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第2章
無様なる推理
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岩に囲まれた洞穴は、思ったより広い空間に
なっていた。日が差さぬ内部構造に加え、雲が空を
遮る今日の天候。ルアさんの指先に灯った魔法の光
が無ければほとんど中は確認できない。崩れた隙間
から覗き込んだそこには、池のような水面と、その
奥にいくつもの棚や箱が置かれていた。
「こりゃ、巣穴を引いたかもな。もちろん、"トリトン
の"、だが」
ルアさんが皮肉混じりに言った。仕上げとばかりに
カイルの掘削作業が加速する。細かい破片を全員で
退けると、その空間が顕になった。
手前にある池のようなものはそこまで大きくない。
直径がだいたい僕の身長の2倍程度か。ため池のよう
になっているのかと思ったが、底を見ると太い亀裂
のように裂けた底面はどこまでも深く続いている。
池の周囲は人1人歩ける程度の足場があり、岩肌に
沿って奥に入れた。自然の空間に置かれた、明らかな
人工物。棚、箱、樽……それらの中には何やらよく
分からない瓶や巻物、装飾品が詰め込まれている。
「デニス、横穴や。ちょいと見てくるわ」
サグロの指す壁には、確かに天然と思われる岩の
隙間がある。それは奥まで続いており、真っ暗に
沈み込んでいた。ルアさんに「明かりは?」と聞かれ
「舐めんな」と答えるサグロ。掌の上にやや過剰な
火を灯し、奥へと歩いていった。
蓋付きの箱を開けると、中には大小様々な形の瓶。
妙な色の液体や少し発光して見えるものもある。
「これらが何なのかはわかんねぇが、まぁ、ここが
"個人用倉庫"なのは間違いねぇな。多分あまり
表に出せねぇもんなんだろうぜ」
ルアさんはイモリの黒焼きの様なモノを、汚いモノ
を持つかのように摘み上げ、呆れた顔をしていた。
カイルは棚の横に立てかけてある長細い木箱を開け、
……そして動きが固まった。
「カイル?」
ピクリとも動かず、腕を震わす彼の背中越しに、
僕とルアさんは箱の中を覗き込んだ。
…………黒い、剣。
抜き身で、やや錆が浮き、無数の深い傷の入った
全体を漆黒に染めた大きな両刃の剣。柄頭には砕けて
一部しか残っていない紫の宝石。……これは、まさか。
「カイル……"これ"なのか?」
ルアさんが体を震わすカイルの背中に手を添えた。
カイルは木箱から乱雑に剣を取り出す。周りにいる
僕らが彼の動きで弾き飛ばされた事にも気づかず。
「カイル!落ち着け!!」
叫ぶルアさんの声は届かない。彼の顔は、いつもの
穏やかで真っ直ぐなモノとは似ても似つかず、憎悪と
畏怖によって塗り固められていた。掴みあげた剣を
空中で離し、自由落下する剣身目掛けて、拳を振り
抜く。巨大なガラス板が砕け散るような耳を劈く鋭い
響音と共に、黒い剣身は砕け散った。
フーッフーッという声とも呼吸ともつかない音を
発しながら、地に落ちた剣をなお足で踏みつける
カイル。握りは折れ、鍔がひしゃげ、残っていた
剣身の先端も足により折り砕かれた。
一通りの暴力を振るい終え、拳を強く固めたまま
剣を見下ろすカイル。その背中をポンポンとルアさん
が軽く叩いた。
「…………落ち着いたか?」
「…………たぶん」
強い稲光が1つ洞穴を照らし、一瞬視界を白く染め
た。カイルの頬を伝う水滴は、恐らく外の雨のそれ
ではなかった。
・
・
・
「おい、今度はなんなんや、またけったいな音立てて。
……って、どないしたん」
砕けた剣の横に膝を抱えて座るカイル。彼は
ブツブツ「やっと1本……」と繰り返している。その頭
に手を添えるルアさん。そして腰を抜かして尻もちを
ついたままの僕。それらを見て、戻ってきたサグロ
は眉をひそめている。
「とりあえず、一旦出るぞ。もうここにいても
しょうがねぇ」
ルアさんの言葉に、何があったか把握しきって
