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人は白、魔族は黒。
魔女の占いではそう映る。そんな中で私は灰色だった。
この世界は、神の遊戯盤だ。
人は、白い神ルルルエラーラの駒。魔族は、黒い神ユユギの駒。そして私は、兼用の駒である。
灰色はその証。白黒混ぜ合わせた色。
すごいな、魔女の『占い』。そんなことまで分かってしまうのか。
「…記憶がないんです」
嘘であり真である、答えを濁すための言葉。そう言った私と、足元の欠片をキルギスさんは交互に見やった。
「…そうか。色はともかく、光がブレているのはそれが原因か」
「ブレ…」
煌々と光る水晶の欠片をマジマジと見るが、それのどこにブレがあるのか分からない。確かに私の魂とこの身体では、ブレが生じてもおかしくはないのだが。見透かされすぎて怖いな。
「…白い光が二つ」
キルギスさんは目を細め呟くと、つらつらと口にする。
「守られていると同時に、守っている。一つは武、もう一つは魔に秀でている。…興味深いな。魔女の俺よりも大きく繊細な光とは」
イーディスと、ユルのこと?
「それとは別の白い光が二つ、周辺をうろついている。あまり…良い感じはしない。こっちは気をつけた方がいい」
ん?周辺をうろついている?
「気になるか?」
首を傾げたものだから、問われた。素直に答える。
「気になりますね」
「そうか。だったら対象を絞るとして、もう一つ割るか」
「……はい?」
目をパチクリ、語尾が上がった。そしてーー
ガッシャン。
二個目の水晶が割れ、床にはさらなる水晶の欠片が散らばった。…追加料金いくらだろ?
「顔色が悪いな」
魔女がチラリと私の顔を見た。
「…まあ、その。お金の心配をですね…分割払い有りと聞いてはいるんですが…」
「……いや、追加料はいらない」
視線を戻し顎に手を添え、眇めて床を凝視するキルギスさん。
「え?でもーー」
「どうやら、俺にも関係ありそうだ。…クソ、そのせいで暈される」
「え?あの、それはどういうーー」
なにやら雲行きが怪しくなってきた。
この『占い』に関して「金をケチるな」と、あのがめついイーディスから言われている。だから、迷わず二つ目の水晶を割った。幾らか白金貨の追加があっても、時間さえあれば今の私たちになら払えるだろう。だけど。
追加料金はいらないと言う。経験上、タダより高いものはないと知っている。嫌な予感しかない。
「下手を打つと、俺もこの町にいられなくなりそうだ」
「ええっ!?なんですかそれ?」
「この二つの欠片から、良からぬ意志が感じられる。それも強く、大きく。向けられた方角はーーベルクラ?」
「ベルクラの町?そこでなにが?」
「フランチェスカ、アンタを辿った。逆に問う。なにが起こる?」
「え?」
「心当たりはないのか?」
ドクンッと、心臓が跳ねた。
強く、大きな、良からぬ意志。それにより引き起こされる事柄ーーなにが起こるかって?そんなこと、決まっているではないか。心当たり、ありまくりだよ!
「…魔物の大量発生?」
「ーーっ!?ホルルカ島で起こったことが、ベルクラでも起こると?」
「私はホルルカ島での生き残りです。そして、なにも分からない状態にありますが、魔物を島に入れるのを阻止しようとした節がある」
慎重に、慎重に言葉を選んだ。嘘ではないが、真実を語らぬ言葉を。
「…魔物を人里に入れるだと?冗談じゃない」
キルギスさんが不快をあらわにした。
「はい」
「人を捜していると言ったな?それはコイツらか?」
コツ、コツと、靴の先で、足元の白い欠片を指す。
「それがベルクラに良からぬ意志を向けている人たちだと言うなら、そうです。私はその人たちの行いを止めたい。何処にいるか教えてください」
「……言っただろう?アンタの周辺を、うろついている」
寄せられる眉根。言いよどむキルギスさんの様子に、嫌な予感がいや増した。
「それは、つまりーー」
「顔見知りである確率が高い」
顔見知り?
