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白黒神様の言動から、絶対厄介事のある世界だとは思っていたけれど…魔物とは。
ゲームみたいだなあーーと思って、思考が止まった。ゲーム?
…ゲームは…ゲームだね。知識としてそれがある。記憶はなくとも。そうか。記憶がない割に落ち着いているなと思ったら、私は私として揺らいでないのだ。確固たる地盤がないにも拘らず。
名前すら分からない状態であるくせに。我ながら図太い。
「あの…大丈夫ですか?」
声をかけられ我に返った。そうだった、話の途中だった。
「あ、はい。すみません、やっぱりなにも思い出せないなと思いまして」
思い出せない以前の問題なのだけれど。
「…そうですか」
非常に気の毒そうな顔をされる。なんだか申し訳ない。
ごめんなさいね。我が身に降り掛かった災難は、決して貴女が思っているようなものではないのです。
さて、どうしたものか。まあ、素直に尋ねるしかないのだろう。右も左も分からない状態なのだから。
「あの、私はこれから、どうすればいいのでしょうか?」
こちらを安心させるように、女性はにっこりと微笑んでくれた。
「安心して下さい。できる限り支援します。ただ…」
「ただ…?」
「なにぶん避難者の数が多く、支援の手が追いつかないのも事実です。だからまず、ここで身分証の再発行をいたしましょう」
「身分証…ですか?」
「はい。貴女の持つ技能によっては、優先して支援を引き受けてくださるところも出てきますから。上手くいけば、そのまま仕事に就けるかもしれませんし」
「仕事に…」
「あ、もちろん、特別な技能などなくても、ちゃんと支援してくれる先はありますよ」
「…技能?」
なんだろう。どうにも話が見えない。
身分証を作ることと、技能云々の話が何故つながる?技能の有無なんて、現状分かりようがないと思うのだけれど?
「あの…ひょっとして、そのあたりも覚えて…ない?」
首を傾げる私の様に、女性が「まさか?」と質問した。
ん?やっぱり、こっちの常識がズレている?覚えてないというより、知らないというのが問題なんだろうな。でも、そこはまあ惚けておこう。
「えーっと、さっぱりみたいです。説明してもらえますか?」
「もちろんです。とにかく、身分証を再発行しましょう。それから説明しますね」
「…はい」
再発行?以前は持っていた、ということ前提になるのか。ーーつまり、身分証は誰でも持っていて当たり前のもの。
「そうだわ、自己紹介がまだでしたね。私はミネリ。このリズの町で、役所勤めをする者の一人です。以後、お見知りおき願います」
しきりに気の毒そうな表情を浮かべていた女性ーーミネリさんはそう言って、胸の中心に手を当て頭を下げた。ふむ。それがコチラ流の、挨拶の仕方だろうか?覚えておこう。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「はい。町にいる間は、なんでも相談してくださいね。仕事なので、気兼ねする必要はありませんから」
「ありがとうございます」
常識人って、ホッとするなあ。あの白い神様とはえらい違いだ。
「では、さっそくーー」
言いながらミネリさんは、提げていた鞄の中をゴソゴソと漁った。そうして取り出したものを、私に突き出す。
「はい、どうぞ。これを手にしてください」
「え?あ、はい」
手渡されたのは、一枚のカードだった。
…馴染みのあるサイズ。キャッシュカードくらいか。でも素材はちよっと、カードとしては珍しい。これ、木だよね?薄っぺらなただの木。ん?名刺とか?
裏返してみるも、やっぱりただの木だった。木目があるだけ。なにも彫られてなければ、書かれてもいない。
「あの…?」
「復唱してください」
ミネリさんが、大丈夫といった笑顔で言う。
「え?ふく…?」
「母なる創造と活力の神、ルルルエラーラに願い奉る。汝が子としての証を示し給え」
あ、なんか今、ゾワッとした。ルルルエラーラ?それってもしかして、もしかしなくても、あの白い神様のことなのでは?
うわー。復唱したくね~。
という心の声は、ミネリさんに悪いので聞かなかったことにする。
「…母なる創造と活力の神、ルルルエラーラに願い奉る。汝が子としての証を示し給え」
復唱した次の瞬間だった。手にしたカードが紫色の炎に包まれた。
「えっ?うわっ、熱っ…くない?」
驚いて一瞬カードを落としそうになったけれど、なんとか手放さないでいられた。
「ふふ、ごめんなさい。先に言っておけば良かったですね、驚かないで下さいって。でも、これで発行できました。見てください」
「え…?」
ミネリさんに促されて、手にしていたカードを見る。んんっ!?さっきまで木だったのに、金属製に変わってる?それになにか文字が浮き出ている。内容はーー
※※※※※※※ 十九歳
人族
ホルルカ島
あれ?これって、ひょっとして私の…
「あら?そんな、まさか…名前が非表示なんて…記憶がなくても、表示されると思っていたんですが…」
横から覗き込んでいたミネリさんが、眉尻を下げた。やっぱりこれ、私の情報なのね。察するに、※※※※※※※が名前の箇所か。なんだか突っ込み所が多いなあ。人族とか。…わざわざ表示するってことは、それ以外がいるってことだよね?
