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8、僕は、戦場へ行った
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「 しかし、黒幕が、獄長だったとはな・・・! 」
サンダスが、駕籠の中で寝てしまった賽姫に、ゆっくりと、ウチワで風を送りながら言った。 三文芝居と、戦場サスペンスに興味が無かったらしい閻魔大王も、賽姫の膝の上で、スヤスヤと寝入っている。
「 ・・か、可愛い姫ですねええ~・・! サンダス様・・・! 」
初めて賽姫を見た若鬼の1人が、駕籠の中をのぞき込み、言った。
「 だろ? すんげえ~高貴な、お方なんだからな・・・! 食うなよ? お前ら 」
「 でも、何で、セーラー服、着てるんですか? 」
ネクタイを締めた鬼が尋ねる。
「 余計な詮索、すんじゃねえ・・! ほら、あまり近寄るな! 姫が、お前らのクセえ体臭で、起きちまうだろうが・・! 」
僕は、サンダスに言った。
「 獄長に会いに行くぞ。 案内してくれ、サンダス! 」
「 いいけど・・・ 課長は、どうする? 喋っちまったんだから、ほっとけば、消されちまうぜ? 」
失神から目覚めていた課長は、必死で、僕に嘆願した。
「 ・・置いてかないでくれ! 頼むよ、天野クン・・・! 」
大げさな・・・ ここは、戦場か? まあ、1本角の、上級エリート官僚だ。 いざとなれば、役に立つかもしれない。 ついでに、連れていくか。
「 一緒に、来てもらおうか・・・ で、獄長は今、どこにいるんだ? 」
少し、安堵したような表情で、課長は答えた。
「 昨日、夜勤だったから、今日は、代休で、自分の自宅にいると思うがね 」
シフト制かよ。
「 そりゃ、遠いのか? 」
「 逆落とし谷の向こうだよ。 歩いて、半日かな? 」
んなトコから、出勤してるのかよ・・・! 交通費、カットしてやがるな? ここは。
「 タクシーは? あの、例の・・・ 地獄タクシーとかいう、イカれたタクシーを呼べよ 」
「 車検に出てますがな 」
そんなモン、通るか! バンバンの違法改造車だぞ? ちい~とは、考えて行動せえ、お前ら。 大体、あんな車で、営業させる方にも、問題は、あるがな・・・!
「 何でも、ハンドルを切ると、タイヤがフェンダーに当たるとかで、整備不良らしいんですわ・・・ 」
それ見ろ! 言わんこっちゃない。 野郎~、大人しい顔しやがって、板バネ( 懐かしい )まで、切っとったんか! やりたい放題じゃねえか。
課長は続けた。
「 もう1台、あったんですが・・ 車内のチンチラと、フルスモークがイカんらしくて、行政指導、受けてます 」
当ったり前だろが、そんなん!
「 あと、リヤパネルに、ぎっしり詰めてあった、UFOキャッチャーの縫いぐるみもダメだって・・・ 」
「 ・・・・・ 」
何ちゅうセンスしとんじゃ、ここの運転手は・・・! 砂利運搬のトラックや、ヤンママの軽自動車じゃ、ないんだぞ? とても、二種の営業車を運転する神経とは思えん・・・! やはりここは、アホの巣窟だ。
僕は、額に手をやり、ため息を尽きながら言った。
「 ・・もう、いい・・・! もう喋るな、アンタ。 歩いて行くぞ・・・! 」
サンダスが言った。
「 コックは、どうします? 」
・・は? コックだと?
見ると、駕籠の中に、あの豆が、ちょこんと座っている。
・・・ナゼ、お前が、ここにいる?
