70 / 95
第ニ期 41話~80話
第六十八話 裏切り者
しおりを挟む
怪物の居た部屋の奥にあった扉をゆっくり開くと、そこは宝物庫と思しき部屋だった。部屋はそれほど広くなく、10メートル四方ほどだ。壁に沿ってガラスの蓋が付いた陳列テーブルが並んでいる。そこには古代エルフ文字で書かれた分厚い本が収められている。
「おおおお、書物じゃ、書物じゃ」
ラベロンが興奮を抑えきれずに駆け寄ると、テーブルを覗き込んで次々に表紙を確かめる。そしてめぼしい本が見つかると解錠の魔法を唱えてガラスの蓋を開き、担いできた袋に書物を詰め込んだ。その様子を見ていたルミアナがラベロンに向かって言った。
「私もいくつか欲しい書物があるのですが・・・」
「おお、わしの必要ない本は全部お前さん達にやる。好きに持って行ってよいのじゃ」
俺はルミアナに尋ねた。
「何か探している書物でもあるのか?」
「はい、幻惑系の魔法を強化するポーションや、これまでにない効果のポーションを研究するための古代の文献が欲しいのです」
「さすがルミアナは勉強熱心だな。私の魔法にも応用できそうなものがあったら、教えてくれないか」
「もちろんですとも、陛下」
しばらくするとラベロンが上機嫌で言った。
「いやあ、お前さん達のおかげで探検は大成功じゃったぞ。魔導具の核心部分である『魔力発生機』について書かれた本もあった。これを解読すれば、わしもいよいよ魔導具を作り出せそうじゃ。わははは」
「それは良かった。・・・こちらが約束を果たしたのだから、今度はラベロン殿が私に古代の転送魔法を教えてくれる番だな」
「わかっとる、わかっとる。そう焦るでない。転送装置のある遺跡まで戻ってから、ゆっくり教えてやろう」
俺たちは壊れた転送装置のある遺跡に戻ってきた。そして床に刻まれた魔法図形の上を覆っていた瓦礫をきれいに片付けた。魔法図形は直径が10メートルもある巨大なものだった。ラベロンは荷馬車へ戻ると一枚の羊皮紙を取り出し、ペンで魔法の図形を描き始めた。ときおり上を見上げて思い出すような仕草を見せながら十五分ほどで描き上げた。
「どうじゃ、これが転送の魔法図形じゃ」
転送の魔法図形は、これまでに見た中でもっとも複雑だった。ラベロンは俺に羊皮紙を渡すと、荷馬車から埃だらけの魔力黒板を引っ張り出した。
「まあ、そう簡単には習得できんぞ。なんなら、わしが近くの街まで案内するから、そこで寝泊まりしながら練習すればよい。わしはそれほど急いでおらんので、付き合っても良いぞ」
「ありがとうございます」
だが、その心配は無かった。なぜかわからないが、羊皮紙に描かれた図形を見た途端に、俺の脳裏にイメージがハッキリと焼き付いたのだ。俺はラベロンが壁にかけてくれた魔力黒板に向かうと<転送(トランスファー)>を念じた。浮き上がった図形を目にしたラベロンが驚いた。
「なんと、あの複雑な魔法図形をもう習得しおったわ。お前さんは、とんでもないやつじゃ」
「ありがとうございました、これで無事、ダルモラへ戻ることができます。それではラベロン殿、お元気で」
ラベロンが慌てた様子で言った。
「ま、まて、もう行ってしまうのか」
「どうかされましたか」
「いや、その・・・お前さんは火炎魔法の杖が欲しいと言っておらんかったか」
「そうです。火炎魔法の杖を売ってくれるのですか」
「いやいや、火炎魔法の杖を十本タダでやるから、わしを一緒に連れて行ってくれんかのう。お前さんの魔法の力は桁外れじゃ。それにお前さんの部下たちも遺跡の探検に習熟しておる。お前さん達の力を借りて、地球の反対側も探検してみたいのじゃ」
それを聞いたキャサリンが不機嫌そうに言った。
「わたくしは嫌ですわ。ただでさえ変態のドワーフに、エロ装備の魔族の女がいるのに、そのうえダークエルフの爺さんまで来るなんて、趣味が悪すぎですわ」
ラベロンが煙たそうに眉をひそめて言った。
「だれじゃい、このうるさい女は・・・」
レイラが軽く咳払いをしてから言った。
「あー、アルフレッド様の妹君さまです」
ラベロンは飛び上がり、慌ててキャサリンに駆け寄ると、わざとらしくひざまずいた。
