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三章
シャルロッテ③
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ならばせめてエレオノーラのことを信頼のおける誰かに伝えなくてはと思ったが、邪竜が邪魔をした。
『人の不幸は蜜の味。あの子供の苦難はお前の苦難より巨大なものだ。あの子供の方が国取りには相応しいが、都には忌々しいヤツがいる。だから、お前で我慢してやっている。まずはこの辺境の地を俺の魔素で満たし、穴を広げ、ヤツを倒し、いずれは王都を国を世界を飲み込んでやる!』
邪竜は苦しむシャルロッテを見て高笑いをしていた。
そんな邪竜も今はいない。いや、正確にはいる。
いるにはいるが、シャルロッテに頭を垂れた。
突然現れた青白い光の圧倒的な力に飲み込まれ、気付いたらオニキスの中に閉じ込められていた。
光が示した三つの選択に対して服従を選んだことも今となっては理解し、屈辱に身を震わせたが、抗えば抗うほど自分の存在がこの世から消えていくのを嫌でも感じてしまい、大人しく“新シャルロッテ”に従うことにした。
オニキスの中にて、自分の魔力が新シャルロッテの魔力に塗り替えられていく感覚は、以前よりも自分が強者になっていく過程を経験しているように感じた。
「さて、邪竜……今日からあなたの名はジャミルね、あと一週間もすれば、姫様の周囲も落ち着くと思うから、会いに行くわよ。姫様に失礼なことをしたら、その場で殺すから、いい子でいなさい。」
そして、決行の日。ジャミルはシャルロッテに付き従うように例の少女の夢の中にいた。
以前、エレオノーラに夢の中で会った時は、こんな禍々しいような、清浄な気配を纏っていなかった。
今、ジャミルの前にいるのは、以前とは全く違うモノだと直感し、自然と平伏した。
その姿を視界に入れることすら畏れ多く頭を上げることも出来ないほどの圧倒的な力。“新シャルロッテ”を軽く凌駕する力だった。
「夢の中で力を隠す練習中なの、外では上手く誤魔化せるんだけど、夢の中でも普通になりたくて、辛かったらごめんなさいね。」
夢とは自身の欲望や本来の姿が反映される場所。
「お気遣いいただきまして恐縮です、姫様。」
頭を垂れているシャルロッテ、彼女ですら目の前の主の気配に震えているようだった。
「この世のモノを眷属に加えたのは清姫が初めてね。」
目の前の少女は優雅にお茶を飲んでいるのだろう。漂う香りで理解出来た。
そして、ジャミルの三歩先でカーテシーを続けるシャルロッテは簡単にジャミルについて説明するとグッと力を入れ直した。
「改めて、ご無沙汰いたしております。この清姫、ようやく満足のいく魂が宿っていた依代を見つけ、受肉することが出来、夢の中とはいえ姫様のご尊顔を再び拝謁出来ましたこと、心から嬉しく思うております。名はシャルロッテ、シャルロッテ・ロイエンタールと申します。如何様にもお呼びくださいませ。」
目の前の少女がこちらに体を向けた気配がした。
「シャルロッテと言うのね、可愛らしい名前だわ。楽にして、こちらに来て一緒にお茶にしましょう?アルフォンスの淹れたお茶は絶品よ。」
すうっと現れたもう一人の気配にジャミルは身を隠したくて仕方なかった。
「まぁ、八瀬の淹れたお茶なんて、感激だわ。」
「…趣味です。」
香り高い紅茶に笑みを浮かべる。
「八瀬の点てた抹茶が懐かしく思うわ。」
ふとこぼれた主の呟きに八瀬はいずれ絶対に抹茶を手に入れると心に誓った。
「で、学園はどう?」
「バカ女は悲劇のヒロインムーヴに湧いてますが、私がいることで面白くないようです。」
シャルロッテ(清姫)が得意とするのは“魅惑”。
