婚約破棄の慰謝料が石ころだった件。あなたたぶん破滅するわよ。私は最愛の人がそばにいてくれて幸せだけど。

幌あきら

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第2章 改心しない小悪女には予定以上の制裁がお似合い!

【2.病気で療養してみる 前編】

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 幼馴染の助言で、エミリーは病気のフリをして田舎の親戚の家へ引きこもこもることにした。
 父スピンク男爵の再従妹はとこにあたる婦人が遠方の準男爵の未亡人になっているので、それがいいとエミリーは思った。
 そこなら身を隠すにはちょうどいい。
「体調が良くない」と言い続けてダニエル・サルヴァン男爵との縁談を拒否し続ければ、そのうち縁談話も自然消滅するんじゃないかしら。

「お父様、体調がすぐれないので、空気のきれいな田舎で療養するわね。お父様の再従妹はとこのクレア・トロード準男爵夫人のところに行って来るわ」

「は? エミリー、いったい何を言い出すのかね? おまえは縁談を控えてて……」

 スピンク男爵が目を丸くすると、エミリーはわざとらしく頭を押さえて見せて、
「体調が戻ったら嫁ぐわ! 今嫁いでもサルヴァン男爵に迷惑をかけるだけですから。あとはうまいこと言っておいてちょうだい」
と言った。

 体調が悪いのなら……と一瞬思った父スピンク男爵だったが、今までエミリーに甘すぎたことを反省したのを思い出し、
「まずは医者の見立てを」
と厳しい口調で言った。

 しかし、エミリーは無視だ。

 本当に体調が悪いのか?というぐらいテキパキと準備を進めると、さっさと馬車に乗り込んで、
「では、サルヴァン男爵との結婚は延期の方向でよろしく」
と父に告げ、トロード準男爵の領地の方へ旅立ってしまった。

 エミリーを迎えた未亡人のクレア・トロード準男爵夫人は、変な顔をした。
 なんでまた、こんな遠縁の都会娘がわざわざこんな田舎に滞在するのだろう? うちは貴族でもないというのに?

 しかし、根は素朴そぼくなクレア夫人は、
「まあ、これくらいの年頃の娘は何か考えていることの一つや二つあるでしょう。スピンク男爵からも扱いあぐねて困っているような便たよりをもらったことだし……。環境替えて落ち着こうとかそういいうことかしらね」
とおおらかに受け止め、受け入れることにした。

 しかし、エミリーはクレア夫人が何を思っているかなんかどうでもよかった。
 さも当然のように与えられた部屋にずかずかと入ると、リネン類を自分好みに変えさせて(※長期滞在する予定だったので)、それから屋敷の間取りなどを覚えるために、我が物顔で敷地内を歩いて回った。

 クレア夫人は「本当に病気なのかしら?」と違和感を感じたが、都会の若い貴族娘の考えは分からないと一先ひとまず放っておくことにした。

 エミリーは最初は散歩したり、ひなたぼっこをしたり、雄大な自然を相手にのんびりと過ごしていたが、そんな生活も3日できてしまった。
「クレア夫人、何か気分転換になるものある?」

「本ならたくさんありますよ。亡き夫が本好きでしたからね。色々ありますよ」

「えーっ!? あたし、本嫌いなのよねぇー」
 エミリーは露骨ろこつに嫌そうな顔をした。

 クレア夫人はびっくりした。
「なにも学術書ばかりじゃありませんよ。物語や旅行記などもありますけど」

「つまんなーいっ!」
 エミリーは眉をしかめると、ぷいっとどこかへ行ってしまった。

 クレア夫人は呆気あっけにとられる。
 そして、何か変な貴族令嬢を受け入れてしまったと、静かな苛立いらだちを胸に覚えたのだった。

 一方エミリーの方は、
「本だなんて、あたしをバカにしてんの? あたしは都会っ子よ、刺激いっぱいの王都で暮らしてたのに、本だなんて……」
とぶつくさ文句を言っている。

 本より誰かとおしゃべりする方がよっぽどいいわ、例え相手が女中じょちゅうだとしても!

 そこでエミリーは部屋の掃除に現れた若い二人の女中じょちゅうに、
「この辺の娯楽って何があるの?」
と聞いてみた。

「そうですね、本とか……」
「本はナシよ!」

 エミリーがぴしゃりとさえぎったので、二人の女中じょちゅう面食めんくらってお互い顔を見合わせたが、
「じゃあ、音楽とかですかね。たまに楽士がくしを呼んで演奏会したりするんですよ。旅の楽士がくしが訪れることもありますし」
と言った。

「まあ、旅の楽士がくし? 響きが素敵ね。イケメン?」

「イケメンの人もいますね。奥様が敷地を解放して楽士がくしの音楽会とかもうけると、近場からたくさんの人が聞きに来ますよ。イケメンの楽士がくしとかだと黄色い声援があがったりして。旅の楽士がくしの場合は各地の話もしてくれるので盛り上がります」

 女中じょちゅうがそう答えると、エミリーの目がキランと光った。
「あら、イケメンなの。それはいいわね。近々そういう音楽会の予定はないの?」

「奥様からは聞いていませんが……」

「じゃあ、あたしが開くわ。この辺の領地にイケメンの楽士がくしはいたりしない?」

「は?」

「あたし、お金はいっぱいあるもの。スピンク男爵家はお金持ちなのよ。あたしをこの地にかくまってくれてるお礼にもなるし、あたしがイケメンの音楽会を開くわ!」

 エミリーの宣言に女中じょちゅうたちはまた顔を見合わせた。
「そりゃ、まあ、私たちも嬉しいですけど。奥様に許可をいただかないと……」

「それは許可を取ったらいいわ。でもまずはイケメンオーディションね! イケメンじゃなかったら音楽会を開く意味ないもの。クレア夫人の許可はオーディションの後でいいと思うの。どれだけのイケメンかで音楽会の開催を決めるわ!」
 エミリーはふふっと笑顔を向けた。

「ええ……イケメン限定ですか? 私たちは素敵な音楽なら別にイケメンに限らないというか……」

「あたしがお金を出すんだからイケメン限定よ! それは譲れない」

「はあ……」

「オーディションにはあたしとのデート審査も入れようっと。ふふっ。楽しみになって来たわねーっ」
 エミリーはうきうきしている。

 女中じょちゅう二人はそんなエミリーの発言にドン引きしていた。
 え……この人ただの男好き?
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