虎の威を狩れ!木常! 〜虎の子狩りで修練を積み、世界を救え〜の巻

真昼間イル

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No.10 妖術のすゝめ

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 二人は木常骨董店に戻った。
 玄次郎は京子をラバーチェアに座らせると、レジカウンターから小瓶を取り出した。

 宇佐美の置土産で【リゼネ】と呼ばれる”回復薬”のようだ。小瓶の中には金色の粉が入っている。
 金粉を、京子の身体に惜しげもなく振りかけると、あっという間に使い果たしてしまった。

  「う‥‥うん?痛みが、疲労が消えてく!!」

「”カガク”とは恐ろしくも、便利なものよのぅ。京子よ!後は”笑って治す”のだ!」

「ハッハッ‥‥‥アーーハッハッハーー!」
京子の馬鹿笑い声が、骨董店内に響き渡った。

「笑う気力も無くす程、妖気を使い切りよって‥‥危うく死んでおったぞ」

「ごめん!力の使い方がわからなくて‥‥」
すっかり回復した京子は、ラバーチェアから立ち上がった。

「妖力剛体に頼りすぎたが故、妖気が底をついたのだ。使い刻を選べ」
 玄次郎は苦言を呈すと、手帳を開き、筆ペン走らせた。既に数枚、印のような字が書かれている。

「気をつけるよ。てか、その手帳と筆ペン、うちの商品なんだけど‥‥何書いてるの?」

「これは”術式”だ。この印を繰り返し書いて、頭の中でも書けるようにしておけ」
 京子が寝ている間に書き留めていたようだ。

「へぇ~、今書いてる”それ”はどういう妖術なの?」

 玄次郎は口角を上げると、素早く右手で印を結んだ。

 「!?誰ッ!?」
 京子は後を振り向いた。
当然、後ろには誰もいない。

     《妖術:肩打》

「何者かに肩を叩かれたと思ったであろう?どんな強者でも不意に”肩叩き”をされれば、振り向かずにはいられない。これも幻術系統の妖術だ」

  「”無難”っていうか、地味だなぁ‥‥‥」

「こういう術を掛け合わせねば、強者には勝てぬぞ」

【木常妖術】は大分類として四つに分けられる。

《体術、幻術、衝撃術、血妖術》

 中でも血妖術は奥の手とされている。それは妖気に頼らず、自らの血肉を依代に術式を組む、謂わば諸刃の剣だからだ。

「おぬしは先の戦いで体術を学んだ。次は幻術だ。悪いが衝撃術や血妖術を教える刻は無い」

「ちょっと待って、全部その手帳に術式書いてよ」

「おぬし、人使いが荒いな‥‥よかろう。ただし、血妖術は実演しとかねば命を落としかねん。修練無しでの使用は許さんぞ」

「だぁ~い丈夫だよ!あたし、肝据わってるからさ」

「阿保、急がば回!?‥‥‥」
玄次郎は目にも止まらぬ速さで、後方を振り返った。

「ふふっ‥‥アッハッハー!早速、幻術に引っかかっててやんのー!確かに使えるかもね!」
京子は右手で印を結んでいた。

「ふんッ‥‥何処か開けた場所は無いか?此処では存分に術を使えまい」

「うーん‥‥お爺ちゃんの裏山があるよ。ちょっと歩くけどね」

 二人は骨董店から裏山へと場所を変えた。京子は玄次郎の指導の元、時間の許す限り妖術の印を繰り返した。

時折り、轟音が響き渡ると、木々や野鳥がざわめき、突風が吹き荒んだ。

‥‥‥‥

「はぁ‥‥はぁ、はぁ‥‥もう無理、疲れた‥‥」

「一通り術式は組めたようだな。屋敷に戻ったら印の精度を高めるぞ」
時刻は午後10時を迎えていたが、木常骨董店に戻っても術式の訓練は続いた。

‥‥‥‥
‥‥‥

 10時間以上にも及ぶ特訓で、疲れ果てた京子は仏間へなだれ込むように倒れた。
「あーー!もう、今日はお終い!」

すぐに起き上がると、取り憑かれたように台所へと向かった。

「おれがこの姿を留めていられるのも、あと数刻だ。キツネに戻ってしまえば、印を結べなくなるぞ」

「もう一通り覚えたよ!後は”妖脈”をリフレッシュしないとね!」
暗い店内の奥から、ハスキーな声と、氷が割れる音が聴こえた。

京子は乾き物のおつまみと、焼酎ソーダ割りセットをトレーに乗せて運んで来た。
「どうよ?一緒に飲まない?キツネに戻ったら飲めないでしょ?」

「酒飲みは、事あるごとに理由をつけては酒を飲む。おぬしは、おれの父上のようだ」
玄次郎の口元が緩んだ。

