背徳めいた甘い疼きが胸の奥まで突き刺さり、思わず息が漏れる。
 私は衝動のまま腰をさらに激しく打ちつけ、膣奥を何度も、何度も深く貫いた。

「あっ……そこ……もっと……ああっ……そこ……気持ちいい……」

 抑えきれない喘ぎが、押しつけた枕の奥から滲み出る。
 渚さんの腰が無意識に私を迎え入れるように高く持ち上がり、細い指の爪が布団をぎしりと掻きむしった。

 私は彼女の長い黒髪を優しく掴み、首筋へ唇を這わせる。
 熱を帯びた肌に口づけを落としながら、奥を抉り取るように腰を突き上げた。
 
 一度深く沈め、引き抜く間もなく、根元まで叩きつける。
 そのたびに彼女の内側が生き物のように蠢き、ぬめりをまとった肉壁が執拗に絡みつき、決して離そうとしない。
 汗と蜜が混じり合い、太ももを伝ってとろりと流れ落ちる。
 湿った水音が、二人きりの部屋の空気をいやらしく震わせていた。
 
「もっと……あっ、激しく、して……悠人く……っん」

 渚さんは私の名を呼び、懇願するように小さく震えていた。
 その一言が胸の奥深くに突き刺さり、これまで押し込めていた衝動が、ついに形を持って溢れ出す。
 戸惑いながらも身を委ねていたはずの私は、いつの間にか主導権を握り、彼女を満たす術を知った雄として、はっきりとそこに立っていた。
 腰の動きはさらに荒々しさを増し、打ちつけるたびに、部屋に響く湿った音がいっそう激しく、淫靡に重なっていく。

 ぱんっ、ぱんっ、ぐちゅっ、ずぷっ……。

 彼女の背中が弓なりにしなり、白い肌はみるみる紅潮し、細かな汗が弾けるように飛び散る。
 私はその腰を両手で強く掴み、逃がさぬよう引き寄せながら、彼女を支配するように緩急をつけて、何度も奥深くまで突き上げた。
 速く、激しく打ち込み、次の瞬間にはわずかに動きを緩め、反応を確かめる。
 そして再び、容赦なく叩き込む。
 その繰り返しが、彼女の体を確実に震わせ、私自身の昂りをさらに煽り立てていく。

 息もするのも忘れ、夢中に腰を振った。
 限界が、急速に近づいてくる。
 腹の奥に灼けつくような熱が凝縮し、尿道の奥まで痺れるほどの衝動が込み上げる。

「あ……出る……っ、渚さん……!でっ……!」

 最後に強く腰を引き寄せ、最深部へと思い切り突き刺した。
 脈打つたびに、熱い奔流が勢いよく迸る。
 何度も、何度も、彼女の奥底へと注ぎ込む。
 渚さんの体がびくりびくりと激しく震え、喉から甘く長い、ほとんど泣き声のような吐息が零れた。

「あぁ……っ……熱い……、いっ……ん」

 私の射精に合わせるように、膣内がびくりと大きく収縮した。
 獲物を逃すまいとするかのように激しく蠢き、執拗に絡みつきながら、最後の一滴まで搾り取ろうとする。
 尿道の奥に残っていたものまで吸い上げられていくような感覚が、全身を震わせた。

 力が一気に抜ける。
 私はそのまま彼女の背中へ覆いかぶさるように倒れ込み、深く繋がったまま体を預けた。
 腰はまだ彼女の内側に収まったまま、ぬくもりと柔らかさに包まれて動けない。

 彼女の体もまた、支えを失ったように前へ崩れ、私に押される形で、二人の体は重なるように布団の上へ沈み込んでいく。
 絡み合ったままの下半身から、じんわりとした熱が伝わり続けていた。

 荒い息が背中越しに重なり、互いの胸が大きく上下するたび、汗ばんだ肌が触れ合う。
 汗と体液が混じり合い、部屋の空気にはしっとりした重たい匂いが満ちていった。

 しばらくのあいだ、誰も動けない。
 ただ深く繋がったまま、互いの鼓動だけが、静かな部屋の中で確かに響いていた。

 やがて、私はゆっくりと体を起こし、まだ熱を帯びたままの肉体を彼女のなかから引き抜いた。その瞬間、白濁の液が溢れ出し、三度目とは思えないほど豊かな量が布団に染みを作った。汗が、薄明かりの下で淡くきらめき、二人の行為の痕跡を静かに浮かび上がらせる。

 渚さんの薬指には、私の歯形が赤く腫れ、背徳の証のように残っていた。私はそっと彼女の腰を抱き寄せ、横に倒すようにして布団に寝かせた。彼女は抵抗することなく身を預け、私の胸に頬を寄せてくる。その柔らかい感触が、私の心を優しく包み込んだ。

 互いの肌が触れ合うだけで、湯の名残のような熱が再びじわりと広がる。彼女の体温と私の体温が混ざり合い、甘い余韻が部屋を満たしていく。渚さんの髪から漂う香りが、鼻腔をくすぐり、彼女の存在を強く感じさせた。