僕が、駕籠の中からコックをつまみあげると、彼は足をバタつかせ、言った。
「 行く、行く、行くのぉ~っ! 」
幼稚園児か、お前は。 僕は、これから天国行きを賭けて、大事な話をしに行くのだ。 ピクニックに行くのではない。 アホは、少ないに限る。 特に、このスカンク豆は、よろしくない。
僕は、豆を、ひょいと空中に放り投げると、金属バットでスパーンとノックした。
打った瞬間、『 プッ 』と短い放屁音を残し、ゆるやかな放物線を描きながら豆は、遥か彼方へと飛んで行った。
額に、手をかざしたサンダスが叫ぶ。
「 ファ――っ! 」
失礼な。 ナイスショットと言わんか。
金属バットをサンダスに返し、ふと、駕籠の中を見ると、そこにコックがいた。
「 ・・・・・ 」
豆。 そんなに、死にたいか・・・? 煮るぞ。
サンダスが言った。
「 天野クン。 こいつ、獄長のアニキなんスよ。 人質として、連れてった方が、良かねえっスかね? 」
この煮豆が、獄長の兄貴? むうう・・ 獄長、本人の想像がつかん・・・!
大体、今まで、想像通りだったコトはない。 もしかしたら、巨人のようなヤツかもしれない。 だとしたら、サンダスのプロデュースは、一考の余地があるだろう。
僕は、サンダスに尋ねた。
「 その、獄長ってのは・・ 一体、どんなヤツなんだ? 」
「 フツーだよ? 」
「 ・・・・・ 」
答えに、なっとらんぞ、お前。
大体、コイツのフツーは、アテにならん。 これは、覚悟しておいた方か、良さそうだ。
「 よし。 おい、コック! 一緒に連れて行ってやる。 ただし、お前は歩け。 いいな? ついでに、道案内もしろや 」
「 わあ~い、わあぁ~い! ね、ね、カマゆで地獄、寄って行こうよ、カマゆで地獄! 」
嬉しそうに、飛び跳ねながら言う、豆。
・・・ついでに、ソコで、煮てやろうか? お前。 塩味なんか、どうだ?
「 だめですよ、コックさん。 天野様は、お急ぎになられて、おられるんですから 」
閻魔大王が、豆をたしなめる。
大ちゃん・・! さすがだ。 よく、分かっていらっしゃる。
「 帰りにしましょうね? 針山に、道の駅も出来ましたから、そこに寄りましょう。 足湯もありますよ? 」
・・・ドライブ、行くんじゃねえぞ、おい。 みやげなんぞ、買う気か? お前ら・・・!
不安を胸に僕は、アホどもを従え、獄長の自宅へと向かった。
閻魔大王の宮殿を出て、数時間ほど歩いただろうか。 さすがに、疲れて来た。
時折、駕籠を開けて、賽姫が言う。
「 天野様。 こちらにお乗り下さいませ。 私、歩きますから 」
その度に、駕籠を担いでいる鬼共から一斉に、冷たい視線が、僕に突き刺さる。 『 乗るんかよ、テメー 』という目だ。 閻魔大王の客人に向かって、いい度胸である。 お前ら、帰ったら全部、リストラしてやるわ。
「 大丈夫だよ。 ・・・おい、サンダス。 ちょっと、休もうか 」
一行は、峠を登りきった所で、小休止した。
サンダスは、駕籠の後ろに装備してあったスコップを取り出し、他の鬼共と、何やら地面を掘り出した。
「 ナニしてんの? 」
僕が聞くと、サンダスは、ふてくされたような表情をし、答えた。 いつの間にか、くわえタバコをしている。
「 塹壕に決まってんじゃねえか。 ホレ、新入りも、掘りな・・! 」
野営すんじゃねえぞ、おい! そんなモン、掘るな。 しかも、新入りって・・ ダレ?
Tシャツの鬼が、迷彩服の鬼に言った。
「 よ~、チャーリー。 おメー、除隊まで何日だ? 300何日よ? お? 」
迷彩服の鬼が答えた。
「 362日だ 」
「 へ~っへっへっへ! オレは、あと、10日だぜ・・! ま、気長にやれや。 ところで、何で、ここに来た? 」
「 志願したんだ 」
「 志願? 」
「 ああ、大学、辞めてね。 自分1人の力を、試してみたかったのさ 」
「 おメー、バカか? ンな事、考える事自体が、金持ちの証拠だ。 大体、この戦争も、金持ちが始めやがったんだ。 最前線は、いつもオレら、貧乏人よ 」
Tシャツの鬼は、短くなったタバコ( 銘柄:ラッキーストライク )を、親指と人差し指で、挟んで吸いながら言った。
「 昔から決まってんだよ。 オレら、貧乏人は、金持ちにゃ勝てねえってな・・! 」
・・・お前ら、映画『 プラトーン 』の見過ぎ。
峠のガケでは、ポロシャツ姿の鬼が、ズボンを降ろして、立ちションベンをしている。 遠くで、ヘリ( 米国 ベル社製、イロコイス )の音が聞こえていた。
突然、シュルシュルという、妙な音が、上の方から聞こえて来る。
「 ? 」
上空を見上げようとした途端、大音響と共に、爆弾のようなものが、近くで破裂した。
「 なっ・・ 何だっ? 」
もうもうと立ち込める、土埃。 パパパパ、パン、と、乾いた銃声が聞こえ、耳元を銃弾がかすめて行く。
「 敵襲~ッ! 姫を守れェッ!! 頭、上げんなよォ! 伏せろォ! 」
サンダスが叫ぶ。
僕は、慌てて、その場に伏せた。 どうやら昨日、地獄本部を襲って来た連中の仲間らしい。 僕らを、襲撃して来たのだ・・・!
ネクタイにYシャツ姿の鬼と、ポロシャツ姿の鬼が、すぐ横で重機銃を撃ち始めた。 物凄い勢いで、薬莢が廃莢される。 ドコから出て来たんだ? そのM―60・・・! 傍らで、弾帯をサポートしているポロシャツ姿の鬼は、ズボンを下げたままだ。
やがて、重機を撃っていたYシャツの鬼が、銃身の上を手で叩きながら、サンダスに言った。
「 中尉! 詰まりましたァッ・・! 」
いつの間にか、中尉に昇進しとる。
サンダスは、地面に伏せたまま、無線機の受話器( それも、どっから出て来たのかな? )を掴んで叫んだ。
「 砲兵隊! こちら、ブラボー2! ゲリラの、待ち伏せを受けた! 阻止砲火を要請するッ! 方位、1020・・ 」
迷彩服の鬼が、わめき出す。
「 ・・バッバ・・! バッバを助けなくちゃ・・! 」
こんな時に、映画『 フォレストガンプ 』のパロディ、やってんじゃねえよ!
Tシャツの鬼が言った。
「 頭、下げてろバカ! 動くんじゃねえよ、カパーゾ・・! 」
カパーゾ? それ、『 プラーベート・ライアン 』? コイツ、さっき、チャーリーじゃなかったっけ・・・?
発砲して来た連中は、ガケの向こう側の山腹から、撃って来るようだ。 次の瞬間、木の間から白煙が上がり、ロケットランチャーが発射された。 こちらに向かって来る・・!
サンダスが叫んだ。
「 RPGだッ! 伏せろッ! 」
ナンで、旧ソ連の兵器が飛んで来るんだよ! 連中は、ベトコンか?
ガケ下に着弾し、猛烈な土煙が上がる。 バラバラと、土片が落ちて来た。
こんなトコで、くだばってたまるか。 僕は、天国に行くのだ・・! キレーな姉ちゃんたちと一緒に、優雅に茶など・・・
頭上に、ジェット機の轟音が響いて来た。 上空を見上げると、数機の飛行機がこちらに向かって飛んで来る。 斜め下を向いた水平尾翼が、確認出来た。 3機編隊のファントムだ。 懐かしい!
「 いいぞ! 焼き払えッ! 」
サンダスが叫ぶ。
お前、さっき、砲撃支援を要請したんじゃないのか? ナンで、航空支援機が、来るんだよ!
・・まあ、この際、どっちでもいい。 連中に、何とかしてもらおう。
無線機に、連絡が入る。
『 ブラボー2。 こちら、エンジェルリーダー。 お待たせした。 ナパームを投下する。 着弾修正願う、オーバー 』
空対地で、着弾修正もクソもないだろうが。 ちゃんと、狙って落とせよ! 大丈夫か? コイツら・・・!
