クリスマスプレゼント

天宮紫雨斗

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クリスマス 夜の街に出掛ける二人

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「うーん。これ、大丈夫かな。似合ってるかな。」
何度も自分の身の丈程ある鏡の前で、今の格好を確かめる。陽菜ひなはつい先日、告白され付き合った同い年の彼氏と、初めてのクリスマスデートの約束をして、今日、遂にそのデートの日当日となって焦ってしまっている。
服は似合っているのか。メイクはばっちりか。そしてそのメイクは濃すぎないか。髪はしっかり整っているか。
そんな外見の事を確かめているうちに、気が付けば約束の時間三十分前になった。そろそろ出ないと約束の時間に待ち合わせ場所に着かない。用意していたバッグを持ち、颯爽さっそうと玄関へ向かう。
「ちょっと陽菜~?忘れ物無いの~?」
台所に居るお母さんから、大声で尋ねられる。
「あ~うん!大丈夫!・・・多分。じゃあ、行ってくるね。」
そうして、初のデートに胸をドキドキさせながら、最寄りの駅へと向かう。

「ねえ~お兄さん~?今暇~?」
「・・・え?全然暇じゃないっすけど。」
厚化粧をした女性が二人、男に話しかけに来た。それに対して、男は淡白な返答をした。
「嘘だ~!だってもうかれこれ三十分はここにいるでしょ?こんな寒いのに。」
「まあはい、そっすね。」
スマホでSNSを見ながら適当に返す男。
「待ってるの彼女~?そんなに待たせる彼女とか、別れた方が良くない?」
「あの、別にそういうことは、赤の他人の貴女方には関係無い事・・・」
男は苛立ちを見せ、スマホをポケットに入れてその女性二人の方を向く。すると、
「あっ!ごめんなさい。」
ダッダッダッ
その奥に自分の待っていた女性が居たのに気付き、走って駆け寄った。
「あっ、ごめん。話の途中だったりした?」
「いや?別に?それより時間は有限だから、さっさと行こっか。」
男はすぐにここから離れたくて、仕方がなかった。
この男、もとい、陽菜の彼氏の優斗ゆうとはよくナンパされる程のイケメンで、こういった事に心底うんざりしていた。
あの待ち合わせ場所から少し離れた場所で、
「優くん。あの人達知り合い?」
「いいや?全然話した事ないや。」
「えっと、それじゃあ、もしかして・・・ナンパ?」
優斗は一瞬、陽菜がそんな事言ったと放心状態のようになったが、すぐに笑ってしまった。
「え、どうして笑うの?」
「だって、陽菜がそんな事言うんだってちょっとビックリしただけだよ。」
優斗の中で、陽菜はそんな事も言えないような純真無垢な少女だと勝手に決めつけていたが、実際はそうでも無かったようだ。
「それで、ほんとにナンパだったの?」
「ん~いや、どうだろうな。実際。」
「ふーん。そうなんだ。」
優斗は内心笑みを浮かべながら、というか、もはや笑みを表情に出しながら、
「え、それって何?嫉妬?」
「いや、その、あの人達、可愛かったなあって。」
優斗の笑顔が少し消えた。二人の空気が暗くなったのを察知したのか、
「いや、その、えっと、ご、ごめん、なさい!今まで男の人と付き合ったこととかなくて、だから、その・・・」
「ここだ!」
「・・・え?」
さっきまで話していなかったのにいきなり話し出したのでビックリしていると、
「最初に来るところだよ。ここで、クリスマスプレゼントを買う。」
優斗に笑みが戻っていた。どうやらさっきの事は、陽菜の声が小さくて聞こえていなかったようだった。
中に入る。中はクリスマス仕様になっていて、赤と白が主体で様々なアクセサリーが飾られ、そして何より、大勢のカップルで賑わっていた。
「うわぁ、すっごい」
「そうだろ?それでな?もう決まってるんだ。買うの。・・・売り切れてないよな~」
