虎の威を狩れ!木常! 〜虎の子狩りで修練を積み、世界を救え〜の巻

真昼間イル

文字の大きさ
15 / 16

No.15 戦う理由

しおりを挟む

 こうなったら、やられる前に叩くしかない!!
「ふっふ‥‥ハァッ!アーーッハッハーー!!」

(京子!妖力剛体はそこまでだ!)
 玄次郎は一定の距離を保つと、勇しく吠えた。

『キ、ぎ、木常ーー!ギニャーァーー!!』

 にゃ、にゃんだ?身体が言うこと効かないにゃ
 
 猫耳少女は、まるでもう一人の自分が現れ、身体の自由を奪いつつある事に気がついた。

 意識の向こう側から自分を見ている感覚だにゃ。
猫耳少女が身体を制御すべく、意識を集中していると、過去の記憶が突然フラッシュバックした。

‥‥‥
‥‥‥‥

 マモル来てくれないにゃ~‥‥
 ウチの事忘れちゃったのかにゃ~‥‥

 どれだけ時が過ぎただろうか。
 見慣れていた空き地には、知らぬ間に人々が忙しそうに歩き回り、重機が往来していた。

「まさかと思うとったけど、まだおったんかお前」

 うわ‥‥意地悪な男だにゃ
 何か大きくなってるにゃ~‥‥

 かつての意地悪な男子は、スーツに身を包み、髪を固め、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「ここにはもう居られへんぞ?」
 男は、足が不自由な野良猫を抱き抱えると、何処かへ移動しようとした。

 離せ、離せにゃーー!

「お、おいおい!暴れんな、もう乱暴したりせーへんから、安心しろや~‥‥」
 意地悪な男子はすっかり大人になっていた。
マンションデベロッパーの営業マン、今日は新築現場の下見に来ていたのだ。

 (マモル、助けてにゃーー!)

「!?マモル‥‥お前、今マモル言うたか?」

 営業マンは、不思議と野良猫の言葉が分かる気がした。辺りを見回すと、腕時計を見た。
「ちっ‥‥‥!」
脱いだジャケットで野良猫を包みこむと、営業マンは走り出した。

 もう、駄目にゃ‥‥
 また意地悪されるにゃ~

 暫くの間、営業マンが地を蹴る振動を身体で感じていた。喧騒を離れたのか、徐々に辺りが静かになった気がする。やがて振動が止まると、暗闇から眩しい光が差し込んだ。

 ‥‥ここはどこにゃ?
目が慣れてくると、ベッドに横になっているマモルが視界に入った。

「ペロ‥‥?ペロやないか」

(マモル‥‥?マモル!!)

「こいつ、まだあの空き地でお前のこと待っとったみたいやで?」

 マモルは目を赤くすると、営業マンの腕の中から猫を引き寄せ、抱きしめた。

「ごめんな、ごめんなペロ、おれ‥‥」

 この匂い、マモルに違いないにゃ~!

病室のドアが開くと、看護師が入ってきた。
「木村さーん、体温測りますよー‥‥って、ちょっと!!それは困ります!院内に動物は‥‥」

「あ~、すんません!!少しだけ目つむってもらえませんか?こいつら、久しぶり再会なんですわ」
営業マンは毛だらけのジャケットを丸めると膝の上に置いた。

 看護師はマモルの胸の上で丸くなっている野良猫を見つめると、小さく溜息を吐いた。
「15分後にまた来ます」
 そう言うと病室のドアを閉めた。すぐさま営業マンとマモルは顔を見合わせると、声を上げて笑った。

‥‥‥‥

「マモル、体調はどうや?痛むか?」

「まぁな。昨日、自宅療養の許可が出たで」

「それって‥‥」

「もう長くないみたいや。まさかペロより先に死んでまうなんてな、はっはっは!」

 マモルの空元気を横目に、営業マンはハンカチで目を拭っていた。野良猫は対照的な2人の様子を伺っていた。

(マモル、死んじゃうの?病気‥‥?)

‥‥‥‥

夕焼けが病室に差し込んだ頃、ペロは営業マンに抱かれながら道端を歩いていた。
「マモルの奴、嬉しそうだったな。さて、これからお前をどうしよか~」

(マモルのとこに帰してにゃー!離せにゃー!)

