リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)

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第ニ期 41話~80話

第六十七話 大図書館遺跡②

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 玄関ホールから通路を奥へすすむと、瓦礫と岩が山のように堆積している場所に出た。ここはとても大きな部屋だったようだが、中央の天井と岩盤が大きく崩落していて、部屋の大部分はその下敷きになっている。崩れた天井に空いた小さい穴から外の光が差し込んで、部屋は薄ぼんやり明るくなっている。

 部屋の中央部分は瓦礫と岩で完全に埋まっていたが、壁際には人が通れるほどの空間がわずかに残されていて、俺たちは壁際に沿って奥へ進んだ。ここは図書室だったらしく、床には瓦礫に混じって壊れた本棚と古い書物がいくつか散らばっている。ラベロンは床にしゃがみこむと書物をいくつか調べて言った。

「このあたりは、一般人向けの図書の閲覧室だったようじゃな。一般教養や趣味娯楽に関する本が保管されておったようじゃ。重要な書物は、もっと奥の部屋に厳重に保管されておるはずじゃ」

 俺は落ちている書物を一冊、手にとってみた。表紙も中身もすべてエルフ文字で書かれているらしく、まったく読めない。ルミアナに渡して何の本なのか調べてもらった。

「・・・う~ん、どうやらこれは、官能小説のようですね」

 官能小説とは、いわゆるエロ小説のことである。エルフの一般人も、そういう娯楽本を好んでいたのだろうか。それを聞いたカザルが興奮してルミアナから本をひったくった。

「なに、エルフの官能小説だって? ちょっと見せてみろよ・・・」

 期待に満ちた顔で本のページをめくり続けていたカザルの表情が落胆に変わった。

「なんだ、挿絵が一枚もないぜ。挿絵がないとつまらん。・・・お、そうだ、ルミアナ、あっしにこの本を読んで聞かせてくれねえか。ルミアナに読んでもらったら、挿絵がなくてもいい。頼むぜ、なあ」

「い、嫌よ、そんな恥ずかしいものは読めません」

 ラベロンが得意げに言った。

「古代エルフ文字ならわしも読めるぞ。わしがルミアナの代わりに読んでやろうか」

「ぐええ、とんでもねえ。爺なんかにエロ小説を読んでもらったら寿命が縮まる」

 壁際の空間を奥に進むと、先へ続く通路があった。通路を先へ進むと両側に大きな部屋があった。部屋の中を覗いてみると、床面が上へ向かって傾斜しており、石造りのベンチが何段も並べられている。ここは作りから言って講堂だろう。図書館で学生などにむけて講義が行われていたのだろうか。

 廊下をさらに進むと、突き当りに金属製のいかにも重そうな両開きの扉があった。真っ黒な扉には縦に長い取っ手が付いている。固く閉ざされていてまったく動かない。扉の上には大きな看板があり、色あせた朱色の文字が大きく彫り込まれている。ルミアナが文字を読む。

「関係者以外、立入禁止・・・」

 ラベロンが扉の前へ歩み出た。

「こういう扉の解錠は、わしの専門分野じゃ。おそらく魔法の封印がされておるのじゃろう。ちょっと探ってみるか」

 そういうとラベロンは目を閉じ、ゆっくりと扉に手を当てた。ラベロンが何かを念じると扉が光り始めた。光の文字のようなものが扉の表面を高速で右から左へと流れている。しばらくするとラベロンは目を開け、扉からゆっくりと手を話す。扉の光も消えた。

「うむ、わかったぞ」

 ラベロンは持っていた袋から数種類の魔法石を選んで取り出すと右手に握りしめ、扉の前で魔法を念じた。紫と赤と白の光が握りしめたラベロンの拳から扉へ向かって放射されると、扉の中で何かが外れる音が響いた。ラベロンが両側の取っ手に手をかけて引っ張ると、重そうな扉はきしみながらゆっくりと開いた。

 部屋の中は真っ暗だった。俺は<灯火球(ライト・オーブ)>の魔法を空中に放つと部屋を見回した。岩をくり抜いて作られたかなり大きな空間だったが、何もない。空っぽである。レイラとカザルがゆっくりと部屋に踏み込み、俺もその後に続いた。

 突然、上から多数の槍のようなものが飛んできた。レイラが咄嗟に盾で受け止め、カザルがレイラの後ろへ逃げ込んだ。俺が後ろへ飛び退くと同時にサフィーが<魔法障壁(マジック・バリア)>を展開し、槍の攻撃を防いだ。何かが上にいる。俺たちは慌てて扉の外へ後退した。

 見上げると、岩肌がむき出しの天井に、見たこともない奇妙で巨大な怪物がぶら下がっていた。赤茶けた色のそいつはクラゲの形に似ており、中心部から無数の触手が長く伸びている。その触手の先端は槍のように鋭く尖っていて、それが俺たちを攻撃してきたのだった。槍になっている触手に混じって、先端に眼球のようなものが付いている触手も数多くある。それを不気味に動かしながら俺たちに狙いを定めているようだ。

「こいつが宝物庫のガーディアンだな。目的のお宝はこの奥か」

 怪物の本体は高い天井にぶら下がっているため、レイラやカザルの近接攻撃は届かない。ルミアナが扉に隠れながら矢を射た。矢は触手の間に命中した様子だったが、何しろ相手が大きすぎる。直径は10メートル以上もある。ニ、三本の矢を受けたくらいでは、まったく平気のようだ。

「ルミアナの矢でもダメか。なら火炎魔法で焼き払ってみるか」

 俺は扉から身を乗り出し、最大魔力で<火炎弾(ファイア・ボール)>を念じた。巨大な火炎弾が怪物を直撃した。だがその瞬間、怪物の周囲を青白い光の壁が包み込む。

「なんだあれは。魔法防御なのか」

 どうやら火炎弾は光の壁に阻まれてしまったようだ。俺は<氷結飛槍(アイスジャベリン)>を打ち込んでみた。鋭い氷の槍が空中に現れて怪物に向かって突進したが、槍は青い光の壁の表面で砕け散ってしまう。俺は攻撃をやめて扉の陰に回り込んだ。

 俺はルミアナに言った。

「レイラの剣は届かないし、ルミアナの矢も、俺の魔法も効果がないとなると、攻撃の手段がないな。どうする」

「わたしの矢は怪物の体に刺さりましたので、物理攻撃は有効だと思います。ただし私の弓矢で与えるダメージ量は限られますので、弓だけで倒すことは難しいでしょう」

「そうだな、何か攻撃の方法を考えないと・・・」

 俺たちが攻撃方法を話し合っていると、怪物の体から無数に伸びている目玉の付いた触手が一斉に動き始めた。その目が赤や緑に点滅しながら輝き、波打つように動いている。不気味な光景だ。見ていると気分が悪くなりそうだ。

 ふいに、ただならぬ気配を感じた俺は横を見た。怪物を見ているレイラの目付きがおかしい。眼球が大きく見開かれ、口も半開きである。口から泡が出ている。やがてゆっくりと俺に振り向くと、突然剣を振り上げ、叫び声を上げながら襲いかかってきた。

 これはまずい。怪物の精神攻撃で気がおかしくなったのか。

「ぐわあああ」

「うわあ、まて、やめろ」

 レイラの剣が俺に届くより一瞬早く、サフィーの<魔法障壁(マジック・バリア)>が俺の前方に展開した。レイラの剣は鋭い音をたてて障壁に跳ね返された。それでもレイラは唸りながら凄まじい勢いで俺に向かって剣を連打してくる。打撃音が響き渡る。

 キャサリンが驚いて絶叫する。

「きゃああ、レイラ、お兄様になにするのよ。やめて、やめてったら」

 ルミアナがポーションをレイラに投げつけ、急いで<鎮圧(サプレッション)>を念じた。レイラの動きが止まった。脱力して床に膝を付き、そして足元に剣を落とした。肩で荒い呼吸をしている。顔面は蒼白となり目は虚ろだ。

 俺は言った。

「あいつは強力な精神魔法を使うようだ。このままだとみんな精神をやられてしまう。一旦、安全な場所まで戻って体勢を立て直そう」

 俺たちは、途中にあった講堂まで引き返した。俺はみんなに作戦を説明した。

「あの怪物は強力な魔法防御の能力を持っていて、私の魔法は効かない。ルミアナの言うには物理攻撃が有効らしい。だが弓矢だけでは威力不足で倒せない。あの怪物は天井にぶら下がっているから、レイラの剣もカザルのハンマーも届かない。だからあいつを天井から引きずり下ろす必要がある」