「え…私の知っている、人?」
「そうとも限らん。だが、近くにいるはずだ」
「さっき、キルギスさんも関係あると言ってましたが、それは?」
「部分的にぼやけていて分からん。自分は占えないものなんだ。すまない、そのせいで精度が落ちている」
「ひょっとして…」
「なんだ?」
「いえ、ホルルカの魔物発生を、魔族の仕業に見せかける痕跡があってーー」
「なんだって!?」
キルギスさんが思わずといった様子で、胸ぐらを掴んでこようとしたのを一歩下がって制する。
「落ち着いてください」
「ーーっ!お前、本当に何者だ?」
アンタからお前呼ばわりに変わった。まあ、どっちもどっちだな。けどこの魔女、多分魔法だけでなく武術の腕も立つ。それにあの母親。
「私はこれでも傭兵ですから」
「傭兵だと?」
「こちらのお店も、何度か利用したことがあるんですよ?」
「そうなのか?いや…客の顔は見ないからな、そうか…」
あ、やっぱり、あの瓶底眼鏡、見えてなかったんだ。まあ、シルエットが分かれば接客くらいは問題ないか。手元の金勘定は隙間からちゃんと見えるだろうし。
「さっきの話ですが。魔族に悪意があってのことは、確かだと思うんです。キルギスさんが関係してくると言うなら、なにか思い当たることってないですか?」
「…フッ。それを訊くか?さっき母を見ただろう?魔族はな、堂々と人の中に在ることはできない。それほどに人は悪意しか向けてこない。思い当たること?多すぎて、いちいち覚えていられるか!」
キルギスさんは鼻で笑い、それから顔を歪ませた。
ああ。本当に。白い神にあの水晶をぶつけてやりたい。それが叶うと言うなら、白金貨何枚払ってもいいーーそんな気になった。
「すみません、質問を間違えました。できれば事が起こる前に、ソイツらと対峙したいと思ってるんですが、できますか?」
「…カッとなった。詫びるのはこちらだ、すまない。とにかく俺の存在が邪魔をして、視えにくい。ソイツらに関して言えるのはーー用心しろ。最大限、備えろ。お前を守る欠片に陰りが視える。これだけだ」
「え?」
最悪の占い結果ではないだろうか。
9 私は灰色
魔女の占いではそう映る。そんな中で私は灰色だった。
この世界は、神の遊戯盤だ。
人は、白い神ルルルエラーラの駒。魔族は、黒い神ユユギの駒。そして私は、兼用の駒である。
灰色はその証。白黒混ぜ合わせた色。
すごいな、魔女の『占い』。そんなことまで分かってしまうのか。
「…記憶がないんです」
嘘であり真である、答えを濁すための言葉。そう言った私と、足元の欠片をキルギスさんは交互に見やった。
「…そうか。色はともかく、光がブレているのはそれが原因か」
「ブレ…」
煌々と光る水晶の欠片をマジマジと見るが、それのどこにブレがあるのか分からない。確かに私の魂とこの身体では、ブレが生じてもおかしくはないのだが。見透かされすぎて怖いな。
「…白い光が二つ」
キルギスさんは目を細め呟くと、つらつらと口にする。
「守られていると同時に、守っている。一つは武、もう一つは魔に秀でている。…興味深いな。魔女の俺よりも大きく繊細な光とは」
イーディスと、ユルのこと?
「それとは別の白い光が二つ、周辺をうろついている。あまり…良い感じはしない。こっちは気をつけた方がいい」
ん?周辺をうろついている?
「気になるか?」
首を傾げたものだから、問われた。素直に答える。
「気になりますね」
「そうか。だったら対象を絞るとして、もう一つ割るか」
「……はい?」
目をパチクリ、語尾が上がった。そしてーー
ガッシャン。
二個目の水晶が割れ、床にはさらなる水晶の欠片が散らばった。…追加料金いくらだろ?
