灰色の旅人

ふたあい

文字の大きさ
4 / 62

1―1

しおりを挟む
 気が付くと、ノロノロと前へ進む行列の最後尾にいた。またしても…行列とは。

 …またしても?あ、れ…?

 あー!そうだ。そうだった。おかしな白と黒の神に、難題を押し付けられてーー
 それで…?

 前を歩く人たちを見た。女性と子供と年寄りが多い人の列。皆、ボロボロだった。そのくたびれ加減が半端ではない。中には血痕を付けた人までいる。服の破れ、泥まみれは当たり前。そのせいか、誰ひとり生気のある顔をしていない。生きて足を動かし前に進んでいるのに、皆、死んだよう。え?ゾンビの行列?そんな有様だった。
 ふと気付いて、自分の手元を見る。
 周囲同様、ボロボロだった。着ている服の袖は泥まみれで、破けている。当然、手にも泥が付き、さらにはあちこち傷があり血が滲んでいた。

 ーー痛い。

 気付いてしまうと、途端に痛みを感じた。
 それだけではない。酷く疲弊している。今の私は精も根も尽き果てた、そんな状態だ。おそらくだが、周囲の人も皆同じなのだろう。

 ああ。私、生き返ったのか。他人事のようにそう思った。
 視線を前に移す。行列の先には、大きな壁が見えた。高く強固…中と外を遮るあれはーー

「…町?」

 掠れた声が出た。喉がガラガラで酷い状態だ。大声で叫びでもしたのだろうかというような…
 一体これは、どんな状況なのだろう?そして、その中にいる私は…私はーー

 誰だ?

 神と対峙していた時からそうだった。まるで記憶がない。思考はクリアだ。でもなにも覚えていない。
 再び己が手を見た。多分、女の手。違和感はない。肩に掛かる髪を軽く引っ張る。黒い。これも違和感なし。…黒髪で性別は女。記憶はなくとも、それは間違いなさそうだ。他に確かめられる所はーー

 自分の姿を見直そうとした、その時だった。

「身分証を、お持ちでない方はこちらへ並んで下さーい」
 そう張り上げる声が聞こえた。
 途端に周囲の音が耳をつく。町に近付いたためだろう。列を成す人たちは終始無言。生ける屍の如しだったから。
 そんな人々を、町の入口付近で待ち構えた人たちが迎えている。これはーー

 難民の受け入れ?そんな言葉が過ぎった。

 ハッとして今度こそ自分の姿をあらためた。分かってはいたけれど酷い状態だ。元は白だっただろうブラウスは、泥色、血の色が入り混じりなんとも言えない色となしている。おそらく濃紺だったスカートも同様。あちこち破れているのも手伝って、見るも無惨な有様だ。そしてーーなにひとつ持ち物を手にしていなかった。
「…身分証…ない」
 掠れた声で呟く。身分証どころか記憶もないわけだが、今ここでは、それは些末なことに思えた。
 フラフラと、さっき聞こえた声の方へ足を向ける。身分証を持たない者はあっちーー

 先程並んでいた列から少し離れた場所に、十五人ほどの人が集まっていた。身なりのきちんとした若い女性が一人いて、集まった人たちの話を順に聞いて回っている。程なくして数人が、やって来た兵らしき男に連れられて行った。おそらく話を終え、町に入る手配が整ったのだろう。

「もう大丈夫ですよ。話すことはできますか?」
 ぼうっとしていると、突然話しかけられ驚いた。自分で考えていたより、消耗していたようだ。意識が飛びかけていた。
「あ…はい」
「どうぞ。お水です」
 私の返事を聞いて、その人は水筒を渡してくれた。さっき見た女性だ。いつの間にか私の番が回ってきていたらしい。
「ありがとうございます」
「いいえ。いくつか質問があるのですが、大丈夫ですか?」
「はい」
「身分証をなくした?」
「…持ってないです」
「ホド、カロ、どちらの村の方ですか?」
「……」
「あの、どうしました?」
「……です」
「え?」
「覚えて…ないんです」
「え?あ、あの、失礼ですがお名前は?」
「それも…覚えてないんです」
「え…ええっ!?」
 目の前の女性が慌て始めた。まあ、そうだろう。記憶喪失となると、医者の領域となる。私のコレは、ちょっと、いや、大分違うと思わないでもないが。
 おそらくすぐに治療が必要な者は、別の所へ連れて行かれているはずだ。列に並んでいた人たちはくたびれてはいたが、皆、自分の足で歩いていたから。だけどーー

「あ、あの、申し訳ありません。すぐに医療班の元へ連れて行ってあげたいのですが…なにぶん今は怪我人が多くて…」
 しばし私の様子を窺った後、女性は済まなそうにそう言った。
 それはそうだろう。疲弊はしていても、私に大きな外傷はない。寧ろ、他より足取りは確かなくらいだ。現状から察するに、かなりの重症者が出ていると見た。私は後回しでいい。そもそも、医者にかかったところで、この記憶喪失はどうなるものでもないはず。
「かまいません。だけど、なにがあったのか教えていただけますか?」
「え…あ。本当に覚えていないのですね」
 ものすごく気の毒そうな顔をされてしまった。もう苦笑するしかない。
「そうみたいです」
「魔物の大量発生があったんです」
「…はい?」
「ホルルカ島で、貴女が住んでいたであろう土地で起こった災害です。貴女は命からがら、逃げ延びて来たんですよ」

 ーーなにそれ?

 魔物?大量発生??耳にした単語の馴染みのなさに、驚愕している自分がいた。
 え?そんなものがいるの?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

処理中です...