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私が何故、男の姿で侯爵令嬢とデートしているのか?
話は少し前に遡る。
ユルが来て、借り部屋をシングルからツインへ変えて落ち着いた頃。
行き詰まっていた。
島と町に魔物を呼び入れた者がいる。それは看過できないとしていた。この件にフランチェスカが関わっていたのは、ほぼ間違いない。彼女は口封じに殺されたのではないか?そんな疑いさえ生まれた。
私たちは、この上なく怪しいと、クレマチス商会に目を付けたのだがーー
この商会というのが、一筋縄ではいかない。
クレマチス商会が扱うのは魔導具。
魔導具というのは、一般的に『魔法付与』された道具を指す。一度使えば失くなる魔結晶と違い、何度でも使える優れものだという。実物を目にしたことがないので、実際にはどんなモノなのか知れないのだが。
さすがの聖剣サマも、現物を見たことがないらしい。魔導具とはものすごく貴重で高価な代物なのだ。
故にクレマチス商会は貴族の御用達。然るべき身分、もしくはその紹介がなければお目にかかれない、非常に敷居の高いーーいや、庶民からすると雲の上の存在だった。
当然、一庶民の私たちには近付く術がない。商会の技術者は町に点在ーーフランチェスカがこれに当たったーーするはずだが、技術秘匿のためか表立たない。
他の足掛かりとして、無事だった島民や町の人にそれとなく魔物が現れた時の話も聞いてはいる。イーディスにいたっては端から疑っていたので、傭兵になった当初から情報を集めていた。それでも目ぼしい情報が得られていなかった。
そんな状況下、イーディスの元にひとつの依頼が舞い込んだ。ご指名で。
「領主から護衛依頼が来た」
「ええっ!?領主って確か侯爵様ーーつまり貴族ですよね?それって渡りに船では?」
「凄いです、イーディスさん!領主様って、この辺りで一番偉い人ですよね?」
商会のこともあって、お貴族サマと懇意になりたい私はこの話に飛びつき、ユルもそれに倣った。
「なんで領主が俺を名指ししてくる?」
当の本人である聖剣サマの疑問の声は、まるっと無視ということで。
イーディスは私たちを連れて、領主様の元へ足を運んだ。現状、別行動は避けたかった。
そして、出向いてびっくり。
案内されたお屋敷の庭園。四阿で待っていた領主様は、なんと知人だった。
「え…エイデンさんっ!?」
「ああ、やはり君も来たねフランチェスカ君。どうだい?傭兵業は?」
にこりと微笑み、私たちを迎えるロマンスグレー。渦中、私を蜂から逃してくれようとした恩人が、まさかのアルクレール侯爵だった。「エイデン」は偽名のようだ。
「なるほど」
イーディスが妙に納得した。まあ、私も同じだ。良い家柄の人だと思っていた。だけどまさか、領主様だとは。
「主様?」
ユルが私の後ろに隠れ、見上げてくる。このゆるキャラは、案外人見知りだ。
「君がユルだね?」
エイデンさんがユルに目線をあわせるよう、こちらに近付いて屈み込んだ。んん?
「…俺たちの動向が筒抜けなのは、どういった了見だ?」
イーディスのひときわ低い声。
「その子の身分証を役所で発行したのは君たちだ。見慣れない子供を、目立つ君たちが拾った。黙っていても耳に入るさ」
「チッ」
領主様相手に舌打ち。ブレない聖剣サマに冷や汗をかく。
「しかもそんな子供を、仕事にも連れ回しているようだ。気にするなと言う方が無理な話だよ」
「説教するのに呼んだってのか?」
「まさか。イーディス殿を見込んでの、仕事依頼だよ」
エイデンさんは笑顔を崩さない。対照的にイーディスは、どんどん不機嫌になった。
「面倒は御免だ」
「そう言わないでくれ。まあ、厄介な頼みであるのは認めるがね。この依頼については、フランチェスカ君にも許可を頂かないとならない」
エイデンさんが苦笑して私を見た。
「え?私の許可、ですか?」
「ああ。娘の言う条件に当て嵌まる者で、信頼のおける者がいなくてね。イーディス殿を貸して欲しいのだ」
「イーディスを…貸す?」
「断る」
え?ちょっとイーディス?まだ内容を聞いてもいないのに断らないで?
