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第2章 改心しない小悪女には予定以上の制裁がお似合い!
【3.病気で療養してみる 後編】
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するとそこへ女中頭のマリアが入って来た。
「ちょっと! 仕事が遅れていますよ」
二人の女中の手が止まっているのを咎めに来たのだ。
マリアは若いわりにとてもしっかりしていて、それなりの教育を受けている者のように見えた。
「ああ、すみませんっ!」
女中たちは我に返ってパッと仕事に戻った。
それから、女中頭のマリアはエミリーに向かって言った。
「少し話が聞こえてきましたが、奥様はそのようなオーディションはお認めにならないと思います。というか、エミリー様はご病気ですよね? そのようなことをしていては治るものも治らないのではないでしょうか。療養に集中して早く治さないと。縁談がお待ちと聞きましたよ」
「なぜそれを!」
エミリーはマリアを睨んだ。
忘れていたかったことなのに!
そのエミリーの様子を見て、マリアははあっとため息をついた。
「まさかとは思っていましたが、エミリー様は縁談がお嫌なのですか? それで逃げて来たとか?」
「悪い?」
エミリーが開き直って口を尖らせる。
「イケメン楽士などと騒いでおられましたが、サルヴァン男爵様は真面目でよい方と評判ですよ」
「真面目でよい方とか別にいらないの、あたし。うっとりするようなイケメンがいいの。そうでないなら唸るくらいのお金持ち。もしくは古くから伝わる名家ね。あたしに釣り合うくらいのイケメンか、あたしの持ってないものを与えてくれる人。そういうのがいいの」
エミリーはふんっと鼻を鳴らした。
それを聞くとマリアは残念そうな顔をした。
「そうは仰ってもサルヴァン男爵との結婚はもう決まったものなのでしょう。イケメン楽士なんかを探すより、少しは領地経営の勉強でもなさって、良き妻となられるよう努力なさるべきかと。少なくとも、イケメン楽士オーディションのことは奥様に報告しておきますから、あまり勝手な真似はなさらぬよう……」
「なによぅ! つまんなーいっ!」
エミリーはきーっと怒った。
そして今度はマリアに聞く。
「そもそもここは娯楽が少なすぎるのよ! クレア夫人だってからっきし社交界から離れているわけじゃないんでしょう? パーティとかないの?」
「近隣のヨランダ・ミズーリ夫人とお茶会をなさるそうですけど」
「まあ、誰が来るの?」
「ヨランダ様だけですが?」
「そーいう女だけの会じゃなくって、男の人も来るような夜会は!?」
「……」
マリアは黙っていたが、エミリーはハッといいことを思い出した。
「あっ! キルホム家の夜会は? ここらじゃ有力な商家なんでしょう? きっと華やかな夜会に違いないわ!」
「華やかではありますが、少し品のない催しもされるので奥様は距離を置いていらっしゃいます。夜会はおやめなさいませ。昼間のお茶会などには顔を出したりはいたしますが……」
マリアが慌てて止めるが、エミリーは聞く耳を持たない。
「クレア夫人はお堅いものねぇ。未亡人なんだから、そういう会に出て行って新しい相手を見つけたっていいのに。あたしが代わりに出席してトロード家として挨拶してくるわ」
「おやめくださいっ!」
マリアが必死で止めるが、エミリーは知らん顔をした。
しばらくしたある日、クレア夫人が晩餐のテーブルに着いたとき、給仕をしてくれる女中が少ないので執事に聞くと、執事は困った顔で、
「今日はエミリー様が人手が欲しいと何人か連れて行ってしまったので」
と言う。
「人手? 何かあったの?」
「それが、キルホム家の夜会に行ってしまったのです。私どもは何度もお止めしたのですが……。それに、告げ口は許さないとまで言われてしまいまして……。告げ口というのはいったいどういうことかと考えているうちに報告が遅くなりました。職務怠慢でございました、申し訳ございません」
執事は心から申し訳なさそうに深く頭を下げた。
それから、執事は胸元から数枚の紙を取り出し、
「こちらを一時的に立て替えてくれとも頼まれまして。数日以内に払うからと言うのですが」
とクレア夫人に見せた。
その紙は馬車の賃貸に関する請求書だった。
問題はその金額! いったいこんな田舎でどれほど豪華な馬車を借りたのだというくらい高額な利用料金だった。
久しぶりの夜会でエミリーは張り切り過ぎてしまったのだろう。
「こんな田舎じゃ夜会なんて頻繁に行けるものじゃないのだから、どうせなら最高級でそろえるわ! 馬車だって都会仕様でみんなの度肝を抜いてやる。あたしに相応しいってこういうことを言うのよ。スピンク男爵家を舐めるんじゃないわ」
と勢い込んでいたのだ。
「何ですか、これは!? 馬車にこんな金額? 見たことありませんよ! これをうちが立て替えるの? ばかばかしい!」
クレア夫人は苛立った。
そして、執事に、
「うちが立て替えることありません。業者にはスピンク男爵に直接請求するように言いなさい。それから、スピンク男爵にはエミリーを連れ帰るよう言います。キルホム家の破廉恥な夜会に行けるくらいならエミリー様は病気じゃありません。うちに置いておく理由はありませんからね」
と厳しい口調で言った。
「そうですね」
執事はすぐさまスピンク男爵へ連絡し、エミリーはスピンク男爵家へ連れ戻されることになったのだった。
「ちょっと! 仕事が遅れていますよ」
二人の女中の手が止まっているのを咎めに来たのだ。
マリアは若いわりにとてもしっかりしていて、それなりの教育を受けている者のように見えた。
「ああ、すみませんっ!」
女中たちは我に返ってパッと仕事に戻った。
それから、女中頭のマリアはエミリーに向かって言った。
「少し話が聞こえてきましたが、奥様はそのようなオーディションはお認めにならないと思います。というか、エミリー様はご病気ですよね? そのようなことをしていては治るものも治らないのではないでしょうか。療養に集中して早く治さないと。縁談がお待ちと聞きましたよ」
「なぜそれを!」
エミリーはマリアを睨んだ。
忘れていたかったことなのに!