「こいつ、足悪いくせに元気やなぁー!マモルに会えて良かったな‥‥もう最後かもしれへんけど」
営業マンは声を震わせると、猫の頭を撫でた。

 空き地の隅に戻ってくると、営業マンは猫を茂みの上に置いた。
「ここはもう居られへん。おれが居場所探したるから、もうちょい待っときや」
そう言い残すと、営業マンはその場を去った。

 もうここに居られない?
 (嫌だにゃ~~‥‥)

「ママー!赤ちゃんが泣いてるよー!」

「ちゃうちゃう、これは猫ちゃんの声や、早よ帰って、ご飯にしよか!今夜はカレーやで?」

「やったぁー!僕カレーめっちゃ好き!」

 通りすがりの親子の談笑が羨ましく思えた。
その夜、ペロの頭の中から、マモルの憔悴した笑顔が離れなかった。

 マモル、死んじゃうの??
(そんなの、嫌だ‥‥嫌だにゃ~~~)

静まり返った深夜2時、怪しげな影が空き地で足を止めた。

「あら~、猫ちゃん♪あなたいいですね~♪素質が有ります♪」

(何だ?変なのが来たにゃ~‥)

「怪しい者ではございませんよ♪」
 頭にうさ耳を付けた女が近づいてきた。ピチピチのスーツ姿に派手なネクタイが首元に巻きついている。

(ウチの言葉がわかるのかにゃ?)

「えぇー♪わかりますとも♪あなた、何かお困りなんでしょう??」
 うさ耳女は銀髪の長い髪を指でなぞった。

(助けたい人がいるにゃ‥‥でも、ウチにはそんな力がないにゃ)

「なんて健気なんでしょう♪そんなあなたには、コレを差し上げます♪」

 差し出された”何か”は、かつて目にした、茶色い噛みごたえのある食べ物に似ていた。

 くんくんっ‥‥いい匂いだにゃ。

 丁度お腹も空いていたせいか、気がつくとペロはその食べ物に口を付けていた。

(これ、マモルがくれたのと似てるにゃ!)
ペロは黙々と茶色い”何か“を食べ進めた。

「チキン風味です♪塩分は控えめですよ🎶」

 ゔっ‥‥身体が熱いにゃ‥‥

「あなたは”化猫”で一生を終えるには惜しい逸材です♪私が開発した【血無名チムナ】で、魔猫:ネコマタへと転生して差し上げましょう♪」

 何だか、目が回るにゃ‥‥

体調の変化に気がつくと、顔を上げた。
うさ耳女の姿がボヤけて見えている。

(駄目にゃ、何か、何かが駄目にゃぁーーー!!)

 世界がグルグルと高速回転を始めたように思えた。
ペロの身体が人型へと変化すると、おまけと言わんばかりに、頭には猫耳、お尻からは尻尾が2本生えた。

『にゃんだこりゃーー!?』
すっかり少女の姿へと変貌を遂げたペロは、自分の身体を確かめるように触った。

  へ~‥‥♪意識があるようですね‥‥♪

 うさ耳女はつぶらな瞳を見開き、ペロの様子を珍しそうに観察していた。

「コホンッ、転生成功ですね~♪これを着てください♪そんな姿で歩き回っていたら、悪いオジサンに捕まってしまいますからね♪」

 ペロはひと繋ぎのタイツのような生地に身を包むと、生地は自然と分離し、靴・ショートパンツ・パーカーへと身体の部位に合わせて変化した。

『にゃんだこりゃー!‥‥君は一体、何者だにゃ?』

「私は【宇宙人】です♪こ~の~ほ~し~の~生物の研究をしています♪」
うさ耳女は手を喉に当て、声を震わせながら答えた。

『ウチュージンさん、別にウチは人間になりたかった訳じゃないにゃ』

 ペロにとって【宇宙人】はウチュージンという名前に捉えられたようだ。

「”助けたい人がいる”でしたね♪【ある人物を殺す】ことが出来たら”その願い”叶えてあげましょう♪」

『殺す?はっは。マモルを助ける代わりに、他の人間の命を奪うって事かにゃ?』

「そうです♪あなたはかつて、人々から崇められた魔猫:ネコマタの力を手に入れました♪今や、大の男が束になっても敵わないほど、あなたは強くなっています♪」

 『そんことがあるのかにゃ?』
 でもこの湧き上がる力と、自由になった足‥‥‥
 このウチュージンという人を信じてみるかにゃ。

‥‥‥
‥‥‥‥

 回想を終えると、対峙している京子の姿が微かに垣間見れた。

 この身体、全然言うことかないにゃ。
 まるで他猫の身体になってしまったようだにゃ‥‥
 もう、駄目‥‥眠いにゃ‥‥

 虚な目を閉じると、再び血走った眼が開かれた。
『マ、マモルゥーー!ウチが助けるニャーー!!』
我を見失った様に頭をかきむしると、クラウチングスタートの構えをとった。

(京子!備えよ!!)

「あーー!もう、わかってるよ!!」

   《妖術:妖力付与》
 革ジャンを脱ぐと、盾のように構えた。
革ジャンは妖気を吸収すると、たちまち硬くなり、鋼鉄の持ち盾へと姿を変えた。

   《妖術:妖力武装》
 京子の右腕が一回り大きくなると、強靭な爪が飛び出した。 「OK。おいでよ、子猫ちゃん!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...