いないサグロも思わず頷いた。
洞穴からほど近いジバル会の拠点、そこに3人と
一振で通された。サグロが何やら人に指示し、少し
して僕らの前に湯気の経つ小さな茶の器が出された。
「ケヴィオはん、すんません、ぞろぞろと」
「構わないよ、うん。客人に失礼があってはならない」
ラードラッドやヴィリの姿は見えない。ケヴィオは
両手を組んでこちらの面々の顔を見回している。
「お疲れのところすまないが、話を聞かせてもらお
うか。こちらは既に君の求めていた情報を与え始めて
いるはずだ、うん」
低く響くケヴィオの声。見つけてしまったトリトン
の個人、いや、隠し倉庫。それを素直に共有する
べきだろう。
「……ケヴィオさん。感謝します。頂いた情報で、
新しいモノを見つけました。トリトンの隠し倉庫、
心当たりはありますか?」
「ああ、噂程度には。実際にあったのかね?」
「ええ、それも、ここからすぐ近くに」
ケヴィオは背もたれに深く体を沈める。
「……分からないな。我々は"水龍の情報"を与えたはず
なのだが?何故トリトンに繋がるのかな、うん」
ルアさんが茶をすすり、タンと置く。
「そこを言及する意味はねぇだろ。そっちは殺人、
こっちは水龍。それは最初から変わってねぇ。経緯
はともかく、事件の情報出すってんだから、黙って
聞いとけよ」
強気すぎる彼女の言葉に、一瞬眉をピクつかせる
ケヴィオ。サグロがルアさんを見て歯を剥き出しに
して青筋を立てる。
「……それもそうだな、うん。失礼、倉庫の話を続け
たまえ」
僕も一口茶を頂き、喉に通す。
「……その前に確認させてください。ケヴィオさん。
あなたはトリトンの殺された現場を見ていますよね。
その時、何か気づいたことはありますか?」
「さて、なんのことかな」
「彼の部屋には、壊れた商品や薬瓶などが散乱して
いたと、とある人から聞きました。今回倉庫を発見
して確信しましたが、彼は通常の取引とは別口の
商売を行っていた形跡があります」
ケヴィオは視線でサグロに「本当か?」とでも
言うように合図した。
「え、ええ、確かに倉庫には、よう分からんモンが
色々ありましたわ。場所は断崖の洞穴の中でして、
横穴が近くの森につながっとりました。出入り口は
周りに紛れるように、軽う偽装されとりましたわ」
動機まではよく分からない。でも僕は、既に十中
八九、犯人がわかっている。あとは確信だけなんだ。
扉を開き、ずぶ濡れのヴィリが入ってきた。走って
来たのか、ぜえはあと荒い呼吸をしている。
「……あんたたち、なんでここに居るのよ。宿まで
行った私が馬鹿みたいじゃない」
その口ぶりを聞いて、彼女が既に調査を終えた
のだとわかった。宿に僕らがいないもんだから、一旦
拠点に戻ってきたということか。
「ヴィリ。話の途中だ。あまり客人に無様なところを
見せるな、うん」
彼女は「すみません」と一言断り、僕に言う。
「あんたの言う通りだったわよ」
僕はここ世の中で小さくガッツポーズをすると、
ヴィリにお礼を言って、再びケヴィオの圧力に
向き直った。
「ケヴィオさん。先程の質問の答えをまだ、頂けて
いません。トリトンの室内にあった商品、何か
気づいた事はありませんか。心当たりがあれば
教えて欲しいのです」
ケヴィオは葉巻を手に取り、サグロが慌てて火を
点けに行く。サグロの掌に大きめに上がった炎に眉を
ピクつかせたケヴィオは、点火された葉巻を咥えた
まま、サグロの頭をべしっと叩く。
「……トリトンの部屋で割れていた瓶。あれは、あまり
良くない薬だ。以前、一時期他所で出回って、治安が
脅かされたモノとよく似ている。表面的には、服用者
の体力、筋力、認識力を爆発的に増大させるものだ。
……表面上は、な、うん」
増強薬、ということか。あまり良くないというの
なら、何かしらの副作用があるのか。禁止薬のような
ものが、トリトンの部屋にあった。それは安易に
口にはできなくて当然だ。治安維持をてっぺんに
据えるジバル会としては。
そして、これでだいたい揃った。僕は席を立つ。
「……お足元はよろしくありませんが、犯人を確保
しに行きましょう。ご一緒に、如何ですか?」
・
・
・
目的の人物は街の人に聞くとすぐに見つかった。
ここは僕らとは別の、海岸近くの宿。雨を避ける為
か、彼らは併設された酒場でテーブルを囲んでいる。
その横にはラードラッド。何やらその人物たちと話を
していたようだ。突然現れたずぶ濡れの6人に、
アルフ、ミーティア、ダンクの3人も驚いている。
主要な人物が、ほぼ一堂に会した。生憎、僕は
ドラマや小説の探偵のように、華麗な推理ショーなど
できるはずもない。わかっていること、考えうる事を
話し、あとは相手がどう出るかを見守る他ない。
「おお、デニス君だったな!どうした、随分お揃いで」
彼の爽やかな声が、場違いに響く。ラードラッドは
彼と話をしていたようだが、一体何を話していたの
だろうか。その答えはアルフが勝手に話してくれた。
「この人にさっき注意されてたんだ!俺様が不注意で
いくつも壺を割ってしまってね」
何か、妙ににこやかなアルフ。それが注意をされて
いた者の態度だろうか。とりあえず、単刀直入に
まずは伝えなければ。
「……アルフさん。トリトンを殺めたのは、あなた
ですよね」
場の空気が凍る。ミーティアとダンクの顔が青ざめ
アルフはなおにこやかに笑っている。
「何を言い出すんだい?デニス君」
彼の顔が満面の笑みなのが、逆に気持ち悪い。だが
ケヴィオのような威圧感は無い。僕は考えを順を
追って話すことにした。
「トリトンは、禁止された薬や危険な道具を取り扱う
裏の顔がありました。彼の隠し倉庫を見つけ、それは
ほぼ確実です。彼の元には定期的に会いに来るお得意
さんがいたそうです。あなたもその1人ですね?」
ピエラと子供たちの喧嘩をヴィリが仲裁ようとして
いたあの時、アルフが現れ、別れ際にヴィリから
アルフたちが時々ザバンを訪れる話を聞いている。
アルフは英雄的傭兵として近隣に知れ渡っているが、
ならなぜ大した理由もなくザバンを訪れるのか。
「……まぁ、寄った時には大抵会いに行ってたよ。
だって俺様太客だから!」
「それだけ彼の商品が魅力的、という事ですか?」
「そうそう!彼が扱ってる……えっと、なんだっけ」
トリトンが表向きに扱っていた品は、宿の女将さん
が言っていた。装飾品や、難しい薬の素材。
"薬その物"では無い。装飾品にしても、別に魔法の
装備品という訳では無い。武器や防具を扱っている
訳でもないし、もし治癒の水薬などが欲しいのなら、
わざわざトリトンを尋ねる理由にはならない。
そもそもアルフは、トリトンの表向きの商売を知って
いるのだろうか。
「多分、表向きの商品は、あなたが求めるような物は
ほとんど無いはずです。でもあなたは太客なんです
よね?」
「あー、えーっと」
何か、アルフの様子が変だ。顔こそ笑顔を崩して
ないが、手が震えている。ラードラッドが何かを
察して席を立ち、ケヴィオの近くに陣取った。
「……ヴィリさんにちょっと調べてもらいました。
アルフさん。あなたが今回ザバンに到着したのは、
ピエラ達と接触したあの日、つまりトリトンが
亡くなる前日ですね」
「ああ、そうだ。それがどうかしたかなー?」
ピエラの地雷を踏み抜いた時、彼は彼女に
突き飛ばされ、尻もちをついた。だが、次の日に
会った彼は、綺麗だった。綺麗すぎたのだ。胸鎧が
輝くほどに。
「あの時汚れた衣服、綺麗になってましたね。旅から
ザバンに到着した当日は、それ以外も随分汚れて
いたはずです」
その場にいる人々が、アルフのピカピカな容姿に
注目する。当のアルフは何も気にしていない。
「そりゃ、汚れたら洗うでしょ。だって汚いし」
「服は確かにそうかもしれません。……でも、武器も、
その時一緒に洗ったんですか?あなたの武器だけを」
「……あー?」
「あなたが僕を容疑者と指さした時。つまり事件が
発覚したその日、ミーティアさんの杖は、よく使い
込まれて、使用感がしっかり残ったままでした。
ですがアルフさんの剣は、"日を照り返すほどに"
綺麗でした。持ち手までですよ?旅をして来て、
ザバン到着次の日に。服装自体は変わっていない
事を考えると、"洗濯"したわけではなく、ミーティア
さんの"浄化"で綺麗にして貰ったんじゃない
ですか?」
これも既に聞いたことだ。ミーティアの得意分野は
治癒や浄化。アルフの剣や衣服だけ浄化し、
ミーティアが自分の衣服や武器を浄化しないとは
考えにくいのではないか。常に一緒に居る仲間なら、
その辺に偏りが出れば臭いや汚れが相対的に気に
なってしまう。汚れたカイルをルアさんが指摘する
ように。また、僕やルアさんのあまり気にしていない
カイルの臭いは、外部であるヴィリだと気になって
しまうように。
ミーティアは、今更自分の杖を背中側に隠そう
としている。その行動には意味は無い。
「あなた"だけ"浄化してもらったのは、そのままでは
"表に出られないほど"汚れてしまったから、では
ありませんか?……例えば、トリトンの血などで」
これらは当然、科学的な捜査や言い逃れできない
物的証拠には程遠い。ガンドの件も有耶無耶だ。
でも大事なのは、この場にいる人達が、それを
聞いて"どう思うか"だ。さて、どう動くだろうか。
「あー……あぁー……」
アルフの震えは身体中に及んでいる。仲間である
はずのミーティアやダンクまでもが僅かに距離をとり
始めた。その様子を見て、後ろからそっとケヴィオが
僕に耳打ちする。
「……気をつけたまえ。増強剤は中毒性がある。
禁断症状として、錯乱と"凶暴化"が確認されている
からな、うん」
……そういう事は、早めに教えてくれませんかね?
なっていた。日が差さぬ内部構造に加え、雲が空を
遮る今日の天候。ルアさんの指先に灯った魔法の光
が無ければほとんど中は確認できない。崩れた隙間
から覗き込んだそこには、池のような水面と、その
奥にいくつもの棚や箱が置かれていた。
「こりゃ、巣穴を引いたかもな。もちろん、"トリトン
の"、だが」
ルアさんが皮肉混じりに言った。仕上げとばかりに
カイルの掘削作業が加速する。細かい破片を全員で
退けると、その空間が顕になった。
手前にある池のようなものはそこまで大きくない。
直径がだいたい僕の身長の2倍程度か。ため池のよう
になっているのかと思ったが、底を見ると太い亀裂
のように裂けた底面はどこまでも深く続いている。
池の周囲は人1人歩ける程度の足場があり、岩肌に
沿って奥に入れた。自然の空間に置かれた、明らかな
人工物。棚、箱、樽……それらの中には何やらよく
分からない瓶や巻物、装飾品が詰め込まれている。
「デニス、横穴や。ちょいと見てくるわ」
サグロの指す壁には、確かに天然と思われる岩の
隙間がある。それは奥まで続いており、真っ暗に
沈み込んでいた。ルアさんに「明かりは?」と聞かれ
「舐めんな」と答えるサグロ。掌の上にやや過剰な
火を灯し、奥へと歩いていった。
蓋付きの箱を開けると、中には大小様々な形の瓶。
妙な色の液体や少し発光して見えるものもある。
「これらが何なのかはわかんねぇが、まぁ、ここが
"個人用倉庫"なのは間違いねぇな。多分あまり
表に出せねぇもんなんだろうぜ」
ルアさんはイモリの黒焼きの様なモノを、汚いモノ
を持つかのように摘み上げ、呆れた顔をしていた。
カイルは棚の横に立てかけてある長細い木箱を開け、
……そして動きが固まった。
「カイル?」
ピクリとも動かず、腕を震わす彼の背中越しに、
僕とルアさんは箱の中を覗き込んだ。
…………黒い、剣。
抜き身で、やや錆が浮き、無数の深い傷の入った
全体を漆黒に染めた大きな両刃の剣。柄頭には砕けて
一部しか残っていない紫の宝石。……これは、まさか。
「カイル……"これ"なのか?」
ルアさんが体を震わすカイルの背中に手を添えた。
カイルは木箱から乱雑に剣を取り出す。周りにいる
僕らが彼の動きで弾き飛ばされた事にも気づかず。