「おおお、これはお姫様でしたか。いや、なんともお美しいお姿」
「ふん、何よ、わたくしが美しいのは当たり前でしょ、ゲジゲジ虫みたいなあんたに言われても、嬉しくもなんともないわ。嫌なものは嫌なの」
俺はキャサリンに言った。
「まあまあ、キャサリン、そう言うな。ラベロン殿の研究している魔導具は、アルカナ国の将来にとって非常に価値のあるものだ。魔法に関してもかなりの知識を持っていることは明らかだ。将来的に王立研究所の講師を務めることもできるだろう。それに何より、ラベロン殿の持っている火炎魔法の杖を使わせてもらえることは大きい。今は何としてもジャビ帝国の艦隊を撃退するための力が欲しいのだ」
「お兄様がそこまで言うなら、仕方がありませんわ」
俺はラベロンに言った。
「よし、ラベロン殿、一緒に行きましょう。ただしアルカナ国では、アルカナ国のルールには従っていただきますよ」
「もちろんじゃ。わかっておる」
俺たちは身支度を整え、夜になるのを待った。こちらが夜のときは、地球の反対側にあるダルモラの遺跡は昼だからである。ラベロンの大きな荷馬車とラクダを魔法図形の円内に収めることに苦労したが、全員が魔法図形の上に乗った。
俺は最大魔力で<転送(トランスファー)>を念じた。たちまち魔法図形が白い光に包まれる。一瞬だけ意識が飛んだ気がしたが、それは以前に体験したものだ。やがて白い光は薄れ、俺たちはダルモラの遺跡に立っていた。
「おお、成功じゃ。すばらしい」
「さすがは、お兄様ですわ」
俺たちが建物の外に出ると、驚いたことに建物の外にはグラークと海賊たちが居た。魔法図形から現れた俺たちを見て、グラークたちも酷く驚いた様子だった。表情には狼狽の色が見える。グラークがつぶやいた。
「・・・こいつは驚いた。戻ってきやがった」
気を取り直すとグラークは俺に向かって大声で言った。
「どうだった? なにか見つかったか」
「ああ、ここは魔導具が保管されている遺跡ではなかった。ここは転送施設だった。おかげで俺たちは地球の反対側にある砂漠に飛ばされたんだ」
「地球の反対側だって? 本当か・・・それにしても、よく地球の反対側から戻ってこれたな」
「ここにいるラベロンという考古学者のおかげだ。それに火炎魔法の杖も手に入れたぞ」
グラークは火炎魔法の杖を目にすると、信じられないといった表情で半分口をあけ、目を見開いた。
「あいつ、本当に火炎魔法の杖を持って来やがった・・・」
そして大声で言った。
「そ、それは本物なのか。使って見せてくれ」
俺はおおきく頷くと杖を手に持った。そして近くに生えているヤシの木をめがけて<火炎弾>を念じると、ボウという音とともに初級クラスの火炎弾が飛び出した。火炎弾の衝撃でヤシの木は折れ曲がり炎に包まれた。その場で様子を見守っていた海賊たちから、驚きの声が上がった。俺はグラークに向かって歩み寄ると杖を差し出した。
「使い方は簡単だ。攻撃対象に杖の頭部を向け、意識を集中して<火炎弾>と言いながら、心のなかで強く念じるだけだ。強く念じないと発射されない」
グラークは恐る恐る杖を受け取ると強く握りしめた。危険がないことを確かめると、グラークは近くのヤシの木に杖を向け、顔をしかめると<火炎弾>と叫んだ。杖の先に大きな炎の球が湧き上がると音をたてて飛び出し、ヤシの木の幹に直撃して炎上した。グラークはあっけにとられ、燃え上がるヤシの木をしばらく見ていたが、我に返るとニヤリと笑った。
「こいつは・・・すごい。よし、約束通り、残りの杖もこっちに渡してくれ」
俺が合図すると、レイラとカザルが海賊たちに杖を手渡した。俺は言った。
「さあ、約束通り火炎魔法の杖を手に入れてきた。これでアルカナ国と軍事協力関係を結んで欲しい」
グラークは不敵に笑った。
「いやいや、残念ながらそうはいかないのですよ。アルカナ国より先に、エニマ国の『ガルゾーマ』様がいらっしゃいましてね、彼と密約を交わしたのです。我々がアルフレッド様とそのお仲間たちを始末する代わりに、莫大な金貨をいただけるという約束です、ふははは・・・」
「やはり罠だったのか。ガルゾーマの魔法で我々を地球の反対側に飛ばし、永久にアルカナに戻れなくしてしまうつもりだったのだな」