サンダスが、無線に答えた。
「 エンジェル、了解した。 帰ったら1杯、おごれよ? 」
おごるのは、お前の方だろが! 意味、分かって言ってんのか? お前。
上空を旋回し、3機のファントムは、攻撃態勢に入った。 向こうの山腹では、空襲に気付き、木々の間から、逃げ惑う姿が確認出来る。 今頃、逃げていても、もう遅いだろう。 やがて、超低空飛行に入った攻撃機から、続けざまにナパーム弾が投下された。 轟音と共に、真っ赤な巨大な火柱が、直線状に、次々と立ち上がる。
「 ラリホ~! くたばれ、ホーチミン! 」
サンダスが、雄叫びを上げた。 他の鬼たちも、奇声を上げたり、口笛を鳴らしたりしている。
敵陣は、1撃で沈黙した。
「 おい、サンダス! ここは一体、どうなってんだよ。 こんなんじゃ、この先、いくつ命があっても足りないじゃんかよ! 」
体に付いたホコリを、手で払いながら、僕は言った。
ポケットから出したラッキーストイライクに火を付けながら、サンダスは答えた。
・・・お前、確か、マイセン吸ってんじゃ、なかったっけか?
「 北ベトナム軍、第136師団が、どこかにいる・・・! 」
何、シリアスなセリフ、言ってんだよ。 質問に答えんか。 実弾が、飛んで来たんだぞ? コッチには、幼い賽姫だっているんだ。 可哀想に、きっと、怯えて・・・
駕籠の方を振り返ると、賽姫と閻魔大王が、楽しそうにトランプをしていた。
「 ・・・・・ 」
コックが、言う。
「 お腹減ったね! ご飯にしようよ、ご飯! 飯盒炊飯も、たまには、イイいよ? 楽しいし! 」
楽しいのか? お前・・・ 40ミリのロケットランチャーが飛んで来る、こんなトコで、メシにしろってか?
ふと見ると、若い鬼たちが、石を組んで、炉の準備をしていた。 傍らには、ラジカセ( ダブルヘッド )があり、ビーチボーイズの『 サーフィン・USA 』が、掛かっている。
コールマンのフィールドテーブルには、パラソルが立ち、冷えたビールも用意されていた。
・・・もう、好きにせえ。
サンダスが、駕籠の中で寝てしまった賽姫に、ゆっくりと、ウチワで風を送りながら言った。 三文芝居と、戦場サスペンスに興味が無かったらしい閻魔大王も、賽姫の膝の上で、スヤスヤと寝入っている。
「 ・・か、可愛い姫ですねええ~・・! サンダス様・・・! 」
初めて賽姫を見た若鬼の1人が、駕籠の中をのぞき込み、言った。
「 だろ? すんげえ~高貴な、お方なんだからな・・・! 食うなよ? お前ら 」
「 でも、何で、セーラー服、着てるんですか? 」
ネクタイを締めた鬼が尋ねる。
「 余計な詮索、すんじゃねえ・・! ほら、あまり近寄るな! 姫が、お前らのクセえ体臭で、起きちまうだろうが・・! 」
僕は、サンダスに言った。
「 獄長に会いに行くぞ。 案内してくれ、サンダス! 」
「 いいけど・・・ 課長は、どうする? 喋っちまったんだから、ほっとけば、消されちまうぜ? 」
失神から目覚めていた課長は、必死で、僕に嘆願した。
「 ・・置いてかないでくれ! 頼むよ、天野クン・・・! 」
大げさな・・・ ここは、戦場か? まあ、1本角の、上級エリート官僚だ。 いざとなれば、役に立つかもしれない。 ついでに、連れていくか。
「 一緒に、来てもらおうか・・・ で、獄長は今、どこにいるんだ? 」
少し、安堵したような表情で、課長は答えた。
「 昨日、夜勤だったから、今日は、代休で、自分の自宅にいると思うがね 」
シフト制かよ。
「 そりゃ、遠いのか? 」
「 逆落とし谷の向こうだよ。 歩いて、半日かな? 」
んなトコから、出勤してるのかよ・・・! 交通費、カットしてやがるな? ここは。
「 タクシーは? あの、例の・・・ 地獄タクシーとかいう、イカれたタクシーを呼べよ 」
「 車検に出てますがな 」
そんなモン、通るか! バンバンの違法改造車だぞ? ちい~とは、考えて行動せえ、お前ら。 大体、あんな車で、営業させる方にも、問題は、あるがな・・・!