「カイル!落ち着け!!」
叫ぶルアさんの声は届かない。彼の顔は、いつもの
穏やかで真っ直ぐなモノとは似ても似つかず、憎悪と
畏怖によって塗り固められていた。掴みあげた剣を
空中で離し、自由落下する剣身目掛けて、拳を振り
抜く。巨大なガラス板が砕け散るような耳を劈く鋭い
響音と共に、黒い剣身は砕け散った。
フーッフーッという声とも呼吸ともつかない音を
発しながら、地に落ちた剣をなお足で踏みつける
カイル。握りは折れ、鍔がひしゃげ、残っていた
剣身の先端も足により折り砕かれた。
一通りの暴力を振るい終え、拳を強く固めたまま
剣を見下ろすカイル。その背中をポンポンとルアさん
が軽く叩いた。
「…………落ち着いたか?」
「…………たぶん」
強い稲光が1つ洞穴を照らし、一瞬視界を白く染め
た。カイルの頬を伝う水滴は、恐らく外の雨のそれ
ではなかった。
・
・
・
「おい、今度はなんなんや、またけったいな音立てて。
……って、どないしたん」
砕けた剣の横に膝を抱えて座るカイル。彼は
ブツブツ「やっと1本……」と繰り返している。その頭
に手を添えるルアさん。そして腰を抜かして尻もちを
ついたままの僕。それらを見て、戻ってきたサグロ
は眉をひそめている。
「とりあえず、一旦出るぞ。もうここにいても
しょうがねぇ」
ルアさんの言葉に、何があったか把握しきって
いないサグロも思わず頷いた。
洞穴からほど近いジバル会の拠点、そこに3人と
一振で通された。サグロが何やら人に指示し、少し
して僕らの前に湯気の経つ小さな茶の器が出された。
「ケヴィオはん、すんません、ぞろぞろと」
「構わないよ、うん。客人に失礼があってはならない」
ラードラッドやヴィリの姿は見えない。ケヴィオは
両手を組んでこちらの面々の顔を見回している。
「お疲れのところすまないが、話を聞かせてもらお
うか。こちらは既に君の求めていた情報を与え始めて
いるはずだ、うん」
低く響くケヴィオの声。見つけてしまったトリトン
の個人、いや、隠し倉庫。それを素直に共有する
べきだろう。
「……ケヴィオさん。感謝します。頂いた情報で、
新しいモノを見つけました。トリトンの隠し倉庫、
心当たりはありますか?」
「ああ、噂程度には。実際にあったのかね?」
「ええ、それも、ここからすぐ近くに」
ケヴィオは背もたれに深く体を沈める。
「……分からないな。我々は"水龍の情報"を与えたはず
なのだが?何故トリトンに繋がるのかな、うん」
ルアさんが茶をすすり、タンと置く。
「そこを言及する意味はねぇだろ。そっちは殺人、
こっちは水龍。それは最初から変わってねぇ。経緯
はともかく、事件の情報出すってんだから、黙って
聞いとけよ」
強気すぎる彼女の言葉に、一瞬眉をピクつかせる
ケヴィオ。サグロがルアさんを見て歯を剥き出しに
して青筋を立てる。
「……それもそうだな、うん。失礼、倉庫の話を続け
たまえ」
僕も一口茶を頂き、喉に通す。
「……その前に確認させてください。ケヴィオさん。
あなたはトリトンの殺された現場を見ていますよね。
その時、何か気づいたことはありますか?」
「さて、なんのことかな」
「彼の部屋には、壊れた商品や薬瓶などが散乱して
いたと、とある人から聞きました。今回倉庫を発見
して確信しましたが、彼は通常の取引とは別口の
商売を行っていた形跡があります」
ケヴィオは視線でサグロに「本当か?」とでも
言うように合図した。
「え、ええ、確かに倉庫には、よう分からんモンが
色々ありましたわ。場所は断崖の洞穴の中でして、
横穴が近くの森につながっとりました。出入り口は
周りに紛れるように、軽う偽装されとりましたわ」
動機まではよく分からない。でも僕は、既に十中
八九、犯人がわかっている。あとは確信だけなんだ。
扉を開き、ずぶ濡れのヴィリが入ってきた。走って
来たのか、ぜえはあと荒い呼吸をしている。
「……あんたたち、なんでここに居るのよ。宿まで
行った私が馬鹿みたいじゃない」
