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第2章 改心しない小悪女には予定以上の制裁がお似合い!
【1.望まない縁談】
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(※第2章は、エミリー視点のお話です。)
「エミリー! おまえという娘はまったく! 男を見る目がない上に婚約者のいる男と恋に落ちたりしくさって! もう、独身でふらふら変な男にちょっかいかけて家に迷惑をかけられても困るっ! おまえには縁談を用意したから、さっさと嫁いでおとなしくしろっ!」
スピンク男爵は素行の良くない娘を呼びつけると頭ごなしに命令した。
「えっ!?」
エミリーは、縁談を用意した?と食い入るように父を見つめた。
寝耳に水である。
しかし、基本的には男好きのエミリーのこと。縁談話自体は歓迎である。ただ肝心なのはその縁談の中身だ。
相手はどんな家柄?
イケメンでしょうね?
すると父スピンク男爵から告げられたのはたいへん惨めなものだった。
「ダニエル・サルヴァン男爵だ。領地は少し田舎になるが真面目でおとなしい男と評判だ。彼が妻を亡くし後妻を探していると聞いた。悪い縁談ではなかろう。もう決めたから嫁げ」
「ええ~っ! あたし嫌よぅ!」
エミリーは叫んだ。
サルヴァン男爵領って、お父様は少し田舎って言うけど、本当のところ北のはずれの方のすっごく田舎よ?
しかもサルヴァン男爵って、歳は30歳前で、すっごく地味で堅物で眼鏡君で、王都中央での夜会にはほとんど出席なされないし、土地柄あまり裕福ではないと聞くわ!
そんなの、思い描いていた幸せな結婚とは程遠いじゃないの!
しかも後妻? 絶対前の奥さんと比べられて厭味とか言われるんだわ。あたしみたいな美人が、地味眼鏡に厭味言われれるとか屈辱でしかない。あり得ないんですけどっ!?
すると父スピンク男爵は顔を真っ赤にして額から湯気を出さんばかりにきい~っと怒った。
「うちにどれだけ迷惑をかけたら気が済むんだ! おまえのおかげでスピンク男爵家の名は醜聞ばかりだ。アーゼル殿との婚約の件……どれだけ世間から白い目で見られていることか!」
「え、でもぉ。アーゼル様の件は、あたし、あんまり悪く無いわ! アーゼル様の執事が犯罪組織と繋がってアーゼル様のおうちのお金を盗んでたってだけで、あたしは特に関係ない……」
エミリーが「自分は悪くない!」といった姿勢で口を尖らせながら言い返すので、スピンク男爵は余計に苛立って叫んだ。
「それは分かっておる! だが、そもそもおまえの人の見る目のなさが問題だ! あんな無能のアーゼル殿を選ぶなど! しかも略奪愛で!」
まあ、スピンク男爵の気持ちも分からんでもない。
娘が、ワートン公爵家のアーゼルと恋仲になった。しかし、そのアーゼルにはリリエッタ・マクファー伯爵令嬢という婚約者がいたのだ。
あろうことか、エミリーと恋仲になったアーゼルは「好きな人ができたから」とリリエッタとの婚約を破棄した。
エミリーやスピンク男爵家にとっては運の良いことに、その婚約破棄の話はとても円満に進んだ。ワートン公爵家がマクファー伯爵家に多額の慰謝料を払って解決、ということになったのだった。
とはいえ、スピンク男爵はこの婚約破棄を神経質に見守っていた。というのは、そもそも娘エミリーがアーゼルと恋仲になったことが婚約破棄の原因なので、こちらへもマクファー伯爵家から苦情が来るかと心配していたのだ。慰謝料くらいは要求されるかもと思っていた。
幸いマクファー伯爵家は、こたびの婚約破棄はアーゼルだけに責任を負わせスピンク男爵家の方へは何も言ってこなかった。(マクファー伯爵家としては、はなから身分違いで破廉恥なエミリーの実家など相手にする気はなかったのかもしれないが。)
そんな折、アーゼルの執事によるワートン公爵家の財産盗難が起こったのだった!
