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12.二度目※
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「八年前に比べたら殺風景でしょ。口うるさい使用人は、みんな辞めさせたの。通いの使用人が時々来るくらいよ。あなたのこと知っているのは執事くらいね。買い出しに出掛けさせたから、当分、戻っては来ないわ」
十五歳からの五年間。
青春期を過ごしたオービニエの屋敷に足を踏み入れたというのに、クラウスの表情に変化はなかった。
感慨深げでもなく、八年前の罪に苛まれるわけでもない。
訝しむような眼差しで、ミシェルを見つめていた。
「子どもの頃はともかく、今は身の回りのことは自分で出来るから。一人の方が気楽でいいわ」
居心地の悪い沈黙を埋めるように、ミシェルは一人で喋り続けた。
「あなたの部屋。風は通してあるけれど、出て行った時のままよ。お父様がうちに住み込ませるくらい気に入ってたのって、あなたぐらいだし。特にあなたがいなくなってからは、通いの弟子も、うちには余り来なくなったわ」
「……君はアレクシ・ベタンクールに頼まれているのか?それとも……彼とかつて関係をもっていた彼女への意趣返しのつもりなのか?」
ふいにクラウスが口を開く。
「何のこと?」
「俺と寝たことだ」
「意味がわからないわ」
「彼はロレーヌとよりを戻したいが、傍にいる俺が邪魔で……君を利用しているのではないのか?」
「あなた達の仲を引き裂くために、アレクシがあなたを誘惑するよう、私に、頼んだって?考え過ぎよ。アレクシがあの女とよりを戻したがってるかどうかは知らないけど……。意趣返しのつもりもない。アレクシの過去の女に苛立つほど、私、嫉妬深い女ではないわ」
突拍子も無い想像に、ミシェルはクスクスと笑った。
「そもそもあなた達の仲を壊したいなら、この前の夜のこと、さっき会ったとき、あの女に、打ち明けてたわよ」
考えてみると、確かにおかしな四角関係ではある。
「……私があなたと寝たのは、寝たかったから。それだけよ。好奇心と、単なる性欲ね」
ミシェルは手を伸ばす。
衣服越しに、彼の太股に触れ、その中心を指でなぞった。
「……ミシェル」
「私の好奇心を満たしてくれれば、それでいいのよ。一度も、二度も同じでしょう?あなただって、私に欲情したじゃない」
「なら……なぜ君はそんなに辛そうな顔をする?」
男は悪戯なミシェルの指を握り込み、顔を覗き込んでくる。
「辛そう?私が?」
「……わからないのか?」
わからない。
男がどうして心配そうに見つめてくるのか、わからない。
(辛くなんかないもの。私は私のしたいことをしているだけ。辛いのは、私のお遊びに付き合わなきゃいけない、あなたの方じゃない)
おかしくて、唇が震えた。
そして――歪んだ唇の震えを止めるように、男の唇が重なってきた。
いつも寝起きする場所に男を連れ込んで、淫靡なことをしている。
幼い頃、お化けが怖いからと言って、同じ男をベッドに連れ込んだのを思い出した。
あの時とは、違う。背徳感に身を震わせた。
ベッドの上に押し倒した男のシャツの釦を外す。
露になった逞しい胸に、うっとりと目を細め、自分のものとは違う、堅い肌を撫でる。
クラウスの指がミシェルの胸元に伸びてくるが、振り払って、自分で釦を外した。
今日はドレス姿ではなく、男物の上下を纏っていた。
逸る気持ちでシャツを腕から外し、肌着も脱ぎ捨てる。
馬乗りになり、のし掛かっているミシェルの乳房を、下からすくうように、クラウスが掌で触れてきた。
「胸、小さいから。触っても、面白くないでしょう」
柔肉を優しく揉む男を見下ろす。
「小さくはないだろう?」
「あの女の胸……大きかったもの。あれはなに?もしかして布でも詰めてるの?男って大きな胸の方が好きでしょ……んっ」
興奮して、尖りきっていたものを摘まれた。