その口ぶりを聞いて、彼女が既に調査を終えた
のだとわかった。宿に僕らがいないもんだから、一旦
拠点に戻ってきたということか。
「ヴィリ。話の途中だ。あまり客人に無様なところを
見せるな、うん」
彼女は「すみません」と一言断り、僕に言う。
「あんたの言う通りだったわよ」
僕はここ世の中で小さくガッツポーズをすると、
ヴィリにお礼を言って、再びケヴィオの圧力に
向き直った。
「ケヴィオさん。先程の質問の答えをまだ、頂けて
いません。トリトンの室内にあった商品、何か
気づいた事はありませんか。心当たりがあれば
教えて欲しいのです」
ケヴィオは葉巻を手に取り、サグロが慌てて火を
点けに行く。サグロの掌に大きめに上がった炎に眉を
ピクつかせたケヴィオは、点火された葉巻を咥えた
まま、サグロの頭をべしっと叩く。
「……トリトンの部屋で割れていた瓶。あれは、あまり
良くない薬だ。以前、一時期他所で出回って、治安が
脅かされたモノとよく似ている。表面的には、服用者
の体力、筋力、認識力を爆発的に増大させるものだ。
……表面上は、な、うん」
増強薬、ということか。あまり良くないというの
なら、何かしらの副作用があるのか。禁止薬のような
ものが、トリトンの部屋にあった。それは安易に
口にはできなくて当然だ。治安維持をてっぺんに
据えるジバル会としては。
そして、これでだいたい揃った。僕は席を立つ。
「……お足元はよろしくありませんが、犯人を確保
しに行きましょう。ご一緒に、如何ですか?」
・
・
・
目的の人物は街の人に聞くとすぐに見つかった。
ここは僕らとは別の、海岸近くの宿。雨を避ける為
か、彼らは併設された酒場でテーブルを囲んでいる。
その横にはラードラッド。何やらその人物たちと話を
していたようだ。突然現れたずぶ濡れの6人に、
アルフ、ミーティア、ダンクの3人も驚いている。
主要な人物が、ほぼ一堂に会した。生憎、僕は
ドラマや小説の探偵のように、華麗な推理ショーなど
できるはずもない。わかっていること、考えうる事を
話し、あとは相手がどう出るかを見守る他ない。
「おお、デニス君だったな!どうした、随分お揃いで」
彼の爽やかな声が、場違いに響く。ラードラッドは
彼と話をしていたようだが、一体何を話していたの
だろうか。その答えはアルフが勝手に話してくれた。
「この人にさっき注意されてたんだ!俺様が不注意で
いくつも壺を割ってしまってね」
何か、妙ににこやかなアルフ。それが注意をされて
いた者の態度だろうか。とりあえず、単刀直入に
まずは伝えなければ。
「……アルフさん。トリトンを殺めたのは、あなた
ですよね」
場の空気が凍る。ミーティアとダンクの顔が青ざめ
アルフはなおにこやかに笑っている。
「何を言い出すんだい?デニス君」
彼の顔が満面の笑みなのが、逆に気持ち悪い。だが
ケヴィオのような威圧感は無い。僕は考えを順を
追って話すことにした。
「トリトンは、禁止された薬や危険な道具を取り扱う
裏の顔がありました。彼の隠し倉庫を見つけ、それは
ほぼ確実です。彼の元には定期的に会いに来るお得意
さんがいたそうです。あなたもその1人ですね?」
ピエラと子供たちの喧嘩をヴィリが仲裁ようとして
いたあの時、アルフが現れ、別れ際にヴィリから
アルフたちが時々ザバンを訪れる話を聞いている。
アルフは英雄的傭兵として近隣に知れ渡っているが、
ならなぜ大した理由もなくザバンを訪れるのか。
「……まぁ、寄った時には大抵会いに行ってたよ。
だって俺様太客だから!」
「それだけ彼の商品が魅力的、という事ですか?」
「そうそう!彼が扱ってる……えっと、なんだっけ」
トリトンが表向きに扱っていた品は、宿の女将さん
が言っていた。装飾品や、難しい薬の素材。
"薬その物"では無い。装飾品にしても、別に魔法の
装備品という訳では無い。武器や防具を扱っている
訳でもないし、もし治癒の水薬などが欲しいのなら、
わざわざトリトンを尋ねる理由にはならない。
