4429F

夏川 俊

文字の大きさ
15 / 18

15、命の価値

しおりを挟む
 非常階段から、浩子が降りて来た。 社が、怪我だらけだったのに対し、浩子の方は、何ともない。 着ている女子学院の制服にも、乱れは無く、埃の跡1つ見当たらない。 おそらく、強力なシールドを張っていたと推察される。 ・・・しかし、目の前で社が攻められている状況に対して、何も手を出さず、傍観していたとは・・・
 春奈が、気付いたように言った。
「 そうか・・! 社と戦わせておいて、友美センパイのスタミナを減らそうって魂胆だったのね? 」
「 まあ、そんなところかしら。 あの子、単純だから・・・ 」
 友美は、じっと浩子を見つめた。
 以前に会った時より、普通ではない人格の、極度な増幅を感じる・・・ 全てを拒否したかのような、暗い瞳。 かすかに、笑みを浮かべるその表情も、どこか冷酷で、人間性が全く感じられない。 近寄る者は、冷酷無比に皆、傷つけてしまうような・・ そんな冷たさを発している。 何人も殺めて来た経緯が、彼女の風貌を、こんな風に変貌させてしまったのだろうか・・・
 浩子は、友美を見据えつつ、静かに言った。
「 ずいぶんな使い手になったようね、友美・・・ さっき、あの子に言ってた説教も、聖人ぶってて、イイ線いっているわ。 ・・でもね、きれい事だけじゃ、人は動かないわよ? 最後にイニシアティブを取れるのは、リアリズムだけ 」
 友美は答えず、浩子を見つめ続けた。
 浩子が続けた。
「 もっとも・・・ 春奈たちのように同調する者も、いるかもしれない。 でも、あたしたちが言ってる『 人 』ってのは、この世の中を占める、大多数の人の事を言ってるのよ? 大衆、民衆にイデオロギーは必要ないわ。 何に従うか・・ それだけよ 」
 浩子の後ろから、大館も降りて来た。 おそらく、浩子にシールドで守ってもらっていたのだろう。 大館も、どこも怪我は無いようだ。
 友美は、ゆっくりと大館に視線を移した。 大館もまた、じっと友美を見つめている。
 友美は、大館に言った。
「 ・・・その、大きな恐怖に従えって言うの? 大舘さん・・・ 」
 少し間を置いて、大館は答えた。
「 今は、恐怖と見てもらっても仕方ないだろう。 僕らには、大きな意志がある。 それを実現するための、これはステップだ 」
 その答えに対し、大館の目を見据えながら、友美は言った。
「 あなた・・ 何様のつもりなの・・? 価値観は、大きさじゃないわ。 必要性でもない・・ 可能性よ・・! 目に見えない、小さな可能性すら蹂躙してしまう大館さんの考えには、私は絶対、賛同出来ないわ! 」
 大館が答える。
「 以前にも話し合った通り、僕らとの主義・主張は、平行線のままのようだ・・ 出来れば、君らとは再会したくはなかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。 残念だよ。 非常に 」
 浩子の体から、猛烈な殺気が発しられ始めた。 ・・押し潰されそうな重圧感。 周りの空気を凝縮したかのような、威圧ある気が浩子の周りを取り囲んでいる・・・!
「 春奈・・・ シールド、外すわよ? 私、浩子さんとは、自信ない・・ 」
「 分かった、友美センパイ 」
「 気を付けてね・・! 」
「 ・・センパイ、あたし・・・ センパイと出会えて良かったよ 」
 唐突な春奈の言葉に、友美は困惑した。
「 な、何言ってるの・・? 」
「 この力・・ 人の為に使うってコト、初めて考えさせてくれたの、友美センパイだった・・ 人が生きて、初めて自分が生きるんだよね? 」
「 春奈・・・ 」
「 あたしたち、隠れるコトしか考えてなかったもん・・! 」
 突然、目が眩むような閃光が走り、強烈な衝撃が襲って来た。 今までに体験した事も無いような、猛烈なプレスである。 友美は最大のシールドを張り、防御した。 ・・が、何も手応えが無い。
「 ? 」
 意外にも、ホールドされたのは春奈だった。 浩子は、友美ではなく、春奈にその刃を向けて来たのだ。
 春奈は、浩子の圧倒的な束縛を受けながらも、果敢に抵抗を試みていた。
「 浩子さんっ! あなたの相手は、私のはずよ! 春奈には、手を出さないでっ! 」
「 邪魔なのから片付けるのよ。 ・・何なら、そこに倒れて気を失ってる記者さんも、潰してあげようか? 」
「 ・・あ、あなたって人は・・ やめてっ、春奈を放して、浩子さん! 」
 友美の叫び声には答えず、浩子は、春奈を攻めた。
「 ふ~ん・・ あんた、結構使うようになったのね・・・ バカね。 抵抗しなきゃ、楽に死ねたのに 」
 いくつもの青白い放電が、春奈を取り巻くように発光している。 浩子は、何かを春奈に仕掛けているようだ。 盛んに口を動かし、友美に訴えているような仕草を見せていた春奈だったが、喉の辺りに両手をやると、苦しそうにもがき始めた。
 友美は、浩子の手が読めた。
「 く・・ 空気を・・! や、やめてっ! 浩子さんっ・・! 」