「そのとおりです。ガルゾーマ様があらかじめ魔法の罠を仕掛けておいた。あとはそこへあたなたちを誘導すればよかったのです。ついでに生意気なダーラを案内役に付けて、一緒に消してしまうつもりだったのですよ」
ダーラがグラークを睨みつけた。
「なんだと、グラーク、貴様・・・」
「ところが、念のために様子を見に来てみれば、なんと無事に戻って来たではないですか。しかも、あるはずがない火炎魔法の杖まで携えてくるとは驚きです。さすがはアルフレッド様。しかし、ここまでです。あなたたちには、ここで死んでいただきましょう」
俺は落ち着き払ってグラークを見据えた。
「そんなに簡単にいくかな? 我々を見くびってもらっては困る」
「ふははは、負け惜しみですか。こちらには火炎魔法の杖があるのですよ。さあ、野郎ども、こいつらを全員、火炎弾で焼き殺してやれ」
海賊たちは手にした杖を一斉に俺たちに向けた。そして<火炎弾>と唱えながら念じている。だが何も起きない。海賊たちは唸るばかりである。グラークは慌てた。
「ば、ばかな・・・この杖は偽物なのか」
「いや、本物の杖だよ。ただし最初におまえに渡した杖以外は、あらかじめ魔法石を取り外しておいたんだ。こんなことになる予感がしていたからね。魔法石がなければ火炎魔法の杖も、ただの木の杖に過ぎない。今度はこちらの番だな」
「お、おのれ・・・死ね、アルフレッド」
グラークは杖を俺に向けると<火炎弾>を発射した。だが初級クラスの<火炎弾>など俺には通用しない。飛んでくる火球に向かって強く念じると、火球は俺の手前で弾き返され上空へ飛んでいった。グラークは必死になって<火炎弾>を連発するが、俺がすべて弾き返すと、杖を投げ捨て大慌てで逃げ出した。
「レイラ! グラークを追え、逃すな、捕まえろ」
「はい陛下」
ダーラも必死に後を追う。
「グラーク、裏切ったな! 許さん」
行く手を海賊たちが遮る。だが海賊などレイラの相手ではない。レイラは言った。
「どきなさい。邪魔すれば容赦しませんよ」
海賊たちは剣を構えて動こうとしない。レイラは鋼鉄の盾を体の正面に構えると、行く手に立ちふさがる海賊に突進した。鈍い衝撃音がして、レイラに体当たりされた海賊は剣を手にしたまま後ろへ激しく弾き飛ばされた。
「ぐあああ」
隣にいた海賊はその様子に恐れをなして腰が引けている。それでも大声を張り上げてレイラをめがけてやけっぱちに剣を振り下ろしたが、盾で軽く受け止められ、同様にシールドバッシュで大きく横へ弾き飛ばされた。
ダーラが海賊たちに向かって大声で叫んだ。
「みんな、抵抗するのは止めなさい。この人たちは恐ろしく強い。到底あんたたちが勝てるような相手じゃないよ。それよりグラークは裏切り者よ。グラークは仲間のあたいを消そうとした。この落とし前はつけさせてもらう。みんな、そこを通しなさい」
海賊たちは顔を見合わせると、戸惑いながらも剣をおろした。皆、先代の頭領の娘であるダーラには一目置いているのだ。
俺たちは逃げたグラークを追った。
「おおおお、書物じゃ、書物じゃ」
ラベロンが興奮を抑えきれずに駆け寄ると、テーブルを覗き込んで次々に表紙を確かめる。そしてめぼしい本が見つかると解錠の魔法を唱えてガラスの蓋を開き、担いできた袋に書物を詰め込んだ。その様子を見ていたルミアナがラベロンに向かって言った。
「私もいくつか欲しい書物があるのですが・・・」
「おお、わしの必要ない本は全部お前さん達にやる。好きに持って行ってよいのじゃ」
俺はルミアナに尋ねた。
「何か探している書物でもあるのか?」
「はい、幻惑系の魔法を強化するポーションや、これまでにない効果のポーションを研究するための古代の文献が欲しいのです」
「さすがルミアナは勉強熱心だな。私の魔法にも応用できそうなものがあったら、教えてくれないか」
「もちろんですとも、陛下」
しばらくするとラベロンが上機嫌で言った。
「いやあ、お前さん達のおかげで探検は大成功じゃったぞ。魔導具の核心部分である『魔力発生機』について書かれた本もあった。これを解読すれば、わしもいよいよ魔導具を作り出せそうじゃ。わははは」