「そこをなんとか」
「いいや、断る。どうせテメエの娘のエスコートでもしろってな、内容だろ?俺は見せびらかすためのアクセサリーじゃねえんだよ」
あー…護衛って、ソレ?まあ、見た目だけなら極上だからなあ、この聖剣サマは。でも、私の許可って…
「そんな男、こちらから願い下げです」
これまでいなかった者の声が、そこで響いた。
途端に眉尻を下げるエイデンさん。四阿に現れたのは、瑠璃色の瞳が印象的な美女。言うまでもないーー
「アンジェリカ…」
エイデンさんが困りきった様な声で、ご息女の名を口にした。
「お父様!コレのどこがわたくしの希望に沿っていると?よく見てください!下品極まりない振る舞いです!顔以外、どこにも「王子様」はございません!」
アンジェリカ嬢はつかつかとこちらに近寄ってくるなり、イーディスを指して言い放つ。
「しかし…貴族の男は嫌なのだろう?イーディス殿以上に条件に当て嵌まる者は…」
「話になりません!大体なんですの?すでにお相手のいる男だなんて!そちらの方の、お気持ちになってみて下さい!」
続いて私が指差された。えーっと?何処から突っ込もう。
「くだらねえ。帰るぞ」
付き合いきれないとイーディスが帰ろうとして、領主様から掛かる声。
「いいのかい?君たちは魔物襲撃に関して、情報を欲しているように見受けたのだけど?」
げっ。そこまで筒抜けなのっ!?
「…チッ、クソが」
聖剣サマよ、頼むからもう少し態度を改めてくれ。
「君たちがなにを知りたいのかまでは知らない。だが、協力は惜しまないつもりだ」
「……行くぞ」
暗に情報を報酬に上乗せすると囁かれ、思案したようだが、それでもイーディスは踵を返した。
「いいのかい?」
エイデンさんが念を押した。
「信用できねえ」
にべもない返事。聖剣サマの人嫌いは、思ったよりも根が深い。
「魔女」
不意にアンジェリカ嬢が、ぽつりと呟いた。
イーディスが振り返る。
「わたくしの言う条件に当て嵌まる殿方を連れてきてくださるなら、紹介いたします」
嫣然と彼女は微笑んだ。
話は少し前に遡る。
ユルが来て、借り部屋をシングルからツインへ変えて落ち着いた頃。
行き詰まっていた。
島と町に魔物を呼び入れた者がいる。それは看過できないとしていた。この件にフランチェスカが関わっていたのは、ほぼ間違いない。彼女は口封じに殺されたのではないか?そんな疑いさえ生まれた。
私たちは、この上なく怪しいと、クレマチス商会に目を付けたのだがーー
この商会というのが、一筋縄ではいかない。
クレマチス商会が扱うのは魔導具。
魔導具というのは、一般的に『魔法付与』された道具を指す。一度使えば失くなる魔結晶と違い、何度でも使える優れものだという。実物を目にしたことがないので、実際にはどんなモノなのか知れないのだが。
さすがの聖剣サマも、現物を見たことがないらしい。魔導具とはものすごく貴重で高価な代物なのだ。
故にクレマチス商会は貴族の御用達。然るべき身分、もしくはその紹介がなければお目にかかれない、非常に敷居の高いーーいや、庶民からすると雲の上の存在だった。
当然、一庶民の私たちには近付く術がない。商会の技術者は町に点在ーーフランチェスカがこれに当たったーーするはずだが、技術秘匿のためか表立たない。
他の足掛かりとして、無事だった島民や町の人にそれとなく魔物が現れた時の話も聞いてはいる。イーディスにいたっては端から疑っていたので、傭兵になった当初から情報を集めていた。それでも目ぼしい情報が得られていなかった。
そんな状況下、イーディスの元にひとつの依頼が舞い込んだ。ご指名で。
「領主から護衛依頼が来た」
「ええっ!?領主って確か侯爵様ーーつまり貴族ですよね?それって渡りに船では?」
「凄いです、イーディスさん!領主様って、この辺りで一番偉い人ですよね?」
商会のこともあって、お貴族サマと懇意になりたい私はこの話に飛びつき、ユルもそれに倣った。
「なんで領主が俺を名指ししてくる?」
当の本人である聖剣サマの疑問の声は、まるっと無視ということで。
イーディスは私たちを連れて、領主様の元へ足を運んだ。現状、別行動は避けたかった。
そして、出向いてびっくり。
案内されたお屋敷の庭園。四阿で待っていた領主様は、なんと知人だった。
「え…エイデンさんっ!?」
「ああ、やはり君も来たねフランチェスカ君。どうだい?傭兵業は?」
にこりと微笑み、私たちを迎えるロマンスグレー。渦中、私を蜂から逃してくれようとした恩人が、まさかのアルクレール侯爵だった。「エイデン」は偽名のようだ。
「なるほど」
イーディスが妙に納得した。まあ、私も同じだ。良い家柄の人だと思っていた。だけどまさか、領主様だとは。
「主様?」
ユルが私の後ろに隠れ、見上げてくる。このゆるキャラは、案外人見知りだ。
「君がユルだね?」
エイデンさんがユルに目線をあわせるよう、こちらに近付いて屈み込んだ。んん?