「わたくしの力を半開放したとして、この世界の者共の魔法抵抗力など“霞”程度のもの。高位貴族や王族で“霧”もしくは“靄”と言ったところでしょう。現在は二割から三割程度に抑えることに留意しながら過ごしております。」
遥か昔、とある貴族の娘であった清姫は、政敵の罠にはめられ、僧侶にストーカーをするヤバい奴認定をされ、挙げ句の果てに鐘の中に閉じ込められて焼け死んだ。理不尽な所業に恨みを募らせ蛇鬼となり、相当な数の人間を殺した。
恨みを果たした後、名のある高僧に調伏されそうになった時に鬼姫に身も心も救われ眷属となった。
彼女の親は清姫ではなく愛嬌のある妹姫を帝の妃にしたかったが、清姫の美しさと賢いことは有名でいずれ帝にその評判が届くかもしれないと彼女を嫌悪していた。だから美しいと評判の僧侶に賄賂を渡し言葉巧みに清姫を誘惑させた。誰からの愛情も向けられたことがなかった清姫は僧侶を好いたが、理性は保っていた。その距離感に苛立った親と妹、更には手を組んだ政敵までもが清姫のあらぬ噂を流した。利用するだけ利用し殺される運命だったのだと恋をした僧侶の言葉を聞きながら鬼となった清姫。傷付いた心を受け止め癒やした鬼姫の胸の中で号泣したのは清姫にとって恥ずかしくなる思い出である。
眷属となってからの清姫は、人であった時の反動か、人の心を魅惑・魅了する能力を他よりも高い基準で身に付けていた。
自分より魔力保有量が多い者には効き目が薄いが、好きでもない相手に好かれることほど迷惑なことはないため清姫は眷属達の協力を得て制御方法を身に付けたのである。
「清姫の制御能力は見習いたいほどよ。」
敬愛する主からの称賛にシャルロッテの頬が染まる。
「新学期には間に合うと思うから、その時には仲良くしてね。シャルロッテ様。」
敬称付きで主から名前を呼ばれる複雑さに身をよじる。
「この世界での貴族令嬢のたしなみよ。そうね、学園で過ごして一週間ほどしたら愛称で呼び合いましょう。」
シャルロッテ(清姫)にとって一番の難題が生まれた瞬間だった。
『人の不幸は蜜の味。あの子供の苦難はお前の苦難より巨大なものだ。あの子供の方が国取りには相応しいが、都には忌々しいヤツがいる。だから、お前で我慢してやっている。まずはこの辺境の地を俺の魔素で満たし、穴を広げ、ヤツを倒し、いずれは王都を国を世界を飲み込んでやる!』
邪竜は苦しむシャルロッテを見て高笑いをしていた。
そんな邪竜も今はいない。いや、正確にはいる。
いるにはいるが、シャルロッテに頭を垂れた。
突然現れた青白い光の圧倒的な力に飲み込まれ、気付いたらオニキスの中に閉じ込められていた。
光が示した三つの選択に対して服従を選んだことも今となっては理解し、屈辱に身を震わせたが、抗えば抗うほど自分の存在がこの世から消えていくのを嫌でも感じてしまい、大人しく“新シャルロッテ”に従うことにした。
オニキスの中にて、自分の魔力が新シャルロッテの魔力に塗り替えられていく感覚は、以前よりも自分が強者になっていく過程を経験しているように感じた。
「さて、邪竜……今日からあなたの名はジャミルね、あと一週間もすれば、姫様の周囲も落ち着くと思うから、会いに行くわよ。姫様に失礼なことをしたら、その場で殺すから、いい子でいなさい。」
そして、決行の日。ジャミルはシャルロッテに付き従うように例の少女の夢の中にいた。
以前、エレオノーラに夢の中で会った時は、こんな禍々しいような、清浄な気配を纏っていなかった。
今、ジャミルの前にいるのは、以前とは全く違うモノだと直感し、自然と平伏した。
その姿を視界に入れることすら畏れ多く頭を上げることも出来ないほどの圧倒的な力。“新シャルロッテ”を軽く凌駕する力だった。
「夢の中で力を隠す練習中なの、外では上手く誤魔化せるんだけど、夢の中でも普通になりたくて、辛かったらごめんなさいね。」