 肩に担いだハンマーを揺らしながらカザルが言った。

「旦那、どうやって引きずり下ろすんでやすか」

「怪物が足場にしている天井の岩盤を破壊すれば床に落とせると思う。熱による岩の膨張と収縮を利用して、天井を破壊するんだ」

「はあ? 岩の膨張と収縮って、どういうことでやすか」

「まず岩盤を<火炎噴射(フレイム・ジェット)>で熱し続ければ、岩が高温になって膨張する。その後<凍結(フリーズ)>で急速に冷却すれば、岩の表面が収縮して亀裂が生まれ、岩盤が割れて怪物の足場が崩れるはずだ」

「なるほど。それであの化け物が床に落ちたところを、あっしとレイラでぼこぼこにするって寸法ですね。さすが旦那は冴えてるぜ」

「私が魔法で岩盤を破壊している間、ルミアナには弓攻撃で怪物を牽制し、やつの注意を引き付けておいてくれ」

「お任せください。」

「ところでレイラの様子はどうだ?」

 レイラの顔は青ざめているが、意識はハッキリしているようだ。

「申し訳ありません陛下。もう大丈夫です」

「いや、無理は禁物だ、ここでしばらく休もう」

 二時間後、俺たちは再び怪物の部屋にやってきた。すぐに部屋には入らず、扉から身を乗り出すように中を確認した。怪物は天井にぶら下がっている。怪物の足場は一箇所だけだ。俺は壁に半分身を隠しながら、天井めがけて最大魔力で<火炎噴射(フレイム・ジェット)>を放った。怪物は青い光の壁で炎を受け流すが、炎は岩盤にぶつかり足場の岩肌を加熱する。

 俺が岩盤を加熱している間、精神魔法への抵抗性が高いルミアナが部屋の中を走り回り、ときおり弓を放っては怪物の注意を引き付ける。やがて岩盤が熱されて赤く色づき始めた。一転して、俺は最大魔力で<凍結(フリーズ)>を浴びせた。

 岩盤がパキパキと音を立て、剥離した細かい石が落ちてくる。なおも冷気を浴びせ続ける。バラバラと砕けた石は落ちてくるが、怪物が落ちてくる気配はない。やり直しだ。

 俺はもう一度、<火炎噴射(フレイム・ジェット)>を放った。部屋の温度が上昇し汗が吹き出してきた。そして再び<凍結(フリーズ)>を浴びせる。パキパキと亀裂が入る音がして石がバラバラと落ちてくる。今回もだめか・・・と思っていると、大きな破壊音がして、怪物が岩盤の塊といっしょに床に落下し、地響きとともに大量の土埃が舞い上がった。

 ぶら下がっていた岩盤もろとも激しく床に落下したにもかかわらず、怪物に衰える気配は見られない。だが落下して床に伏せたことで大部分の触手が胴体の下敷きになり、触手による攻撃力は大きく低下した。

 ルミアナが言った。

「下手に近づけば、また精神攻撃を食らう恐れがあります。全員に<精神防御(メンタル・プロテクション)>の魔法をかけておきましょう」

 精神防御の魔法をかけたあと、レイラとカザルが慎重に怪物に近づく。生き残っている触手が時折襲いかかってくるのを、レイラが剣で切り捨てながら、さらに近づく。そして十分に接近したところで、レイラが大きく剣を振りかぶって怪物に切りつけた。

 怪物の体にバッサリと大きく深い裂け目が入った。ぶよぶよした気味悪い茶褐色の胴体がブルブルと震える。かなりのダメージを与えているようだ。ところが、さらに一撃を加えたところで、突然、裂け目から体長三、四十センチほどの棒のようなものがニ、三本飛び出してきて、レイラの鎧に吸い付いた。

「うわ、なんだこれは」

 それは巨大なヒルのような姿をしていた。レイラが慌てて引っ張るが、強力に吸い付いているうえに体表がヌルヌルしていて離れない。それを見たカザルがレイラに駆け寄り、巨大ヒルを引っ張るが、やはりヌルヌルした体に苦戦している。すると怪物の中からさらにニ匹のヒルが飛び出して、今度はカザルの体に吸い付いた。