「ごめんなさい……」

 息を整えながら、私は小さく謝った。

「なんで謝るの?よかったわよ」

 渚さんは柔らかく微笑み、私の頬を指先でそっと撫でた。

「……強引で、乱暴だったから」
「いいのよ。私が誘ったのだし」

 彼女の声は優しく、まるで甘える子を宥めるような響きだった。
 それでも、私は胸の奥がざわついて仕方なかった。
 さっきまで激しく交わっていた彼女の体温や、甘く乱れた吐息を思い出しながら、言葉を飲み込む。

 ——渚さんは、本当はどんな人なんだろう。
 誰とでも、こんな風に体を重ねるのか。
 左手の薬指に嵌められていた指輪をなんで外したのか。
 旦那さんとはどんな関係で、なぜ今夜、私を選んだのか……。
 知りたいことが、あまりにも多すぎた。
 さっきまで深く繋がり、熱を分け合っていたのに、結局、私は彼女の体温と肌の感触と、甘い吐息だけしか知らない。
 それ以外のすべてが、湯けむりのようにただぼんやりと霞んで見えた。

「ねえ、悠人くん。どうしたの?」

 渚さんがふと、私の顔を覗き込みながら囁いた。
 彼女の声は柔らかく、しかしどこか含みのある響きだった。
 まるで、私の胸の奥に潜む疑問を、すべて見透かしているかのようだった。

「……渚さんのことを、もっと知りたいんです」

 絞り出すように呟くと、渚さんは困ったように微笑んだ。
 短い沈黙が、部屋の空気をわずかに重くする。
 彼女はゆっくりと体を起こし、私の腹の上に腰を下ろした。

「悠人くん。もうお互い、すべてさらけ出したじゃない」

 やさしげな笑みの奥に、これ以上踏み込ませないような、かすかな拒絶の色が揺れている気がした。

「まだ知りたいなんて……ほんとうに欲張りね」

 からかうように微笑みながら、彼女は私の頬を指先でなぞる。
 その仕草は優しいのに、どこか距離を保つようでもあった。

「今は……ただ、楽しみましょう」

 耳もとで囁かれたその言葉に、思考はゆっくりとほどけていく。
 ——本当は、彼女のことを知りたかったはずなのに、その気持ちは、触れられるたびに少しずつ溶かされていった。
 彼女の体温が、ぬくもりとなって胸へ流れ込み、言葉にできない感覚だけが残った。

 重なり合ったまま、時間は静かに溶けていった。
 互いの呼吸が重なり、鼓動が混ざり合い、夜はゆるやかに深まっていく。
 窓の外では、いつの間にか虫の声が遠くなり、かわりに、静かな闇だけが部屋を満たしていた。

 意識が次第に遠のいていく。
 ぬくもりに包まれたまま、私はいつしか眠りへと沈んでいった。

 ――
 ――――
 ――――――

 どれくらい眠っていただろう。
 気が付いたとき、朝だった。
 障子の向こうから、やわらかな光が差し込んでいる。

 部屋は、静かだった。

 残っているのは、わずかに漂う、甘い香りと、昨夜の出来事が夢ではなかったことを告げる、かすかな体のだるさだけだった。

「……渚さん?」

 ぼんやりと天井を眺めながらつぶやいた。
 返事はなかった。

 しわになった布団をどかし、静かに起き上がる。
 頭が重く、思考が鈍い。お酒がまだ残っているせいかもしれない。

 部屋を見渡しても、彼女の姿はどこにもなかった。
 しかし、体のだるさと、一糸まとわぬ姿で眠っていたという事実が、昨夜の出来事が夢ではなかったことをはっきりと教えてくれる。

 部屋には、かすかに、ほんのかすかにだが、昨日の余韻の香りが残っていた。

 胸が、チクリと痛む。
 また会いたい。
 もっと話して、彼女を知りたい。
 そんな強い気持ちが、胸の奥から湧き上がる。
 追いかけよう、そう思い枕元に置かれていた水を流し込む。
 畳まれていた下着と浴衣に袖を通し、身支度もそこそこに廊下に出る。

 そこで、宿の女将と出会った。

「旦那様、朝食の準備ができておりますよ」

 彼女に会うことだけを考えていたので、朝食のことを失念していた。
 出鼻をくじかれたような気分で、足取りもおぼつかず食堂まで案内される。

 食堂のドアを開けると、そこで渚さんが静かに朝食を食べていた。

 背筋をまっすぐに伸ばし、静かに箸を動かしている。
 きちんと仕立てられた服に身を包み、髪も丁寧にまとめられており、その姿は昨夜とはまるで別人のようであった。

 呆然と入口に立ち尽くしていると、女将が昨日と同じ席へ案内してくれた。席についた後も、私は彼女の顔をじっと見つめてしまっていた。

 こちらの視線に気がついたのだろう。
 彼女は軽く会釈をする。

「おはようございます。気持ちのいい朝ですね」
「あっ……はい。おはようございます」

 昨晩とは違う、他人行儀な雰囲気に、私も自然とつられてしまう。
 うろたえてまごついている私をよそに、彼女は静かに箸を動かし、魚を口に運ぶ。

 丁寧に動くその指先に、昨晩はなかった指輪がはめられているのに気がついた。
 指輪をはめた左手を静かに動かす彼女を見て、昨夜その指を噛んだことを思い出した。つけたはずの跡は指輪によって隠れて見えなかった。

