66 / 94
本編
33-2
しおりを挟む
リリアがパチンと指を鳴らす。そのとたん、下から巻き上がってきた白い煙の中にヤヌシュが消えた。
煙が晴れたあとにはまた、漆黒の暗闇が戻ってくる。
「一応入り口の森に追っぱらったけど、ヤツのことだから四半刻くらいでまーた戻ってくるわね。今のうちにキメちゃうわよ。ーーアイリス!」
「はいはい。……よっこいせっと」
おっさん臭い掛け声とともにひょいっとリリアの肩に飛び乗ったのは、首に赤い水玉リボンを付けた真っ黒な仔猫。マシェリは思わず目を丸くした。
「サラ⁉︎」
「ぶーっ! 不正解。ボクは選ばれし魔女の使い魔だよ? ちゃちい護衛するしか能がない上、魔術師ごときに捕獲されちゃう影猫なんかと一緒にしないでよね。あー、やだやだ。話してるだけで無能が感染りそう」
首のリボンを結び直しながら、黒猫がため息混じりに言う。
マシェリはキッ、とアイリスを睨みつけた。
「サラは無能なんかじゃありませんわ! わたくしを守ろうとして傀儡に立ち向かっていったんだもの」
「そうね。多少マヌケだけど護衛としてはせいかーい。アイリス、あんた少し言い過ぎよ。余計な口を叩く暇があるなら、さっさと『檻』を開けてちょうだい。水竜が特注したやつ」
リリアが黒猫の額をちょんと突っつく。
「ったいなあ! ーーはいはいはい。やればいいんでしょ、やれば。あーあ、かったるいなあ。ボク、もうそろそろお昼寝の時間だったのに」
ぶつぶつ言いながら鳥かごを出てくると、アイリスはマシェリたちにお尻を向け、しっぽをひと振りした。金色の光が虹のように弧を描き、その光の粒が一瞬でぱん、と弾ける。
光の中にパックリと口を開けたのは、ひとひとり通れるくらいの茨の蔓のアーチだった。
「これが『檻』の入り口か」
「せいかーい。この中にあなたたちが探しているサラちゃんがいるわ。リリア渾身の力作、『魔本の番外編パート1』にね!」
「「番外編⁉︎」」
胸を張ったリリアはどや顔でアーチを指差し、片一方の手にアイリスをのせた。
ぽん、と弾けた煙の中から、水玉リボンの付いたまだら卵が現れる。
「それは……! 水竜の卵か?」
「正解。ただしこれはアイリスが化けた偽物だけどね。檻に入るついでに、あなたたちに持って行ってほしいの。あと、マシェリ様が持ってる花束も」
「この赤い花を? いったい……」
「言ったでしょ? リリア、ずっとあなたたちを待ってたの。水竜の『檻』に唯一入りこめる、蒼竜石から祝福を受けたふたりをね」
三角帽の中からリリアが短い杖を取り出し、茨のアーチに先端をむける。そのとたん、蒼く光る小さな魔法陣がアーチの中央に浮かび上がった。
「それにお互いの左手をのせれば、花と卵を持ったまま『檻』の中へ行けるわ。……残念ながら、祝福は一度消滅しちゃうけど」
「なるほど。魔本から入ろうがこちらから行こうが、どのみち祝福は消えてしまうということか」
「それについてはあきらめてもらうしかないわね。『檻』は魔物たちにとっての牢獄だから、祝福に限らず、人界で結んだ契約の類はすべて消え失せる仕様になってるの。その代わり創造主リリアの権限で、再発行をあらかじめ檻に認めさせておいたから、人界に帰ってもう一度蒼竜石に誓いを立てれば、祝福は元に戻るわ」
(もう一度)
魔法陣の前に立ったマシェリは、躊躇わず左手を伸ばすグレンの横顔を、じっと見つめた。
それに気付いたグレンが、あどけない少年の顔でにやりと笑う。
「二度目のプロポーズではちゃんと『はい』って言ってね、マシェリ」
煙が晴れたあとにはまた、漆黒の暗闇が戻ってくる。
「一応入り口の森に追っぱらったけど、ヤツのことだから四半刻くらいでまーた戻ってくるわね。今のうちにキメちゃうわよ。ーーアイリス!」
「はいはい。……よっこいせっと」
おっさん臭い掛け声とともにひょいっとリリアの肩に飛び乗ったのは、首に赤い水玉リボンを付けた真っ黒な仔猫。マシェリは思わず目を丸くした。
「サラ⁉︎」
「ぶーっ! 不正解。ボクは選ばれし魔女の使い魔だよ? ちゃちい護衛するしか能がない上、魔術師ごときに捕獲されちゃう影猫なんかと一緒にしないでよね。あー、やだやだ。話してるだけで無能が感染りそう」
首のリボンを結び直しながら、黒猫がため息混じりに言う。
マシェリはキッ、とアイリスを睨みつけた。
「サラは無能なんかじゃありませんわ! わたくしを守ろうとして傀儡に立ち向かっていったんだもの」
「そうね。多少マヌケだけど護衛としてはせいかーい。アイリス、あんた少し言い過ぎよ。余計な口を叩く暇があるなら、さっさと『檻』を開けてちょうだい。水竜が特注したやつ」
リリアが黒猫の額をちょんと突っつく。
「ったいなあ! ーーはいはいはい。やればいいんでしょ、やれば。あーあ、かったるいなあ。ボク、もうそろそろお昼寝の時間だったのに」
ぶつぶつ言いながら鳥かごを出てくると、アイリスはマシェリたちにお尻を向け、しっぽをひと振りした。金色の光が虹のように弧を描き、その光の粒が一瞬でぱん、と弾ける。
光の中にパックリと口を開けたのは、ひとひとり通れるくらいの茨の蔓のアーチだった。
「これが『檻』の入り口か」
「せいかーい。この中にあなたたちが探しているサラちゃんがいるわ。リリア渾身の力作、『魔本の番外編パート1』にね!」
「「番外編⁉︎」」
胸を張ったリリアはどや顔でアーチを指差し、片一方の手にアイリスをのせた。
ぽん、と弾けた煙の中から、水玉リボンの付いたまだら卵が現れる。
「それは……! 水竜の卵か?」
「正解。ただしこれはアイリスが化けた偽物だけどね。檻に入るついでに、あなたたちに持って行ってほしいの。あと、マシェリ様が持ってる花束も」
「この赤い花を? いったい……」
「言ったでしょ? リリア、ずっとあなたたちを待ってたの。水竜の『檻』に唯一入りこめる、蒼竜石から祝福を受けたふたりをね」
三角帽の中からリリアが短い杖を取り出し、茨のアーチに先端をむける。そのとたん、蒼く光る小さな魔法陣がアーチの中央に浮かび上がった。
「それにお互いの左手をのせれば、花と卵を持ったまま『檻』の中へ行けるわ。……残念ながら、祝福は一度消滅しちゃうけど」
「なるほど。魔本から入ろうがこちらから行こうが、どのみち祝福は消えてしまうということか」
「それについてはあきらめてもらうしかないわね。『檻』は魔物たちにとっての牢獄だから、祝福に限らず、人界で結んだ契約の類はすべて消え失せる仕様になってるの。その代わり創造主リリアの権限で、再発行をあらかじめ檻に認めさせておいたから、人界に帰ってもう一度蒼竜石に誓いを立てれば、祝福は元に戻るわ」
(もう一度)
魔法陣の前に立ったマシェリは、躊躇わず左手を伸ばすグレンの横顔を、じっと見つめた。
それに気付いたグレンが、あどけない少年の顔でにやりと笑う。
「二度目のプロポーズではちゃんと『はい』って言ってね、マシェリ」
0
あなたにおすすめの小説
初夜の床で「愛はない」と言った自分に返ってきたのは「愛はいらない食はくれ」と言う新妻の言葉だった。
いさき遊雨
恋愛
「僕に君への愛はない。」
初夜の床でそう言った僕に、
「愛はいらないから食事はください。」
そう言ってきた妻。
そんな風に始まった二人の夫婦生活のお話。
※設定はとてもふんわり
※1話完結 の予定
※時系列はバラバラ
※不定期更新
矛盾があったらすみません。
小説家になろうさまにも登録しています。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
退屈扱いされた私が、公爵様の教えで社交界を塗り替えるまで
有賀冬馬
恋愛
「お前は僕の隣に立つには足りない」――そう言い放たれた夜から、私の世界は壊れた。
辺境で侍女として働き始めた私は、公爵の教えで身だしなみも心も整えていく。
公爵は決して甘やかさない。だが、その公正さが私を変える力になった。
元婚約者の偽りは次々に暴かれ、私はもう泣かない。最後に私が選んだのは、自分を守ってくれた静かな人。
月蝕の令嬢 〜妹の偽りの光を暴き、夜の王に溺愛される〜 嘘つきの妹に成敗を、ざまあ
しょくぱん
恋愛
「汚らわしいその腕で、僕のセリナに触れるな!」
公爵令嬢エレナは、生まれつき「不浄の影」を持つとして家族から虐げられてきた。 実態は、妹セリナが放つ「光の魔法」が生む猛毒を、エレナが身代わりとなって吸い取っていただけ。 しかし、妹の暴走事故を自らの腕を焼いて防いだ日、エレナは「聖女である妹を呪った」と冤罪をかけられる。
婚約者である第一王子に婚約破棄され、実家を追放され、魔物が巣食う「奈落」へと突き落とされたエレナ。 死を覚悟した彼女を拾ったのは、夜の国を統べる伝説の龍神・ゼノスだった。
「これを不浄と言うのか? 私には、世界で最も美しい星の楔に見えるが」
彼に口づけで癒やされたエレナの腕からは炭化が剥がれ落ち、美しい「星の紋章」が輝きだす。 実はエレナの力こそが、世界を再生させる唯一の「浄化」だったのだ。
龍神の番(つがい)として溺愛され、美しく覚醒していくエレナ。 一方、彼女を捨てた母国では、毒の吸い取り役がいなくなったことで妹の「光」が暴走。 大地は腐り、人々は倒れ、国は滅亡の危機に瀕していく。
「今さら『戻ってきて毒を吸ってくれ』ですって? お断りです。私は夫様と幸せになりますので」
これは、虐げられた影の令嬢が真の愛を知り、偽りの光に溺れた妹と国が自滅していくのを高みの見物で眺める、大逆転の物語。
ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。
のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。
けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。
※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる