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14、激突
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「 愛子センパイ! もう1度、アイツを捕まえるわ。 協力してッ! 」
壁材と共に、向こう側の部屋に放り出された里美の事が気がかりだが、現状では構っていられない。 愛子は、春奈と呼応して、まず、社を押さえる事にした。
「 分かったわ! ・・いい? 浩子は無視してっ! 反応したらダメよ? 弾きとばされちゃう! 社だけに、集中よっ! 」
春奈が、社の居場所を探り始めた。
「 ・・何してんの、こいつら・・ 何かの配電盤を・・・ 警報機ね? 警報機の回線を破壊してる・・! あっ、いたわっ! 社よっ! 」
「 春奈、ホールドしてっ! 」
その瞬間、物凄い放電柱がフロアに走った。
「 きゃあッ・・! 」
春奈の体が吹っ飛ばされ、崩れた壁の建材の中に突っ込んだ。 愛子は、エレベーターホール脇の壁に押し付けられ、プレスされている。 物凄い圧力で、手足どころか、指先さえ動かす事が出来ない。
呼吸すら、ままならない状況下で、愛子は呻くように言った。
「 ・・は、春奈・・ 放しちゃダメよっ! 今、放したら・・ 浩子に弾き飛ばされちゃう・・! ペシャンコよっ・・! 」
額を切り、出血した春奈が、それに答えた。
「 ・・押さえてます、あたし・・! だから早く・・ 早く、アイツのプレスを・・! 」
愛子が、社のプレスを破壊しようと気を集中し始めた。 しかし、やはり力の差は、社の方が優位のようだ。 愛子は全神経を集中させ、襲い来る社のプレスを破壊しようと懸命に戦っているが、じわじわと押されつつあるのが見て取れる。 最後の切り札として、力の応酬に参加出来ないでいる友美にとっては、とても見ていられない状況だ。 今、まさに、愛子の最後の力が尽きようとしていた。
「 ・・愛子ッ! 私もやるわッ! 」
たまらず、友美は言った。
「 ダメッ! あっちには、まだ浩子がいるっ! 来ないでッ・・! 」
「 でも・・! 」
「 ・・苦し紛れに、もがいてる・・! もう少し・・・ もう少しなの・・! 」
その時、床に散らばっていたコンクリート片が、ゆっくりと宙に浮いた。
「 ぶつける気よ、愛子っ・・! 」
友美が、そう叫んだ途端、親指大のコンクリート片が、物凄い勢いで愛子の方に飛び、左腕の脇の壁に命中した。 コンクリート片は粉々に飛び散り、壁には穴が開いている。 当たったら生身の体など、ひとたまりもない。 だが、社のプレスを破壊する事に集中している愛子にとって、自分の身を守る為のシールドを張る余裕など無く、全くの無防備である。
やがて、2弾目が宙に浮き始めた・・!
「 愛子ッ! 」
再び、友美が叫ぶのと同時に、コンクリート片は、愛子の左足太ももを貫通した。
「 あッ!・・ 」
激痛に、顔を歪める愛子。 鮮血が、みるみる壁を染めていく。
「 愛子っ・・! 愛子オォ~ッ! 」
友美が叫んだ。 続いて3段目・4弾目が、容赦なく彼女に襲い掛かり、右肩・左わき腹を貫いた。 コンクリート片が体を貫通する鈍い音と共に、血しぶきが飛び散り、愛子のわき腹からは鮮血が吹き出した。
「 セッ・・ センパイ・・! 愛子センパイッ! 」
春奈が叫んだ瞬間、5弾目が、愛子の右胸に命中した。 新たな鮮血が壁中に飛散する。
「 ・・とも・・ 美・・・! 」
返り血の付いたメガネの奥から、視点なく友美を見つめながら、愛子が友美に向かって、うめく。 突然、愛子を束縛していたプレスが開放され、真っ赤なボロ布が落ちるが如く、愛子は、その場に崩れるようにして倒れ込んだ。
「 ・・い・・ いや・・! センパイっ! 愛子センパイっ! 」
愛子を呼び続ける、春奈の悲痛な叫び声。
友美は、目の前にした凄惨な情景に、声を失った。 うつ伏せに倒れこんだ愛子からは、何の反応も無い。 開かれたままの瞳の視線が、散らばった赤いガレキの散乱する床を、無機質に見つめ続けている。
「 愛子オォ ――――― ッ! 」
聞いた事がないような友美の金切り声と共に、巨大な放電柱が走った。 廊下の天井に設置してあった全ての蛍光灯が破裂し、エレベーターホールのダウンライトも、次々と吹き飛んでゆく。 各部屋の事務所内にあるパソコンが破裂し、モニターやテレビが、あちこちで火を噴き始めた。 やがて、天井が全体に唸るような振動を感じたかと思うと、今度は10階の方に、現象は移った。 凄まじい物音が、非常階段を伝わって聞こえて来る。 巨大な重量物がぶつかり合う音、壁の崩れる地響き、ガラスの割れる音・・・
友美が途方も無い、巨大な力を、遂に稼動させたのだ・・!
「 ・・・と、友美センパイ・・! 」
上の階で何が起こっているのか、春奈には想像がついた。 しかし、にわかには、信じ難い。 広いビルのフロア全てを、壁ごと破壊しているのだ。
更に春奈は、自分がいつの間にか、束縛していた社を放してしまっている事に気が付く。
「 ・・い、いけないっ! ・・あ、あれ? 」
浩子に弾かれ、ペシャンコになっているはずの自分だが、何ともない。 ・・何と、友美はいつの間にか巨大なシールドを張っていた。 春奈は、その中にいたのである。
「 す・・ すごい、これ・・! こんな大きなシールド・・! 」
額の血を右手で拭い、ガレキの中から春奈は立ち上がった。
10階では、まだ破壊が続いているようだ。 激しい振動と騒音が聞こえる。 しかし、それも次第に小さくなっていった。
春奈は、倒れた愛子を抱きしめ、じっとうずくまっている友美に気付き、近寄って声を掛けた。
「 ・・友美センパイ・・・! 」
涙で顔をくしゃくしゃにした友美が、震えながら春奈を見上げる。
「 ・・春奈ぁ~・・ 愛子、死んじゃった・・! 死んじゃったよおぉ~・・・ 」
無残にも、体中をコンクリート片で打ち抜かれ、血で真っ赤に染まった愛子を抱きしめながら、友美が言った。
「 出来損ないを、1匹始末したか・・・! 」
ふいに社の声がした。
春奈は慌てて、声のした方を振り返った。 左腕から血を流し、右の額あたりを押さえながら、社が非常階段から現われた。 破壊尽くされた10階にはいられなかったのだろう。 上では、火災も起きているようだ。
「 社っ! ・・あんた、よ、よくも愛子センパイを・・・! 」
春奈が、拳を震わせながら言った。
「 オレたちの邪魔をするからだ。 お前らは、仲間じゃねえ。 敵だっ! 」
「 仲間ってなによッ! 人殺しに、あたしたちの仲間はいないわッ・・! 」
春奈が叫んだ。
友美は、愛子を抱いたままじっとしている。 社の方は、見向きもしない。
「 おい、友美・・・! いいのか? そんな、でかいシールド張ったままで。 力が半減しちまうぜ? 」
友美は、答えない。
「 オレたちは、対決を避けるこたァ、出来ねえ。 来な・・! 」
友美は、愛子の顔に付いた汚れを取っている。 社の事など、眼中に無いかのようだ。
社の顔から、笑みが消えた。
「 ・・・ふざけやがって! こんなシールド、潰してやらあ! 友美ィ ――――― ッ! 」
いきなり、社は衝撃波をぶつけて来た。
青白い閃光が走り、衝撃がシールド全体に響き渡る。 しかし、友美にも春奈にも、何のダメージはない。
思わず身構え、目をつぶっていた春奈は、恐々、目を開けた。
「 ・・す、すごい・・! 破壊されるどころか、位置さえ動いてない・・・! 」
抱いていた愛子をそっと床に置くと、友美は、ゆっくりと立ち上がった。
「 へっ・・ ちったァ、まともに使えるようになったみたいじゃねえか。 ええ? 友美 」
肩で息をしながら、社が言った。
ゆっくりと視線を上げ、初めて友美は、社を見つめた。
・・・怒りを超え、憎しみをも超越したその表情には、凛とした凄みすら感じられる・・・!