「…俺たちの動向が筒抜けなのは、どういった了見だ?」
イーディスのひときわ低い声。
「その子の身分証を役所で発行したのは君たちだ。見慣れない子供を、目立つ君たちが拾った。黙っていても耳に入るさ」
「チッ」
領主様相手に舌打ち。ブレない聖剣サマに冷や汗をかく。
「しかもそんな子供を、仕事にも連れ回しているようだ。気にするなと言う方が無理な話だよ」
「説教するのに呼んだってのか?」
「まさか。イーディス殿を見込んでの、仕事依頼だよ」
エイデンさんは笑顔を崩さない。対照的にイーディスは、どんどん不機嫌になった。
「面倒は御免だ」
「そう言わないでくれ。まあ、厄介な頼みであるのは認めるがね。この依頼については、フランチェスカ君にも許可を頂かないとならない」
エイデンさんが苦笑して私を見た。
「え?私の許可、ですか?」
「ああ。娘の言う条件に当て嵌まる者で、信頼のおける者がいなくてね。イーディス殿を貸して欲しいのだ」
「イーディスを…貸す?」
「断る」
え?ちょっとイーディス?まだ内容を聞いてもいないのに断らないで?
「そこをなんとか」
「いいや、断る。どうせテメエの娘のエスコートでもしろってな、内容だろ?俺は見せびらかすためのアクセサリーじゃねえんだよ」
あー…護衛って、ソレ?まあ、見た目だけなら極上だからなあ、この聖剣サマは。でも、私の許可って…
「そんな男、こちらから願い下げです」
これまでいなかった者の声が、そこで響いた。
途端に眉尻を下げるエイデンさん。四阿に現れたのは、瑠璃色の瞳が印象的な美女。言うまでもないーー
「アンジェリカ…」
エイデンさんが困りきった様な声で、ご息女の名を口にした。
「お父様!コレのどこがわたくしの希望に沿っていると?よく見てください!下品極まりない振る舞いです!顔以外、どこにも「王子様」はございません!」
アンジェリカ嬢はつかつかとこちらに近寄ってくるなり、イーディスを指して言い放つ。
「しかし…貴族の男は嫌なのだろう?イーディス殿以上に条件に当て嵌まる者は…」
「話になりません!大体なんですの?すでにお相手のいる男だなんて!そちらの方の、お気持ちになってみて下さい!」
続いて私が指差された。えーっと?何処から突っ込もう。
「くだらねえ。帰るぞ」
付き合いきれないとイーディスが帰ろうとして、領主様から掛かる声。
「いいのかい?君たちは魔物襲撃に関して、情報を欲しているように見受けたのだけど?」
げっ。そこまで筒抜けなのっ!?
「…チッ、クソが」
聖剣サマよ、頼むからもう少し態度を改めてくれ。
「君たちがなにを知りたいのかまでは知らない。だが、協力は惜しまないつもりだ」
「……行くぞ」
暗に情報を報酬に上乗せすると囁かれ、思案したようだが、それでもイーディスは踵を返した。
「いいのかい?」
エイデンさんが念を押した。
「信用できねえ」
にべもない返事。聖剣サマの人嫌いは、思ったよりも根が深い。
「魔女」
不意にアンジェリカ嬢が、ぽつりと呟いた。
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嫣然と彼女は微笑んだ。
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