「それは良かった。・・・こちらが約束を果たしたのだから、今度はラベロン殿が私に古代の転送魔法を教えてくれる番だな」
「わかっとる、わかっとる。そう焦るでない。転送装置のある遺跡まで戻ってから、ゆっくり教えてやろう」
俺たちは壊れた転送装置のある遺跡に戻ってきた。そして床に刻まれた魔法図形の上を覆っていた瓦礫をきれいに片付けた。魔法図形は直径が10メートルもある巨大なものだった。ラベロンは荷馬車へ戻ると一枚の羊皮紙を取り出し、ペンで魔法の図形を描き始めた。ときおり上を見上げて思い出すような仕草を見せながら十五分ほどで描き上げた。
「どうじゃ、これが転送の魔法図形じゃ」
転送の魔法図形は、これまでに見た中でもっとも複雑だった。ラベロンは俺に羊皮紙を渡すと、荷馬車から埃だらけの魔力黒板を引っ張り出した。
「まあ、そう簡単には習得できんぞ。なんなら、わしが近くの街まで案内するから、そこで寝泊まりしながら練習すればよい。わしはそれほど急いでおらんので、付き合っても良いぞ」
「ありがとうございます」
だが、その心配は無かった。なぜかわからないが、羊皮紙に描かれた図形を見た途端に、俺の脳裏にイメージがハッキリと焼き付いたのだ。俺はラベロンが壁にかけてくれた魔力黒板に向かうと<転送(トランスファー)>を念じた。浮き上がった図形を目にしたラベロンが驚いた。
「なんと、あの複雑な魔法図形をもう習得しおったわ。お前さんは、とんでもないやつじゃ」
「ありがとうございました、これで無事、ダルモラへ戻ることができます。それではラベロン殿、お元気で」
ラベロンが慌てた様子で言った。
「ま、まて、もう行ってしまうのか」
「どうかされましたか」
「いや、その・・・お前さんは火炎魔法の杖が欲しいと言っておらんかったか」
「そうです。火炎魔法の杖を売ってくれるのですか」
「いやいや、火炎魔法の杖を十本タダでやるから、わしを一緒に連れて行ってくれんかのう。お前さんの魔法の力は桁外れじゃ。それにお前さんの部下たちも遺跡の探検に習熟しておる。お前さん達の力を借りて、地球の反対側も探検してみたいのじゃ」
それを聞いたキャサリンが不機嫌そうに言った。
「わたくしは嫌ですわ。ただでさえ変態のドワーフに、エロ装備の魔族の女がいるのに、そのうえダークエルフの爺さんまで来るなんて、趣味が悪すぎですわ」
ラベロンが煙たそうに眉をひそめて言った。
「だれじゃい、このうるさい女は・・・」
レイラが軽く咳払いをしてから言った。
「あー、アルフレッド様の妹君さまです」
ラベロンは飛び上がり、慌ててキャサリンに駆け寄ると、わざとらしくひざまずいた。
「おおお、これはお姫様でしたか。いや、なんともお美しいお姿」
「ふん、何よ、わたくしが美しいのは当たり前でしょ、ゲジゲジ虫みたいなあんたに言われても、嬉しくもなんともないわ。嫌なものは嫌なの」
俺はキャサリンに言った。
「まあまあ、キャサリン、そう言うな。ラベロン殿の研究している魔導具は、アルカナ国の将来にとって非常に価値のあるものだ。魔法に関してもかなりの知識を持っていることは明らかだ。将来的に王立研究所の講師を務めることもできるだろう。それに何より、ラベロン殿の持っている火炎魔法の杖を使わせてもらえることは大きい。今は何としてもジャビ帝国の艦隊を撃退するための力が欲しいのだ」
「お兄様がそこまで言うなら、仕方がありませんわ」
俺はラベロンに言った。
「よし、ラベロン殿、一緒に行きましょう。ただしアルカナ国では、アルカナ国のルールには従っていただきますよ」
「もちろんじゃ。わかっておる」
俺たちは身支度を整え、夜になるのを待った。こちらが夜のときは、地球の反対側にあるダルモラの遺跡は昼だからである。ラベロンの大きな荷馬車とラクダを魔法図形の円内に収めることに苦労したが、全員が魔法図形の上に乗った。
俺は最大魔力で<転送(トランスファー)>を念じた。たちまち魔法図形が白い光に包まれる。一瞬だけ意識が飛んだ気がしたが、それは以前に体験したものだ。やがて白い光は薄れ、俺たちはダルモラの遺跡に立っていた。
「おお、成功じゃ。すばらしい」
「さすがは、お兄様ですわ」
俺たちが建物の外に出ると、驚いたことに建物の外にはグラークと海賊たちが居た。魔法図形から現れた俺たちを見て、グラークたちも酷く驚いた様子だった。表情には狼狽の色が見える。グラークがつぶやいた。
「・・・こいつは驚いた。戻ってきやがった」
気を取り直すとグラークは俺に向かって大声で言った。
「どうだった? なにか見つかったか」
「ああ、ここは魔導具が保管されている遺跡ではなかった。ここは転送施設だった。おかげで俺たちは地球の反対側にある砂漠に飛ばされたんだ」
「地球の反対側だって? 本当か・・・それにしても、よく地球の反対側から戻ってこれたな」
「ここにいるラベロンという考古学者のおかげだ。それに火炎魔法の杖も手に入れたぞ」
グラークは火炎魔法の杖を目にすると、信じられないといった表情で半分口をあけ、目を見開いた。
「あいつ、本当に火炎魔法の杖を持って来やがった・・・」
そして大声で言った。
「そ、それは本物なのか。使って見せてくれ」
俺はおおきく頷くと杖を手に持った。そして近くに生えているヤシの木をめがけて<火炎弾>を念じると、ボウという音とともに初級クラスの火炎弾が飛び出した。火炎弾の衝撃でヤシの木は折れ曲がり炎に包まれた。その場で様子を見守っていた海賊たちから、驚きの声が上がった。俺はグラークに向かって歩み寄ると杖を差し出した。
「使い方は簡単だ。攻撃対象に杖の頭部を向け、意識を集中して<火炎弾>と言いながら、心のなかで強く念じるだけだ。強く念じないと発射されない」
グラークは恐る恐る杖を受け取ると強く握りしめた。危険がないことを確かめると、グラークは近くのヤシの木に杖を向け、顔をしかめると<火炎弾>と叫んだ。杖の先に大きな炎の球が湧き上がると音をたてて飛び出し、ヤシの木の幹に直撃して炎上した。グラークはあっけにとられ、燃え上がるヤシの木をしばらく見ていたが、我に返るとニヤリと笑った。
「こいつは・・・すごい。よし、約束通り、残りの杖もこっちに渡してくれ」
俺が合図すると、レイラとカザルが海賊たちに杖を手渡した。俺は言った。
「さあ、約束通り火炎魔法の杖を手に入れてきた。これでアルカナ国と軍事協力関係を結んで欲しい」
グラークは不敵に笑った。
「いやいや、残念ながらそうはいかないのですよ。アルカナ国より先に、エニマ国の『ガルゾーマ』様がいらっしゃいましてね、彼と密約を交わしたのです。我々がアルフレッド様とそのお仲間たちを始末する代わりに、莫大な金貨をいただけるという約束です、ふははは・・・」
「やはり罠だったのか。ガルゾーマの魔法で我々を地球の反対側に飛ばし、永久にアルカナに戻れなくしてしまうつもりだったのだな」
「そのとおりです。ガルゾーマ様があらかじめ魔法の罠を仕掛けておいた。あとはそこへあたなたちを誘導すればよかったのです。ついでに生意気なダーラを案内役に付けて、一緒に消してしまうつもりだったのですよ」
ダーラがグラークを睨みつけた。
「なんだと、グラーク、貴様・・・」
「ところが、念のために様子を見に来てみれば、なんと無事に戻って来たではないですか。しかも、あるはずがない火炎魔法の杖まで携えてくるとは驚きです。さすがはアルフレッド様。しかし、ここまでです。あなたたちには、ここで死んでいただきましょう」
俺は落ち着き払ってグラークを見据えた。
「そんなに簡単にいくかな? 我々を見くびってもらっては困る」
「ふははは、負け惜しみですか。こちらには火炎魔法の杖があるのですよ。さあ、野郎ども、こいつらを全員、火炎弾で焼き殺してやれ」
海賊たちは手にした杖を一斉に俺たちに向けた。そして<火炎弾>と唱えながら念じている。だが何も起きない。海賊たちは唸るばかりである。グラークは慌てた。
「ば、ばかな・・・この杖は偽物なのか」
「いや、本物の杖だよ。ただし最初におまえに渡した杖以外は、あらかじめ魔法石を取り外しておいたんだ。こんなことになる予感がしていたからね。魔法石がなければ火炎魔法の杖も、ただの木の杖に過ぎない。今度はこちらの番だな」
「お、おのれ・・・死ね、アルフレッド」
グラークは杖を俺に向けると<火炎弾>を発射した。だが初級クラスの<火炎弾>など俺には通用しない。飛んでくる火球に向かって強く念じると、火球は俺の手前で弾き返され上空へ飛んでいった。グラークは必死になって<火炎弾>を連発するが、俺がすべて弾き返すと、杖を投げ捨て大慌てで逃げ出した。
「レイラ! グラークを追え、逃すな、捕まえろ」
「はい陛下」
ダーラも必死に後を追う。
「グラーク、裏切ったな! 許さん」
行く手を海賊たちが遮る。だが海賊などレイラの相手ではない。レイラは言った。
「どきなさい。邪魔すれば容赦しませんよ」
海賊たちは剣を構えて動こうとしない。レイラは鋼鉄の盾を体の正面に構えると、行く手に立ちふさがる海賊に突進した。鈍い衝撃音がして、レイラに体当たりされた海賊は剣を手にしたまま後ろへ激しく弾き飛ばされた。
「ぐあああ」
隣にいた海賊はその様子に恐れをなして腰が引けている。それでも大声を張り上げてレイラをめがけてやけっぱちに剣を振り下ろしたが、盾で軽く受け止められ、同様にシールドバッシュで大きく横へ弾き飛ばされた。
ダーラが海賊たちに向かって大声で叫んだ。
「みんな、抵抗するのは止めなさい。この人たちは恐ろしく強い。到底あんたたちが勝てるような相手じゃないよ。それよりグラークは裏切り者よ。グラークは仲間のあたいを消そうとした。この落とし前はつけさせてもらう。みんな、そこを通しなさい」
海賊たちは顔を見合わせると、戸惑いながらも剣をおろした。皆、先代の頭領の娘であるダーラには一目置いているのだ。
俺たちは逃げたグラークを追った。
0
あなたにおすすめの小説
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました
たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。
「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」
どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。
彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。
幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。
記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。
新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。
この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。
主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。
※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです
青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。
混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。
もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。
「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」
思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。
その時、見知らぬ声が響く。
「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」
これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる