虎の威を狩れ!木常! 〜虎の子狩りで修練を積み、世界を救え〜の巻

真昼間イル

文字の大きさ
10 / 16

No.10 妖術のすゝめ

しおりを挟む

 二人は木常骨董店に戻った。
 玄次郎は京子をラバーチェアに座らせると、レジカウンターから小瓶を取り出した。

 宇佐美の置土産で【リゼネ】と呼ばれる”回復薬”のようだ。小瓶の中には金色の粉が入っている。
 金粉を、京子の身体に惜しげもなく振りかけると、あっという間に使い果たしてしまった。

  「う‥‥うん?痛みが、疲労が消えてく!!」

「”カガク”とは恐ろしくも、便利なものよのぅ。京子よ!後は”笑って治す”のだ!」

「ハッハッ‥‥‥アーーハッハッハーー!」
京子の馬鹿笑い声が、骨董店内に響き渡った。

「笑う気力も無くす程、妖気を使い切りよって‥‥危うく死んでおったぞ」

「ごめん!力の使い方がわからなくて‥‥」
すっかり回復した京子は、ラバーチェアから立ち上がった。

「妖力剛体に頼りすぎたが故、妖気が底をついたのだ。使い刻を選べ」
 玄次郎は苦言を呈すと、手帳を開き、筆ペン走らせた。既に数枚、印のような字が書かれている。

「気をつけるよ。てか、その手帳と筆ペン、うちの商品なんだけど‥‥何書いてるの?」

「これは”術式”だ。この印を繰り返し書いて、頭の中でも書けるようにしておけ」
 京子が寝ている間に書き留めていたようだ。

「へぇ~、今書いてる”それ”はどういう妖術なの?」

 玄次郎は口角を上げると、素早く右手で印を結んだ。

 「!?誰ッ!?」
 京子は後を振り向いた。
当然、後ろには誰もいない。

     《妖術:肩打》

「何者かに肩を叩かれたと思ったであろう?どんな強者でも不意に”肩叩き”をされれば、振り向かずにはいられない。これも幻術系統の妖術だ」

  「”無難”っていうか、地味だなぁ‥‥‥」

「こういう術を掛け合わせねば、強者には勝てぬぞ」

【木常妖術】は大分類として四つに分けられる。

《体術、幻術、衝撃術、血妖術》

 中でも血妖術は奥の手とされている。それは妖気に頼らず、自らの血肉を依代に術式を組む、謂わば諸刃の剣だからだ。

「おぬしは先の戦いで体術を学んだ。次は幻術だ。悪いが衝撃術や血妖術を教える刻は無い」

「ちょっと待って、全部その手帳に術式書いてよ」

「おぬし、人使いが荒いな‥‥よかろう。ただし、血妖術は実演しとかねば命を落としかねん。修練無しでの使用は許さんぞ」

「だぁ~い丈夫だよ!あたし、肝据わってるからさ」

「阿保、急がば回!?‥‥‥」
玄次郎は目にも止まらぬ速さで、後方を振り返った。

「ふふっ‥‥アッハッハー!早速、幻術に引っかかっててやんのー!確かに使えるかもね!」
京子は右手で印を結んでいた。

「ふんッ‥‥何処か開けた場所は無いか?此処では存分に術を使えまい」

「うーん‥‥お爺ちゃんの裏山があるよ。ちょっと歩くけどね」

 二人は骨董店から裏山へと場所を変えた。京子は玄次郎の指導の元、時間の許す限り妖術の印を繰り返した。

時折り、轟音が響き渡ると、木々や野鳥がざわめき、突風が吹き荒んだ。

‥‥‥‥

「はぁ‥‥はぁ、はぁ‥‥もう無理、疲れた‥‥」

「一通り術式は組めたようだな。屋敷に戻ったら印の精度を高めるぞ」
時刻は午後10時を迎えていたが、木常骨董店に戻っても術式の訓練は続いた。

‥‥‥‥
‥‥‥

 10時間以上にも及ぶ特訓で、疲れ果てた京子は仏間へなだれ込むように倒れた。
「あーー!もう、今日はお終い!」

すぐに起き上がると、取り憑かれたように台所へと向かった。

「おれがこの姿を留めていられるのも、あと数刻だ。キツネに戻ってしまえば、印を結べなくなるぞ」

「もう一通り覚えたよ!後は”妖脈”をリフレッシュしないとね!」
暗い店内の奥から、ハスキーな声と、氷が割れる音が聴こえた。

京子は乾き物のおつまみと、焼酎ソーダ割りセットをトレーに乗せて運んで来た。
「どうよ?一緒に飲まない?キツネに戻ったら飲めないでしょ?」

「酒飲みは、事あるごとに理由をつけては酒を飲む。おぬしは、おれの父上のようだ」
玄次郎の口元が緩んだ。

「あのオジサンか~【玄次郎に頭を噛まれた時】見えた気がする。お酒を運ぶ仕事してた??」

「おれの思念が垣間見れておったか、元より木常家は米と酒造りを生業としておる」

玄次郎はおもむろに焼酎ボトルを手に取った。
 この時代の酒は‥‥
 どのような味がするのであろうか‥‥

  「よかろう、呑むか!」
 玄次郎は好奇心に負けると、コップを手に取った。

  「いいねー!ささっ、どうぞ一献!」

 暗闇と静寂に包まれる中、時折響く笑い声が、骨董店の躯体を揺らした。

 時刻は深夜2時を過ぎ、玄次郎がキツネに戻るまで残り6時間といったところ、仏間の窓が開いた。

「見てよ~綺麗な満月」

  「どれ、ほぅ燦々と輝いておるな~」

「月の中で、ウサギが笑って見えるよ?おーーい!宇佐美ぃ~~!」

  「阿保!聞こえる訳なかろう!ガッハッハー!」

「‥‥宇佐美はわかってたんだろうな、あたしと玄次郎なら上手くやれるって」

  「あぁ~!彼奴は、食えん奴だ~!」

京子は玄次郎に身体を預けるように、寄りかかった。
「おい、京子、飲み過ぎだぞ‥‥?」

「あたし、玄次郎に会えて良かったよ。地元じゃ悪者扱いで、就職も出来ず、挙げ句の果てに死んだお爺ちゃんの脛かじり者。自分の事、腫れ物だと思ってたけど、必要としてくれる人もいたんだ」

 玄次郎は手のやり場を探していた。
「おぬしはきっと強くなる。御先祖様、玉藻前のようにな!!」

京子は少し鼻を啜ると、玄次郎を突き飛ばした。
「さぁ、今夜は飲もう!」

「人使いが荒いのぅ。良かろう!呑むぞ!」

‥‥‥
‥‥‥‥

チュン♪チュン♪‥‥‥チュン♪
 うっ‥‥‥朝か
京子はまた仏間で寝てしまっていた。

「チュン♪チュン♪」

「ひぇ!どうやって中に入ったの?」

宇佐美が口を尖らせ小鳥のマネをしていた。
「窓が空いてましたよ♪それより、早速虎の子を討ったようですね~♪」

「虎の子?あぁ、ピクシーね。あいつ強すぎだよ!死ぬかと思ったじゃない!」
 京子は革ジャンを手繰り寄せると、ポケットに入れていた勾玉を宇佐美に手渡した。

「上出来です♪これは臨時給与として、受け取ってください♪」
 宇佐美は手提げ袋から札束を取り出した。

「‥‥‥これ、いいの?」
思わず生唾を飲み込んだ。

「はい~♪50万円です♪初勝利なので、特別に奮発させて頂きました♪」

「あたし、頑張る!!」
札束を受け取ると、枚数を数え始めた。

(その紙切れが、この時代の銭か?そんなもの”うちでの小槌”が手に入れば無限に出せるではないか)
一匹のキツネが仏間に上がってきた。

「それも、そうか‥‥‥」
目を擦り玄次郎を見つめると、札束を革ジャンの上に置いた。

 やっぱりキツネに戻っちゃったんだね~~‥
京子は玄次郎のモコモコとした尻尾に触れた。

「玄次郎、京子、昨日はお見事でした♪これからも期待していますよ♪」

(まだまだ修練が必要だ。それより、昨日討った虎の子は我らの事を探しておったようだ)

「そうですか~♪やはり、お二人はカグヤ様から【狙われている】のでしょう♪」

「それは、天の羽衣のせい?」

「そうです♪虎の子図鑑の補足をしますね♪」
うさ耳男の左手にはめられたシルバーリングが、朝日を反射した。

「このリングは《クロノスリーブ》と言います♪時空を跳躍する事ができるこのリングは、いわば”時空査証”です♪そして、虎の子図鑑は時越者を管理する装置と言えるでしょう♪」

(じくう、さしょう‥‥‥?)

  「航空ビザみたいなものね、多分‥‥‥」

「クロノスリーブと虎の子図鑑を発明したのは、カグヤ様です♪玄次郎がこの時代にやってきた事は、既にカグヤ様もお気付きでしょう♪」

「そんなの、虎の子に一斉に襲われたりでもしたら、お終いじゃん!」

「そうですよね♪ただ、お二人にそこまで戦力を割いてくることはないでしょう♪我々月の民も、あらゆる方法でカグヤ様を送還すべく行動していますので♪」

(我らは、その一角を担う”木常勢”ということか)

「はい♪ただ、羽衣を扱える京子の存在は絶対です♪カグヤ様の根本的な【反骨精神】を狩らなければ、送還後にまた逃げられてしまいますからね♪それだけ【木常と羽衣】の”セット“が重要なのです♪」

 京子は宇佐美の話を聞きながら、拳を強く握りしめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...