 その事実を認識した瞬間、腹の奥に、重い鉛のようなものが落ちていく感覚があった。
 しばらく、何も考えられなかった。
 ただ、彼女の指先だけを見つめていた。
 思わず、息を止めていたことに気づいて、静かに息を吐き出し、視線をテーブルの上に落とした。

 私も箸を手に取り、味のしない味噌汁を喉に流し込む。

「よくお休みになれましたか?」

 少し重くなった空気に耐えかねたのか、彼女の方から話しかけてくれた。

 会話は、そこから途切れ途切れに続いた。
 天気の話、この街の外湯の話、美味しい名産品のこと。
 どれも淡白で、とりとめのないものばかりだった。
 それでも穏やかな時間が優しく流れた。

 途中何度も、気持ちを吐き出しそうになった。
「また会えますか……」
「連絡先を、教えてください……」
 でも、その言葉は口に運んだ食べ物と一緒に飲み込んだ。

 彼女の穏やかな微笑みと、静かな視線が、なんとなくそれを許さない雰囲気だった。
 無理に聞けば、この朝の空気が壊れてしまうような気がした。
 目の前にいるはずなのに、彼女はどこか遠い場所にいるようにも感じられた。
 手を伸ばしても、きっと届かない存在なのだろうと、理由もなく思う。
 もしかしたら、「渚」という名前すら、本当ではないのかもしれない。

 食事がすみ、お茶を飲み終えた渚さんは、ちらりと時計を確認し、静かに席を立った。
 最後に「楽しかったわ。よい旅を」とだけ言い、柔らかく微笑んで食堂を後にする。これが私たちの最後の言葉だった。
 一度も振り返ることはなかった。

 取り残された私は、最後のお茶をゆっくりと飲み干し、余韻に浸るように、彼女の座っていた席を眺めていた。

 しばらくして、気持ちも落ち着いたころ、部屋へ戻る。
 チェックアウトの時間が迫っていた。

 鏡を見ると、髪はぼさぼさで、しわになった浴衣の男が映っている。
 視線を落とすと、かすかに昨日の汗や、行為の残り香のようなものを感じて、急に気恥ずかしくなった。

 女将に時間を確認し、浴場で体をきれいにする。
 あの夜、一緒に入った湯舟を、女々しいとわかりながら何度も見てしまう。当然ながら、彼女の姿はどこにもなかった。

 未練を残さないように、手早く身支度を整え、宿を出る。
 玄関先で、ふと宿帳が目に入った。
 「これを見れば、渚さんのことが分かるのではないか」そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎる。

 でも、きっと、見ない方がいいのだろう。

 私は昨日、彼女と出会った。
 そして今日、別れる。
 それが、この関係の正しい形なのだと、理由もなく思い、納得した。

 外に出ると、朝の空気が少し冷たかった。

 街の坂道を下り、駅に着く。
 ホームは静かで、平日ということもあり、人影はまばらだった。
 電車が来るまで、まだ少し時間がある。

 自販機の前に立ち、飲み物を物色する。
 缶コーヒーの列を眺めながら、いつものカフェオレに手が伸びかけた。
 その手を止め、少し悩んで隣のブラックコーヒーへ、そっと指先を移す。

 取り出した缶は、思ったよりも熱かった。
 手のひらに伝わるその温もりを確かめるように握りしめ、そのまま電車に乗り込んだ。

――――――
――――
――


 あれから、数年が経った。

 私は大学を卒業し、地元に戻って公務員として働き始めた。
 相変わらず平板な日々ではあったけれど、いつしか中間管理職という立場が板につく年齢になっていた。

 職場の後輩で、温泉が共通の趣味だった彼女と意気投合し、気がつけば、自然な流れで付き合い始めていた。
 そして今度、結婚することになった。

 休日には、二人でいろいろな温泉街を巡る。
 それが、今の私にとって何よりの楽しみになっている。

 それでもふとした瞬間に、あの夜の記憶が蘇る。

 湯船から立ちのぼる湯気を見つめているとき。
 浴衣の襟元から、ほのかに石鹸の匂いが漂ったとき。
 あるいは、ただ静かな夜に、目を閉じたとき。

 湯気の向こう側に、彼女がいるような気がする。

 あの柔らかな微笑み。
 絹のような声。
 触れた唇の温もり。
 そして、溶けるように甘く熱かった一夜のすべて。

 今、私は十分に幸せだ。
 穏やかで、温かな日常が、静かに続いている。

 それでも、あの記憶は、胸の奥で静かに溶けたまま残っている。

 きっと一生。

end
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