「顔色が悪いな」
魔女がチラリと私の顔を見た。
「…まあ、その。お金の心配をですね…分割払い有りと聞いてはいるんですが…」
「……いや、追加料はいらない」
視線を戻し顎に手を添え、眇めて床を凝視するキルギスさん。
「え?でもーー」
「どうやら、俺にも関係ありそうだ。…クソ、そのせいで暈される」
「え?あの、それはどういうーー」
なにやら雲行きが怪しくなってきた。
この『占い』に関して「金をケチるな」と、あのがめついイーディスから言われている。だから、迷わず二つ目の水晶を割った。幾らか白金貨の追加があっても、時間さえあれば今の私たちになら払えるだろう。だけど。
追加料金はいらないと言う。経験上、タダより高いものはないと知っている。嫌な予感しかない。
「下手を打つと、俺もこの町にいられなくなりそうだ」
「ええっ!?なんですかそれ?」
「この二つの欠片から、良からぬ意志が感じられる。それも強く、大きく。向けられた方角はーーベルクラ?」
「ベルクラの町?そこでなにが?」
「フランチェスカ、アンタを辿った。逆に問う。なにが起こる?」
「え?」
「心当たりはないのか?」
ドクンッと、心臓が跳ねた。
強く、大きな、良からぬ意志。それにより引き起こされる事柄ーーなにが起こるかって?そんなこと、決まっているではないか。心当たり、ありまくりだよ!
「…魔物の大量発生?」
「ーーっ!?ホルルカ島で起こったことが、ベルクラでも起こると?」
「私はホルルカ島での生き残りです。そして、なにも分からない状態にありますが、魔物を島に入れるのを阻止しようとした節がある」
慎重に、慎重に言葉を選んだ。嘘ではないが、真実を語らぬ言葉を。
「…魔物を人里に入れるだと?冗談じゃない」
キルギスさんが不快をあらわにした。
「はい」
「人を捜していると言ったな?それはコイツらか?」
コツ、コツと、靴の先で、足元の白い欠片を指す。
「それがベルクラに良からぬ意志を向けている人たちだと言うなら、そうです。私はその人たちの行いを止めたい。何処にいるか教えてください」
「……言っただろう?アンタの周辺を、うろついている」
寄せられる眉根。言いよどむキルギスさんの様子に、嫌な予感がいや増した。
「それは、つまりーー」
「顔見知りである確率が高い」
顔見知り?
「え…私の知っている、人?」
「そうとも限らん。だが、近くにいるはずだ」
「さっき、キルギスさんも関係あると言ってましたが、それは?」
「部分的にぼやけていて分からん。自分は占えないものなんだ。すまない、そのせいで精度が落ちている」
「ひょっとして…」
「なんだ?」
「いえ、ホルルカの魔物発生を、魔族の仕業に見せかける痕跡があってーー」
「なんだって!?」
キルギスさんが思わずといった様子で、胸ぐらを掴んでこようとしたのを一歩下がって制する。
「落ち着いてください」
「ーーっ!お前、本当に何者だ?」
アンタからお前呼ばわりに変わった。まあ、どっちもどっちだな。けどこの魔女、多分魔法だけでなく武術の腕も立つ。それにあの母親。
「私はこれでも傭兵ですから」
「傭兵だと?」
「こちらのお店も、何度か利用したことがあるんですよ?」
「そうなのか?いや…客の顔は見ないからな、そうか…」
あ、やっぱり、あの瓶底眼鏡、見えてなかったんだ。まあ、シルエットが分かれば接客くらいは問題ないか。手元の金勘定は隙間からちゃんと見えるだろうし。
「さっきの話ですが。魔族に悪意があってのことは、確かだと思うんです。キルギスさんが関係してくると言うなら、なにか思い当たることってないですか?」
「…フッ。それを訊くか?さっき母を見ただろう?魔族はな、堂々と人の中に在ることはできない。それほどに人は悪意しか向けてこない。思い当たること?多すぎて、いちいち覚えていられるか!」
キルギスさんは鼻で笑い、それから顔を歪ませた。
ああ。本当に。白い神にあの水晶をぶつけてやりたい。それが叶うと言うなら、白金貨何枚払ってもいいーーそんな気になった。
「すみません、質問を間違えました。できれば事が起こる前に、ソイツらと対峙したいと思ってるんですが、できますか?」
「…カッとなった。詫びるのはこちらだ、すまない。とにかく俺の存在が邪魔をして、視えにくい。ソイツらに関して言えるのはーー用心しろ。最大限、備えろ。お前を守る欠片に陰りが視える。これだけだ」
「え?」
最悪の占い結果ではないだろうか。
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