挑発に動じず、冷静な眼差しで自分をじっと見つめる友美に、社は、初めて恐怖を覚えた。
友美は言った。
「 悲しい子ね、 社くん・・・ そんなに強がって、人を虐げて・・ 疲れない・・? 」
「 ・・かっ、勝手にオレの深層意識を探るんじゃねえッ・・! 」
社は、再び気を発した。 今度は、シールドごとプレスするつもりのようだ。
「 あなたは、愛子や春奈との競り合いで、かなりの力を消費してるのよ? 」
社は、聞き入れず、更にプレスの圧力を上げる。 友美は、その行動に対し、声を強めて言った。
「 やめなさい! 今なら、まだ間に合うかもしれないわ。 全てを清算するの。 もう、力で人を操る事はしないって、誓って・・! 」
「 勝ってるつもりか、テメエ! ふざけんなッ! 」
「 勝つとか、負けるとか・・ 関係ないわっ! 力との共存を考えるのよ! 」
「 ・・オレは、誰にも指図は受けねえッ! どっちみち、寿命は短けえんだ・・! やりたい放題、好きにやってやるぜェッ! 」
「 おいッ! 君ら、こんな所で何してるんだ! 早く避難しなさいッ! 」
銀色の防火服を着込んだ消防隊員が5人、非常階段を上がって来た。
「 おい、あそこに男性が倒れているぞッ! 女性もいる! ケガをしているようだ。 なっ・・ 何だ、この状況は! 」
「 こちらB班ッ! 9階着ですっ! ケガ人が・・ 」
「 うるせえッ! 」
社の一声と共に、消防隊員たちの頭が、一斉に弾け飛んだ。
「 キャアァ――ッ! 」
春奈が叫ぶ。
首の無い隊員の体が、階段をころげ落ちて行く。 非常階段は血の海だ。 数人の隊員の首からは、まだ鮮血が脈を打って吹き出してくる。
「 なっ・・ 何て事するのオォ―――ッ! 」
友美が叫ぶと同時に、社は廊下の向こう側の壁まで弾き飛ばされた。
「 あ・・ あの人たちは・・ 何も関係ないじゃないっ! みんな・・ みんな、それぞれに家庭も・・ 恋人もいる人だっていたのよッ! それを、それを・・! 」
「 邪魔するヤツは敵だァッ! 友美、てめえもなァ―ッ 」
「 敵は自分自身よッ! 分からないのっ? 」
「 死ねっ! 友美ィ―ッ 」
壁に押さえつけられながらも、髪を逆立て、社は最大の衝撃波を発した。 友美は、それをプレスで受け止める。 物凄い閃光が走り、フロアの床材が、2人の間で全て弾け飛んだ。
衝撃波を弾き返した巨大な友美のプレスが、社を捕らえる。
「 うおおお ――――――― ッ! 」
物凄い形相で友美のプレスに対し、何度も、衝撃波の攻撃を繰り返す社。
友美は今、完全に社を捕らえていた。
春奈が言った。
「 社ッ! あんたの負けよっ! 認めなさいよ! 友美センパイに潰されちゃってもいいのっ? 」
社に、限界が迫っていた。
執拗に繰り返す衝撃波も、その威力は、目に見えて弱くなって来ている。
「 ま・・ 負けねえっ・・! オレは・・・ オレは負けねえ・・・ッ! 」
やがて、社をプレスしていた壁に亀裂が走り、次の瞬間、向こう側へと崩壊して吹き飛んだ。
「 あっ・・! 」
崩れた壁の向こうから差し込んで来た外の明かりに、友美は気付いて声を上げた。 社をプレスしていたのは外壁だったのだ。
9階から、外へ放り出された社・・・ まるでスローモーションを見るかように、彼は、もがきながら地上へと吸い込まれて行く。
思いがけない展開に、しばらく友美は茫然とした。
ぽっかり開いた穴に、慌てて駆け寄る春奈。 下を見ると、崩れた建材と共に、アスファルト舗装の駐車場に落ちた社が、確認出来た。 膝が異様な方向へ折れ曲がり、頭が潰れている。 おびただしい出血も見て取れた。
「 や、やった! 友美センパイ! 社を、やっつけたよ! 」
春奈は、友美の方を振り返り、狂喜する。
しかし、友美は肩を落とし、大きくため息をついた。
「 ・・・落ちて行く時、解き放たれた社くんの深層意識が見えたわ・・! 寂しい子だった。 心を寄せる事が出来る友達が欲しかったのに・・・ 急に大きな力を得て・・ あるべき姿を見失ってしまった。 何て悲しい結末なの・・・ 私も、また1人、人を死に追いやってしまったのよ・・・! 」
友美は、暗く、沈んだ。
「 そう悲観的になるのなら、最初から、邪魔しないで欲しいわね・・・ 」
ふいに、浩子の声がした。
「 浩子っ・・! 」
非常階段の方を振り向いた春奈が、叫んだ。
壁材と共に、向こう側の部屋に放り出された里美の事が気がかりだが、現状では構っていられない。 愛子は、春奈と呼応して、まず、社を押さえる事にした。
「 分かったわ! ・・いい? 浩子は無視してっ! 反応したらダメよ? 弾きとばされちゃう! 社だけに、集中よっ! 」
春奈が、社の居場所を探り始めた。
「 ・・何してんの、こいつら・・ 何かの配電盤を・・・ 警報機ね? 警報機の回線を破壊してる・・! あっ、いたわっ! 社よっ! 」
「 春奈、ホールドしてっ! 」
その瞬間、物凄い放電柱がフロアに走った。
「 きゃあッ・・! 」
春奈の体が吹っ飛ばされ、崩れた壁の建材の中に突っ込んだ。 愛子は、エレベーターホール脇の壁に押し付けられ、プレスされている。 物凄い圧力で、手足どころか、指先さえ動かす事が出来ない。
呼吸すら、ままならない状況下で、愛子は呻くように言った。
「 ・・は、春奈・・ 放しちゃダメよっ! 今、放したら・・ 浩子に弾き飛ばされちゃう・・! ペシャンコよっ・・! 」
額を切り、出血した春奈が、それに答えた。
「 ・・押さえてます、あたし・・! だから早く・・ 早く、アイツのプレスを・・! 」
愛子が、社のプレスを破壊しようと気を集中し始めた。 しかし、やはり力の差は、社の方が優位のようだ。 愛子は全神経を集中させ、襲い来る社のプレスを破壊しようと懸命に戦っているが、じわじわと押されつつあるのが見て取れる。 最後の切り札として、力の応酬に参加出来ないでいる友美にとっては、とても見ていられない状況だ。 今、まさに、愛子の最後の力が尽きようとしていた。
「 ・・愛子ッ! 私もやるわッ! 」
たまらず、友美は言った。
「 ダメッ! あっちには、まだ浩子がいるっ! 来ないでッ・・! 」
「 でも・・! 」
「 ・・苦し紛れに、もがいてる・・! もう少し・・・ もう少しなの・・! 」
その時、床に散らばっていたコンクリート片が、ゆっくりと宙に浮いた。
「 ぶつける気よ、愛子っ・・! 」
友美が、そう叫んだ途端、親指大のコンクリート片が、物凄い勢いで愛子の方に飛び、左腕の脇の壁に命中した。 コンクリート片は粉々に飛び散り、壁には穴が開いている。 当たったら生身の体など、ひとたまりもない。 だが、社のプレスを破壊する事に集中している愛子にとって、自分の身を守る為のシールドを張る余裕など無く、全くの無防備である。
やがて、2弾目が宙に浮き始めた・・!
「 愛子ッ! 」
再び、友美が叫ぶのと同時に、コンクリート片は、愛子の左足太ももを貫通した。
「 あッ!・・ 」
激痛に、顔を歪める愛子。 鮮血が、みるみる壁を染めていく。
「 愛子っ・・! 愛子オォ~ッ! 」
友美が叫んだ。 続いて3段目・4弾目が、容赦なく彼女に襲い掛かり、右肩・左わき腹を貫いた。 コンクリート片が体を貫通する鈍い音と共に、血しぶきが飛び散り、愛子のわき腹からは鮮血が吹き出した。
「 セッ・・ センパイ・・! 愛子センパイッ! 」
春奈が叫んだ瞬間、5弾目が、愛子の右胸に命中した。 新たな鮮血が壁中に飛散する。
「 ・・とも・・ 美・・・! 」
返り血の付いたメガネの奥から、視点なく友美を見つめながら、愛子が友美に向かって、うめく。 突然、愛子を束縛していたプレスが開放され、真っ赤なボロ布が落ちるが如く、愛子は、その場に崩れるようにして倒れ込んだ。
「 ・・い・・ いや・・! センパイっ! 愛子センパイっ! 」
愛子を呼び続ける、春奈の悲痛な叫び声。
友美は、目の前にした凄惨な情景に、声を失った。 うつ伏せに倒れこんだ愛子からは、何の反応も無い。 開かれたままの瞳の視線が、散らばった赤いガレキの散乱する床を、無機質に見つめ続けている。
「 愛子オォ ――――― ッ! 」
聞いた事がないような友美の金切り声と共に、巨大な放電柱が走った。 廊下の天井に設置してあった全ての蛍光灯が破裂し、エレベーターホールのダウンライトも、次々と吹き飛んでゆく。 各部屋の事務所内にあるパソコンが破裂し、モニターやテレビが、あちこちで火を噴き始めた。 やがて、天井が全体に唸るような振動を感じたかと思うと、今度は10階の方に、現象は移った。 凄まじい物音が、非常階段を伝わって聞こえて来る。 巨大な重量物がぶつかり合う音、壁の崩れる地響き、ガラスの割れる音・・・
友美が途方も無い、巨大な力を、遂に稼動させたのだ・・!