予約とか無いのかなと陽菜は内心感じたが、それよりもそのプレゼントを探している時の優斗の横顔に見とれてしまっていた。
「おっ、あったぞ!じゃーん!」
優斗の手には、マフラーと髪留めがあった。
「マフラーは分かるけどさ、なんで髪留め?」
「だって陽菜、前髪長いじゃん。絶対上げた方がいいって。」
「え。嫌だよ。おでこ出すの。」
「なんで」
「恥ずかしいから」
「頼む!一生のお願い!今日一日だけでいいから付けてくれ!」
「今日一日しか付けないものをクリスマスプレゼントなんてそんなのだめでしょ。」
「お願い!」
「うーん」
陽菜は少し、いやかなり考えた後、
「・・・分かったよ。今日だけね?」
「やったあ!」
そうして購入し、店を出た後すぐ、
「それじゃ、付けよっか。」
「え、今すぐ?」
「当たり前だろ~?」
店の前のベンチで渋々付ける陽菜。
「ど、どう?ご期待に添えるといいんだけど。」
陽菜は優斗が言っていたように、今まで伸ばしてきた前髪を上げるようにして上に留める。ポンパドゥールというやつだ。
「・・・」
「え、あの、何か反応してよ。」
「・・・あ、ごめん。ちょっと可愛すぎて反応出来なかった。」
それを言われ、恥ずかしくなったのか、顔を逸らす。
「い、いきなりそんな事言わないでよ!」
「いや無理だろ流石に・・・」
クスクスと笑う優斗を背にし、陽菜は顔を伏せることしか出来なかった。が、実際は嬉しくてしょうがなかった。
「よし!それじゃ次のとこ行くか!」
「うん、って、え!?」
優斗は陽菜の手を握って引っ張って歩き出した。
「ちょ、ちょっと!?」
「周りのカップルの量が増えたから。」
「いや!全然間空いてるし!」
「いいから。そういうことにしてさ。」
優斗は、背を向けながらそう言った。陽菜は心臓が胸を突き破りそうなくらい、身体の中で鼓動していた。
「じゃあ次は、ここだ!」
今度はイタリア料理の店だった。
「ここ?夜ご飯ってこと?」
「逆に夜にここ来て他何するんだよ。」
「・・・バイト?」
「もはやデートじゃないなそれは。金稼ぎに来とる。」
中に入り、席に着く。
「そういえばここ、久しぶりに来たな~。」
「そうなんだ。久しぶりだったのか。」
「ここ好きなんだよね。」
「おう、知ってるぞ。」
驚きの返答に陽菜は動揺した。
「え、何?ストーカーだったりした?」
「違うわ!陽菜が去年言ったんだろうが!」
陽菜は全く記憶が無かった。が、すぐに思い出す。
「あ、ああ~。って、よく覚えてるね。」
「そりゃまあ、君のことならなんでも。」
「うわぁ、きもい」
「傷付くなぁ」
「ふふっ、冗談だよ。」
注文する。優斗はステーキ、陽菜はスパゲティを頼んだ。スパゲティは必然的にステーキより早く来るので、陽菜が先に食べ始めた。
「・・・何?なんか付いてる?」
「いや?何も。」
「・・・」
「・・・」
「ちょっと恥ずかしいんだけど。」
「今日だけなんだろ?その髪型。なら今のうちに見納めしても良くないか?」
「・・・その為にステーキにしたっていうのは?」
「いやそれは考えついてなかった。」
その後すぐにステーキが運ばれた。そして、何故か優斗の方が早く食べ終えた。
会計に向かう。
「あっ、私も払うよ!・・・って、え。」
「どうした?」
「財布・・・忘れた。どうしよう。」
母の言葉を思い返す。あそこで確認しておけば、もしかしたらまだ間に合っていたかもしれない。外見より大事なことがあっただろうと。だが、
「なんだよ、そんなことか。別に盗まれたとかじゃないんだろ?」
「え?う、うん。」
「ならいいじゃん。てか、元々払わせる気無かったし。」
「いやそんな、申し訳ないよ。」
「こっちに言わせてみれば、払わせる方が申し訳無いんだよ。だから心配すんな。」
「・・・分かった。でも、それなら今度何か奢るから。それでチャラね。」
「わかった。じゃあ葬式代まで取っとくわ。」
本当に意味のわからないジョークだった。