軽く捩られて、悪寒に似たぞくぞくとした感覚が背筋に走る。
「面白くないなら……別に触らなくたっていいのよ」
彼女のような巨乳ではないのだ。触り心地は悪いに決まっている。
気を使って言ってあげたというのに、クラウスはミシェルの胸を揉んだり撫でたりを続けている。
掌で乳首を転がされ、くすぐったくて身を捩ると、クラウスは上半身を起こし、もう片方の胸の突起を唇に含んだ。
「胸が大きいと、それも大きいのかしら……?」
「……それ?」
「胸……先っぽのことよ。大きい方が吸いやすいでしょうし……吸い心地が悪いなら、別にしてくれなくたっていいわ」
黒髪を引っ張ると、クラウスは胸に顔を埋めたまま、小さく息を吐いた。
「煽るようなことを言わないでくれ」
「煽るって……あっ」
尖りを舐められる。ねっとりとした舌独特の感触に、いやらしい声が出る。
舌先が旋回し、乳首をなぞった。
(この前の時より気持ちいい……それに)
自身の部屋のベッドという状況もあるし、あの夜は暗くて。彼の姿が良く見えなかったのもある。
ワインを呑んでいて、感覚が鈍かったという可能性もあるし、何となく前の時より丁寧に愛撫されている気もする。
二度目で、そこで繋がることを知ったから。だからかもしれないけれど――触られてもいないのに、足の奥がむずむずしてきた。
(何か、変な感じだわ)
意識すると、どんどん、そこに熱が籠もっていくような、おかしな感覚になっていく。
それは、尿意にも似ていて、ミシェルは焦った。
「ちょっと……待って」
ミシェルは男の頭を掴んで、胸から引き剥がした。
「……どうした?」
「少し待っていて頂戴」
ミシェルは彼の上から退く。
「……やめるのか?」
「やめないわ!やめるわけじゃなくて、ちょっと……その小用よ!」
生理現象だから仕方ないとはいえ、こんな状況で、急に、もよおしてしまうなんて恥ずかしい。
顔を赤らめて怒鳴ると、クラウスは目を丸くさせた。
「待ってて。逃げたら許さないからっ!」
睨み付けて、ベッドから下りようとする。
けれど、腕をぐいっと引かれて、シーツの上に連れ戻された。
「ちょっと!何するのよ!ひゃっ……ん」
足の間に手を差し込まれ、布地の上からその部分に触れられた。
じんっとした痺れが、触れられた部分から体全体に広がる。
「だ、だめよ……漏れちゃうじゃない……離してったら」
首を振って逃れようとするが、男はミシェルを離してくれない。
「頼むから……煽らないでくれ」
クラウスは怒ったような顔で言うと、触れていた掌に力を籠めた。ぐっと圧迫され、ミシェルは息を呑む。
クラウスが押さえ込んでいた掌を緩め、ミシェルはふっと息を吐き出した。
(あ……な、なに)
自身の体の奥から、とろりと、溢れ出てくる感触がした。
「クラウス……手、外して……出ちゃった……私、漏らして……」
「違う……濡れただけだ。女性は性行為の時、ここから蜜が出てくるんだ……濡れると、男性を受け入れやすくなるから」
「でも……この前は、こんな風にはならなかったわ」
「俺が悪いんだ、ミシェル。俺がきちんと、してやれなかったから」
「……そういうもの、なの、ね……」
おかしいことではないと言われ、ミシェルはほっとする。
「下着が汚れるから……脱ぎたいわ」
熱く潤っている。不快感に眉を寄せると、クラウスはああ、と言ってミシェルのベルトを緩める。腰を上げて、彼が下着ごとズボンをずらすのに協力した。
臍の辺りをさすり、男の指先がゆっくりと下腹部へ移動する。
淡い茂みを撫でつけ、中指が割れ目に沿う。
「あ、っ……」
先日まで無垢だった場処が淫蕩に蠢いた。
「ミシェル」
「ん、やっ」
指が上下に割れ目を摩擦し始める。
柔らかな肉をくにくにと揉まれ、ミシェルは胸を愛撫された時の気持ちの良さより、ずっと深い、初めて味わう悦楽に息を甘く弾ませた。
くちゅりとした感触に、そこが濡れそぼっているのがわかる。
そういうものなのだと教えられはしたけれど、自分の体液だ。
