灰色の旅人

ふたあい

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 メルヘンとアダルトという、イーディスとユルとはまた違ったジャンル違いの親子。彼らの言い合いはしばらく続いた。父親が気になるしかない。
 「お客様にお茶でも」と言い張る少女に、それを断る店主。段々とヒートアップしていく。
 ついには母が足を振り上げた。またしても蹴りか!?
 しかし息子は反撃の手を打った。
 踵の落とされそうになったーー踵落とし!?ーー肩の上、青白く光る小さな魔法陣が浮かんだかと思うと、吸い込まれるように母である少女が消えた。
「ええっ!?」
「強制送還陣だ」
 フンと鼻を鳴らす店主。うーわー。『魔法陣作成』の技能をお持ちでしたか。
「済まない、待たせてしまったな」
 店主が首元を緩めながら息をつき、こちらを見て言った。わー、色気が増した。なにもない空間、シャツの第一ボタンを外した魔女の存在感が際立った。
「ああ、いえ…」
 クラっとはこないが、目の毒だとは思う。
「『占い』の内容を他に漏らすことはないから、安心してくれ。それはそうと客人、名はなんと?」
 なるほど。『占い』は個人情報てんこ盛りなので、母親にはお帰り願ったと。
「あ、すみません。まだ名乗っていませんでした。フランチェスカと申します」
「改めてだが、キルギスだ。さっそく『占い』を始めよう」
 店主ーーキルギスさんが、奥の壁まで歩いて止まる。
「よろしくお願いします」
 頭を下げ戻してみると、キルギスさんの背後の壁に、木製の棚が現れていた。一瞬前まで、なにもない壁でしたよね?
「…どういう仕組みで?」
「通常、この壁の中に埋まっているのが、俺の魔力に反応して表に出る」
 棚がよく見えるよう、体の位置をずらしてくれる。そこに並べられていたのはーー

「水…硝子玉?」

 キルギスさんの肩より少し低い位置、壁に埋め込まれるように現れた三段棚。すべての段に、ずらりとソレらは台座付きで並んでいた。
「水晶だ」
「やっぱり水晶玉!?…この数で?」
 大きい。ソフトボールサイズはあるのでは?そして見事な透明度を誇る球体である。これが硝子ではなく水晶とは。絶対、高価だろう。そんなモノが幾つも並んでいるなんて。まさか水晶玉コレクターで、見せびらかしているってわけでも…
 そこでピンときた。
「あ、ひょっとして。この水晶玉で占いを?」
「そうだ。こっちに来て、一つ選んでくれ」
 キルギスさんが手招きする。選べ?私に?どれでも一緒ではないの?疑問に思いながらも棚まで歩み寄り、右下の一つを指差す。
「あの…これ?」
「手に取ってみろ。…それでいいか?」
 よく分からないまま、促され手にした水晶玉をキルギスさんに差し出すも、確認の言葉が返ってくるだけ。受け取る気はないようで。
「ええと、はい?」
 選んでみたもののどう違うの?と、首を傾げる私に魔女は言った。

「ではそれを部屋の中央で、思い切り床に投げつけてくれ」

「は?」
 ちちち、ちょっと待て。石の床だよ?そんな真似をしたら、木っ端微塵ではないか!
 目を剥いた私の言わんとする事を察したのだろう。キルギスさんが口の端を上げる。
「大丈夫だ。割れと言っている」
「え?あの、いや…でもこんな…すごくお高そうと思うのですが…?」
「ああ、高いな。そのための、白金貨三十枚という料金設定だ」
「はい?」
 まさかの占い料は、大半が実費!?いや、水晶の値段は知らないけど。そうか。ボラれているわけではなかったか。
「さあ、割れ。思い切り。普段、腹を立てていることがあるなら、それをぶつけても構わないぞ?なんら影響はないんでな」
「そうなんですか?」

 部屋の中央に立った。

 意味が分からないが、これは日頃の鬱憤晴らしのチャンスである。
 思えば苦難の日々だったーーというほどではないが。いろいろ腹立たしいのは間違いない。あの神様どもめ。神殿に文句を言いに行きそびれてもいる。よし!

 白黒神のー、バーカーヤーローウーッッ!!

 心中で叫ぶ。水晶を持つ腕を振り上げ、それから思い切り床に叩きつけた。

 ガシャッーー

 石造りの空間に破壊音が響いて、水晶が欠片となって飛び散った。

「ハアッ」
 思ったより力が入っていたようで、息がついて出た。
「ククッ。なにやら、腹に据えかねることがあったようだな」
 笑いを堪える声がして振り向くと、キルギスさんが後ろに立っていた。
「あー、失礼しました」
「いや、構わん。さてーー」
 足元に散らばる、さっきまで球体だったモノの残骸。キルギスさんはそれに目を向けた。そして、黙って視線だけを右へ左へと移してゆく。

 まさか。砕けた水晶の破片で占うの!?

「……フランチェスカ、だったな?」
 部屋中を目だけ動かして見回したしばらくの後、眉根を寄せて口を開いた魔女。なにやら難しい顔をしている?
「はい」
「…何者だ?」
「え?」
「人は白。魔族、は魔女も含め黒。…アンタはそのどちらでもない」
「え?あの?」

 それは純粋な疑問の言葉。だけど核心をつく言葉でもあった。

「待て。今、投映する」
 キルギスさんがそう言うと、部屋の明かりが落ちた。代わりに床に散らばった欠片が光りだす。
 殆どが白い光。その他に影を落とすかのような黒い光が僅かにあった。そして。
 それら白黒の光の散らばる中心に、どちらでもない淡い光がひとつ。色で言うならーー白と黒の中間。グレー。灰色。
 真ん中にある灰色という中途半端な、言わばくすんだ光は他にない。ただ、そのひとつだけ。
「中心の欠片はフランチェスカ、アンタを示している」
「え…と?私?」
「フランチェスカを占った。中心に示されるのは当然だろう」
「私だけ…色が違う?」
「俺も初めて見た。だから問う。何者だ?アンタは人か?それとも魔族か?」
「私は人です。間違いなく…」

 だけど。ああ、だけど。

 白い神と黒い神、どちらの駒でもある私。灰色は、それを明確に表していた。
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