「 ・・・と、友美センパイ・・! 」
上の階で何が起こっているのか、春奈には想像がついた。 しかし、にわかには、信じ難い。 広いビルのフロア全てを、壁ごと破壊しているのだ。
更に春奈は、自分がいつの間にか、束縛していた社を放してしまっている事に気が付く。
「 ・・い、いけないっ! ・・あ、あれ? 」
浩子に弾かれ、ペシャンコになっているはずの自分だが、何ともない。 ・・何と、友美はいつの間にか巨大なシールドを張っていた。 春奈は、その中にいたのである。
「 す・・ すごい、これ・・! こんな大きなシールド・・! 」
額の血を右手で拭い、ガレキの中から春奈は立ち上がった。
10階では、まだ破壊が続いているようだ。 激しい振動と騒音が聞こえる。 しかし、それも次第に小さくなっていった。
春奈は、倒れた愛子を抱きしめ、じっとうずくまっている友美に気付き、近寄って声を掛けた。
「 ・・友美センパイ・・・! 」
涙で顔をくしゃくしゃにした友美が、震えながら春奈を見上げる。
「 ・・春奈ぁ~・・ 愛子、死んじゃった・・! 死んじゃったよおぉ~・・・ 」
無残にも、体中をコンクリート片で打ち抜かれ、血で真っ赤に染まった愛子を抱きしめながら、友美が言った。
「 出来損ないを、1匹始末したか・・・! 」
ふいに社の声がした。
春奈は慌てて、声のした方を振り返った。 左腕から血を流し、右の額あたりを押さえながら、社が非常階段から現われた。 破壊尽くされた10階にはいられなかったのだろう。 上では、火災も起きているようだ。
「 社っ! ・・あんた、よ、よくも愛子センパイを・・・! 」
春奈が、拳を震わせながら言った。
「 オレたちの邪魔をするからだ。 お前らは、仲間じゃねえ。 敵だっ! 」
「 仲間ってなによッ! 人殺しに、あたしたちの仲間はいないわッ・・! 」
春奈が叫んだ。
友美は、愛子を抱いたままじっとしている。 社の方は、見向きもしない。
「 おい、友美・・・! いいのか? そんな、でかいシールド張ったままで。 力が半減しちまうぜ? 」
友美は、答えない。
「 オレたちは、対決を避けるこたァ、出来ねえ。 来な・・! 」
友美は、愛子の顔に付いた汚れを取っている。 社の事など、眼中に無いかのようだ。
社の顔から、笑みが消えた。
「 ・・・ふざけやがって! こんなシールド、潰してやらあ! 友美ィ ――――― ッ! 」
いきなり、社は衝撃波をぶつけて来た。
青白い閃光が走り、衝撃がシールド全体に響き渡る。 しかし、友美にも春奈にも、何のダメージはない。
思わず身構え、目をつぶっていた春奈は、恐々、目を開けた。
「 ・・す、すごい・・! 破壊されるどころか、位置さえ動いてない・・・! 」
抱いていた愛子をそっと床に置くと、友美は、ゆっくりと立ち上がった。
「 へっ・・ ちったァ、まともに使えるようになったみたいじゃねえか。 ええ? 友美 」
肩で息をしながら、社が言った。
ゆっくりと視線を上げ、初めて友美は、社を見つめた。
・・・怒りを超え、憎しみをも超越したその表情には、凛とした凄みすら感じられる・・・!