不浄の場処から溢れ出てくるものが、彼の、あの美しい指に付着しているのだと気づくと、居た堪れなくなった。
もっと触れて欲しいと思う心を叱咤しながら、クラウスの腕を掴んだ。
「……痛むのか?」
「え?」
「この前、無茶をしてしまった。酷くしたから……痛みがあるなら言ってくれ」
「痛くはないわ。ただ……あなたの指が、汚れてしまうから……ん」
止まっていた指が、動きはじめた。
割れ目の上部を指腹で擦られて、止めようとしていたミシェルの指から力がぬけた。
クラウスはミシェルの小さな悦楽の突起に親指を宛て、小刻みに動かしながら、戦慄き、蜜を零すそこに指を差し入れた。
「あ、んっ……」
ちゅっ、とそこが、指に吸い付く。
美しい音を奏でる彼の指をしゃぶり、体の中に取り込むように、体の奥が妖しく蠢いた。
ミシェルは膝を立てる。
膝頭も太股も震えていた。
自分の意志とは違う。
勝手に反応してしまう体にミシェルは怯えた。
「怖い……怖いわ、私……」
いつの間にかミシェルは泣いてしまっていた。
クラウスがミシェルのそこから指を外し、困った顔をして覗き込んでくる。
「あなたが怖いわけじゃないのよ……痛いわけでもないし……気持ちはいいの……でもこの前の時とは違うから……私、ただ……その」
誘ったのは自分だ。
彼を求めたのもミシェルで、やめたいわけでも、困らせたいわけでもなかった。
男の双眸に映る、幼子のような自身がみっともなくて嫌になる。
ミシェルは首を振って、恐がりな自分を振り払う。
「いいわ。続けて。……私はもう子どもじゃないもの。平気よ」
「……初めてのことが怖いのは当たり前だ。大人でも、怖がっていいんだ」
優しく諭すようにクラウスが囁いてくる。
「そういう、幼児を宥めるみたいな言い方はやめて。あなたに子ども扱いされるとムカつくわ」
ミシェルは潤んだ目で、クラウスを睨んだ。
そして深呼吸をすると、彼の釦を外しだけで脱いでいないシャツを引っ張った。
「一方的に触られているだけだから、怖いのよ。あなたも脱いで」
「……続けるのか?」
「当たり前でしょう」
唇を尖らせると、クラウスは苦笑を浮かべ、シャツから腕をぬいた。
「下も」
眼差しを彼の下半身へ向け、促した。
ベルトを緩めるのを、ミシェルは見つめ――そこから、赤黒く、奇妙なかたちの、大きなそれが現れて、じっと見つめた。
「……それも、そういうものなの……?」
この前は暗くて。今は午後で。カーテンを閉じていても午後の陽光が寝室に差し込んでいた。
初めて男性器を見たミシェルはその淫猥な形状に、何だか恥ずかしくなる。
(こんな大きなものが、私の中に入ったのだわ……痛いはずよね……)
「あまり見つめないでくれ」
「どうして?」
「恥ずかしいだろう」
端正な顔立ちは、とてもじゃないが恥ずかしがっている風には見えない。
「……ねえ、触ってもいい?」
「駄目だ」
「あなたも私に触れたじゃない。ずるいわ」
ミシェルは拒もうとした指を払いのけ、そっと彼のものに触れた。
指で軽く握ると、クラウスは眉を寄せ、うっと息を呑んだ。
「……痛いの?」
「……いや」
「そう……。熱いのね。それにすごく硬いわ」
呟くと、クラウスが手首を掴んで、屹立から外させた。
「まだ触ってたい」
「駄目だ」
「どうして?……何っ……んっ」
玩具を取り上げられた幼子の気分で、もう片方の指も伸ばしたが、そちらも掴まれてしまう。両手首を戒められ、頭の両側で、シーツに押さえつけられる。
文句を言い掛けた唇を塞がれた。
舌が唇を舐める。くすぐったくて、ミシェルは顔を背けた。
「君よりも、ずっと……きっと俺の方が、怖がっている」
耳元に吐息混じりの囁きが降ってきて、ミシェルは首を竦めた。
「……何が怖いの……?……彼女を裏切ることを言ってるなら平気よ。黙ってたら、わからないもの」
「……裏切るものがあるとしたら、それは過去の……俺だ」
彼の言葉の意味がわからず、問い返そうとしたミシェルは下肢を拡げられ、足の奥――割れ目の部分に熱いものが宛がわれ、体を強ばらせた。