夢とは自身の欲望や本来の姿が反映される場所。
「お気遣いいただきまして恐縮です、姫様。」
頭を垂れているシャルロッテ、彼女ですら目の前の主の気配に震えているようだった。
「この世のモノを眷属に加えたのは清姫が初めてね。」
目の前の少女は優雅にお茶を飲んでいるのだろう。漂う香りで理解出来た。
そして、ジャミルの三歩先でカーテシーを続けるシャルロッテは簡単にジャミルについて説明するとグッと力を入れ直した。
「改めて、ご無沙汰いたしております。この清姫、ようやく満足のいく魂が宿っていた依代を見つけ、受肉することが出来、夢の中とはいえ姫様のご尊顔を再び拝謁出来ましたこと、心から嬉しく思うております。名はシャルロッテ、シャルロッテ・ロイエンタールと申します。如何様にもお呼びくださいませ。」
目の前の少女がこちらに体を向けた気配がした。
「シャルロッテと言うのね、可愛らしい名前だわ。楽にして、こちらに来て一緒にお茶にしましょう?アルフォンスの淹れたお茶は絶品よ。」
すうっと現れたもう一人の気配にジャミルは身を隠したくて仕方なかった。
「まぁ、八瀬の淹れたお茶なんて、感激だわ。」
「…趣味です。」
香り高い紅茶に笑みを浮かべる。
「八瀬の点てた抹茶が懐かしく思うわ。」
ふとこぼれた主の呟きに八瀬はいずれ絶対に抹茶を手に入れると心に誓った。
「で、学園はどう?」
「バカ女は悲劇のヒロインムーヴに湧いてますが、私がいることで面白くないようです。」
シャルロッテ(清姫)が得意とするのは“魅惑”。
「わたくしの力を半開放したとして、この世界の者共の魔法抵抗力など“霞”程度のもの。高位貴族や王族で“霧”もしくは“靄”と言ったところでしょう。現在は二割から三割程度に抑えることに留意しながら過ごしております。」
遥か昔、とある貴族の娘であった清姫は、政敵の罠にはめられ、僧侶にストーカーをするヤバい奴認定をされ、挙げ句の果てに鐘の中に閉じ込められて焼け死んだ。理不尽な所業に恨みを募らせ蛇鬼となり、相当な数の人間を殺した。
恨みを果たした後、名のある高僧に調伏されそうになった時に鬼姫に身も心も救われ眷属となった。
彼女の親は清姫ではなく愛嬌のある妹姫を帝の妃にしたかったが、清姫の美しさと賢いことは有名でいずれ帝にその評判が届くかもしれないと彼女を嫌悪していた。だから美しいと評判の僧侶に賄賂を渡し言葉巧みに清姫を誘惑させた。誰からの愛情も向けられたことがなかった清姫は僧侶を好いたが、理性は保っていた。その距離感に苛立った親と妹、更には手を組んだ政敵までもが清姫のあらぬ噂を流した。利用するだけ利用し殺される運命だったのだと恋をした僧侶の言葉を聞きながら鬼となった清姫。傷付いた心を受け止め癒やした鬼姫の胸の中で号泣したのは清姫にとって恥ずかしくなる思い出である。
眷属となってからの清姫は、人であった時の反動か、人の心を魅惑・魅了する能力を他よりも高い基準で身に付けていた。
自分より魔力保有量が多い者には効き目が薄いが、好きでもない相手に好かれることほど迷惑なことはないため清姫は眷属達の協力を得て制御方法を身に付けたのである。
「清姫の制御能力は見習いたいほどよ。」
敬愛する主からの称賛にシャルロッテの頬が染まる。
「新学期には間に合うと思うから、その時には仲良くしてね。シャルロッテ様。」
敬称付きで主から名前を呼ばれる複雑さに身をよじる。
「この世界での貴族令嬢のたしなみよ。そうね、学園で過ごして一週間ほどしたら愛称で呼び合いましょう。」
シャルロッテ(清姫)にとって一番の難題が生まれた瞬間だった。
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