そもそもアルフは、トリトンの表向きの商売を知って
いるのだろうか。
「多分、表向きの商品は、あなたが求めるような物は
ほとんど無いはずです。でもあなたは太客なんです
よね?」
「あー、えーっと」
何か、アルフの様子が変だ。顔こそ笑顔を崩して
ないが、手が震えている。ラードラッドが何かを
察して席を立ち、ケヴィオの近くに陣取った。
「……ヴィリさんにちょっと調べてもらいました。
アルフさん。あなたが今回ザバンに到着したのは、
ピエラ達と接触したあの日、つまりトリトンが
亡くなる前日ですね」
「ああ、そうだ。それがどうかしたかなー?」
ピエラの地雷を踏み抜いた時、彼は彼女に
突き飛ばされ、尻もちをついた。だが、次の日に
会った彼は、綺麗だった。綺麗すぎたのだ。胸鎧が
輝くほどに。
「あの時汚れた衣服、綺麗になってましたね。旅から
ザバンに到着した当日は、それ以外も随分汚れて
いたはずです」
その場にいる人々が、アルフのピカピカな容姿に
注目する。当のアルフは何も気にしていない。
「そりゃ、汚れたら洗うでしょ。だって汚いし」
「服は確かにそうかもしれません。……でも、武器も、
その時一緒に洗ったんですか?あなたの武器だけを」
「……あー?」
「あなたが僕を容疑者と指さした時。つまり事件が
発覚したその日、ミーティアさんの杖は、よく使い
込まれて、使用感がしっかり残ったままでした。
ですがアルフさんの剣は、"日を照り返すほどに"
綺麗でした。持ち手までですよ?旅をして来て、
ザバン到着次の日に。服装自体は変わっていない
事を考えると、"洗濯"したわけではなく、ミーティア
さんの"浄化"で綺麗にして貰ったんじゃない
ですか?」
これも既に聞いたことだ。ミーティアの得意分野は
治癒や浄化。アルフの剣や衣服だけ浄化し、
ミーティアが自分の衣服や武器を浄化しないとは
考えにくいのではないか。常に一緒に居る仲間なら、
その辺に偏りが出れば臭いや汚れが相対的に気に
なってしまう。汚れたカイルをルアさんが指摘する
ように。また、僕やルアさんのあまり気にしていない
カイルの臭いは、外部であるヴィリだと気になって
しまうように。
ミーティアは、今更自分の杖を背中側に隠そう
としている。その行動には意味は無い。
「あなた"だけ"浄化してもらったのは、そのままでは
"表に出られないほど"汚れてしまったから、では
ありませんか?……例えば、トリトンの血などで」
これらは当然、科学的な捜査や言い逃れできない
物的証拠には程遠い。ガンドの件も有耶無耶だ。
でも大事なのは、この場にいる人達が、それを
聞いて"どう思うか"だ。さて、どう動くだろうか。
「あー……あぁー……」
アルフの震えは身体中に及んでいる。仲間である
はずのミーティアやダンクまでもが僅かに距離をとり
始めた。その様子を見て、後ろからそっとケヴィオが
僕に耳打ちする。
「……気をつけたまえ。増強剤は中毒性がある。
禁断症状として、錯乱と"凶暴化"が確認されている
からな、うん」
……そういう事は、早めに教えてくれませんかね?
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家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
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−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
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試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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