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先輩、ズルいんですけど!~甘いキャンディー~(レリーナ)
しおりを挟む朝の光が教室の窓を淡く照らす。
一年生棟の教室から校庭を見下ろすと、遠くに二人の先輩が、それぞれの棟へ向かって歩いているのが見えた。
背の高い黒髪のカイル先輩。
戦闘科棟へ向かう足取りは、自然と空気を変えてしまう威圧感と落ち着きを同時に持っている。
思わず目が止まる。
――でも、ドキドキしているわけではない。
カイル先輩は身分も科も上の人。
尊敬の対象だ。
部活では気さくに接してくれるけれど、恋の対象ではない。ありえない。
近くで話すだけで威圧感で緊張するくらいだ。
ふと気づく。
カイル先輩が遠くから、こちらを見ている。
窓越しに視線を感じ、背筋がぞくりとする。
鼻で小さく笑ったように見えたのは、気のせいだろうか。
視界の端にもう一人、一般魔法科棟へ向かうウィン先輩。
ただ普通に歩いているだけなのに、胸がぎゅっと痛む。
――何この反則。歩くだけで胸が痛いとか、普通ありえない。
その歩き方、肩の傾き、手の振り方までもが、勝手に私の目に焼き付く。
手を振るわけでも笑うわけでもないのに、なぜか世界の空気まで変えてしまう気がする。
いや、ほんとに変えてるかも。
私の心だけでなく、空も風も空気も何もかもざわついてるに違いない。
好きだから。
どうしようもなく好きだ。
――なのに、理性の私が心の奥で突っ込む。
(いやいや、ただ歩いてるだけでドキドキするとか、私おかしいから!)
声に出さず、頭の中で自分にツッコむ。
でも、その突っ込みを無視するように、目は勝手に追ってしまう。
小さく息を吸うだけで、胸がざわつき、心臓が跳ねる。
――こんな状態で、昼休みまで持つのかな、私。
昼休み。
校庭の端のベンチに、二人を見つける。
ウィン先輩が膝の上で紙包みを広げ、カイル先輩に手を差し出す。
――あの距離感、ずるい!
私はベンチの少し後ろに立ち、頭を抱える。視線は二人から離せない。
(無言なのに……何その空気……!)
心の中で叫ぶ。
誰にも聞かれたくない声で。
ウィン先輩は平然としていて、カイル先輩も無言でわずかに口角を上げる。
ウィン先輩の包みは二つ。
一つは自分用、もう一つはカイル先輩用。
――カイル先輩の分まで作ってる……ズルい……!
ウィン先輩が三つ目の小さな包みを取り出す――
(……それ!それは私用ですか……!?)
目が一瞬で輝く。
思わず頭を抱え、息を漏らす。
少し心を落ち着け、私はベンチの脇に立った。
「……こんにちは、ウィン先輩。カイル先輩」
自然な声で挨拶する。
ウィン先輩はちらりと視線を向け、にこりと微笑む。
カイル先輩も少し目を細め、口角を上げる。
(もう、ズルすぎる。ウィン先輩、その笑顔反則です……!)
私は膝に手を置き、深呼吸をして座る。
「お昼、一緒にいいですか?」
小さな声で尋ねると、ウィン先輩はにこりと頷き、包みを少しずらして私の前に置く。
三つ目の小さな包みは、やはり私用だった。
目を丸くし、思わず口元に手をあてる。
「……わ、私用まであるなんて……!」
ウィン先輩は「どうぞ」とだけ言い、軽く微笑む。
カイル先輩も紙包みを開き、無言で受け取る。大きな手で少しぎこちなく、でも丁寧に扱っている。
そっと開くと、ふんわり卵のサンドイッチ、トマトとレタスのミニサンド、チョコチップクッキー。
どれも丁寧に作られている。
一口食べたカイル先輩が、低く「……美味い」と一言。
ウィン先輩は何も言わず、にっこり見守る。
私は頭を抱えながら、心の中でツッコミを連打する。
(……ズルい……! なんで二人とも、こんなに自然にやり取りできるの……!)
サンドイッチを口に運び、小さく息をつく。
チョコチップクッキーをかじり、紙包みの香りをかぎながら、二人の視線のやり取りを観察する。
軽い会話も混ざる。
「……トマト、いい感じだな」
「そう?」
「味、控えめがちょうどいい」
「良かった」
ふっと視線を上げると、カイル先輩が私をちらり。
鼻で小さく笑うように口角が動いた。
(なんですか、その勝ち誇ったような。カイル先輩。貴方様は、目上で、なおかつ尊敬しておりますが、その笑顔、いただけません……!)
昼休みも終わりに近づき、二人は何事もなくベンチを離れる。
私はベンチの後ろに立ち、ポケットから小さなキャンディーを取り出す。
「……ふふ、これでちょっと落ち着くかな」
口に放り込むと、甘い味がじんわり広がる。
頭を抱えながら、二人の残した影を思い浮かべる。
キャンディーを口の中で転がして、私はそっと笑った。
~~~~~~
レリーナちゃん、崩壊進行中。
しばらく進行が滞ります。
葉月百合
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