鬼姫は今度こそのんびりしたい。

さちもん

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二章

邂逅

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「よう、この気配、般若じゃないか。」
主と別れたヴィオレッタは、洞窟から出て意識を失った娘と遺体を運び出す作業を黙々とこなしていた。主の命には粛々と答える眷属、それが般若と言う鬼女だ。何で私がなどとも思わないのは、その場に自分しか主の眷属がいないから。だが、声を掛けられた。
振り向くと大柄な男がいた。
背中に大剣を背負っており、独特な気配がした。
仲間である眷属の気配。
「冒険者?腹に穴開いてた……か?」
腹部から彼女が羨ましいと思える腹筋が見えていた。
「中身は再生した。中心の穴から出てきた化物の攻撃に死にそうだったが、気に入ったから体を貰った。」
「一人か?」
「いや、あと一人だけ無事だった。そいつを助ける条件に体を貰った。その他の仲間は全員殺られた。」
ヴィオレッタは娘達を乗せていた荷車を見つけ娘達を投げ入れていく。
「おいおい、いいのかよ、乱暴に扱って。」
「意識ないか、死んでる。それに無傷の娘はいない。今さら傷を負ったとしても区別はつかないだろう。こっちは復活して間もない。力の消費が思っていたより酷い。見てないで手伝え。それか、ちょこっと残してるから中の始末を頼む。姫様は殲滅を御希望だ。」
「おっ!そっちする、けどなぁ、若い娘が相手だ傷を増やさなくても良かろうて、」
そんな言葉を掛けて、般若と目が合い逸らすと洞窟に駆け出して行った。
「……懲りない奴だ。」
さぁ、どうしようかと思っていると荷車の中で意識を取り戻した娘の声がした。
声の主は恐慌に陥った。
その悲鳴で生き残った娘達も目を覚まし悲鳴を上げる。
ヴィオレッタは舌打ちをして、
「落ち着け。」
と声をかけて指を鳴らした。
鳴らされた音に静寂が降りた。
「エ、エルフ!?」
声を上げたのは一番最初に目覚めた一人の娘。
「な、なんで、どうなったの!」
ヴィオレッタは息を吐く。
そして、先程別れた主と打ち合わせたことを思い出し告げた。
ゴブリンに浚われたこと、何人かは死んだことを話した。
(あいつも巻き込むか。)
中にいる仲間に思念伝達を行う。
「私達は、通りがかりの冒険者だ。仲間がゴブリンの掃討を中でしている。」
娘はゴブリンと聞いて身の上に起きたおぞましい記憶が甦った。己の身を抱き締めほぼ半裸であることに怯え始めた。
「ど、どうして、こ、こんなっ!ルクレツァは?あの子も当然、汚されたのよね!」
娘はルクレツァの義姉らしい。主によるとルクレツァは肉体こそ半壊したが、純潔のまま夜叉に体を譲った。魂が壊れなかった理由の一つだろう。
「その荷馬車に体がなければ死んでいると言うことだな。」
あっさりと言うヴィオレッタに荷車にいる娘達を見渡し微笑む義姉。
「村に帰って、早く浄化して貰わないといけないわ、お父様にもルクレツァのことを言わなくちゃ。」
魔物から負わされた傷は瘴気を纏う。
特に魔物にマーキングされた者は早い内に浄化をしないと魔物の花嫁、もしくは餌として認識され生涯狙われることになる。ブツブツと呟く娘。彼女以外の娘達は皆震えて言葉もなく涙を流している。
浚われて今日で2日目。タイムリミットは近い。
「さて、あいつ、早く帰ってかないかな。」
荷車を引く馬もいない。
ヴィオレッタは、中で遊んでいるだろう大男に馬車を引かせようと思っていた。
何せ、今の自分は華奢なのだから。
遺体を放置するのは主の意に反し、村人に恩を売れないだろう。
「僕の友達が荷車を引くから大丈夫だよ。」
掛けられた少し幼い少年の声。
振り向くと灰色の馬を従えた美少年がいた。
「僕の名前はヴァレリオ、こう見えて冒険者だよ。テイマーで、この子は僕の友達さ。」
少年の笑顔に義姉達の空気が和らぐ。
「助かった、どうしようかと思ってたんだ。」
少年から漂う気配が仲間だと知らせていた。
「もうすぐ兄さんも戻ってくるから出発の準備だけ始めておこう。お姉さん達は無理しないでいいからね。」
ヴィオレッタは少々呆れた顔をして目の前の少年と念話を交わす。
(箍丸、でいいか?これまた、可愛らしい姿だな。)
少年は笑顔を浮かべた。
(人のこと言える?般若だよね、憤怒の般若がそんな綺麗なオネーサンになってるとはね、似合ってるよ。)
微笑み合う二人の間に何とも言えない空気が流れた。
(たまたまではなく、仕方なくだけど、脳筋阿久良が手に入れた男の弟の体に入ったんだよね…。)
遠い目のヴァレリオ。
やっぱり、さっきの大男は阿久良だったのかと般若は思った。いいなー筋肉と。
(この子供が阿久良の条件か、箍丸がいなかったらどうするつもりだったんだ?)
(たぶん橋姫にでも頼む予定だったんじゃない?貸し借り作るの得意だから、彼。)
橋姫の得意とする死人造りには色々と制約があり、基本主の許可がいる。危うく主に迷惑を掛けるところだったのだと般若も箍丸も胸を撫で下ろす。
(元々テイマーっていう才能のある子だったんだけど、僕が入ったら、この子に気に入られちゃってさ。)
ふさふさの鬣を撫でる。元の能力でテイム出来てたのは角のある、ウサギ程度だったそうだ。
兄に憧れ、冒険者の道を選んだ弟は穴の魔物討伐隊に志願した兄を追った。
(己の能力も分かってなかった、兄弟揃って、粗忽者だげどね、人柄は良かったみたいだ、脳筋なりにね。)
で、追ってきた弟を庇って死にかけたのがクラウディオこと阿久良で、兄と共に死にかけたのがヴァレリオだった。
(阿久良は、箍丸が大好きだもんね、引っ張られた?)
(迷惑なことに。まぁ、あの人の尻拭いばっかしてたから弟的位置付けは仕方ないけどね。)
淡々と作業をしていると洞窟から先程の大男が出てきた。
「箍丸!般若!バケモンは滅したぞ!」
前世の名前を高らかに叫ぶ男、呆れた顔の二人。
(あれには教育が必要ね。)
(取り敢えず、姫様の所に行けるように口裏合わせをしましょう。)
一行は村へと向かうことになった。
荷車に乗ったルクレツァの義姉はクラウディオの姿に頬を染めた。
(阿久良と違って、脳筋なのに顔がいいからね。)
覚めた表情のヴァレリオ。
(好色癖が出ても姫様に迷惑を掛けないよう見張るのか?我々が?)
腐った肉を見るような目をしてる。
(放置一択で。姫様に嫌われてもらいましょう。)
恋愛に関しては一途な主の性質を理解している眷属達は色恋の遊びに関しては絶対にバレないように動くのだが、阿久良の裏表のない性質は色欲を隠すのに適してない。
前世では白い目で見られていたこともあり、眷属として当たり前であることなのにショックを受けていた。
(あやつは、反省と言う文字を脳ミソに刻まないと理解しない。)
(色恋沙汰の後始末に巻き込まれた前世を思い出します。)
今世では見た目のよい筋肉バカになったらしい阿久良。
姫のいないこの地での行動を考えると頭が痛くなる二人だった。





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