灰色の旅人

ふたあい

文字の大きさ
45 / 62

9ー4

しおりを挟む
 人は白、魔族は黒。
 魔女の占いではそう映る。そんな中で私は灰色だった。

 この世界は、神の遊戯盤だ。

 人は、白い神ルルルエラーラの駒。魔族は、黒い神ユユギの駒。そして私は、兼用の駒である。
 灰色はその証。白黒混ぜ合わせた色。
 すごいな、魔女の『占い』。そんなことまで分かってしまうのか。

「…記憶がないんです」

 嘘であり真である、答えを濁すための言葉。そう言った私と、足元の欠片をキルギスさんは交互に見やった。
「…そうか。色はともかく、光がブレているのはそれが原因か」
「ブレ…」
 煌々と光る水晶の欠片をマジマジと見るが、それのどこにブレがあるのか分からない。確かに私の魂とこの身体では、ブレが生じてもおかしくはないのだが。見透かされすぎて怖いな。

「…白い光が二つ」

 キルギスさんは目を細め呟くと、つらつらと口にする。
「守られていると同時に、守っている。一つは武、もう一つは魔に秀でている。…興味深いな。魔女の俺よりも大きく繊細な光とは」

 イーディスと、ユルのこと?

「それとは別の白い光が二つ、周辺をうろついている。あまり…良い感じはしない。こっちは気をつけた方がいい」

 ん?周辺をうろついている?

「気になるか?」
 首を傾げたものだから、問われた。素直に答える。
「気になりますね」
「そうか。だったら対象を絞るとして、もう一つ割るか」
「……はい?」
 目をパチクリ、語尾が上がった。そしてーー

 ガッシャン。

 二個目の水晶が割れ、床にはさらなる水晶の欠片が散らばった。…追加料金いくらだろ?
「顔色が悪いな」
 魔女がチラリと私の顔を見た。
「…まあ、その。お金の心配をですね…分割払い有りと聞いてはいるんですが…」
「……いや、追加料はいらない」
 視線を戻し顎に手を添え、眇めて床を凝視するキルギスさん。
「え?でもーー」
「どうやら、俺にも関係ありそうだ。…クソ、そのせいで暈される」
「え?あの、それはどういうーー」

 なにやら雲行きが怪しくなってきた。

 この『占い』に関して「金をケチるな」と、あのがめついイーディスから言われている。だから、迷わず二つ目の水晶を割った。幾らか白金貨の追加があっても、時間さえあれば今の私たちになら払えるだろう。だけど。
 追加料金はいらないと言う。経験上、タダより高いものはないと知っている。嫌な予感しかない。
「下手を打つと、俺もこの町にいられなくなりそうだ」
「ええっ!?なんですかそれ?」
「この二つの欠片から、良からぬ意志が感じられる。それも強く、大きく。向けられた方角はーーベルクラ?」
「ベルクラの町?そこでなにが?」
「フランチェスカ、アンタを辿った。逆に問う。なにが起こる?」
「え?」
「心当たりはないのか?」

 ドクンッと、心臓が跳ねた。

 強く、大きな、良からぬ意志。それにより引き起こされる事柄ーーなにが起こるかって?そんなこと、決まっているではないか。心当たり、ありまくりだよ!

「…魔物の大量発生?」

「ーーっ!?ホルルカ島で起こったことが、ベルクラでも起こると?」
「私はホルルカ島での生き残りです。そして、にありますが、魔物を島に入れるのを阻止しようとした節がある」
 慎重に、慎重に言葉を選んだ。嘘ではないが、真実を語らぬ言葉を。
「…魔物を人里に入れるだと?冗談じゃない」
 キルギスさんが不快をあらわにした。
「はい」
「人を捜していると言ったな?それはコイツらか?」
 コツ、コツと、靴の先で、足元の白い欠片を指す。
「それがベルクラに良からぬ意志を向けている人たちだと言うなら、そうです。私はその人たちの行いを止めたい。何処にいるか教えてください」
「……言っただろう?アンタの周辺を、うろついている」
 寄せられる眉根。言いよどむキルギスさんの様子に、嫌な予感がいや増した。
「それは、つまりーー」
「顔見知りである確率が高い」

 顔見知り?

「え…私の知っている、人?」
「そうとも限らん。だが、近くにいるはずだ」
「さっき、キルギスさんも関係あると言ってましたが、それは?」
「部分的にぼやけていて分からん。自分は占えないものなんだ。すまない、そのせいで精度が落ちている」
「ひょっとして…」
「なんだ?」
「いえ、ホルルカの魔物発生を、魔族の仕業に見せかける痕跡があってーー」
「なんだって!?」
 キルギスさんが思わずといった様子で、胸ぐらを掴んでこようとしたのを一歩下がって制する。
「落ち着いてください」
「ーーっ!お前、本当に何者だ?」
 アンタからお前呼ばわりに変わった。まあ、どっちもどっちだな。けどこの魔女、多分魔法だけでなく武術の腕も立つ。それにあの母親。
「私はこれでも傭兵ですから」
「傭兵だと?」
「こちらのお店も、何度か利用したことがあるんですよ?」
「そうなのか?いや…客の顔は見ないからな、そうか…」
 あ、やっぱり、あの瓶底眼鏡、見えてなかったんだ。まあ、シルエットが分かれば接客くらいは問題ないか。手元の金勘定は隙間からちゃんと見えるだろうし。
「さっきの話ですが。魔族に悪意があってのことは、確かだと思うんです。キルギスさんが関係してくると言うなら、なにか思い当たることってないですか?」
「…フッ。それを訊くか?さっき母を見ただろう?魔族はな、堂々と人の中に在ることはできない。それほどに人は悪意しか向けてこない。思い当たること?多すぎて、いちいち覚えていられるか!」
 キルギスさんは鼻で笑い、それから顔を歪ませた。
 
 ああ。本当に。白い神にあの水晶をぶつけてやりたい。それが叶うと言うなら、白金貨何枚払ってもいいーーそんな気になった。

「すみません、質問を間違えました。できれば事が起こる前に、ソイツらと対峙したいと思ってるんですが、できますか?」
「…カッとなった。詫びるのはこちらだ、すまない。とにかく俺の存在が邪魔をして、視えにくい。ソイツらに関して言えるのはーー用心しろ。最大限、備えろ。お前を守る欠片に陰りが視える。これだけだ」
「え?」

 最悪の占い結果ではないだろうか。



9 私は灰色
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

処理中です...