この執事は王都の地下犯罪組織と繋がっていた。しかも、この奪われた財産の中にはマクファー伯爵家への慰謝料が含まれていたらしい。
そのため、リリエッタ側が事態の解明に動き出し、アーゼルの母ワートン公爵夫人もすぐさま調査に乗り出したと聞く。そしてワートン公爵夫人は事の重大さからアーゼルの管理能力の低さを激しく非難し、アーゼルは廃嫡、アーゼルの弟がワートン公爵家を継ぐことになった。
確かにエミリーの言う通り、このアーゼルの廃嫡の裏には執事の犯罪があり、エミリーが直接関係しているものではなかった。
リリエッタとの婚約破棄に対する慰謝料も狙われたという点ではほんの少しエミリーに関係がないと言えなくはないが、執事が悪事を働かなければ慰謝料は滞りなくマクファー伯爵家に支払われ、婚約破棄の問題は全て解決していたはずだ。
この財産盗難の事件に関して、エミリーが法的に咎められることはないはずなのだった。
しかし、もともとワートン公爵夫人はエミリーの略奪愛を快く思っていなかったので、アーゼルの廃嫡に合わせてエミリーとの結婚は認めないとはっきり言ったのだった。
挙句、ワートン公爵夫人の方から、「アーゼルとリリエッタの婚約期間中からエミリーはアーゼルと付き合っていたのだから、エミリーもリリエッタへの慰謝料を払うべきだ」と主張された。
スピンク男爵的には、アーゼルとリリエッタの婚約破棄のとき、マクファー伯爵家からスピンク男爵家への慰謝料は要求されなかったのだから、今更ワートン公爵夫人に慰謝料を払うべきと言われる筋合いはない。
酷い横やりである。
しかし、スピンク男爵はこれまで娘に甘すぎたとはいえ、多少の良心は持ち合わせていた。
そのため、アーゼルとエミリーの浮気が婚約破棄を引き起こしリリエッタを傷つけたという点で罪悪感を持っていたため、ワートン公爵夫人の慰謝料の提言を素直に受け入れることにしたのだった。
もちろん、名門のワートン公爵家を敵に回して破滅するのを回避したいという打算もあったが。
金だけはあるスピンク男爵家なのだから、慰謝料で済む問題ならさっさと払って問題を解決させてしまうのが一番いいのだ。
それなのに、エミリーはまだ腑に落ちない顔をしている。
それどころか、
「ワートン公爵家を継げないアーゼルなんか価値ないもの、あたしがアーゼルをフッたのよ? なんであたしの方が慰謝料を払うの?」
と頓珍漢なことを言っている。
スピンク男爵は頭を抱えて、ふーっとため息をついた。
「とにかく、ダニエル殿との結婚はもう決まったことだから、おまえも準備しておくように。日取りはこれから調整するが、できるだけ速やかにというのが双方の希望だ。準備しておきなさい」
「んまぁ~~~~! 嫌よぅ……」
エミリーは涙目だ。
しかし、スピンク男爵はさっさと厄介者の娘をどこぞへ片づけてしまいたい一心で、エミリーの抗議は無視。聞く耳持たずにさっさと部屋を出て行ってしまった。
「困ったわねぇ」
エミリーはそう思いながらも、あんな調子の父はもう自分の言うことには耳を傾けないだろうと思った。
それで、まずは自分の味方を探そうと、まず姉のところに走って行った。
「お姉さまっ! あたし、ド田舎の堅物地味眼鏡サルヴァン男爵の後妻として嫁がされるんですって! あたしたち、王宮じゃちょっとした有名な美人姉妹だったじゃない。そんなあたしがよ? お姉さま、どう思う?」
しかし、さんざん王宮でのエミリーの醜聞にうんざりしていた姉は、エミリーを一瞥するなり、
「あなたにお似合いよ。どれだけ私たちが恥ずかしい思いをしたと思っているの。略奪愛したと思いきや、相手の男は犯罪に巻き込まれて廃嫡。いいざまだと、私まで笑われてるんですからね。スピンク男爵家の教育はどうなっているのかと私の人間性まで否定されてるのよ。まとまりかけた私の縁談まで白紙になってるの。分かる? あなた家にとって邪魔なのよ」
と吐き捨てるように言った。
こりゃあ、サルヴァン男爵との縁談にはこの姉からも後押しがあったとしか思えない言い草だ。
エミリーは悔しそうに唇を噛んだ。
「あ、あたし、悪くないもん。好きな人にたまたま婚約者がいて、その人がたまたま執事に裏切られただけだもん……。お姉さまには分かんないのよ、ばかぁ!」
そしてエミリーは次に兄のところへ行った。
「お兄様! あたし、お父様とお姉さまに家を追い出されちゃう! ド田舎のサルヴァン男爵との縁談にいったいどれほどの価値があるというの? こんなスピンク男爵家にとって無益な縁談はお兄様も望まないでしょ? 賢いお兄様なら、もっとあたしに利用価値のある縁談を組むでしょ? 華やかな名家で、スピンク男爵家をもっと繁栄させるような――」
しかし兄も、苦い顔で大きく首を横に振るだけだった。
「悪いが、今のおまえにそれだけの価値はもうないよ。ワートン公爵令息との結婚話はハラハラさせられたが、うまくいけばすごい快挙だと見守っているところはあった。しかし、案の定略奪愛の評判は悪く、しかも相手の男は管理能力なしのしょうもない男だった。おまえにまともな縁談はもう来ない。利用価値どころか家にとって迷惑でしかない。サルヴァン男爵がもらってくれるだけマシだと思え」
エミリーはがっかりした。
誰に何と言われようと自分がそんなに価値がない人間だとは思わず、父も姉も兄も、みんなして自分の本当の価値を分かっていないと思った。
エミリーはこのイライラを誰かにぶつけたいと思った。
それで、幼馴染の男友達のところへ文句を聞いてもらいに行った。
話を聞いた男友達は「へえ」と鼻で笑いながら、
「確かにおまえみたいな美人をド田舎の冴えない領主にやっちまうのはもったいねえなぁ。おまえ、いい体してるしなぁ」
と言った。
「でしょう?」
エミリーはやっと賛同者が現れたと思って嬉しくなった。
「それでどうしたらいいと思う? このままじゃ、あたし、嫁がされちゃうのよ」
「病気のフリして親戚んちに逃げれば。相手は真面目君なんだろ? ずっと体調が悪いとか言っておけば結婚の無理強いはしないだろうし、そのまま時間がたてば結婚諦めてくれるかもしれねえぞ」
「まあ! そりゃいい考えね! 持つべき者は頼りになる友達だわ」
エミリーはパアっと顔を明るくした。
「おい。ただでってわけじゃないよな? アドバイスしてやったんだ、今晩付き合えよ」
幼馴染の男は薄汚く笑った。
「もう、仕方ないわねえ。でも、このことは他言無用よ? 約束だからね?」
エミリーは屈託のない笑顔で答えた。
「エミリー! おまえという娘はまったく! 男を見る目がない上に婚約者のいる男と恋に落ちたりしくさって! もう、独身でふらふら変な男にちょっかいかけて家に迷惑をかけられても困るっ! おまえには縁談を用意したから、さっさと嫁いでおとなしくしろっ!」
スピンク男爵は素行の良くない娘を呼びつけると頭ごなしに命令した。
「えっ!?」
エミリーは、縁談を用意した?と食い入るように父を見つめた。
寝耳に水である。
しかし、基本的には男好きのエミリーのこと。縁談話自体は歓迎である。ただ肝心なのはその縁談の中身だ。
相手はどんな家柄?
イケメンでしょうね?
すると父スピンク男爵から告げられたのはたいへん惨めなものだった。
「ダニエル・サルヴァン男爵だ。領地は少し田舎になるが真面目でおとなしい男と評判だ。彼が妻を亡くし後妻を探していると聞いた。悪い縁談ではなかろう。もう決めたから嫁げ」
「ええ~っ! あたし嫌よぅ!」
エミリーは叫んだ。
サルヴァン男爵領って、お父様は少し田舎って言うけど、本当のところ北のはずれの方のすっごく田舎よ?
しかもサルヴァン男爵って、歳は30歳前で、すっごく地味で堅物で眼鏡君で、王都中央での夜会にはほとんど出席なされないし、土地柄あまり裕福ではないと聞くわ!
そんなの、思い描いていた幸せな結婚とは程遠いじゃないの!
しかも後妻? 絶対前の奥さんと比べられて厭味とか言われるんだわ。あたしみたいな美人が、地味眼鏡に厭味言われれるとか屈辱でしかない。あり得ないんですけどっ!?
すると父スピンク男爵は顔を真っ赤にして額から湯気を出さんばかりにきい~っと怒った。
「うちにどれだけ迷惑をかけたら気が済むんだ! おまえのおかげでスピンク男爵家の名は醜聞ばかりだ。アーゼル殿との婚約の件……どれだけ世間から白い目で見られていることか!」
「え、でもぉ。アーゼル様の件は、あたし、あんまり悪く無いわ! アーゼル様の執事が犯罪組織と繋がってアーゼル様のおうちのお金を盗んでたってだけで、あたしは特に関係ない……」
エミリーが「自分は悪くない!」といった姿勢で口を尖らせながら言い返すので、スピンク男爵は余計に苛立って叫んだ。
「それは分かっておる! だが、そもそもおまえの人の見る目のなさが問題だ! あんな無能のアーゼル殿を選ぶなど! しかも略奪愛で!」
まあ、スピンク男爵の気持ちも分からんでもない。
娘が、ワートン公爵家のアーゼルと恋仲になった。しかし、そのアーゼルにはリリエッタ・マクファー伯爵令嬢という婚約者がいたのだ。
あろうことか、エミリーと恋仲になったアーゼルは「好きな人ができたから」とリリエッタとの婚約を破棄した。
エミリーやスピンク男爵家にとっては運の良いことに、その婚約破棄の話はとても円満に進んだ。ワートン公爵家がマクファー伯爵家に多額の慰謝料を払って解決、ということになったのだった。
とはいえ、スピンク男爵はこの婚約破棄を神経質に見守っていた。というのは、そもそも娘エミリーがアーゼルと恋仲になったことが婚約破棄の原因なので、こちらへもマクファー伯爵家から苦情が来るかと心配していたのだ。慰謝料くらいは要求されるかもと思っていた。
幸いマクファー伯爵家は、こたびの婚約破棄はアーゼルだけに責任を負わせスピンク男爵家の方へは何も言ってこなかった。(マクファー伯爵家としては、はなから身分違いで破廉恥なエミリーの実家など相手にする気はなかったのかもしれないが。)
そんな折、アーゼルの執事によるワートン公爵家の財産盗難が起こったのだった!
この執事は王都の地下犯罪組織と繋がっていた。しかも、この奪われた財産の中にはマクファー伯爵家への慰謝料が含まれていたらしい。
そのため、リリエッタ側が事態の解明に動き出し、アーゼルの母ワートン公爵夫人もすぐさま調査に乗り出したと聞く。そしてワートン公爵夫人は事の重大さからアーゼルの管理能力の低さを激しく非難し、アーゼルは廃嫡、アーゼルの弟がワートン公爵家を継ぐことになった。
確かにエミリーの言う通り、このアーゼルの廃嫡の裏には執事の犯罪があり、エミリーが直接関係しているものではなかった。
リリエッタとの婚約破棄に対する慰謝料も狙われたという点ではほんの少しエミリーに関係がないと言えなくはないが、執事が悪事を働かなければ慰謝料は滞りなくマクファー伯爵家に支払われ、婚約破棄の問題は全て解決していたはずだ。
この財産盗難の事件に関して、エミリーが法的に咎められることはないはずなのだった。
しかし、もともとワートン公爵夫人はエミリーの略奪愛を快く思っていなかったので、アーゼルの廃嫡に合わせてエミリーとの結婚は認めないとはっきり言ったのだった。
挙句、ワートン公爵夫人の方から、「アーゼルとリリエッタの婚約期間中からエミリーはアーゼルと付き合っていたのだから、エミリーもリリエッタへの慰謝料を払うべきだ」と主張された。
スピンク男爵的には、アーゼルとリリエッタの婚約破棄のとき、マクファー伯爵家からスピンク男爵家への慰謝料は要求されなかったのだから、今更ワートン公爵夫人に慰謝料を払うべきと言われる筋合いはない。
酷い横やりである。
しかし、スピンク男爵はこれまで娘に甘すぎたとはいえ、多少の良心は持ち合わせていた。
そのため、アーゼルとエミリーの浮気が婚約破棄を引き起こしリリエッタを傷つけたという点で罪悪感を持っていたため、ワートン公爵夫人の慰謝料の提言を素直に受け入れることにしたのだった。
もちろん、名門のワートン公爵家を敵に回して破滅するのを回避したいという打算もあったが。
金だけはあるスピンク男爵家なのだから、慰謝料で済む問題ならさっさと払って問題を解決させてしまうのが一番いいのだ。
それなのに、エミリーはまだ腑に落ちない顔をしている。
それどころか、