そのエミリーの様子を見て、マリアははあっとため息をついた。
「まさかとは思っていましたが、エミリー様は縁談がお嫌なのですか? それで逃げて来たとか?」
「悪い?」
エミリーが開き直って口を尖らせる。
「イケメン楽士などと騒いでおられましたが、サルヴァン男爵様は真面目でよい方と評判ですよ」
「真面目でよい方とか別にいらないの、あたし。うっとりするようなイケメンがいいの。そうでないなら唸るくらいのお金持ち。もしくは古くから伝わる名家ね。あたしに釣り合うくらいのイケメンか、あたしの持ってないものを与えてくれる人。そういうのがいいの」
エミリーはふんっと鼻を鳴らした。
それを聞くとマリアは残念そうな顔をした。
「そうは仰ってもサルヴァン男爵との結婚はもう決まったものなのでしょう。イケメン楽士なんかを探すより、少しは領地経営の勉強でもなさって、良き妻となられるよう努力なさるべきかと。少なくとも、イケメン楽士オーディションのことは奥様に報告しておきますから、あまり勝手な真似はなさらぬよう……」
「なによぅ! つまんなーいっ!」
エミリーはきーっと怒った。
そして今度はマリアに聞く。
「そもそもここは娯楽が少なすぎるのよ! クレア夫人だってからっきし社交界から離れているわけじゃないんでしょう? パーティとかないの?」
「近隣のヨランダ・ミズーリ夫人とお茶会をなさるそうですけど」
「まあ、誰が来るの?」
「ヨランダ様だけですが?」
「そーいう女だけの会じゃなくって、男の人も来るような夜会は!?」
「……」
マリアは黙っていたが、エミリーはハッといいことを思い出した。
「あっ! キルホム家の夜会は? ここらじゃ有力な商家なんでしょう? きっと華やかな夜会に違いないわ!」
「華やかではありますが、少し品のない催しもされるので奥様は距離を置いていらっしゃいます。夜会はおやめなさいませ。昼間のお茶会などには顔を出したりはいたしますが……」
マリアが慌てて止めるが、エミリーは聞く耳を持たない。
「クレア夫人はお堅いものねぇ。未亡人なんだから、そういう会に出て行って新しい相手を見つけたっていいのに。あたしが代わりに出席してトロード家として挨拶してくるわ」
「おやめくださいっ!」
マリアが必死で止めるが、エミリーは知らん顔をした。
しばらくしたある日、クレア夫人が晩餐のテーブルに着いたとき、給仕をしてくれる女中が少ないので執事に聞くと、執事は困った顔で、
「今日はエミリー様が人手が欲しいと何人か連れて行ってしまったので」
と言う。
「人手? 何かあったの?」
「それが、キルホム家の夜会に行ってしまったのです。私どもは何度もお止めしたのですが……。それに、告げ口は許さないとまで言われてしまいまして……。告げ口というのはいったいどういうことかと考えているうちに報告が遅くなりました。職務怠慢でございました、申し訳ございません」
執事は心から申し訳なさそうに深く頭を下げた。
それから、執事は胸元から数枚の紙を取り出し、
「こちらを一時的に立て替えてくれとも頼まれまして。数日以内に払うからと言うのですが」
とクレア夫人に見せた。
その紙は馬車の賃貸に関する請求書だった。
問題はその金額! いったいこんな田舎でどれほど豪華な馬車を借りたのだというくらい高額な利用料金だった。
久しぶりの夜会でエミリーは張り切り過ぎてしまったのだろう。
「こんな田舎じゃ夜会なんて頻繁に行けるものじゃないのだから、どうせなら最高級でそろえるわ! 馬車だって都会仕様でみんなの度肝を抜いてやる。あたしに相応しいってこういうことを言うのよ。スピンク男爵家を舐めるんじゃないわ」
と勢い込んでいたのだ。
「何ですか、これは!? 馬車にこんな金額? 見たことありませんよ! これをうちが立て替えるの? ばかばかしい!」
クレア夫人は苛立った。
そして、執事に、
「うちが立て替えることありません。業者にはスピンク男爵に直接請求するように言いなさい。それから、スピンク男爵にはエミリーを連れ帰るよう言います。キルホム家の破廉恥な夜会に行けるくらいならエミリー様は病気じゃありません。うちに置いておく理由はありませんからね」
と厳しい口調で言った。
「そうですね」
執事はすぐさまスピンク男爵へ連絡し、エミリーはスピンク男爵家へ連れ戻されることになったのだった。
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