灰色の旅人

ふたあい

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4ー4

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 『認識阻害』。それで私の存在が、曖昧になっていたということだろうか。だとすると発動したのはあのタイミング…?
「言いがかり男から、離れた時?あの男、やっぱり私を探していたのか…?」
 考えを口にする。
「なんだ?」
 イーディスが即座に反応したので、ここに来るまでにあったことを話した。

 ここから、適性『苦労次第』に付随する技能が発生したわけだがーー

「こうして話すと、たいした苦労はしてませんね。…苦労次第って?」
「気にするだけ無駄だ。神どもの基準は俺たちとは違う」
「あー、そうですね。黒い神の方もまあ、アレです。白い神といい勝負でしたから」
「……まともな奴はいねえのかよ」
「ハハ…」
 イーディスはあからさま嫌そうに顔を歪め、私は乾いた笑いを漏らした。そうだね。人の観点からすれば、あの神はまともではない。迷惑の権化だ。

「だが、有用な技能ではあるな」

 少し間をおいて、イーディスがポツリと言った。
「そう、かもしれない。これで私は傭兵ギルド界隈を、大手を振って歩けるようになった」
「まあ、そうだな」
 私が答えると、イーディスが一転して表情を変える。大変、良い笑顔となって肯定してくれた。この前も思ったが…ちょっと、その笑顔は反則です。ヤメテください。
「何故そこで…笑います?」
 いろいろ誤魔化したいがため、問い質した。
「いや、お前。認識阻害なんざ、人知れず悪さし放題だってのに、そんな発想しかないのか?」
 はっ!?そう言われてみれば、悪用価値がかなりある。やらないけど。
「まあ、そこはイーディスのお陰かな」
「俺の?」
「衣食足りて礼節を知る、ってね。私は今、生活に困っていませんから。そんな発想とは無縁でいられる」
 笑顔を返すと、ふいっと顔を逸らされた。なんで?
「…まあ戦闘においても、役立つ技能だ。傭兵をやる気になったなら、そこは意識しておけ」
 横向きのまま、話の続きをしてくる。お~い、こっち向け。どうしたー?
「イーディス?」
「…少し鍛えてからと思っていたが、もう登録しちまうか」
 しばらくそっぽを向いて考え込んだ後、イーディスは言った。背を向け、戸口に手をかけて。
「あー、そうですね」
 なんだろう。なんだか個室に二人でいるのが、妙に気詰まりだ。一緒に住んでいるというのに。

 話していた部屋を出て、表のカウンター前に戻る。私たちを見て、さっきのバーテンふうの男が笑みを浮かべ、声をかけてきた。三十代中頃か?肩より少し長い茶髪を後ろに一括りにした、周りに溶け込んだ人である。只者ではなさそう。
「おや?お早いお戻りで。込み入った話ではなかったのですか?」
「まあな。それで、だ。コイツは傭兵志望だ。手続きを頼む」
 答えながらイーディスが、私を親指で指した。するとーー
「なに?」
「その嬢ちゃんが?」
「なんだって!?」
「冗談だろ?」
「はあっ!?」
 外野が途端にうるさくなった。イーディスのひと睨みで静かになったけど。

 ああ、ハイ。まあ、そうですね。

「イーディス、それは真面目な話ですか?」
 バーテンふうさんも、疑いの目で私とイーディスを交互に見る。
「そうだ」
「…そうですか」
 困った顔で私に目を向けるバーテンふうさん。
「えーっと。よろしくお願いします」
 胸に手を当て、ペコリと頭を下げてみる。
「ええ?…本気なんですか。貴女のようなお嬢さんが?」
 バーテンふうさんは、ますます困った顔になった。それでも、言う通り私だって本気である。一応は。ギルド登録の手続きを始めてもらった。

「ランク?」

 カウンター越し、そのまますぐに説明が始まった。バーツと名乗ったバーテンふうさんの言葉を、オウム返しする。本名が若干バーテンとダブっているが、突っ込まないことにしよう。
「はい。そうです。ギルドの傭兵は、七段階にランク付けされています。Fランクから始まって、順にE、D、C、B、Aと上がり、最高位がS。とはいえSは特殊、と言いますか規格外なので、実質は六段階ですかね」
「はあ」
 気の抜けた返事をする。どうにもピンとこないが、実力分けされてるってことなのだろう。
「フランチェスカさんには当然、Fランクから始めて頂きます。受けられる依頼は難易度の低いもので報酬も少ないですが、まずはそこで腕を研いてください」
「はい」
「ですが、難易度が低いと言っても、魔物討伐が主です。そこは…分かってます?」
 心配そうにバーツさんが私を見る。分かってるつもりだったのですが…私も私が心配になりました。
「俺が付いて鍛えるから、そこは心配するな」
 私たちのやり取りに頭を抱えつつ、イーディスが言葉を挟んだ。今更ながら不安になってきたと、顔に書いてある。

 それはそうだろう。なんたって戦闘経験ゼロですから、私。

「イーディスがそう言うのでしたら、差し手は控えるとして…とりあえず、登録してしまいましょう。身分証をこちらへ」
「はい」
 身分証を手渡す。すると受け取ったバーツさんは、その裏側へ、ポンと。どこから取り出したのやら、手にした判を押した。おや?

 身分証が一瞬、淡く光った?

「はい。お返しします。これで登録完了です」
 バーツさんをが身分証を返してくれる。これで登録完了?思っていたより簡単だ。気になって裏返してみると、剣と盾の紋ーーギルドの看板にも意匠されていたーーが刻まれていた。なるほど?どうにもやっぱり、不思議アイテムである。
 その後、決まりや依頼の受け方の説明を受けた。けれど、その時点で私はまだ、自分が傭兵になったという自覚はなかった。

 実感したのは実際に依頼を受け、イーディスに鍛えられ始めてから。

 鬼だよ。鬼。聖剣サマは鬼だった。ひと月も経った頃には、『剣術』の技能を習得していた。



4 傭兵のススメ
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