 カザルが言った。

「ふん、なんだこんなもの。鎧の上から吸い付かれたところで、痛くも痒くもないぜ」

 そのとき、レイラが妙な声をあげた。

「あああっ」

 カザルがどきっとして尋ねた。

「どどど、どうしたんだ急に。なんか感じたのか」

「ち、力が抜けていく・・・」

  レイラがしゃがみ込んだ。それを見たルミアナが叫んだ。

「ふたりとも戻って! エネルギーを吸い取られて筋力が急激に低下してるのよ。早く逃げないと、ふたりとも動けなくなるわよ」

 二人は俺たちの方へ這って戻ってきた。すでに腰が抜けてヘナヘナの状態である。

 その様子を見ていたサフィーが言った。

「あっはっは、そいつは体力を吸い取る寄生虫じゃな。その手の寄生虫は魔界にたくさんおるぞ。まあ、無用心に野外で寝ると、朝起きたときにはだいたい二、三匹くらい体に吸い付いておる。わしは慣れておるから、なんでもないがな」

 魔界はとんでもないところだな、こんな化け物じみた寄生虫がうじゃうじゃ居るのか。俺はサフィーに尋ねた。

「このヒルみたいな奴は、どうすれば取れるんだ」

「魔界だと、薬屋で『魔界ヒル剥がし液』が売っておるのじゃが、そいつが無いと自然に取れるまで待つしか無い。まあ、死ぬことはないから安心せい」

「しかし、それは弱ったな。怪物に近寄ったらヒルに襲われる。どうやって怪物を倒したらいいんだ」

「そんなの簡単じゃ。われが囮(おとり)になってヒルを吸い寄せれば良いのじゃ。われはさんざん吸われて耐性が付いておるから平気じゃ。われにヒルが吸い付いている間に、お主が怪物に止めを刺すのじゃ」

 そう言うと、サフィーは横たわっている巨大な怪物にズカズカと近づくと、レイラが切り込んだ裂け目の前に立った。たちまち十匹ほどのヒルが裂け目から飛び出してサフィーに吸い付いた。だが、サフィーはさらに片足を上げると怪物の胴体をガシガシ蹴り始めた。

「おらおら、もっと出でこいよ。まだ居るんだろ」

 蹴りの刺激に反応して、裂け目からどんどんヒルが飛び出してくる。最終的に三十匹ほどのヒルがサフィーの体中に吸い付いて、ぶら下がった。

「あっはっは、なんじゃこんなもの。むしろ気持ち良いくらいじゃわい。あっはっは、もっと吸え、もっと吸え、あっはっは」

 そのとんでもない光景を見て、ダーラは驚いて俺に言った。

「あ、あんたたちは、いつも、こんなとんでもない戦いをしてるのかよ、・・・すげえな」

「いや、あんな無茶苦茶なことするのは、魔族のサフィーだけだ。なにせ、自分がサメの餌になったくらいだからな」

 ラベロンがサフィーを指さして言った。

「ヒルに吸い付かれてよろこんどる。変態じゃわい・・・」

 キャサリンがサフィーを指さして言った。

「そうよ、変態だわ・・・」

 サフィーが叫んだ。

「やかましい、ぼけっと見ていないで、さっさと怪物に止めをささんか」

 レイラとカザルがヘナヘナになってしまったので、俺が怪物に止めを刺すことになった。恐る恐る怪物の裂け目に近付いたが、ヒルが飛び出してくる気配はない。幸い、すべてサフィーに吸い付いたようだ。剣を使って裂け目をさらに切り広げてみると、緑色をした核らしき部分が見えた。半透明で内部はわずかに光っている。

 俺は右手を突き出すと核めがけて<氷結飛槍(アイスジャベリン)>を放った。内部は魔法防御がされていないらしく、六本の氷の矢が深々と核に刺さり、怪物の全身が痙攣すると、やがて動かなくなった。

 サフィーは全身にヒルが吸い付いたまま平気で歩いている。カザルの方へ歩いていった。

「おう、カザル、もうお主のヒルは取れたようじゃな、体調はどうじゃ」

「うげええ、気持ち悪い、こっちにくるんじゃねえ」

 カザルが這って逃げる。

「なんじゃ、カザルは弱虫じゃのう。おう、ルミアナ・・・」

「いぎゃあああ、こっちに来ないで」

 ルミアナは透明になって逃げた。

 俺はサフィーを遠巻きにしながら言った。

「そ、そのヒルは、どうするんだ」

「あっはっは、まあ、しばらくは、このまんまじゃろう。そのうち取れるわ」

 しばらくあのままなのかよ。すごい光景だな。あの格好で町中を歩いたら、虫嫌いの人がおおぜい卒倒するだろうな。

 ラベロンは部屋の中を駆け回り、興奮して両手を挙げながら叫んだ。

「やったぞ、ガーディアンを倒したのじゃ。宝物庫はもう目の前じゃ」

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