柔らかな肉唇に割り、押しつけられた丸みのある灼熱。
先程、見て触れた、太くて硬い、クラウスの男性器が脳裏に浮かぶ。
ミシェルは歯を食いしばった。
初めて受け入れた時の身を引き裂かれるほどの激痛を思い出す。
(痛いのは嫌だ。あれほど痛い思いをしたのに、どうして私はこの男が欲しくて仕方がないのだろう)
「ミシェル」
低く心地の良い声が、気遣うように名前を呼ぶ。
「クラウス……」
名前を呼ばれただけで、彼が与えるだろう痛みすら欲しくて堪らなくなる。
体の奥がうねった。
吐息混じりに彼の名を呼ぶと、宛がわれたそれが、ミシェルの胎内に、もぐりこんできた。
「ん、んんっ……」
クラウスはゆっくりと腰を進める。
初めての夜の時とは違い、少しずつ大きなものが侵入してくる。
媚肉をじわじわ割られる感触に、怯えて息を呑むと、その度にクラウスは動きを止めた。
苦しくて、激痛という程ではないが痛みもある。
けれど、何だろう。初めての時とは違う、もどかしさがある。
「ふっ、あ……うう」
「……痛いのか?」
「く、苦しいわ……ま、まだ来るの?」
「……いや」
涙目で見上げると、クラウスは戒めていた指を外し、ミシェルの頬を撫でた。
「あなたも……苦しそうだわ……」
指摘すると、クラウスは強ばった表情を緩め、手を二人の重なった体の間に差し込んだ。
「あっん」
繋がったその部分より僅かに上。ミシェルの小さな陰核を探り当てると、クラウスはそれを指先で押し撫でた。
「だめ……そこっ……あっ」
優しく転がされていると、甘い疼きが込み上げてくる。
肉壁が蠢き、物欲しげに中にいるクラウスに絡みつく。
「いやっ……動かっ……ないでっ」
制止したいのは、クラウスか。
それとも淫靡な蠢きをしてしまう自分か。
ミシェルは腰を緩慢に前後し始めたクラウスの肩を掴んだ。
(くるしい……怖い……)
擦られている媚肉がざわめく。
彼が揺するのに合わせ、息が弾み、そして下腹部からはぐちゅ、ぐちゅと淫音が立つ。
体の奥が苦しく、熱い。
クラウスが一突きするごとに、痛みとは違う疼きが込み上げてくる。
初めて味わう悦楽にミシェルは震えた――。
十五歳からの五年間。
青春期を過ごしたオービニエの屋敷に足を踏み入れたというのに、クラウスの表情に変化はなかった。
感慨深げでもなく、八年前の罪に苛まれるわけでもない。
訝しむような眼差しで、ミシェルを見つめていた。
「子どもの頃はともかく、今は身の回りのことは自分で出来るから。一人の方が気楽でいいわ」
居心地の悪い沈黙を埋めるように、ミシェルは一人で喋り続けた。
「あなたの部屋。風は通してあるけれど、出て行った時のままよ。お父様がうちに住み込ませるくらい気に入ってたのって、あなたぐらいだし。特にあなたがいなくなってからは、通いの弟子も、うちには余り来なくなったわ」
「……君はアレクシ・ベタンクールに頼まれているのか?それとも……彼とかつて関係をもっていた彼女への意趣返しのつもりなのか?」
ふいにクラウスが口を開く。
「何のこと?」
「俺と寝たことだ」
「意味がわからないわ」
「彼はロレーヌとよりを戻したいが、傍にいる俺が邪魔で……君を利用しているのではないのか?」
「あなた達の仲を引き裂くために、アレクシがあなたを誘惑するよう、私に、頼んだって?考え過ぎよ。アレクシがあの女とよりを戻したがってるかどうかは知らないけど……。意趣返しのつもりもない。アレクシの過去の女に苛立つほど、私、嫉妬深い女ではないわ」
突拍子も無い想像に、ミシェルはクスクスと笑った。
「そもそもあなた達の仲を壊したいなら、この前の夜のこと、さっき会ったとき、あの女に、打ち明けてたわよ」
考えてみると、確かにおかしな四角関係ではある。
「……私があなたと寝たのは、寝たかったから。それだけよ。好奇心と、単なる性欲ね」
ミシェルは手を伸ばす。
衣服越しに、彼の太股に触れ、その中心を指でなぞった。
「……ミシェル」
「私の好奇心を満たしてくれれば、それでいいのよ。一度も、二度も同じでしょう?あなただって、私に欲情したじゃない」
「なら……なぜ君はそんなに辛そうな顔をする?」
男は悪戯なミシェルの指を握り込み、顔を覗き込んでくる。
「辛そう?私が?」
「……わからないのか?」
わからない。
男がどうして心配そうに見つめてくるのか、わからない。
(辛くなんかないもの。私は私のしたいことをしているだけ。辛いのは、私のお遊びに付き合わなきゃいけない、あなたの方じゃない)
おかしくて、唇が震えた。
そして――歪んだ唇の震えを止めるように、男の唇が重なってきた。
いつも寝起きする場所に男を連れ込んで、淫靡なことをしている。
幼い頃、お化けが怖いからと言って、同じ男をベッドに連れ込んだのを思い出した。
あの時とは、違う。背徳感に身を震わせた。
ベッドの上に押し倒した男のシャツの釦を外す。
露になった逞しい胸に、うっとりと目を細め、自分のものとは違う、堅い肌を撫でる。
クラウスの指がミシェルの胸元に伸びてくるが、振り払って、自分で釦を外した。
今日はドレス姿ではなく、男物の上下を纏っていた。
逸る気持ちでシャツを腕から外し、肌着も脱ぎ捨てる。
馬乗りになり、のし掛かっているミシェルの乳房を、下からすくうように、クラウスが掌で触れてきた。
「胸、小さいから。触っても、面白くないでしょう」
柔肉を優しく揉む男を見下ろす。
「小さくはないだろう?」
「あの女の胸……大きかったもの。あれはなに?もしかして布でも詰めてるの?男って大きな胸の方が好きでしょ……んっ」
興奮して、尖りきっていたものを摘まれた。
軽く捩られて、悪寒に似たぞくぞくとした感覚が背筋に走る。
「面白くないなら……別に触らなくたっていいのよ」
彼女のような巨乳ではないのだ。触り心地は悪いに決まっている。
気を使って言ってあげたというのに、クラウスはミシェルの胸を揉んだり撫でたりを続けている。
掌で乳首を転がされ、くすぐったくて身を捩ると、クラウスは上半身を起こし、もう片方の胸の突起を唇に含んだ。
「胸が大きいと、それも大きいのかしら……?」
「……それ?」
「胸……先っぽのことよ。大きい方が吸いやすいでしょうし……吸い心地が悪いなら、別にしてくれなくたっていいわ」
黒髪を引っ張ると、クラウスは胸に顔を埋めたまま、小さく息を吐いた。
「煽るようなことを言わないでくれ」
「煽るって……あっ」
尖りを舐められる。ねっとりとした舌独特の感触に、いやらしい声が出る。
舌先が旋回し、乳首をなぞった。
(この前の時より気持ちいい……それに)
自身の部屋のベッドという状況もあるし、あの夜は暗くて。彼の姿が良く見えなかったのもある。
ワインを呑んでいて、感覚が鈍かったという可能性もあるし、何となく前の時より丁寧に愛撫されている気もする。
二度目で、そこで繋がることを知ったから。だからかもしれないけれど――触られてもいないのに、足の奥がむずむずしてきた。
(何か、変な感じだわ)
意識すると、どんどん、そこに熱が籠もっていくような、おかしな感覚になっていく。
それは、尿意にも似ていて、ミシェルは焦った。
「ちょっと……待って」
ミシェルは男の頭を掴んで、胸から引き剥がした。
「……どうした?」
「少し待っていて頂戴」
ミシェルは彼の上から退く。
「……やめるのか?」
「やめないわ!やめるわけじゃなくて、ちょっと……その小用よ!」
生理現象だから仕方ないとはいえ、こんな状況で、急に、もよおしてしまうなんて恥ずかしい。
顔を赤らめて怒鳴ると、クラウスは目を丸くさせた。
「待ってて。逃げたら許さないからっ!」
睨み付けて、ベッドから下りようとする。
けれど、腕をぐいっと引かれて、シーツの上に連れ戻された。
「ちょっと!何するのよ!ひゃっ……ん」
足の間に手を差し込まれ、布地の上からその部分に触れられた。
じんっとした痺れが、触れられた部分から体全体に広がる。
「だ、だめよ……漏れちゃうじゃない……離してったら」
首を振って逃れようとするが、男はミシェルを離してくれない。
「頼むから……煽らないでくれ」
クラウスは怒ったような顔で言うと、触れていた掌に力を籠めた。ぐっと圧迫され、ミシェルは息を呑む。
クラウスが押さえ込んでいた掌を緩め、ミシェルはふっと息を吐き出した。
(あ……な、なに)
自身の体の奥から、とろりと、溢れ出てくる感触がした。
「クラウス……手、外して……出ちゃった……私、漏らして……」
「違う……濡れただけだ。女性は性行為の時、ここから蜜が出てくるんだ……濡れると、男性を受け入れやすくなるから」
「でも……この前は、こんな風にはならなかったわ」
「俺が悪いんだ、ミシェル。俺がきちんと、してやれなかったから」
「……そういうもの、なの、ね……」
おかしいことではないと言われ、ミシェルはほっとする。
「下着が汚れるから……脱ぎたいわ」
熱く潤っている。不快感に眉を寄せると、クラウスはああ、と言ってミシェルのベルトを緩める。腰を上げて、彼が下着ごとズボンをずらすのに協力した。
臍の辺りをさすり、男の指先がゆっくりと下腹部へ移動する。
淡い茂みを撫でつけ、中指が割れ目に沿う。
「あ、っ……」
先日まで無垢だった場処が淫蕩に蠢いた。
「ミシェル」
「ん、やっ」
指が上下に割れ目を摩擦し始める。
柔らかな肉をくにくにと揉まれ、ミシェルは胸を愛撫された時の気持ちの良さより、ずっと深い、初めて味わう悦楽に息を甘く弾ませた。
くちゅりとした感触に、そこが濡れそぼっているのがわかる。
そういうものなのだと教えられはしたけれど、自分の体液だ。
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もっと触れて欲しいと思う心を叱咤しながら、クラウスの腕を掴んだ。
「……痛むのか?」
「え?」
「この前、無茶をしてしまった。酷くしたから……痛みがあるなら言ってくれ」
「痛くはないわ。ただ……あなたの指が、汚れてしまうから……ん」
止まっていた指が、動きはじめた。
割れ目の上部を指腹で擦られて、止めようとしていたミシェルの指から力がぬけた。
クラウスはミシェルの小さな悦楽の突起に親指を宛て、小刻みに動かしながら、戦慄き、蜜を零すそこに指を差し入れた。
「あ、んっ……」
ちゅっ、とそこが、指に吸い付く。
美しい音を奏でる彼の指をしゃぶり、体の中に取り込むように、体の奥が妖しく蠢いた。
ミシェルは膝を立てる。
膝頭も太股も震えていた。
自分の意志とは違う。
勝手に反応してしまう体にミシェルは怯えた。
「怖い……怖いわ、私……」
いつの間にかミシェルは泣いてしまっていた。
クラウスがミシェルのそこから指を外し、困った顔をして覗き込んでくる。
「あなたが怖いわけじゃないのよ……痛いわけでもないし……気持ちはいいの……でもこの前の時とは違うから……私、ただ……その」
誘ったのは自分だ。
彼を求めたのもミシェルで、やめたいわけでも、困らせたいわけでもなかった。
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ミシェルは首を振って、恐がりな自分を振り払う。
「いいわ。続けて。……私はもう子どもじゃないもの。平気よ」
「……初めてのことが怖いのは当たり前だ。大人でも、怖がっていいんだ」
優しく諭すようにクラウスが囁いてくる。
「そういう、幼児を宥めるみたいな言い方はやめて。あなたに子ども扱いされるとムカつくわ」
ミシェルは潤んだ目で、クラウスを睨んだ。
そして深呼吸をすると、彼の釦を外しだけで脱いでいないシャツを引っ張った。
「一方的に触られているだけだから、怖いのよ。あなたも脱いで」
「……続けるのか?」
「当たり前でしょう」
唇を尖らせると、クラウスは苦笑を浮かべ、シャツから腕をぬいた。
「下も」
眼差しを彼の下半身へ向け、促した。
ベルトを緩めるのを、ミシェルは見つめ――そこから、赤黒く、奇妙なかたちの、大きなそれが現れて、じっと見つめた。
「……それも、そういうものなの……?」
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「あまり見つめないでくれ」
「どうして?」
「恥ずかしいだろう」
端正な顔立ちは、とてもじゃないが恥ずかしがっている風には見えない。
「……ねえ、触ってもいい?」
「駄目だ」
「あなたも私に触れたじゃない。ずるいわ」
ミシェルは拒もうとした指を払いのけ、そっと彼のものに触れた。
指で軽く握ると、クラウスは眉を寄せ、うっと息を呑んだ。
「……痛いの?」
「……いや」
「そう……。熱いのね。それにすごく硬いわ」
呟くと、クラウスが手首を掴んで、屹立から外させた。
「まだ触ってたい」
「駄目だ」
「どうして?……何っ……んっ」
玩具を取り上げられた幼子の気分で、もう片方の指も伸ばしたが、そちらも掴まれてしまう。両手首を戒められ、頭の両側で、シーツに押さえつけられる。
文句を言い掛けた唇を塞がれた。
舌が唇を舐める。くすぐったくて、ミシェルは顔を背けた。
「君よりも、ずっと……きっと俺の方が、怖がっている」
耳元に吐息混じりの囁きが降ってきて、ミシェルは首を竦めた。
「……何が怖いの……?……彼女を裏切ることを言ってるなら平気よ。黙ってたら、わからないもの」
「……裏切るものがあるとしたら、それは過去の……俺だ」
彼の言葉の意味がわからず、問い返そうとしたミシェルは下肢を拡げられ、足の奥――割れ目の部分に熱いものが宛がわれ、体を強ばらせた。
柔らかな肉唇に割り、押しつけられた丸みのある灼熱。
先程、見て触れた、太くて硬い、クラウスの男性器が脳裏に浮かぶ。
ミシェルは歯を食いしばった。
初めて受け入れた時の身を引き裂かれるほどの激痛を思い出す。
(痛いのは嫌だ。あれほど痛い思いをしたのに、どうして私はこの男が欲しくて仕方がないのだろう)
「ミシェル」
低く心地の良い声が、気遣うように名前を呼ぶ。
「クラウス……」
名前を呼ばれただけで、彼が与えるだろう痛みすら欲しくて堪らなくなる。
体の奥がうねった。
吐息混じりに彼の名を呼ぶと、宛がわれたそれが、ミシェルの胎内に、もぐりこんできた。
「ん、んんっ……」
クラウスはゆっくりと腰を進める。
初めての夜の時とは違い、少しずつ大きなものが侵入してくる。
媚肉をじわじわ割られる感触に、怯えて息を呑むと、その度にクラウスは動きを止めた。
苦しくて、激痛という程ではないが痛みもある。
けれど、何だろう。初めての時とは違う、もどかしさがある。
「ふっ、あ……うう」
「……痛いのか?」
「く、苦しいわ……ま、まだ来るの?」
「……いや」
涙目で見上げると、クラウスは戒めていた指を外し、ミシェルの頬を撫でた。
「あなたも……苦しそうだわ……」
指摘すると、クラウスは強ばった表情を緩め、手を二人の重なった体の間に差し込んだ。
「あっん」
繋がったその部分より僅かに上。ミシェルの小さな陰核を探り当てると、クラウスはそれを指先で押し撫でた。
「だめ……そこっ……あっ」
優しく転がされていると、甘い疼きが込み上げてくる。
肉壁が蠢き、物欲しげに中にいるクラウスに絡みつく。
「いやっ……動かっ……ないでっ」
制止したいのは、クラウスか。
それとも淫靡な蠢きをしてしまう自分か。
ミシェルは腰を緩慢に前後し始めたクラウスの肩を掴んだ。
(くるしい……怖い……)
擦られている媚肉がざわめく。
彼が揺するのに合わせ、息が弾み、そして下腹部からはぐちゅ、ぐちゅと淫音が立つ。
体の奥が苦しく、熱い。
クラウスが一突きするごとに、痛みとは違う疼きが込み上げてくる。
初めて味わう悦楽にミシェルは震えた――。
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