「 何でも、ハンドルを切ると、タイヤがフェンダーに当たるとかで、整備不良らしいんですわ・・・ 」
それ見ろ! 言わんこっちゃない。 野郎~、大人しい顔しやがって、板バネ( 懐かしい )まで、切っとったんか! やりたい放題じゃねえか。
課長は続けた。
「 もう1台、あったんですが・・ 車内のチンチラと、フルスモークがイカんらしくて、行政指導、受けてます 」
当ったり前だろが、そんなん!
「 あと、リヤパネルに、ぎっしり詰めてあった、UFOキャッチャーの縫いぐるみもダメだって・・・ 」
「 ・・・・・ 」
何ちゅうセンスしとんじゃ、ここの運転手は・・・! 砂利運搬のトラックや、ヤンママの軽自動車じゃ、ないんだぞ? とても、二種の営業車を運転する神経とは思えん・・・! やはりここは、アホの巣窟だ。
僕は、額に手をやり、ため息を尽きながら言った。
「 ・・もう、いい・・・! もう喋るな、アンタ。 歩いて行くぞ・・・! 」
サンダスが言った。
「 コックは、どうします? 」
・・は? コックだと?
見ると、駕籠の中に、あの豆が、ちょこんと座っている。
・・・ナゼ、お前が、ここにいる?
僕が、駕籠の中からコックをつまみあげると、彼は足をバタつかせ、言った。
「 行く、行く、行くのぉ~っ! 」
幼稚園児か、お前は。 僕は、これから天国行きを賭けて、大事な話をしに行くのだ。 ピクニックに行くのではない。 アホは、少ないに限る。 特に、このスカンク豆は、よろしくない。
僕は、豆を、ひょいと空中に放り投げると、金属バットでスパーンとノックした。
打った瞬間、『 プッ 』と短い放屁音を残し、ゆるやかな放物線を描きながら豆は、遥か彼方へと飛んで行った。
額に、手をかざしたサンダスが叫ぶ。
「 ファ――っ! 」
失礼な。 ナイスショットと言わんか。
金属バットをサンダスに返し、ふと、駕籠の中を見ると、そこにコックがいた。
「 ・・・・・ 」
豆。 そんなに、死にたいか・・・? 煮るぞ。
サンダスが言った。
「 天野クン。 こいつ、獄長のアニキなんスよ。 人質として、連れてった方が、良かねえっスかね? 」
この煮豆が、獄長の兄貴? むうう・・ 獄長、本人の想像がつかん・・・!
大体、今まで、想像通りだったコトはない。 もしかしたら、巨人のようなヤツかもしれない。 だとしたら、サンダスのプロデュースは、一考の余地があるだろう。
僕は、サンダスに尋ねた。
「 その、獄長ってのは・・ 一体、どんなヤツなんだ? 」
「 フツーだよ? 」
「 ・・・・・ 」
答えに、なっとらんぞ、お前。
大体、コイツのフツーは、アテにならん。 これは、覚悟しておいた方か、良さそうだ。
「 よし。 おい、コック! 一緒に連れて行ってやる。 ただし、お前は歩け。 いいな? ついでに、道案内もしろや 」
「 わあ~い、わあぁ~い! ね、ね、カマゆで地獄、寄って行こうよ、カマゆで地獄! 」
嬉しそうに、飛び跳ねながら言う、豆。
・・・ついでに、ソコで、煮てやろうか? お前。 塩味なんか、どうだ?
「 だめですよ、コックさん。 天野様は、お急ぎになられて、おられるんですから 」
閻魔大王が、豆をたしなめる。
大ちゃん・・! さすがだ。 よく、分かっていらっしゃる。
「 帰りにしましょうね? 針山に、道の駅も出来ましたから、そこに寄りましょう。 足湯もありますよ? 」
・・・ドライブ、行くんじゃねえぞ、おい。 みやげなんぞ、買う気か? お前ら・・・!
不安を胸に僕は、アホどもを従え、獄長の自宅へと向かった。
閻魔大王の宮殿を出て、数時間ほど歩いただろうか。 さすがに、疲れて来た。
時折、駕籠を開けて、賽姫が言う。
「 天野様。 こちらにお乗り下さいませ。 私、歩きますから 」
その度に、駕籠を担いでいる鬼共から一斉に、冷たい視線が、僕に突き刺さる。 『 乗るんかよ、テメー 』という目だ。 閻魔大王の客人に向かって、いい度胸である。 お前ら、帰ったら全部、リストラしてやるわ。
「 大丈夫だよ。 ・・・おい、サンダス。 ちょっと、休もうか 」
一行は、峠を登りきった所で、小休止した。
サンダスは、駕籠の後ろに装備してあったスコップを取り出し、他の鬼共と、何やら地面を掘り出した。
「 ナニしてんの? 」
僕が聞くと、サンダスは、ふてくされたような表情をし、答えた。 いつの間にか、くわえタバコをしている。
「 塹壕に決まってんじゃねえか。 ホレ、新入りも、掘りな・・! 」
野営すんじゃねえぞ、おい! そんなモン、掘るな。 しかも、新入りって・・ ダレ?
Tシャツの鬼が、迷彩服の鬼に言った。
「 よ~、チャーリー。 おメー、除隊まで何日だ? 300何日よ? お? 」
迷彩服の鬼が答えた。
「 362日だ 」
「 へ~っへっへっへ! オレは、あと、10日だぜ・・! ま、気長にやれや。 ところで、何で、ここに来た? 」
「 志願したんだ 」
「 志願? 」
「 ああ、大学、辞めてね。 自分1人の力を、試してみたかったのさ 」
「 おメー、バカか? ンな事、考える事自体が、金持ちの証拠だ。 大体、この戦争も、金持ちが始めやがったんだ。 最前線は、いつもオレら、貧乏人よ 」
Tシャツの鬼は、短くなったタバコ( 銘柄:ラッキーストライク )を、親指と人差し指で、挟んで吸いながら言った。
「 昔から決まってんだよ。 オレら、貧乏人は、金持ちにゃ勝てねえってな・・! 」
・・・お前ら、映画『 プラトーン 』の見過ぎ。
峠のガケでは、ポロシャツ姿の鬼が、ズボンを降ろして、立ちションベンをしている。 遠くで、ヘリ( 米国 ベル社製、イロコイス )の音が聞こえていた。
突然、シュルシュルという、妙な音が、上の方から聞こえて来る。
「 ? 」
上空を見上げようとした途端、大音響と共に、爆弾のようなものが、近くで破裂した。
「 なっ・・ 何だっ? 」
もうもうと立ち込める、土埃。 パパパパ、パン、と、乾いた銃声が聞こえ、耳元を銃弾がかすめて行く。
「 敵襲~ッ! 姫を守れェッ!! 頭、上げんなよォ! 伏せろォ! 」
サンダスが叫ぶ。
僕は、慌てて、その場に伏せた。 どうやら昨日、地獄本部を襲って来た連中の仲間らしい。 僕らを、襲撃して来たのだ・・・!
ネクタイにYシャツ姿の鬼と、ポロシャツ姿の鬼が、すぐ横で重機銃を撃ち始めた。 物凄い勢いで、薬莢が廃莢される。 ドコから出て来たんだ? そのM―60・・・! 傍らで、弾帯をサポートしているポロシャツ姿の鬼は、ズボンを下げたままだ。
やがて、重機を撃っていたYシャツの鬼が、銃身の上を手で叩きながら、サンダスに言った。
「 中尉! 詰まりましたァッ・・! 」
いつの間にか、中尉に昇進しとる。
サンダスは、地面に伏せたまま、無線機の受話器( それも、どっから出て来たのかな? )を掴んで叫んだ。
「 砲兵隊! こちら、ブラボー2! ゲリラの、待ち伏せを受けた! 阻止砲火を要請するッ! 方位、1020・・ 」
迷彩服の鬼が、わめき出す。
「 ・・バッバ・・! バッバを助けなくちゃ・・! 」
こんな時に、映画『 フォレストガンプ 』のパロディ、やってんじゃねえよ!