「ワートン公爵家を継げないアーゼルなんか価値ないもの、あたしがアーゼルをフッたのよ? なんであたしの方が慰謝料を払うの?」
と頓珍漢なことを言っている。
スピンク男爵は頭を抱えて、ふーっとため息をついた。
「とにかく、ダニエル殿との結婚はもう決まったことだから、おまえも準備しておくように。日取りはこれから調整するが、できるだけ速やかにというのが双方の希望だ。準備しておきなさい」
「んまぁ~~~~! 嫌よぅ……」
エミリーは涙目だ。
しかし、スピンク男爵はさっさと厄介者の娘をどこぞへ片づけてしまいたい一心で、エミリーの抗議は無視。聞く耳持たずにさっさと部屋を出て行ってしまった。
「困ったわねぇ」
エミリーはそう思いながらも、あんな調子の父はもう自分の言うことには耳を傾けないだろうと思った。
それで、まずは自分の味方を探そうと、まず姉のところに走って行った。
「お姉さまっ! あたし、ド田舎の堅物地味眼鏡サルヴァン男爵の後妻として嫁がされるんですって! あたしたち、王宮じゃちょっとした有名な美人姉妹だったじゃない。そんなあたしがよ? お姉さま、どう思う?」
しかし、さんざん王宮でのエミリーの醜聞にうんざりしていた姉は、エミリーを一瞥するなり、
「あなたにお似合いよ。どれだけ私たちが恥ずかしい思いをしたと思っているの。略奪愛したと思いきや、相手の男は犯罪に巻き込まれて廃嫡。いいざまだと、私まで笑われてるんですからね。スピンク男爵家の教育はどうなっているのかと私の人間性まで否定されてるのよ。まとまりかけた私の縁談まで白紙になってるの。分かる? あなた家にとって邪魔なのよ」
と吐き捨てるように言った。
こりゃあ、サルヴァン男爵との縁談にはこの姉からも後押しがあったとしか思えない言い草だ。
エミリーは悔しそうに唇を噛んだ。
「あ、あたし、悪くないもん。好きな人にたまたま婚約者がいて、その人がたまたま執事に裏切られただけだもん……。お姉さまには分かんないのよ、ばかぁ!」
そしてエミリーは次に兄のところへ行った。
「お兄様! あたし、お父様とお姉さまに家を追い出されちゃう! ド田舎のサルヴァン男爵との縁談にいったいどれほどの価値があるというの? こんなスピンク男爵家にとって無益な縁談はお兄様も望まないでしょ? 賢いお兄様なら、もっとあたしに利用価値のある縁談を組むでしょ? 華やかな名家で、スピンク男爵家をもっと繁栄させるような――」
しかし兄も、苦い顔で大きく首を横に振るだけだった。
「悪いが、今のおまえにそれだけの価値はもうないよ。ワートン公爵令息との結婚話はハラハラさせられたが、うまくいけばすごい快挙だと見守っているところはあった。しかし、案の定略奪愛の評判は悪く、しかも相手の男は管理能力なしのしょうもない男だった。おまえにまともな縁談はもう来ない。利用価値どころか家にとって迷惑でしかない。サルヴァン男爵がもらってくれるだけマシだと思え」
エミリーはがっかりした。
誰に何と言われようと自分がそんなに価値がない人間だとは思わず、父も姉も兄も、みんなして自分の本当の価値を分かっていないと思った。
エミリーはこのイライラを誰かにぶつけたいと思った。
それで、幼馴染の男友達のところへ文句を聞いてもらいに行った。
話を聞いた男友達は「へえ」と鼻で笑いながら、
「確かにおまえみたいな美人をド田舎の冴えない領主にやっちまうのはもったいねえなぁ。おまえ、いい体してるしなぁ」
と言った。
「でしょう?」
エミリーはやっと賛同者が現れたと思って嬉しくなった。
「それでどうしたらいいと思う? このままじゃ、あたし、嫁がされちゃうのよ」
「病気のフリして親戚んちに逃げれば。相手は真面目君なんだろ? ずっと体調が悪いとか言っておけば結婚の無理強いはしないだろうし、そのまま時間がたてば結婚諦めてくれるかもしれねえぞ」
「まあ! そりゃいい考えね! 持つべき者は頼りになる友達だわ」
エミリーはパアっと顔を明るくした。
「おい。ただでってわけじゃないよな? アドバイスしてやったんだ、今晩付き合えよ」
幼馴染の男は薄汚く笑った。
「もう、仕方ないわねえ。でも、このことは他言無用よ? 約束だからね?」
エミリーは屈託のない笑顔で答えた。
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