挑発に動じず、冷静な眼差しで自分をじっと見つめる友美に、社は、初めて恐怖を覚えた。
友美は言った。
「 悲しい子ね、 社くん・・・ そんなに強がって、人を虐げて・・ 疲れない・・? 」
「 ・・かっ、勝手にオレの深層意識を探るんじゃねえッ・・! 」
社は、再び気を発した。 今度は、シールドごとプレスするつもりのようだ。
「 あなたは、愛子や春奈との競り合いで、かなりの力を消費してるのよ? 」
社は、聞き入れず、更にプレスの圧力を上げる。 友美は、その行動に対し、声を強めて言った。
「 やめなさい! 今なら、まだ間に合うかもしれないわ。 全てを清算するの。 もう、力で人を操る事はしないって、誓って・・! 」
「 勝ってるつもりか、テメエ! ふざけんなッ! 」
「 勝つとか、負けるとか・・ 関係ないわっ! 力との共存を考えるのよ! 」
「 ・・オレは、誰にも指図は受けねえッ! どっちみち、寿命は短けえんだ・・! やりたい放題、好きにやってやるぜェッ! 」
「 おいッ! 君ら、こんな所で何してるんだ! 早く避難しなさいッ! 」
銀色の防火服を着込んだ消防隊員が5人、非常階段を上がって来た。
「 おい、あそこに男性が倒れているぞッ! 女性もいる! ケガをしているようだ。 なっ・・ 何だ、この状況は! 」
「 こちらB班ッ! 9階着ですっ! ケガ人が・・ 」
「 うるせえッ! 」
社の一声と共に、消防隊員たちの頭が、一斉に弾け飛んだ。
「 キャアァ――ッ! 」
春奈が叫ぶ。
首の無い隊員の体が、階段をころげ落ちて行く。 非常階段は血の海だ。 数人の隊員の首からは、まだ鮮血が脈を打って吹き出してくる。
「 なっ・・ 何て事するのオォ―――ッ! 」
友美が叫ぶと同時に、社は廊下の向こう側の壁まで弾き飛ばされた。
「 あ・・ あの人たちは・・ 何も関係ないじゃないっ! みんな・・ みんな、それぞれに家庭も・・ 恋人もいる人だっていたのよッ! それを、それを・・! 」
「 邪魔するヤツは敵だァッ! 友美、てめえもなァ―ッ 」
「 敵は自分自身よッ! 分からないのっ? 」
「 死ねっ! 友美ィ―ッ 」
壁に押さえつけられながらも、髪を逆立て、社は最大の衝撃波を発した。 友美は、それをプレスで受け止める。 物凄い閃光が走り、フロアの床材が、2人の間で全て弾け飛んだ。
衝撃波を弾き返した巨大な友美のプレスが、社を捕らえる。
「 うおおお ――――――― ッ! 」
物凄い形相で友美のプレスに対し、何度も、衝撃波の攻撃を繰り返す社。
友美は今、完全に社を捕らえていた。
春奈が言った。
「 社ッ! あんたの負けよっ! 認めなさいよ! 友美センパイに潰されちゃってもいいのっ? 」
社に、限界が迫っていた。
執拗に繰り返す衝撃波も、その威力は、目に見えて弱くなって来ている。
「 ま・・ 負けねえっ・・! オレは・・・ オレは負けねえ・・・ッ! 」
やがて、社をプレスしていた壁に亀裂が走り、次の瞬間、向こう側へと崩壊して吹き飛んだ。
「 あっ・・! 」
崩れた壁の向こうから差し込んで来た外の明かりに、友美は気付いて声を上げた。 社をプレスしていたのは外壁だったのだ。
9階から、外へ放り出された社・・・ まるでスローモーションを見るかように、彼は、もがきながら地上へと吸い込まれて行く。
思いがけない展開に、しばらく友美は茫然とした。
ぽっかり開いた穴に、慌てて駆け寄る春奈。 下を見ると、崩れた建材と共に、アスファルト舗装の駐車場に落ちた社が、確認出来た。 膝が異様な方向へ折れ曲がり、頭が潰れている。 おびただしい出血も見て取れた。
「 や、やった! 友美センパイ! 社を、やっつけたよ! 」
春奈は、友美の方を振り返り、狂喜する。
しかし、友美は肩を落とし、大きくため息をついた。
「 ・・・落ちて行く時、解き放たれた社くんの深層意識が見えたわ・・! 寂しい子だった。 心を寄せる事が出来る友達が欲しかったのに・・・ 急に大きな力を得て・・ あるべき姿を見失ってしまった。 何て悲しい結末なの・・・ 私も、また1人、人を死に追いやってしまったのよ・・・! 」
友美は、暗く、沈んだ。
「 そう悲観的になるのなら、最初から、邪魔しないで欲しいわね・・・ 」
ふいに、浩子の声がした。
「 浩子っ・・! 」
非常階段の方を振り向いた春奈が、叫んだ。
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