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第1章 浮気者の公爵令息に婚約破棄されましたが推しの王子を愛でるので問題ありません
【11.片想いのあの人(※王子視点)】
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コルウェル伯爵家の令嬢が探し求めていたの人だった!
マーシェル王子は心が震えるのを感じた。
思っていたより身近な人だった。だが納得がいく。
幼い頃の記憶があるから、誰よりも早くあの塔へ辿り着けたわけだし、わざと祖父のことを口にしたのだろう。
そうか、彼女だったか……。
そしてマーシェル王子は昔のメルディアーナの記憶をそっと振り返ってみた。
たくさん覚えているわけではないが、昔よく無邪気に遊んだものだ。
イモリのことは一番よく覚えているが、愛犬と遊ぶのも格別楽しかった。
メルディアーナはとりわけ動物を手懐けるのが上手で、マーシェル王子の飼っていた気性の荒い大型犬でも一瞬で手懐けてしまった。
あの緊張感のない「にへらっ」とした笑顔で撫でられると、犬もメルディアーナには抵抗する気が失せるのかもしれない。
ボールとか投げて「とってこーい」とか言われると、犬の方が面倒くさそうな態度で「よっこらしょ」と思い腰を上げ、のしのし歩いてとって来るのだが、それをにっこにこの笑顔で受け取るメルディアーナ。どう見ても犬に遊んでもらっている感じなだったのだ。
マーシェル王子は思い出してはふふっと笑った。
あの動物に同情される感じはメルディアーナの特性で、昔従者が引く馬が道の途中で急に砂浴びをしたくなって寝転んでも、メルディアーナが一緒になって手綱をとり、
「もー、ダメな子ねえ、行くわよ」
と声をかけると、馬はメルディアーナの顔を見るなり、あからさまに「はーっ」とため息をついてよっこらしょと起き上がる。
水辺に入ってバチャバチャ遊び人の言うことを聞こえない振りをする馬も、メルディアーナが「まったくこの子ったら」といった顔で近寄った瞬間、はっと我に返るのか、品行方正に水から上がってくる。
メルディアーナが犬やら馬やらに見下されているのが気の毒でありながら、どうにも面白くて「悪いな」と思いながら心の中で笑ってしまっていたのだった。
思えばメルディアーナの手の中のイモリだって、仕方ねーなって顔をしていたに違いないのだ。
マーシェル王子はまるで腕組みせんばかりにイモリを想像して、またくすっと笑ってしまった。
自分の成長過程では、年頃になるにつれコルウェル伯爵夫人が乳姉弟のメルディアーナを遠ざけようとする感じが伝わってきて、ついには一緒に話す機会はほとんどなくなってしまった。
自分もそういうものだと思っていたから、それ自体はあまり意識したことはなかったのだが。
塔の令嬢だという事実とともに、今こうして昔のメルディアーナを思い返せば心が和む。
やはり、ひどく悩んでいたときに声をかけてくれた女性というのは特別だった。
特にあの塔でのメルディアーナは、姿を決して現さず声だけだったが、心根が真っすぐで心配してくれているのがひしひしと伝わってきた。結果自分も前向きになることができた。
そのときふと、マーシェル王子はバイヤード公爵家の夜会でのことを思い出した。ウェブスター公爵家のダナンはメルディアーナに向けて言ったのだ。
『あんなにはっきりと婚約破棄してやったのに。往生際が悪い』
つまりメルディアーナはダナンと婚約していたということだ。
いや……まあ、乳母のコルウェル伯爵夫人からは娘の婚約の話はどこかでちょろっと聞いたかもしれないし、お祝いくらいした気もするが……。
ほんの少し後ろめたく思ってから、急にマーシェル王子は、なぜ塔の令嬢が姿を現さず名乗らなかったのかピンときた。
なるほど、メルディアーナは塔で男と二人きりこっそり会ったという不名誉な噂を避けたかったのだな。婚約者に不貞を疑われてはいけないと。またそれは、ウェブスター公爵家の顔を立ててのことだろう。
そういう律儀なところは乳母そっくりだ。
しかし、マーシェル王子は知っていた。
当のダナンの方はずっと女の噂が絶えなかった。名門公爵家で歳も近いとなると、マーシェル王子はそこそこダナンとは話す機会が多かったのだが、あまりに女の噂が多かったので婚約者がいることを忘れていたくらいだ。
しかも、最近のダナンの口からは、ほとんどフリーダのことばかりだった。
――浮気な男に、よく分からない婚約破棄。気の毒なメルディアーナ。
ダナンは少しやり過ぎだな。
そりゃメルディアーナは多少変わってるけど、そこまでの扱いをしなくてもいいんじゃないか。
しかし同時にほっとしている自分もいるのだった。
ダナンにフラれたということはメルディアーナは今はフリーだ。
それなら自分にもチャンスがあるんじゃないか?
身分のことは大丈夫だろう。王嗣は叔父君。第一王子の兄がいて、自分は第二王子。強力な後ろ盾を持つ貴族の娘を娶らなければならないというわけではない。
そもそも王妃が自分の婚約者選びのパーティなんて開催するくらいだ。貴族の娘であるなら誰でもよいはず。
塔の令嬢がメルディアーナなら、今の自分は彼女がいい。
メルディアーナだって言ってくれた。
「一生あなたを見守ってますわ」
その言葉には心がこもっていた。
彼女の素性が分かった今なら手を握り返せる。メルディアーナ……。
あのときの令嬢。あなたに側にいてもらいたい!
マーシェル王子は心が震えるのを感じた。
思っていたより身近な人だった。だが納得がいく。
幼い頃の記憶があるから、誰よりも早くあの塔へ辿り着けたわけだし、わざと祖父のことを口にしたのだろう。
そうか、彼女だったか……。
そしてマーシェル王子は昔のメルディアーナの記憶をそっと振り返ってみた。
たくさん覚えているわけではないが、昔よく無邪気に遊んだものだ。
イモリのことは一番よく覚えているが、愛犬と遊ぶのも格別楽しかった。
メルディアーナはとりわけ動物を手懐けるのが上手で、マーシェル王子の飼っていた気性の荒い大型犬でも一瞬で手懐けてしまった。
あの緊張感のない「にへらっ」とした笑顔で撫でられると、犬もメルディアーナには抵抗する気が失せるのかもしれない。
ボールとか投げて「とってこーい」とか言われると、犬の方が面倒くさそうな態度で「よっこらしょ」と思い腰を上げ、のしのし歩いてとって来るのだが、それをにっこにこの笑顔で受け取るメルディアーナ。どう見ても犬に遊んでもらっている感じなだったのだ。
マーシェル王子は思い出してはふふっと笑った。
あの動物に同情される感じはメルディアーナの特性で、昔従者が引く馬が道の途中で急に砂浴びをしたくなって寝転んでも、メルディアーナが一緒になって手綱をとり、
「もー、ダメな子ねえ、行くわよ」
と声をかけると、馬はメルディアーナの顔を見るなり、あからさまに「はーっ」とため息をついてよっこらしょと起き上がる。
水辺に入ってバチャバチャ遊び人の言うことを聞こえない振りをする馬も、メルディアーナが「まったくこの子ったら」といった顔で近寄った瞬間、はっと我に返るのか、品行方正に水から上がってくる。
メルディアーナが犬やら馬やらに見下されているのが気の毒でありながら、どうにも面白くて「悪いな」と思いながら心の中で笑ってしまっていたのだった。
思えばメルディアーナの手の中のイモリだって、仕方ねーなって顔をしていたに違いないのだ。
マーシェル王子はまるで腕組みせんばかりにイモリを想像して、またくすっと笑ってしまった。
自分の成長過程では、年頃になるにつれコルウェル伯爵夫人が乳姉弟のメルディアーナを遠ざけようとする感じが伝わってきて、ついには一緒に話す機会はほとんどなくなってしまった。
自分もそういうものだと思っていたから、それ自体はあまり意識したことはなかったのだが。
塔の令嬢だという事実とともに、今こうして昔のメルディアーナを思い返せば心が和む。
やはり、ひどく悩んでいたときに声をかけてくれた女性というのは特別だった。
特にあの塔でのメルディアーナは、姿を決して現さず声だけだったが、心根が真っすぐで心配してくれているのがひしひしと伝わってきた。結果自分も前向きになることができた。
そのときふと、マーシェル王子はバイヤード公爵家の夜会でのことを思い出した。ウェブスター公爵家のダナンはメルディアーナに向けて言ったのだ。
『あんなにはっきりと婚約破棄してやったのに。往生際が悪い』
つまりメルディアーナはダナンと婚約していたということだ。
いや……まあ、乳母のコルウェル伯爵夫人からは娘の婚約の話はどこかでちょろっと聞いたかもしれないし、お祝いくらいした気もするが……。
ほんの少し後ろめたく思ってから、急にマーシェル王子は、なぜ塔の令嬢が姿を現さず名乗らなかったのかピンときた。
なるほど、メルディアーナは塔で男と二人きりこっそり会ったという不名誉な噂を避けたかったのだな。婚約者に不貞を疑われてはいけないと。またそれは、ウェブスター公爵家の顔を立ててのことだろう。
そういう律儀なところは乳母そっくりだ。
しかし、マーシェル王子は知っていた。
当のダナンの方はずっと女の噂が絶えなかった。名門公爵家で歳も近いとなると、マーシェル王子はそこそこダナンとは話す機会が多かったのだが、あまりに女の噂が多かったので婚約者がいることを忘れていたくらいだ。
しかも、最近のダナンの口からは、ほとんどフリーダのことばかりだった。
――浮気な男に、よく分からない婚約破棄。気の毒なメルディアーナ。
ダナンは少しやり過ぎだな。
そりゃメルディアーナは多少変わってるけど、そこまでの扱いをしなくてもいいんじゃないか。
しかし同時にほっとしている自分もいるのだった。
ダナンにフラれたということはメルディアーナは今はフリーだ。
それなら自分にもチャンスがあるんじゃないか?
身分のことは大丈夫だろう。王嗣は叔父君。第一王子の兄がいて、自分は第二王子。強力な後ろ盾を持つ貴族の娘を娶らなければならないというわけではない。
そもそも王妃が自分の婚約者選びのパーティなんて開催するくらいだ。貴族の娘であるなら誰でもよいはず。
塔の令嬢がメルディアーナなら、今の自分は彼女がいい。
メルディアーナだって言ってくれた。
「一生あなたを見守ってますわ」
その言葉には心がこもっていた。
彼女の素性が分かった今なら手を握り返せる。メルディアーナ……。
あのときの令嬢。あなたに側にいてもらいたい!
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