「あー、記憶のあるなし関係なく、本来は表示されるもの?」
「これは貴女の魂に刻まれた情報ですから。記憶喪失くらいでは、問題にならないはずなんです。けれど…」
納得。そりゃ、非表示だわ。私は多分、いろいろリセット状態だろうから。
ゲームみたいだなあーーと思って、思考が止まった。ゲーム?
…ゲームは…ゲームだね。知識としてそれがある。記憶はなくとも。そうか。記憶がない割に落ち着いているなと思ったら、私は私として揺らいでないのだ。確固たる地盤がないにも拘らず。
名前すら分からない状態であるくせに。我ながら図太い。
「あの…大丈夫ですか?」
声をかけられ我に返った。そうだった、話の途中だった。
「あ、はい。すみません、やっぱりなにも思い出せないなと思いまして」
思い出せない以前の問題なのだけれど。
「…そうですか」
非常に気の毒そうな顔をされる。なんだか申し訳ない。
ごめんなさいね。我が身に降り掛かった災難は、決して貴女が思っているようなものではないのです。
さて、どうしたものか。まあ、素直に尋ねるしかないのだろう。右も左も分からない状態なのだから。
「あの、私はこれから、どうすればいいのでしょうか?」
こちらを安心させるように、女性はにっこりと微笑んでくれた。
「安心して下さい。できる限り支援します。ただ…」
「ただ…?」
「なにぶん避難者の数が多く、支援の手が追いつかないのも事実です。だからまず、ここで身分証の再発行をいたしましょう」
「身分証…ですか?」
「はい。貴女の持つ技能によっては、優先して支援を引き受けてくださるところも出てきますから。上手くいけば、そのまま仕事に就けるかもしれませんし」
「仕事に…」
「あ、もちろん、特別な技能などなくても、ちゃんと支援してくれる先はありますよ」
「…技能?」
なんだろう。どうにも話が見えない。
身分証を作ることと、技能云々の話が何故つながる?技能の有無なんて、現状分かりようがないと思うのだけれど?
「あの…ひょっとして、そのあたりも覚えて…ない?」
首を傾げる私の様に、女性が「まさか?」と質問した。
ん?やっぱり、こっちの常識がズレている?覚えてないというより、知らないというのが問題なんだろうな。でも、そこはまあ惚けておこう。
「えーっと、さっぱりみたいです。説明してもらえますか?」
「もちろんです。とにかく、身分証を再発行しましょう。それから説明しますね」
「…はい」
再発行?以前は持っていた、ということ前提になるのか。ーーつまり、身分証は誰でも持っていて当たり前のもの。
「そうだわ、自己紹介がまだでしたね。私はミネリ。このリズの町で、役所勤めをする者の一人です。以後、お見知りおき願います」
しきりに気の毒そうな表情を浮かべていた女性ーーミネリさんはそう言って、胸の中心に手を当て頭を下げた。ふむ。それがコチラ流の、挨拶の仕方だろうか?覚えておこう。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「はい。町にいる間は、なんでも相談してくださいね。仕事なので、気兼ねする必要はありませんから」
「ありがとうございます」
常識人って、ホッとするなあ。あの白い神様とはえらい違いだ。
「では、さっそくーー」
言いながらミネリさんは、提げていた鞄の中をゴソゴソと漁った。そうして取り出したものを、私に突き出す。
「はい、どうぞ。これを手にしてください」
「え?あ、はい」
手渡されたのは、一枚のカードだった。
…馴染みのあるサイズ。キャッシュカードくらいか。でも素材はちよっと、カードとしては珍しい。これ、木だよね?薄っぺらなただの木。ん?名刺とか?
裏返してみるも、やっぱりただの木だった。木目があるだけ。なにも彫られてなければ、書かれてもいない。
「あの…?」
「復唱してください」
ミネリさんが、大丈夫といった笑顔で言う。
「え?ふく…?」
「母なる創造と活力の神、ルルルエラーラに願い奉る。汝が子としての証を示し給え」
あ、なんか今、ゾワッとした。ルルルエラーラ?それってもしかして、もしかしなくても、あの白い神様のことなのでは?
うわー。復唱したくね~。
という心の声は、ミネリさんに悪いので聞かなかったことにする。
「…母なる創造と活力の神、ルルルエラーラに願い奉る。汝が子としての証を示し給え」
復唱した次の瞬間だった。手にしたカードが紫色の炎に包まれた。
「えっ?うわっ、熱っ…くない?」
驚いて一瞬カードを落としそうになったけれど、なんとか手放さないでいられた。
「ふふ、ごめんなさい。先に言っておけば良かったですね、驚かないで下さいって。でも、これで発行できました。見てください」
「え…?」
ミネリさんに促されて、手にしていたカードを見る。んんっ!?さっきまで木だったのに、金属製に変わってる?それになにか文字が浮き出ている。内容はーー
※※※※※※※ 十九歳
人族
ホルルカ島
あれ?これって、ひょっとして私の…
「あら?そんな、まさか…名前が非表示なんて…記憶がなくても、表示されると思っていたんですが…」
横から覗き込んでいたミネリさんが、眉尻を下げた。やっぱりこれ、私の情報なのね。察するに、※※※※※※※が名前の箇所か。なんだか突っ込み所が多いなあ。人族とか。…わざわざ表示するってことは、それ以外がいるってことだよね?
「あー、記憶のあるなし関係なく、本来は表示されるもの?」
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納得。そりゃ、非表示だわ。私は多分、いろいろリセット状態だろうから。
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