「ふぅ、食べた食べた。」
「そうだね。」
「美味しかった?」
「うん!満足。」
「そりゃよかった。」
「・・・うわぁ、すっごく綺麗だね。」
辺りを見渡すと、イルミネーションはとても煌びやかにライトアップされていて、目を奪われた。
「ねえ。」
「どうした?」
「ほんとにさ、ほんとに私なんかで良かったのかな。」
今までゆっくり歩いていた足を、優斗は止めた。
「どういう事?」
「自分でも分かってるの、今日一日一緒にいて、カッコよくて、優しいって。もっと色々あるよ。でも、」
「でも?」
「私には何も無いんだよ。君ほど優しくもなければ、君ほど外見が良くもない。他と比べたら私はブスだし。」
「それで?」
「だから、だから・・・」
陽菜は堪えていた涙が溢れ出るのを止めるように、目に手を当てた。優斗のくれたマフラーに、その両手で抑えきれなかった涙が落ちる。
「それじゃあ、今度は俺が今日一日君といて、思ったことを言うね。」
優斗は少し考えた後、
「・・・ごめん。全然深いこと言えないけど、一つだけ言うなら、陽菜と付き合って良かったってことかな」
「・・・え?」
「正直に言うとな、俺バカだから、陽菜みたいに好きな人の好きなところなんて、ぽんぽん言えないんだ。だから陽菜の好きなところなんて、全然言えないかもしれない。」
涙の溜まった、赤く充血した目で、陽菜は優斗を見上げた。
「でも、一つだけ言える。好きなんだ。」
陽菜にまたあの心臓の鼓動が戻ってきてしまった。あの、張り裂けそうな、胸の痛みが。
「俺の中じゃ、陽菜が一番なんだ。それで言うなら、陽菜が自分のこと、他より劣ってるとかは違う。俺の中じゃ、陽菜が一番可愛くて、一番優しい。そう思ってる。」
「・・・うん」
「だからそんなに自分を卑下しないでくれ。」
「・・・変だよ。私の事、そんな風に思ってるなんて。」
「変にしたのはそっちだろ。だから責任取ってくれ。」
「嫌だよ。かっこいい人の隣にいるこっちの事も考えてよ。」
涙でマフラーの表面はもうビショビショになってしまっている。
「とりあえず座ろう。座って落ち着こ。」
座っている間も、優斗は陽菜の背中をさすっていた。
「ん。もう大丈夫。」
「そっか、それじゃあさ。」
「・・・何?」
「最後に、写真撮ろうよ。二人で。」
「・・・嫌。君一人で撮りなよ。私、撮ってあげるから。」
「それこそ嫌だよ。」
「なんで?」
「陽菜がいなきゃ意味無いだろ。もうこれからの写真は陽菜が写ってないと撮らないからな。」
「おかしいって。」
「今、夜街をイルミネーションが照らしてるだろ?俺にとって陽菜はイルミネーションなんだ。君がいないと暗すぎて、そんな写真何の価値もない。だからお願い。」
「・・・分かったよ。」
「じゃあいくよ。はい、チーズ」
パシャ
「おっ、いい写真撮れたじゃん!君もいい表情だし、って、何やって」
パシャ
「ふふっ、優くんがその写真見てはしゃいでるとこ撮っちゃった。」
「なんだよ。さっきとは大違いだな。」
「驚いた?・・・決めたんだよ。」
「何を?」
「私も決めた。私にとって、優くんは鏡だよ。」
「なんで鏡なんだよ。」
「ふふっ、内緒!」
だって、君が笑って、私を引っ張って、優しく微笑んで、
そうしたら私は、その度にきっと、君のおかげで変われるから。
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