 浩子は、春奈を束縛しているシールド内の空気を抜いたのだ。
 大館が言った。
「 友美! 春奈を生かすも殺すも、君次第だ。 このまま我々の邪魔をせずに、ここを立ち去ってくれるか? 」
 友美は、我が耳を疑った。 これが、あの大館の、真の姿なのか・・?
 大館は、続けて言った。
「 浩子の、シールドの間に入ろうとしても無駄だ。 シールド内は真空になっている。 春奈は、自らの力で体内の気圧を調整しているんだ。 無理にシールドを破れば、自らの力で自分の体を押し潰す事になる! 」
 釣り上げられた深海魚と、逆の論理だ。
「 返答はッ? 」
 問い詰める大館。
 春奈の顔色は、みるみる青ざめていく。 友美は拳を握り、目に涙を浮かべて大館を見た。
「 こんなの・・ こんなの、答えられないっ・・! お・・ 大舘さん、あなたはこんな事して・・ 平気なのっ・・・? 」
「 ・・・平気、と答えておこう・・・! 大義の前に、小さな犠牲は仕方ない事だ 」
「 命に、大小があるとでも思ってんのッ! あんたのやってる事は、殺戮よッ・・! 」
 突然、春奈の束縛が開放され、何事も無かったかのように、浩子が言った。
「 死んだわよ? この子 」
 床に倒れ込む、春奈。
 友美は、慌てて駆け寄る。
「 春奈! 春奈ッ! 」
「 心臓マッサージでもする? まあ、無駄ね・・ 延髄の神経、切っておいたから 」
 友美は、震える指先で春奈の頬をなぞった。 ・・どこにも外傷は無い。 しかし、春奈は事切れていた。 もう2度と、その瞳を開く事はない。
「 ・・は・・ 春奈・・・! 」
 友美は、春奈を抱き起し、その額に自分の額を押し当てると、小さな春奈の体を強く抱きしめ、搾り出すような声で言った。
「 春奈・・・ッ・・! 」
 後ろから、大館が声をかけた。
「 仲間を失うのは、僕だって悲しい。 覚醒以来、ずっと一緒に行動して来たんだ。 みんなで悩みながらね。 出来れば友美、君だけでも・・ 」
「 人殺しの仲間なんかに、誰がなるもんかッ・・! 」
 振り向きざまに大館の言葉をさえぎり、友美は、語気を荒げて叫んだ。
「 この子は・・ この子は、まだ13よっ! あんた、人の命を何だと思ってんの? 意志だか何だか知らないけど、偉そうなコト言う前に・・ 人として、恥を知りなさいッ! 」
 次の瞬間、いきなり浩子が、衝撃波を友美にぶつけて来た。 あっという間に友美は、抱いていた春奈の体ごと後ろへ吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
 大館の前に歩み出ると、友美を見下げ、威圧するように、浩子は言った。
「 あんた・・ すっごい、ムカつく・・! あたし達が、どんなに悩んできたか・・ どんな偏見や仕打ちを受けてきたか、あんたには分からないでしょう? ・・あたしは、レイプされた事だってあるのよ・・! 」
 友美は、春奈をそっと床に寝かせると立ち上がり、浩子を見つめた。
「 ・・だから何なの? だから、無差別に人を殺してもいいって言うのッ・・? 」
「 あんたには分からないッ・・! イジメられ続けて来た、あたし達の気持ちなんて・・ 誰も、理解出来っこないわッ! 」
 突然、物凄い気圧が、友美に圧し掛かって来た。 全てを威圧する、果てし無く暗い、浩子のプレスである。 手足の自由はおろか、息をする事すら間々ならない。 全身を握り潰すさんとするような、強烈な束縛だ・・!
「 ・・もう1度、言ってごらんっ! さあ、言ってみなさいよッ! 聞いたふうな口きいて・・ あんたなんか、ペシャンコよっ! みんな潰してやるッ! あたしたちをバカにしたヤツらも、イジメたヤツらも・・ みんな潰してやるんだっ・・! 」
 浩子の強靭な力の源は、虐げられた、その理不尽な過去の経験にあるようだ。 手にした膨大な力・・・ 心に巣食っていた暗い心理は、得た力によって解き放たれた如く膨張し、他を寄せ付けない、巨大な恐るべき力と化したのだ。
 ・・途方もない力を手に入れた、弱者の逆襲・・ その威力は、何者の想像をも、遥かに超越した力であった・・!
「 どうしたのさっ! ええっ? 口先ばかりじゃない、あんたなんて! 」
 吹き荒れるような、物凄い気圧の中、修羅のような形相で友美を見下げ、浩子は言った。
 まるで、ダンプカーと押し合いをしているようだ。 どんなに気を発しても、浩子のプレスは、徐々に友美の領域を凌駕して来る。
( 血流が・・ 止まってる・・! )
 猛烈な圧力に、体中の血液が循環しなくなっているのだ。 意識が、次第に遠のいていく。まるで歯が立たない。 これが、浩子の力なのだ・・!
( 衝撃波しかない! それも、最大の・・! でも、その後の体力が・・ )
 迷っている余裕は無い。 友美は目を見開き、浩子のプレスに向けて、今まで出した事がないような、巨大な衝撃波を発した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...