「あのオジサンか~【玄次郎に頭を噛まれた時】見えた気がする。お酒を運ぶ仕事してた??」

「おれの思念が垣間見れておったか、元より木常家は米と酒造りを生業としておる」

玄次郎はおもむろに焼酎ボトルを手に取った。
 この時代の酒は‥‥
 どのような味がするのであろうか‥‥

  「よかろう、呑むか!」
 玄次郎は好奇心に負けると、コップを手に取った。

  「いいねー!ささっ、どうぞ一献!」

 暗闇と静寂に包まれる中、時折響く笑い声が、骨董店の躯体を揺らした。

 時刻は深夜2時を過ぎ、玄次郎がキツネに戻るまで残り6時間といったところ、仏間の窓が開いた。

「見てよ~綺麗な満月」

  「どれ、ほぅ燦々と輝いておるな~」

「月の中で、ウサギが笑って見えるよ?おーーい!宇佐美ぃ~~!」

  「阿保!聞こえる訳なかろう!ガッハッハー!」

「‥‥宇佐美はわかってたんだろうな、あたしと玄次郎なら上手くやれるって」

  「あぁ~!彼奴は、食えん奴だ~!」

京子は玄次郎に身体を預けるように、寄りかかった。
「おい、京子、飲み過ぎだぞ‥‥?」

「あたし、玄次郎に会えて良かったよ。地元じゃ悪者扱いで、就職も出来ず、挙げ句の果てに死んだお爺ちゃんの脛かじり者。自分の事、腫れ物だと思ってたけど、必要としてくれる人もいたんだ」

 玄次郎は手のやり場を探していた。
「おぬしはきっと強くなる。御先祖様、玉藻前のようにな!!」

京子は少し鼻を啜ると、玄次郎を突き飛ばした。
「さぁ、今夜は飲もう!」

「人使いが荒いのぅ。良かろう!呑むぞ!」

‥‥‥
‥‥‥‥

チュン♪チュン♪‥‥‥チュン♪
 うっ‥‥‥朝か
京子はまた仏間で寝てしまっていた。

「チュン♪チュン♪」

「ひぇ!どうやって中に入ったの?」

宇佐美が口を尖らせ小鳥のマネをしていた。
「窓が空いてましたよ♪それより、早速虎の子を討ったようですね~♪」

「虎の子?あぁ、ピクシーね。あいつ強すぎだよ!死ぬかと思ったじゃない!」
 京子は革ジャンを手繰り寄せると、ポケットに入れていた勾玉を宇佐美に手渡した。

「上出来です♪これは臨時給与として、受け取ってください♪」
 宇佐美は手提げ袋から札束を取り出した。

「‥‥‥これ、いいの?」
思わず生唾を飲み込んだ。

「はい~♪50万円です♪初勝利なので、特別に奮発させて頂きました♪」

「あたし、頑張る!!」
札束を受け取ると、枚数を数え始めた。

(その紙切れが、この時代の銭か?そんなもの”うちでの小槌”が手に入れば無限に出せるではないか)
一匹のキツネが仏間に上がってきた。

「それも、そうか‥‥‥」
目を擦り玄次郎を見つめると、札束を革ジャンの上に置いた。

 やっぱりキツネに戻っちゃったんだね~~‥
京子は玄次郎のモコモコとした尻尾に触れた。

「玄次郎、京子、昨日はお見事でした♪これからも期待していますよ♪」

(まだまだ修練が必要だ。それより、昨日討った虎の子は我らの事を探しておったようだ)

「そうですか~♪やはり、お二人はカグヤ様から【狙われている】のでしょう♪」

「それは、天の羽衣のせい?」

「そうです♪虎の子図鑑の補足をしますね♪」
うさ耳男の左手にはめられたシルバーリングが、朝日を反射した。

「このリングは《クロノスリーブ》と言います♪時空を跳躍する事ができるこのリングは、いわば”時空査証”です♪そして、虎の子図鑑は時越者を管理する装置と言えるでしょう♪」

(じくう、さしょう‥‥‥?)

  「航空ビザみたいなものね、多分‥‥‥」

「クロノスリーブと虎の子図鑑を発明したのは、カグヤ様です♪玄次郎がこの時代にやってきた事は、既にカグヤ様もお気付きでしょう♪」

「そんなの、虎の子に一斉に襲われたりでもしたら、お終いじゃん!」

「そうですよね♪ただ、お二人にそこまで戦力を割いてくることはないでしょう♪我々月の民も、あらゆる方法でカグヤ様を送還すべく行動していますので♪」

(我らは、その一角を担う”木常勢”ということか)

「はい♪ただ、羽衣を扱える京子の存在は絶対です♪カグヤ様の根本的な【反骨精神】を狩らなければ、送還後にまた逃げられてしまいますからね♪それだけ【木常と羽衣】の”セット“が重要なのです♪」

 京子は宇佐美の話を聞きながら、拳を強く握りしめていた。
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