Tシャツの鬼が言った。
「 頭、下げてろバカ! 動くんじゃねえよ、カパーゾ・・! 」
カパーゾ? それ、『 プラーベート・ライアン 』? コイツ、さっき、チャーリーじゃなかったっけ・・・?
発砲して来た連中は、ガケの向こう側の山腹から、撃って来るようだ。 次の瞬間、木の間から白煙が上がり、ロケットランチャーが発射された。 こちらに向かって来る・・!
サンダスが叫んだ。
「 RPGだッ! 伏せろッ! 」
ナンで、旧ソ連の兵器が飛んで来るんだよ! 連中は、ベトコンか?
ガケ下に着弾し、猛烈な土煙が上がる。 バラバラと、土片が落ちて来た。
こんなトコで、くだばってたまるか。 僕は、天国に行くのだ・・! キレーな姉ちゃんたちと一緒に、優雅に茶など・・・
頭上に、ジェット機の轟音が響いて来た。 上空を見上げると、数機の飛行機がこちらに向かって飛んで来る。 斜め下を向いた水平尾翼が、確認出来た。 3機編隊のファントムだ。 懐かしい!
「 いいぞ! 焼き払えッ! 」
サンダスが叫ぶ。
お前、さっき、砲撃支援を要請したんじゃないのか? ナンで、航空支援機が、来るんだよ!
・・まあ、この際、どっちでもいい。 連中に、何とかしてもらおう。
無線機に、連絡が入る。
『 ブラボー2。 こちら、エンジェルリーダー。 お待たせした。 ナパームを投下する。 着弾修正願う、オーバー 』
空対地で、着弾修正もクソもないだろうが。 ちゃんと、狙って落とせよ! 大丈夫か? コイツら・・・!
サンダスが、無線に答えた。
「 エンジェル、了解した。 帰ったら1杯、おごれよ? 」
おごるのは、お前の方だろが! 意味、分かって言ってんのか? お前。
上空を旋回し、3機のファントムは、攻撃態勢に入った。 向こうの山腹では、空襲に気付き、木々の間から、逃げ惑う姿が確認出来る。 今頃、逃げていても、もう遅いだろう。 やがて、超低空飛行に入った攻撃機から、続けざまにナパーム弾が投下された。 轟音と共に、真っ赤な巨大な火柱が、直線状に、次々と立ち上がる。
「 ラリホ~! くたばれ、ホーチミン! 」
サンダスが、雄叫びを上げた。 他の鬼たちも、奇声を上げたり、口笛を鳴らしたりしている。
敵陣は、1撃で沈黙した。
「 おい、サンダス! ここは一体、どうなってんだよ。 こんなんじゃ、この先、いくつ命があっても足りないじゃんかよ! 」
体に付いたホコリを、手で払いながら、僕は言った。
ポケットから出したラッキーストイライクに火を付けながら、サンダスは答えた。
・・・お前、確か、マイセン吸ってんじゃ、なかったっけか?
「 北ベトナム軍、第136師団が、どこかにいる・・・! 」
何、シリアスなセリフ、言ってんだよ。 質問に答えんか。 実弾が、飛んで来たんだぞ? コッチには、幼い賽姫だっているんだ。 可哀想に、きっと、怯えて・・・
駕籠の方を振り返ると、賽姫と閻魔大王が、楽しそうにトランプをしていた。
「 ・・・・・ 」
コックが、言う。
「 お腹減ったね! ご飯にしようよ、ご飯! 飯盒炊飯も、たまには、イイいよ? 楽しいし! 」
楽しいのか? お前・・・ 40ミリのロケットランチャーが飛んで来る、こんなトコで、メシにしろってか?
ふと見ると、若い鬼たちが、石を組んで、炉の準備をしていた。 傍らには、ラジカセ( ダブルヘッド )があり、ビーチボーイズの『 サーフィン・USA 』が、掛かっている。
コールマンのフィールドテーブルには、パラソルが立ち、冷えたビールも用意されていた。
・・・もう、好きにせえ。
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